魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0705:彼女を呼べ。

 私が聖王国の派遣団長に任命され、支援の名の下に自由連合国へ入ったけれど、首都の飢えている人たちが直ぐに幸せになれるような解決方法なんてあるわけはなく。ただ、いろいろとあった五日間の中で一筋の光が差し込んだかもしれない。

 フォレンティーナさまと呼ばれる元王女殿下に出会ったことは必然だったのかもしれない。彼女は義叔父である伯爵さまから物資を受け取り――ぶんどってきたとも言う――、首都入りをどうにか果たした。

 

 首都の街の人たちの話を聞くに元王女殿下であるフォレンティーナさまは荒れる前の首都の街に良く降りてきて、民の人たちと触れ合っていたそうである。

 王女殿下だというのに気さくな人で、困っていればご自身のできる範囲で手を回してくれていたとか。王家が滅ぶ数か月前に追放されたと知って、首都の人たちは随分と彼女の身を案じていたようだ。無事であると知った際は凄く顔を綻ばせていたのだから、彼女の人気が窺い知れる。

 

 支援を無事に終えた私たち派遣団は聖王国に戻っていた。休養を取り、派遣団として彼の国へと赴いた疲れも癒えた頃。

 

 教皇猊下の提案で大陸会議が聖王国で行われることになり、大聖堂はてんやわんやの大騒ぎとなっているし、横にある官舎でも人が溢れ返っている。

 私は大聖女フィーネとして同じ大聖女であるウルスラとともに各国の陛下方を迎え入れていた。主な会話は教皇猊下が担ってくれたので、タイミングを見計らい頭を下げるだけの仕事である。特に問題なく終わって、官舎へ向かっているところだ。既に教皇猊下と各国の陛下方は会議室の中へと入っている。

 

 会議室から呼び出しを受けた場合は直ぐに行ける部屋で私たちは待機することになっていた。私と大聖女であるウルスラといつも一緒に行動しているアリサ、そしてフォレンティーナさまが廊下を歩いている。

 

 フォレンティーナさまの後ろにはダルと呼ばれる護衛の中年男性が静かに控えていた。長い廊下を歩いているのに無言のままでは気まずいだろうと、私はフォレンティーナさまの方へと顔を向ける。

 緊張しているのか明るい表情でいることが多い人だというのに、今は前を向いて目が据わっているような。まあ、各国の陛下方が集まる場に赴くのだし、自由連合国の未来が掛かっている。固まるなという方が無理な話だろうと私は口を開いた。

 

 「緊張されていますか?」

 

 「いえ! これで各国の陛下方から支援を受けられるのであれば、私はどうなってもかまいません。価値があるか分かりませんが、愛人になれと言われれば喜んで参ります!」

 

 ふふと彼女がどうにか笑う。流石に義理の叔父さまに啖呵を切ることはできても、各国の陛下方の前に立つ可能性があれば緊張してしまうようだ。きっと王族だった故の緊張なのだろう。なるべく軽い話題の方が良いかもしれないと私は方向性を変えようと頭を捻る。

 

 「そ、それはどうかと。好いた方はおられないのですか?」

 

 「……と、特には!」

 

 私の疑問にフォレンティーナさまは顔を赤くしながら少しだけ目線を後ろへと向けていた。そこにはダルと呼ばれる護衛の男性がおり、私が彼の方を見れば不思議そうな顔をしている。もしかして一方通行の恋であり、ダルと呼ばれる護衛の男性はフォレンティーナさまのことを娘や孫くらいに捉えていそうだと私は苦笑いを浮かべた。

 

 「そうでしたか。女性だけの場なので、恋の話は楽しいだろうと考えたのですが」

 

 「確かに他の方の恋の話は興味があります! フィーネさま、ウルスラさま、アリサさま、気になる男性はいらっしゃるのですか!?」

 

 私は墓穴を掘ったようである。え、まさかエーリヒさまの話をしなければならないのだろうか。私の横を歩くフォレンティーナさまの瞳の中には『興味津々!』という感情が明らかに灯っている。不味い。私がエーリヒさまの惚気話を始めると止まらないので、今日は話さないようにしなければ。

 

 「あはははは。どうでしょうか?」

 

 「私には信徒の皆さまがいらっしゃいますから!」

 

 私が誤魔化しながら笑えば、ウルスラが答える。凄く真面目な顔を浮かべて信徒の皆さまが気になると言い切った。フォレンティーナさまは『流石、大聖女さま』と感心しているが……恋バナではないという突っ込みを入れなくて良いのだろうか。そうしてアリサも少し迷いつつ口を開く。

 

 「好きな方であれば、フィーネお姉さまとお答えしたのですが、男性となるといませんね」

 

 肩を竦めたアリサにフォレンティーナさまが小さく笑う。

 

 「慕われていらっしゃいますね。羨ましいです。同年代の方と話す機会がほとんどなかったので、派遣団に加わらせて貰ってから、私は凄く楽しいです」

 

 彼女の顔には少し寂しさが浮かんでいるかもしれない。王城では側室の子と揶揄され、ご兄弟と話すことはなかったそうである。お母さまとも疎遠であり、王である父親も彼女には無関心だったそうだ。

 乳母とダルと呼ばれる護衛の男性が家族だとフォレンティーナさまから聞いている。もしかして王城から王都へ繰り出していたのは、彼女なりに寂しさを紛らわせようとしていたのか。

 そして王都に住まう方々と仲良くなって、彼らを見捨てることができなかったのだろう。でなければ家族である王族の皆さまを殺めた場所へ向かおうなんて考えない。私が頭の中で考え事をしていれば、ウルスラとアリサが声を上げる。

 

 「フォ、フォレンティーナさま! 私も今までこうして穏やかに誰かと話すことがなくて独りぼっちでした! でも、今は皆さまがいます! 私でよければ話し相手になりますよ!」

 

 「あ、あたしも! 短い時間ですが、フォレンティーナさまは良い方だと分かりますし!」

 

 フォレンティーナさまの両横に立った二人はぐっと拳を握り込んでいた。彼女が聖王国入りしてから数日で随分と打ち解けたのだろう。でなければ二人はこんなことを言い出さないはずである。

 

 「私もフォレンティーナさまのお友達に立候補しても良いですか?」

 

 私も私ではっきりと気持ちを伝えておく。本当は友達になろうなんて言葉は必要ないけれど、同年代の方と接したことがないとなれば伝えておいた方が良いはず。元王女殿下だし、身分による壁もあって友人が作りづらかったのではないだろうか。フォレンティーナさまは私たちの言葉を聞き、目尻に涙を貯め込んでいる。

 

 「本当ですか!? 嬉しいです!」

 

 笑みを深めた彼女にダルと呼ばれる護衛の男性が『姫さま……ようございました……!』と感動に打ち震えている。いや、そんなに大袈裟にしなくてもと言いたいが、いろいろと国元であったのだろうとなにも言わずにいた。そうして部屋に辿り着いた私たちは会議で召喚されるまで待機していようと椅子に腰を掛け息を大きく吐くのだった。

 

 ◇

 

 ――大陸会議が始まった。

 

 私は亜人連合国の代表と共に赴いている。付き添いとしてベリルとエルフのあの二人が控えているのだが、創星神さまの使いを果たした彼女に対し無礼を働いた国に相当思う所があるようだ。

 

 『どう追い詰めようかしら?』

 

 『だね~本当に失礼な連中だよ~』

 

 とは、出発前のエルフの二人の言葉である。街に住まうエルフたちもドワーフの職人たちも竜たちも『矢を番えた』という事実に憤っており彼らを諫めるのが大変だった。まあ被害を受けた彼女自身がまるで気にしていないので、どうにか収まっているのだが。

 彼女は自由連合国のことよりも『ねーね』と呼んでくれない妹に頭を悩ませているようだ。ユーリと呼ばれる彼女の妹は、以前私に恐れず抱っこを強請ってきた。まだ二歳という幼さ故なのか私の額から生えている角が珍しかったようで、身体を一生懸命に伸ばしながら触れてきたのだ。

 ユーリの行動はとても愛らしいものであり、彼女を苦手だと言ってしまったことに私は後悔を募らせている。またいつかナイとユーリに会える日を願いながら過ごしているのだが、本当に彼女に関連した出来事が収まることはない。

 

 本当にこれからどうなるかと息を吐けば、今開催の議長である聖王国の教皇が重い口を開いた。

 

 「お忙しい中、皆さまお集まりいただき感謝申し上げます。さっそくですが、自由連合国の行く末を今回の議題とさせて頂きたい。もちろん諸問題があるならば、話し合いをさせて頂こうかと」

 

 教皇の言葉に会議場にいる全員が頷いた。議題は分かっているし、分かったうえで参加を表明しているので問題ない。むしろ早く話を進めろと言い出しそうな王たちが何名かいて、その中には当然ヤーバン王がいる。教皇が後ろの者に資料を配れと命じていると、一人の王が手を挙げた。たしか彼は自由連合国の隣にある国の王のはず。

 

 「本題へと入る前に少し宜しいかな? 皆に情報を共有しておきたいことがある」

 

 「かまいません。資料を配り終えるには少々時間が掛かります。丁度良いでしょう」

 

 一人の王の言葉に議長である教皇が許可を下す。彼の王は小さく笑い再度口を開く。

 

 「彼の国は支援を求めるばかりだ。今回、見るに見かねた聖王国が支援を行ったようだが、なにか益を受けたかな?」

 

 彼の王の疑問に教皇はゆっくりと左右に顔を振る。国と国同士のやり取りだというのに、支援を求めるばかりで見返りを用意していなかったようである。

 人間の国同士だとお互いの国の出入りを簡素化したり、技術が高い国であれば技術を買って貰ったり、逆に技術が低い国ならば高い国から知識を買う。お互いに持ちつ持たれつで外交を行うというのに、自由連合国の代表は自分たちの都合を押し通しているだけのようである。会議に集まっている王たちが今の話を聞いて呆れかえっていた。

 

 「やはり。馬鹿な者が国の頂点に就くとどうなるかという手本のようだな。難民が溢れても困るのでな、我が国から彼の国へ送る支援を聖王国に届ける予定だ。もし他の王も彼の国へ支援を決めたならば、聖王国を経由させてみてはどうだろう」

 

 もちろんタダでとは言わないと彼の王は付け加える。隣国の王たちも彼の国の王と同じ立ち回りをする予定だと告げれば、他の国の王たちも一枚噛んでみるかと考え始めたようで頭の中で損得を考えているようだ。

 しかし支援の申し出が多くなればなるほど困るのは聖王国である。話の規模が大きくなり始めると、明らかに議長である教皇が焦り始めていた。

 

 「有難い話ではありますが、聖王国には多くの荷を捌く能力を持ち合わせておりませんな……支援を受け取ったとしても、腐らせてしまう可能性がある」

 

 「なるほど。では人員も手配しよう」

 

 彼の国の王が聖王国に人員まで派遣すると言えば、周りの王たちも『確かに聖王国のみでは支援物資を捌き切れない』と彼らもまた人員を手配しようと頷いた。

 とんとん拍子で決まって行くことに教皇は少しあっけにとられているようだ。とはいえ我々亜人連合国も見て見ぬ振りはできない。

 

 「なら、我々亜人連合国は聖王国から彼の国へ荷を運ぼう。罪のない者たちが人間の勝手で振り回されるのは忍びない」

 

 ドワーフの職人たちが作った品物を買ってくれると助かると付け加えた。どうにもナイがいろいろとドワーフの職人から買い付けをしたり、道具を作って欲しいと請われて気を良くしたのか、職人たちに気合が入っている。

 もっと切れ味が良い鉄の包丁を作れないかと考えており、ナイがフソウから持ち込んだフソウ包丁を真似して作っている最中である。ドワーフの職人が『こりゃすごい!』と驚いていたので、良い品だったのだろう。

 フソウ包丁をエルフの者たちが使って野菜を切れば『すっと入っていく!』と驚いていた。私にはさっぱり分からない――爪や牙の方が鋭いのだから――が。本題になる前にいろいろなことが決まって行く。国の頂点にいる者たちの場なので話の進みが早い。このままでは聖王国の負担が大きくなると教皇が慌てて口を開いた。

 

 「では皆さま、彼の国へ支援を届けることは少しの間黙っておいて頂きたい。彼女を呼べ」

 

 そうして暫く待って会議場に現れたのは二人の大聖女と紫色の長い髪を靡かせた少女が神妙な面持ちで顔を出した。さて、大体のことは話に聞いているのだが彼女の本懐を私は知らない。

 アルバトロス王の後ろではボルドー男爵が面白そうな表情を浮かべながら、彼女を値踏みしているようだ。さて、自由連合国が打倒した王家の生き残りは我々になにを乞うと、彼女に多くの視線が集まっているのだった。

 

 ◇

 

 ――少女はどうでるか。

 

 面白いことを言い出せば甥を焚きつけ、教皇と大聖女二人の横に立つ少女を支援するのだが。まだ当人かは謎であるが、教皇が会議場に招いたというのであれば、彼女が自由連合国に滅ぼされたという王家の生き残りであろう。

 よく生き残っていたと感心するものの、王に対して諫言を呈していたため革命前に母親の実家に戻っていた運のある者だ。そのような者が政治的な場に立つとなれば、それなりの覚悟を持っているのだろう。自由連合国の代表を務めている男より、眼前の少女は面白そうだとワシは甥である陛下の後ろで髭を撫でた。

 

 今日はナイに無礼を働いた国の者が参加すると聞き、甥に頼んで大陸会議に参加させて貰っている。にやにやとワシが笑っているとヤーバン王も面白そうに笑い、亜人連合国の代表は無茶を言われるなという表情になっていた。

 発言権はないので甥を通して貰うしかないし、そう無理は言えぬ。ただ、ナイが話題に上れば、彼女の後ろ盾として会議に参戦することができる。ワシの後ろには外交官としてエーリヒとユルゲンが控えている。派遣団に同行していたために、そのまま聖王国に待機して大陸会議に補佐として参加する命が下ったそうだ。

 

 「各国の陛下方、代表の皆さま。わたくしは元サンドル王国、第二王女、フォレンティーナと申します」

 

 長い紫色の髪を持つ少女が丁寧な礼を執る。亡国の元王女とは思えぬ姿――身形は商人の子で貴族相手に失礼ではない衣装――といったところだ。席に座す多くの王たちの視線を意に介していないのか怯える様子もない。さて、少女はなにを望むと言葉を待っていれば、形の良い唇を動かして言葉を続ける。

 

 「大陸会議に参加する資格がないというのに無理を申し出て、皆さまの御前に立つことになりました。率直に申し上げます。自由連合国の首都に住まう民は棄民同然の生活を強いられております」

 

 棄民とは驚いた。国が新しく興っているのに、上に立つ者たちはなにをしているのだろうか。

 

 「各国から支援を自由連合国に届けて欲しいのです。見返りは我が身とさせて頂きましょう……そうなれば一国の方にしかお相手を務められませんので、各国へ順次回る形でも厭いません」

 

 元王女殿下は自身の身を差し出すとあっさりと申し出る。自由連合国は支援を求めるばかりで、なにも返そうとはしなかった。目の前の彼女は彼女ができる範囲をきちんと把握し、覚悟を持ってこの場に立ったのだろう。彼女の後ろに控える護衛の男が憤怒の表情を浮かべていた。護衛として、主の意思を曲げてはならぬと耐えているようだが、そう手を強く握り込んでいれば、もしもの時に対応できないぞと軽く息を吐く。

 

 元王女殿下の提案に喜色を浮かべる王と何故と戸惑う王とで別れていた。

 

 おそらく己に得があるのか、ないのか考えているのだろう。支援をどれほど送れば彼女が手に入れられるか明示されていないので、彼女との交渉次第と言ったところか。まあ、彼女に策がなければ安く買い叩かれるだけ。それも亡国の王女となれば、価値はそうなく若さのみであろう。

 ふむ。女にだらしのない王であれば支援を申し出るかもしれないなと周りを見渡す。議長国である教皇が片眉を上げて怪訝な顔になっている。大聖女二人も『え?』と元王女殿下の発言に驚いているが、なにも口にする気はないようだ。

 

 「少し良いか。そう、生き急ぐものではないだろう」

 

 甥が小さく手を挙げて、議長席の横に立つ少女へと視線を向けた。元王女は何故止めるという顔を浮かべながらも、抵抗してはならないと考えているのか。甥の表情はうかがい知れないが、常識と優しさを持っているため相変わらず苦労をしている。

 

 「いえ! 一刻を争うことです。首都の皆さまは今にも倒れているのですから……私が父を諫められていれば良かったのですが……城を追い出された身でしたので。ご迷惑を掛ける形となって本当に申し訳ありません」

 

 彼女自身よりも首都の民の命の方が重いようである。理想を言えば正しい者だろう。彼女の焦る気持ちも理解できる。だが、為政者であれば犠牲を強いることもある。少々、潔癖に育てられているなとワシは目を細めた。

 

 「確かに民たちには苦労をさせているがな……その状況を招いたのは自由連合国上層部だ。策もなく、王を斃しただけで満足している。何故、君は彼の国のためにそこまで身を差し出す?」

 

 甥が言葉を続ける。これは事情を知らぬ者たちへの説明だろう。元王女の生い立ちを知らねば、彼女が今ここに立っている理由を把握できない。

 

 「私は……側室の子として生まれ……――」

 

 元王女が自身の生まれを説明している。確かに家族である王族からいない者として扱われれば、城下へ繰り出したくもなるか。腐らずにいられたのは彼女の乳母や護衛のお陰なのだろう。そして城下の者たちも。ヤーバン王はそんな親なら殴り返せば良いのにという顔を浮かべているし、似たような生い立ちの娘や息子持つ王は気まずそうな顔になっている。

 

 「君が首都の者たちに献身的なことは理解できたが……何故、そこまでする?」

 

 「確かに。見捨ててしまえば簡単だったろうに。何故、身を寄せた伯爵家でひっそりと生きることを選ばなかったのだ?」

 

 甥の言葉に少し離れた位置に座す王も疑問を呈した。確かに彼女が身を寄せていた伯爵領でひっそりと暮らしていれば、このような場に立つことはなかった。

 

 「王族として城下の皆さまに育てられた恩があります。国が滅びたと言えど、王族は民を守るために存在しておりましょう。私の身を捧げることに抵抗などありません!」

 

 すがすがしい表情で元王女は言い切る。これはこれで厄介な少女である。自由連合国が自滅すれば、隣国の王たちか諸侯がこぞって派兵をし、首都や周辺領を手に入れていただろうに。状況を改善する気概が自由連合国になければ、支援を入れても意味がない。彼女の提案に乗ったとしても、自由連合国の延命であり根本的な解決に至らない。

 

 「自由連合国の者たちが、状況を改善できるとは思えないがねえ……?」

 

 ワシの気持ちを代弁した王がふっと笑いながら議長席横に立つ少女に視線を投げる。

 

 「ご支援を受ける話は状況を大きく変えるものではありません! ですが私にできることは皆さまに頭を下げ身を捧げることのみ!」

 

 再度、頭を下げる元王女に各国の王がやれやれと呆れている。甥も頭を抱えて、目の前の少女の意思を変えられないと諦めたようだ。しかし彼女の身をくだらぬ王たちに捧げるくらいならば……。

 

 「陛下、少し構いませんかな?」

 

 「どうした、ボルドー男爵」

 

 目の前で席に座す甥、アルバトロス王にワシは声を掛け、少々彼に意地の悪いことを伝えた。怪訝な顔でワシの話に耳を傾ける甥へ最後に『言うか、言わないかは任せる』と伝えておいた。

 すると『叔父上は狡いですよ……』と肩を竦めた。そうして前を向いた甥がまた小さく手を挙げる。どうぞ、という教皇に礼を告げた甥は声を出す。

 

 「支援を受けるならば別の形にしてみないかね? 自由連合国政府に未来がないことは誰の目で見ても明らかだ。アルバトロス王国はアストライアー侯爵に矢を番えた彼らに不信を募らせている」

 

 ――ならば君が自由連合国を打倒してみせよ、そして王となれと口にする。

 

 ワシが進言したものであるが、甥の口から語られた以上はアルバトロス王国としての意見である。そしてこの場で各国の王が賛同すれば彼女は更に動き易くなり、支援も受けやすくなるだろう。まあ言い出したワシも協力せざるを得ないのだが……公爵位を退いた身だ。戦場に立っても問題ない。あとはアルバトロス王国のボルドー男爵だと分からなければそれで良い。

 

 「そ、それは無理なことです。私には王都を取り戻せるような戦力を持っておりません」

 

 きちんと彼女は己が置かれた立場を理解している。できること、できないことを即判断できるのは良いことだ。困っている様子の元王女に追い打ちを掛けるように、ナイと関わる者たちが声を上げる。

 

 「侯爵に大恩ある、我々、亜人連合国も同じだな」

 

 「ヤーバンもだな! 侯爵には感謝している」

 

 ふっと笑う代表と、にかっと笑うヤーバン王にリーム王が軽く息を吐きながら口を開く。

 

 「リームもですな。聖樹は枯れたが、アルバトロス王国からの技術提供で国は持ち直している」

 

 彼らの言葉に乗る形で、ブレイズン王も口を開いた。

 

 「侯爵に国の者が失礼な態度を取った過去がある。彼女に無礼を働いた者を放っておけるわけがないな」

 

 確か銀髪の冒険者が馬鹿なことを仕出かして、冒険者ギルド本部に乗り込んだ際に亜人嫌いの国の者が食って掛かっていたな。王はまだ理性を持っているようで、今が挽回の機会だと声を上げたようである。

 

 「聖王国も同じだな。いろいろと彼女には面倒を掛けてしまった……」

 

 教皇が渋い顔を浮かべれば、ガレーシア王も神妙な顔で告げる。

 

 「ガレーシアもだ。海竜殿が海岸に現れるようになり、王都には方々から人がくるようになっているからな」

 

 「我が国の馬鹿な侯爵がアストライアー侯爵にフェンリルの仔を譲れと願い出てなあ。あの時は本当に恥ずかしかった……君が望むのであれば、食料や物資ではなく、違うものを用意しよう。もちろんこれはアストライアー侯爵から受けた恩を返すわけであって、君に請うものではない」

 

 ブレイズン王がはあと溜息を吐いた。確か、銀髪の冒険者がやらかし、ナイたちが冒険者ギルドに乗り込んだ際に亜人嫌いの者が暴言を吐いていたな。王はマトモだったようでなによりとワシが彼を見ていると、ぽかんと口を開けた元王女が凄く困惑していた。大聖女フィーネは『あちゃあ……』と言いたげな顔をしてワシの方を見ている。おそらくワシがアガレス帝国まで乗り込んだ時のことを思い出しているのだろう。

 

 「え? え? 私はアストライアー侯爵閣下とは、なにも関係がありませんが……??」

 

 困惑の表情で元王女が告げる。たしかにナイと彼女はなにも関係ないが、ナイと自由連合国となれば大問題となる。ナイ本人は全く無関心でいるが、コケにされたツケは払って貰おう。元王女には悪いが、大人たちの都合に付き合って貰うしかない。どの道、自由連合国の首都の者たちを救いたいと大義を抱えるならば、自由連合国を落とすのが一番手っ取り早い。

 

 そうして彼女には王たちの『覚悟を見せよ』という視線が集まるのだった。

 

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