魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0706:意気揚々。

 ――どうしよう。どうするべきか。

 

 でも、私が自由連合国への支援を得るために他国に赴くよりは、私が自由連合国を斃して首都の皆さまの頂点に立つ方が幾ばくかの希望がある気がする。各国の陛下方が私の後ろ盾になってくれると言っているようなものだから利用しない手はない。

 

 ないけれど……こんな美味しい話が簡単に舞い込んでくるものだろうか。

 

 悪魔の取引ではという気持ちが湧いてくるものの、ここは女神さまを崇めている本拠地である。悪魔などいないと頭を振って、会議場にいる皆さまの顔を見た。

 

 「私に自由連合国を打倒できるか分かりませんが……今のままでは駄目だと分かっております。未熟者であり、いろいろとご迷惑を掛けるかもしれませんが、よろしくお願い致します」

 

 私、フォレンティーナは会議場の皆さまへ頭を下げる。価値のないものであるが、これから彼らに認めて貰えるようになれば良い。自由連合国の上層部を排除できたなら、王都の人たちと共に少しづつでも恩を返していこう。

 

 「迷惑なのは今更だ。それなら君が自由連合国の首都を治めてくれた方が我々も面倒がない」

 

 自由連合国の隣国にあたる国の陛下が片眉を上げながら笑う。創星神さまの使いの方に矢を番えた話は聞いていたけれど、西大陸全土の陛下方――おそらく参加していない国もあるはず――が知っていたのは驚きだ。

 連絡用の魔術具が各国に存在しているので情報が行き渡ることは早いけれど……仲の悪い国には重要な情報を渡すことはないから、本当に不思議なことだった。

 あとアストライアー侯爵閣下は一体どんな人物なのだろう。大陸北東部に位置する亜人連合国に恩を売り、西の端にある野蛮な国と有名なヤーバン王国も。名乗りを上げた国の陛下方だって、揃って恩を受けていると仰っていた。

 

 ただ今日のことは、数時間で描けるシナリオではないような。私は今日のことを糸を引いた人物がいると周りを見渡すものの、どの方々も独特なオーラを持っていて判断が付かない。なら聞いてみるしかない。皆さまの御前の前で失礼なことを言っているのは今更だ。少し不躾な質問であるけれど、知っておいた方が良い気がする。

 

 「ど、どなたが今日のことをご計画なされたのですか?」

 

 私が疑問を口にすれば、各国の陛下方が口を開く。

 

 「君を連れてきたのは聖王国の教皇だな」

 

 「君を利用しようと言い出したのは、元サンドル王国の隣にある王である」

 

 「ならば丁度良い機会と、自由連合国の代表を大陸会議に『招待』してみようと、そこにいるエルフの二人が申してな」

 

 「本来、他国のことに手を出すべきではないが、方々に支援を要請しながらも見返りを用意していない彼の国の代表には不信感しかない」

 

 各々の陛下方が経緯を語ってくれた。え、自由連合国の代表の男は今、聖王国入りを果たしているの? 何故、のこのことやってこれるのだろうか。大聖女フィーネさまに無礼な態度を取っていたのは明らかであり、被害を受けたご本人も不快だと態度と言葉で示したというのに。

 

 「それにアストライアー侯爵の一件があるからな。我々も創星神さまの石をお預かりしている身だ。石に変化があり、神さま方の力添えを頂けない可能性もあると考えれば侯爵の味方をしておいた方が無難だ」

 

 また違う国の陛下が大きな息を吐き呆れた顔を浮かべながら本音をぶちまけている。確かに今、自由連合国の首都で預かっているはずの石が黒く染まれば大事だ。弓矢を番えたことでアストライアー侯爵閣下が動いてくれなかったり、創星神さまから命を受けている女神さまも知らないフリをするかもしれない。

 

 「…………」

 

 あまりの驚きに私は何も言えなくなれば、各国の陛下方が肩を竦めている。

 

 「呆れて物も言えぬだろう? それだけのことを仕出かしているのだよ。侯爵が本気になれば首都ごと焼き払っていてもおかしくはない。だから私たちは君の肩を持つ。王族の血と平民の血を持つ君が自由連合国となり替われば、丁度良い御旗となるのではないか?」

 

 どうやら私の出自を上手く使えということらしい。王都の皆さまと交流を持っていたのは母が元平民だったという事実があるからである。自由連合国と名乗っている元々の形は革命軍である。圧政から逃れるために立ち上がった彼らは『自由』を掲げながら、とある田舎領から出発し、各地の諸侯を説得しながら王都入りを果たし父王を討った。

 

 今、仰った陛下のように上手く立ち回れば私は平民の血と王族の血を引く新たな先導者だと認めてくれるかもしれない。上手く使わなければならないけれど、自由連合国の代表を引き摺り下ろす理由になり得るだろう。

 

 「承知致しました。あの、本当に自由連合国の代表たちは聖王国入りを果たしているのですか?」

 

 「我々との入りの時間をズラしていてな。今は大聖堂を案内されているそうだ」

 

 私の疑問に答えてくれたのは自由連合国の隣にある国の王だ。面白そうな顔をして、鴨がきたぞと言いたげである。そして各国の陛下方も馬鹿な者がやってきたなあと肩を竦めた。異様な空気が流れている気がするけれど、彼らは自由連合国代表に価値を見出しているのだろうか。

 

 「ははは! 手を出せぬなら、口で散々言ってやらねばなあ!」

 

 にかっと笑っているのはヤーバン王国の女王陛下である。少し前に父王から玉座を奪ったと小耳に挟んでいるのだが、どういう方法で父王を引き摺り下ろしたのだろう。会議が終われば彼女と話ができると良いなと考えていると、教皇猊下が彼女の方を見ていた。

 

 「ヤーバン王よ。いつぞやのように、宣戦布告をしてはなりませんぞ」

 

 渋い顔で告げた教皇猊下にヤーバン王が破顔させながら彼を見た。え、ヤーバン王国は大陸会議の場でどこかの国に宣戦布告をしたのだろうか。私が知り得る情報は限られているため、なにが起こったのか分からない。

 

 「分かっているさ。ヤーバンと自由連合国とは離れすぎているからなあ! まあ、あと十ね……――いや、なんでもない。忘れてくれ!」

 

 ふふんと笑いつつ、吐きかけた言葉をヤーバン王は飲み込んだ。なにか引っ掛かりを受けるけれど、誰もヤーバン王を追及しない。議長国である教皇猊下が話を進めようと小さく手を挙げた。

 

 「さて、そろそろ自由連合国の者たちを召喚しよう。君はどうする? 隠れていても構わぬし、場に残っていても構わぬよ。まあ代表と話すのは少々遠慮願いたいがね」

 

 「皆さま方の話を邪魔する気はありません。ただ、場に残らせて頂き、自由連合国の方たちが国の行く末をどう考えているのかを知りたく存じます」

 

 猊下の声に私がどうしたいかを告げれば、各国の陛下方も頷いてくれた。どうやら場に残ることを許可してくれたようだ。私はどこにいれば良いだろうと迷っていると、フィーネさまとウルスラさまが手を招いて『こちらに』と案内してくれた。

 私の近くには亜人連合国の代表が席に座し、彼の後ろには白髪の背の高い男性とエルフの女性が二人立っている。エルフのお二方がにっこりと笑い、フィーネさまとウルスラさまに手を振っていた。フィーネさまとウルスラさまは小さく頭を下げている。エルフの方たちとお知り合いになるなんて凄いと感心していれば、お二人は私にも視線を向けて手を振ってくれた。

 

 ゆっくりと彼女たちは私とフィーネさまとウルスラさまの隣に立てば小声で喋り始めた。

 

 「君は大変な立ち位置になっちゃったねえ~」

 

 「でも、今なら各国の王から支持を得られるから、難しいことは考えないで利用するだけ利用しなさいな」

 

 くすくすと笑うエルフのお二人からは独特の空気が流れている。もちろん白髪の男性からも、席に腰を下ろしている亜人連合国の代表からも私は圧を感じていた。この方たちは絶対に敵に回してはならないと決めていれば、自由連合国の人たちがもう直ぐくるそうだ。私は会議場の入り口である扉を見つめ、ぎゅっと手を握り込むのだった。

 

 ◇

 

 ――聖王国へ向かうことになろうとは。

 

 自由を標榜している私、リバティーは信仰心など持ち合わせていないが、聖王国に赴けば政治家の価値が上がると判断して彼の国へ赴いている。大陸会議も開催されるようで、今は聖王国の者に大聖堂の案内を受けていた。

 豪華なステンドグラスには肥満な女神が描かれており、肥満は怠惰の現れと考えている私には当然受け入れられない表現だ。確かにふくよかであれば飢えていない証拠であるが、飢えないという証明ではない。

 ふんと鼻を鳴らして私は大聖堂を出る。これから会議場へと案内され、私は初めて大陸会議に参加することになる。今まで忙しさのあまりに参加を蹴っていたのだが、隣国の王に『各国の王が貴殿に興味を持っている。是非に参加を』と告げられて参加を決意した次第である。

 

 もしかすれば、支援を大量に受けられる用意があるのかもしれないし、自由連合国を国としてきちんと認めるという宣誓の場であるかもしれない。政治的中立な立場を表明している聖王国だから、あり得ない話ではないだろう。

 

 しかし大聖女フィーネはどこにいるのだろう。美しい彼女を一目見たかったのだが、残念なことに姿を見ていない。大陸会議が開催されるということで、今日の大聖堂には一般信者は近寄れないそうで治癒院も開かれていないそうだ。向こうが顔を出さなければ、私が治癒院に赴いて話をすれば良いと考えていたのに残念なことである。

 

 自由連合国の他の者たちは大聖堂の美しさに見惚れ、信仰心を持つ者は熱心に祈りを捧げていたのだが、私は大聖女フィーネと顔を合わせられないことが残念で仕方ない。

 

 はあと息を吐いていれば丁度、会議場の前に辿り着いていたようで『こちらになります』と恭しく案内の者が告げる。会議が終われば晩餐会が開かれるようなので、豪華な食事に有りつける。大聖女フィーネに会えないことは残念だが、豪華な食事は久しぶりだと落ち込んでいた気持ちが少しマシになった。

 

 「では、前へお進みください」

 

 案内の者が扉を開けて私たちを中へと誘う。照明を落とした会議場には各国の王が既に席に就いていたようだ。なるほど。新興国である自由連合を迎え入れようと考えてくれたようだ。私は身に纏っている衣装の襟元を掴んで『よし』と気合を入れ前に進む。私に控えている者たちも一歩、一歩を足を進めた。

 

 「自由連合国、代表。リバティー殿、御入場っ!」

 

 足を進めていれば大音声が会議場に響く。おお、これは気持ち良いと各国の王たちを私は見渡した。照明が暗く彼らの顔が伺い知れないが、席に私が就けば大喝采が巻き起こるはず。私は悪政を敷いていた王を斃したのだ。領民や仕える諸侯を多く抱えている彼らにとって、悪い王は邪魔でしかないだろう。

 

 「ようこそ、大陸会議へ。自由連合国代表、リバティーよ」

 

 声が上がると会議場の照明が明かるく灯された。席に腰を下ろしている各国の王は厳しい表情で私を見ていた……何故、そのような顔で私を見る! と言いたいが、圧に押されて上手く声が出ない。

 後ろに控えている者たちも震えているようで、歯をカチカチと鳴らしていた。威圧を受ける私であるが、たった一つ希望の花が咲いていた。大聖女フィーネが大会議場で私を待っていてくれたのだ!

 

 ◇

 

 私は西大陸にある小国の王である。予定が空いていたため、聖王国で開催される大陸会議に参加しているのだが、会議場はいつになく異様な雰囲気に包まれていた。今や大陸の雄と言って良いアルバトロス王と亜人連合国の代表にヤーバン王国、聖王国とリーム王国に他、アストライアー侯爵に恩のある国の者たちが凄い雰囲気で自由連合国のリバティーという男を射抜いている。出入口の前に立っているリバティーという男はごくりと息を呑み歩を進めた。

 

 どうぞ席へと言う議長の声に所在なさげに腰を下ろすのだが、聖王国の大聖女を見つけて顔を綻ばせている。どうやら彼は若い女性に目がないようだと、私は少し呆れてしまう。

 しかしまあ……彼を追い詰めるために聖王国の教皇が開いた会議に良く顔を出せたものだ。もっと早くに彼らが大陸会議に参加していれば、困窮している首都の状況は違っていたのではないだろうか。

 

 「ようやく顔を出してくれましたなあ。自由連合国代表よ。ずっと貴殿と会ってみたかったのだが、大陸会議に参加なされていなかったからな」

 

 「ですな。支援を求められ、見返りを我が国が求めれば『そんな物は用意できない!』という残念な答えが返ってくるばかりだった。今、ここで貴殿に会えて嬉しいよ」

 

 自由連合国の隣に位置する王が二人声を上げ、お互いにハハハと笑う。見返りのない支援など国としてできるはずなく彼らの言い分は尤もだ。だがリバティーという男は目を細めて彼らを睨む。

 議長である聖王国の教皇猊下は王二人を止める気はないようだし、彼の後ろに控えている大聖女の一人は凄く嫌そうな顔を浮かべてリバティーという男を見ていた。もう一人のお方は状況を見定めるためなのか真面目な顔を浮かべているだけ。そして元サンドル王国の王女は『こんな人が自由連合国の代表を務めていたのか』と頭を抱えたそうにしていた。

 

 初手で嫌味を放たれリバティーという男は素っ頓狂な顔を浮かべたあと、王二人に厳しい視線を向けている。なるほど。どうやら彼はこの場にいる王全員が相手を務める必要はなさそうだ。

 愚王を落とす手腕はあったようだが、首都を運営維持できる頭は持っていない。おそらく他の王たちも直ぐに彼の価値を見定めたようで、紫髪の少女へと視線を向け肩を竦めている。

 

 「今まで大陸会議に私が参加していなかったのは、首都の状況を変えるために奔走していたから。各国の王には、決して私が逃げていたからではないと知っておいて貰いたい」

 

 リバティーという男が会議場を見渡すのだが、誰も彼と視線を合わせようとしなかった。知りたくないのか、知っても意味がないと言いたいのか。どちらにせよ、彼の意見に賛同しては自分が不利になると皆、分かっているようだ。

 

 「そうかな? 貴殿が早くに会議の場に顔を出していれば、支援を申し出た国もあるだろうに。まあ、見返りを用意せず求めるだけだから、マトモな支援は受けられそうにないがな」

 

 ははっと笑う隣国の王はリバティーという男に視線を合わせているようで、合わせていなかった。どうやら彼の王は男の顔を見ることを拒否しているのだろうか。嫌味たらしく告げる王に自由連合国はどんな失礼な支援要求を送ったのだろう。

 

 「確かに出席していればと後悔している部分もありますが……我が国が忙しい最中に創星神の使いの相手を務めねばならなかったことを、皆もご存じでしょう? 警備にどれほどの金と人員をつぎ込んでいるのか……分からない方々ではありますまい!」

 

 歯切りをしていそうな顔を浮かべてリバティーという男が反論するものの、会議場には冷めた笑いが響くだけ。小物認定されてしまったからなのか、アルバトロス王と亜人連合国代表に、ヤーバン王と教皇猊下たちはいつもの雰囲気に戻っていた。

 確かに私の国もアストライアー侯爵から創星神さまからの石を受け取り、厳重な警備を敷いている。必要な処置のため必要経費と言ったところである。情勢が落ち着いていない自由連合国には痛手かも知れないが、なにか起こった時のことを考えればはした金ではなかろうか。

 

 信仰心の高い者は石の警備に就けることを栄誉だと受け取っている者もいれば、石を安置している場所で祈りを毎日捧げている者もいる。おそらく我が国王都の教会に安置すれば、民の者たちが押し寄せそうな勢いがある。

 そうなると警備費が嵩むため王城安置ということに決め大事に取り扱っている。リバティーは創星神さまの石をどう扱っているのやら。機会があれば聞いてみるかと私は一人頷いて、またリバティーの方へと視線をやった。

 

 「ああ。確かに興ったばかりの国ではキツイものがあろうな。だが堕ちた神がどう出るか分からない。我々人間では対処できないものに対し、創星神さまが対抗策を与えて下さった。それに堕ちた神が現れたり石が黒くなれば女神さま方がやってきてくださる。それはなににも代えられぬものだ」

 

 そう。自由連合国の隣の国の王は正しいことを告げている。堕ちた神がどう出るか分からない以上、手の打ちようがない。そこに創星神さまから譲り受けた石があれば、解決できる可能性があるのだ。

 それなのにリバティーという男は石の存在が疎ましいと告げている。本当に使者を務めたアストライアー侯爵に対しても無礼な態度を取っているし、小物と分かった以上、彼が自由連合国の代表で良いのかという疑問が湧く。それこそ、先程支援を我々に求め己の身を差し出そうとした元王女の方が、国を担うのに適しているのではなかろうかと思えるほどに。

 

 「貴殿が会議場に入ってきて、やるべきことは聖王国へ向けた礼の言葉だったはず。我らの挑発に乗って無様を晒していることに何故、気付かない?」

 

 「無様……ですと!? 先に仕掛けてきたのは貴殿らでしょう! 何故、私に責があるというのだ!」

 

 ふんと鼻で笑った隣国の王の言葉でリバティーがキレてしまう。もしかして礼を述べたり、謝ることが苦手な者なのだろうか。確かに国の頂点に立つ王が簡単に謝まることは良しとされていない。

 だが、自由連合国という民が主体で政を行うならば必要なことだろうに。机に手を突いて立ち上がったリバティーに対して、各国の護衛の者たちが覇気を出し牽制している。リバティーは気付いたのか、今にも隣国の王へと詰め寄りそうな勢いは消え、場に立ち尽くした。

 

 「あるではないか、確実に。アストライアー侯爵に矢を番えたこと、聖王国の大聖女に無礼を働いたこと。今は耐えるべきだというのに、私の口車に乗せられてキレたことか」

 

 隣国の王が両手を組み口元を隠せば、アルバトロス王も机に両肘を置いて手を組んで顔の近くへと寄せた。

 

 「侯爵は貴殿に興味を持っていないし、自由連合国がどうなろうとも知らないと言っていた」

 

 まあアストライアー侯爵の言い分は理解できるし、むしろ穏当なものではないだろうか。今や西大陸どころか全大陸に名を馳せている彼女が小国に興味など持つわけがない。

 しかも情勢が安定していない地域を手に入れたところで、私財が減ってしまうだけで黒字になるのは何年先になるのやら。創星神さまの使いを務めた侯爵は良く彼に殺意を抱かなかったものだ。矢を番えられているというのに、なにもしないで石を渡してさっさと別の国へと旅立つとは。

 

 「な!? 創星神の使いを務めた者が知らないと言ったのか!! 困っている者を見捨てるのか!!」

 

 激高するリバティーという男にアルバトロス王は顔の近くにあった両手を机の上へと移動させる。

 

 「自身に向けて矢を番えていた国に支援をしようなどとは考えぬのは当然だろうに。創星神さまの使いを務めた侯爵とて人間だ。心を持っているのだよ」

 

 組んでいた手を解いたアルバトロス王は肩を竦める。そうして教皇猊下の方へと視線を向けた。教皇猊下は一つ頷いて、チラリを後ろの大聖女さまを見たあと直ぐに前を向き口を開いた。

 

 「大聖女フィーネも、自由連合国の首都に住まう者は助ける価値はあるが、上層部にはないと言い切っている」

 

 物資を自由連合国の首都に届けてきた聖王国の派遣団に自由連合国上層部は随分と失礼な態度を取っていたらしい。教皇猊下が辟易した顔を浮かべてリバティーという男を見ていた。逆にリバティーという男は目を大きく広げて、大聖女フィーネへと視線を向けている。

 

 「え……何故! 君は……大聖女フィーネは私に好意を持っているのではないのか!!」

 

 リバティーという男の声に会議場の王たちが『本気で言っているのか?』『頭は大丈夫なのか?』『良い歳をして若い女子に懸想するとは』『小物が手に入れられるとでも?』と周りの王と話している。

 というかリバティーという男に聞こえても良い音量で語っているのだが、頭を真っ白にさせている男には届いていないようだ。大聖女フィーネが半歩前に出て、凄く、物凄く冷めた目をしながら言葉を紡ぐ。

 

 「ございません。私には思い人がおりますので。貴方に靡くことはありません」

 

 「それが聖職者としての言葉か! ――! ――っ!」

 

 大聖女フィーネが言い終えると『少しスッキリ』という顔を浮かべていた。逆にリバティーという男は顔を赤く染めながら物凄い形相で、聞くに堪えない言葉を吐き連ねる。流石に不味いと気付いたのか彼の側にいた自由連合国の者が止めに入ろうとすれば、怒りに任せて手が出てしまった。

 

 「ぐっ!」

 

 リバティーという男に殴られた者はがっしりとした身体つきだったためなのか、それとも単にリバティーという男が非力だったのか。倒れ込むことはなく、痛みに顔を顰めているだけである。殴った男は手の痛みに顔を歪めながら、殴った右手を左手で押さえている。

 

 「代表、今の暴言は認められません! 今直ぐ皆さまに謝ってください!!」

 

 殴られた男は顔を青褪めさせながら、先程の聞くに堪えない代表の言葉を会議場の皆さまに謝れと捲し立てる。自由連合国上層部にマトモな者がいたのだなと安堵するものの、リバティーと言う男をのさばらせていた罪は重いのではないだろうか。

 まあ、事情がいろいろとあるだろうから私が口を出すことではない。またリバティーという男は顔を真っ赤にさせながら、会議場の皆さまに向かって指を指す。

 

 「何故、私が謝らねばならんのだ! 無礼を働いたのは向こうだぞ! 人の気持ちを弄んでおいて、なにが思い人がいるだ!!」

 

 「貴方は自由を掲げているのでしょう! 誰かが誰かを思うことも自由なはず! 勝手を申し上げないでください!」

 

 取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな勢いである。彼らの幼い行動に会議場の王たちは呆れかえっている最中、議長を務める教皇猊下の隣に並ぶ者がいた。

 

 「これ以上は見ていられません! ダル!!」

 

 亡サンドル王国の元王女殿下が声を上げる。どうやら馬鹿げた状況を早く終わらせたいようだ。彼女の後ろに控えていた護衛の男がぬっと大きく片脚を引く。

 

 「はっ! 皆さま。御前、失礼いたします!!」

 

 だん、という床を蹴る音が鳴ればダルと呼ばれる護衛が一気にリバティーと言う男の元に立っていた。そうして腰に佩いている剣を抜かないまま、手刀を男の後ろ首に落とした。

 

 「ごはあっ!」

 

 白目を剥いたリバティーと言う男が床にどさりと倒れ込む。そうしてダルと呼ばれた護衛は自由連合国の者たちを睨みつけた。彼の醸し出された覇気に充てられて、腰を抜かす者、逃げようとする者がおり、自由連合国上層部の者たちは烏合の衆であると会議場の者たちが苦笑いになっている。そんな中、殴られた男だけが我らに視線を向けていた。

 

 「この度は我が国の代表が皆さまに対して失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした!」

 

 そう言って、深く頭を下げるのだった。

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