魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
各国の陛下方が集まる聖王国の会議場ではなんだか凄い状況に陥った。
「とんでもない状況となりましたねえ、エーリヒ」
「ああ、ユルゲン。どう収拾させるんだ、これ」
お互いに名前を呼び合い、あちゃあと頭を抱えたくなるのを我慢する。
ダルという護衛の男がリバティーと名乗る男に手刀を打ち込んだあと、自由連合国上層部の人たちはオロオロしながら周りを見渡している。逃げようにも会議場の扉は閉ざされたままであり、聖王国の護衛兵が立っている。
彼らも兵士を連れているというのに突破を試みることはなく、ただただ困惑しているだけだった。呆れかえった空気が会議場に流れ始めると、元王女殿下が教皇猊下の隣から移動して、自由連合国の人たちの前に立つ。ダルという護衛の男も彼女の後ろにさっと控え、席に座したままの陛下方へと視線を向ける。
「出過ぎた真似をして申し訳ありません。ですが、これ以上自由連合国が恥を重ねるわけにはいかないと判断させて頂きました」
元王女殿下が頭を下げる。彼女が頭を下げる必要は全くないだろうに、それでも自分の国の後継者が無様を晒せば恥ずかしかったのだろう。凄く長く頭を下げている。
そうして、リバティーと名乗る男に殴られた人も『我が国の代表が皆さまに対して無礼な姿を見せ、本当に申し訳ございません』と勢い良く礼を執った。彼に続いて頭を下げる自由連合国の人もいれば、忌々しそうな顔でなにもしない人もいる。
自由連合国の隣の国の王が彼女を見据えて目を細めた。
「良いのではないか? そも、倒れている男が国の代表であると、誰かが認めていたわけではあるまいし」
彼の上げた声に周囲の陛下方が賛同して深く頷いていた。確かに各国の陛下方に彼が自由連合国の代表であると認められてはおらず、首都で自由連合国と名乗り始め勝手に運営を始めただけ。
自由連合国の上層部の人たちは隣国の王の声にびくりと肩を震わせた。周辺の国の王から、しかも大陸全土からやってきている王たちが自由連合国が国として認められていないなど寝耳に水だろう。彼らの輪の中で困惑が更に広がり、一部の人たちはカチカチと歯を鳴らしながら自分がどう立ち回るべきか考えているようである。
「さて、頭も下げぬ者たちを君はどうしたい?」
「まずは彼を代表の座から引きずり下ろしたいのですが……」
隣国の王が元王女殿下に問い、無礼を働いた男を代表の座から引きずり下ろしたいと申し出た。自由連合国上層部の人たちの中に、彼女と同意見の人たちがいるようである。先程、頭を下げなかった人たちに厳しい視線を向けてもいるし、内紛が始まっているようだった。そんな中、議長国である教皇猊下が一つ頷いた。
「各国の皆さま、彼女の意見に異論は?」
彼の通る声が会議場に響く。誰も反論など上げないために、リバティーと名乗る男は聖王国の兵士によって捕縛縄で縛られたあと床に放置された。
「さて他の者たちはどうするかな? 代表を捕縛され、自分たちを導く者がいなくなった今、君たちの立場はかなり危うい。よくよく考えることだ。まあ国に戻っても居場所はないかもしれないが」
自由連合国に隣接するもう一人の王がふふと笑えば、膝を突いてリバティーと名乗る男についてきたことを後悔していた。リバティーと名乗る男に殴られた人は紫髪の少女が元王女殿下であると分かったようで礼を執っている。他にも数人の人が礼を執り、彼女の後ろへと回った。
本当に自由連合国上層部は烏合の衆だったようである。こんなにあっさりとリバティーと名乗る男を見捨てるなんて。驚きと呆れが会議場に流れれば、元王女殿下が声を上げる。
「では皆さま、私が次の自由連合国の代表を名乗っても良いでしょうか?」
「構わんよ。国の名を変えたいのであれば各国に通達を頼む」
彼女は各国の王に同意を取れば、場内にいる陛下方が確りと頷く。元王女殿下が不安げな顔から明るい顔へと変わるものの直ぐに気を引き締めている。そうして彼女の後ろに控えた人たちとなにやら話し込んでいた。各国の陛下方は彼女らは次になにをするのかと見守っているようだ。話を終えれば、彼女が正面を向いて口を開いた。
「皆さま、自由連合国首都の状況は刻一刻を争うものとなっております。どうか直接の支援を受けられないでしょうか? 私が代表となった今ならば、城に残っている金銀財宝をできうる限り放出します!」
どうやら首都の城の中には前王族が溜め込んでいた金銀財宝が眠ったままのようである。リバティーと名乗る男がソレに手を出さなかったのは、彼が今の地位を確りと固めた頃に懐に納める腹積もりだったようである。
まさか、真っ先に放出して民への支援に回すべきものを貯め込んでいたとは驚きだ。一先ず、ある程度の時間は首都の皆さまの飢えを凌げるはず。そして王女殿下が各領地の諸侯を説得に回れば、物流の回復が見込めるかもしれない。
少しだけ自由連合国の未来が見えてきたと頷けば、自由連合国の中で床に腰を下ろしていた人たちのすすり泣く声が響くのだった。
――十分後。
すすり泣く人たちが聖王国の護衛兵に回収され、別室で監視を受けることになった。そしてリバティーと名乗る男は白目を剥いたまま床に転がっていた。
あり得ない状況に各国の陛下方はリバティーと名乗る男の姿を見ようと席を立って、男を囲んで見下ろしている。俺はアルバトロス王国の外交官として事の顛末を見届けようと、陛下とボルドー男爵閣下と一緒に付いてきている。
同僚であるユルゲンも一緒にきており、白目を剥いたままの情けない姿に深く息を吐いた。フィーネさまに無礼なことを吐いた男に同情をする気は全くない。むしろ自分が男の頬に拳骨を入れたかったくらいだ。
先ほど男が吐いたフィーネさまへの台詞が頭の中で勝手に再生されればイライラが募る。ユルゲンが俺に『顔、怖いですよ。気持ちは分かりますが終わったことです。それなら彼女のフォローに回った方が良いでしょうね』と落ち着いた声で俺を諭してくれた。確かに暴言を受けたのは俺ではなくフィーネさま。俺のフォローが上手く入るか分からないけれど、機会を見計らってフィーネさまと話さなければ。そう考えれば怒りはどこかに飛び、落ち着くことができた。
「なんだ。もっと骨のある者かと思いきや」
「叔父上。骨のある者であれば侯爵に矢を向けますまい」
ボルドー男爵閣下が呆れた声を上げ、それに対してアルバトロスの陛下が肩を竦めて苦笑いを浮かべる。陛下は近くにきていた自由連合国の隣の国の王へと視線を向ける。
「アストライアー侯爵に武器を向けたことを後悔させねばなるまいと乗り込んだのに、貴殿に場を取られてしまいましたな」
「アルバトロス王よ。偶には私も目立たせてくれ」
陛下と隣国の王が肩を竦めながら小さく笑っていた。どうやらアルバトロス王国ばかり目立たせまいと隣国の王は考えていたようである。近くに控えたままの元王女殿下は側にきた各国の陛下方に頭を下げまくっていた。
リバティーと名乗る男の尻拭いにしか見えないけれど、各国の陛下方は彼の男を相手にするよりもマトモな考えを持っている彼女を相手にした方が話が進むと捉えているようである。簀巻きになっているリバティーと名乗る男を見下ろしていると、ヤーバン王が元王女殿下と話している声が俺の耳に届く。元王女殿下の声は聞こえないけれど、ヤーバン王の声ははっきりと届いている。
「苦労をしたのだなあ。ヤーバンは貴国と遠い故に協力できることは少ない。だが、貴女がこうして代表となった今、会議で顔を合わせることもあるはずだ。お互いに持ちつ持たれつで縁が持てるなら嬉しい」
どうやら初めての挨拶は無難に終えたようである。とんでもない始まりだったけれど、元王女殿下にとっては良い収まり方だったのだろうか。ただ自由連合国首都の立て直しという使命を負った彼女には苦難や苦労の連続かもしれない。
今後、自由連合国首都がどう改善するかは彼女の手腕に掛かっているのだろう。そんなことを考えていれば大きな足音を立てながらヤーバン王がボルドー男爵閣下の隣に立った。
「ヤーバンで鍛え直せば、男の性根は少しマシになるだろうか?」
ヤーバン王は簀巻きになったリバティーと名乗る男に足を掛け、ごろんと反対方向へと転がした。それでも目覚める様子はなく男は沈黙を保ったままだ。
「今更、遅いのではないか? まだ十代の若い頃であれば可能性はあるかもしれないが……しかしヤーバンではどのような鍛え方を取り入れているのだ?」
「八歳になった男児は深い森の中に短剣一本で放り込まれる。戻ってくれば、見習い兵士として認められ、軍人生活が始まるなあ。私も王族だからと八歳で森に放り込まれた!」
アルバトロスの陛下がヤーバン王と視線を合わせる。ヤーバン王は目覚めない簀巻きの男の頬に足裏でぐりぐりと押さえつけていた。
「え?」
「それは、それは! しかし八歳で森の中に放り込まれるとは。相当にヤーバンの教育開始は早いようですなあ」
陛下の困惑した短い声とボルドー男爵閣下の豪快な声に俺は黙って聞き届けるしかない。しかしヤーバンの教育は本当にスパルタ式のようである。記憶が朧げなので、はっきりと覚えていないけれど。
「アルバトロス王国ではどのような教育を?」
ヤーバン王は逆に他の国が子供に対して教育を開始する時期に興味を持ったようである。
「貴族であれば五歳くらいから教育が始まる。騎士家系であれば、男児は騎士を目指す教育も一緒に受けることになるな」
穏やかな口調で陛下が答えた。細かい時期は各家で違ってくるものの、五歳前後で貴族の教育が始まる。もっとも幼児でも学べることは早い段階で仕込まれるけれど。
俺も本格的な貴族教育を受けるようになったのは五歳の頃からだ。まあ長兄と次兄がいたので、貴族教育の内容は濃くなかった気がする。面白そうな顔でヤーバン王が陛下の説明に耳を傾けていると、簀巻きになった男の目がゆっくりと開く。
「はっ!? 何故、私はこんな格好になって床に転がっているのだ! 誰か、縄を解いてくれ!!」
芋虫のように地面を這う男に同情の気持ちは湧かなかった。目が覚めた簀巻きの男に自由連合国の者たちは誰も反応しない。元王女殿下はダルと呼ばれる護衛の男に声を掛けて男をどうにかしようとしていたのだが、先にヤーバン王が冷めた目で簀巻きの男を見下ろした。
「解くわけなかろう。もう一度、眠っておけ」
「――ごはあっ!」
いつもより低いヤーバン王の声に驚きつつ、簀巻きの男から妙な声が上がる。骨が軋むような音も聞こえた気もするけれど、なにかあれば聖王国の聖女さま方が控えていると、また気を失った簀巻きの男に視線を降ろすのだった。
◇
簀巻きにされた自由連合国代表は大柄な男性に引っ張られている。私はこれから彼の代わりとして動かなければならない。支援を各国の陛下方に乞うはずが、何故か自由連合国の代表となるなんて全く考えていなかったけれど……簀巻きにされた男が担っているよりマシという自負があった。
まだまだ男性の立場が強く、女の価値は認められない国だけれど……でもヤーバン王は女性であったし、アストライアー侯爵閣下も女の子だ。フィーネさまもウルスラさまも私と同年代で大聖女を務めている。私には力や知識が足りないかもしれないけれど、私を支えてくれると誓ってくれた自由連合国の彼らとダルを信じよう。
聖王国の会議場にいらした陛下方は私、フォレンティーナを新たな自由連合国の代表として認めてくださった。隣国の陛下は支援と共に人材を一年間限定で貸出をしてくれるとのこと。
大都市を管理できる者を派遣させるから好きに使えば良いとも仰ってくれている。各国から聖王国へと送られてきた自由連合国用の支援も、聖王国の教皇猊下が送り届けてくれると確約してくれた。支援を受ける代わりに、首都での教会の扱いを改善させよという命を受けた。送られてきた支援物資を自由連合国の者たちで捌かなければならないし、これからとても忙しくなる。
聖王国の会議場を出て控室へと向かう私は首都のみんなの顔を思い出しながら歩いていれば、一人の男性が私に声を掛けてきた。
「で、殿下? これから、どうなさるおつもりですか?」
少し緊張した様子で問いかける彼は簀巻きの男性に会議場で殴られた方である。ついでに簀巻きの男性を引き摺っているため、周りの人たちから凄い視線を受けているけれど……簀巻きの男性を見て『ああ』と納得していた。凄く遠慮がちに問いかけてきた男性に私は苦笑いを浮かべた。
「サンドル王国は亡びていますから、敬称を用いずとも」
亡国の王女に価値などないし、自由連合国は周辺国、いや西大陸各国から最低評価を頂いているはず。そもそも王政を執っていた国を滅ぼし、民が主になって政治をしようと掲げた国だから各国の警戒は当然だ。
そして一番、自由連合国の価値を貶めているのは創星神さまの使いを務めたアストライアー侯爵閣下に武器を向けたことだろう。本当に簀巻きの男性はなにを持って神さまの使いに、矢を番えた兵士を用意したのか。問い詰めたいけれど……簀巻きの男と話すよりも、やるべきことが多くある。
「うっ……も、申し訳ございません」
「ああ、ごめんなさい。貴方を責めるつもりはないですし、亡国となったものに対して、悲しいという気持ちは薄いので。あと、私は王族ではなく自由連合国の代表という身です。過度な敬意も必要ないかと」
困り顔になった男性に私は苦笑いになる。他の人たちも私の後ろを歩きながら、一緒に話を聞いてくれていた。会議場の独特な雰囲気から解放されて、少し気が楽になったようである。私のことは名前で呼んでくださいとお願いして、言葉を続けた。
「首都に戻って、私が彼と代表の座を交代したこと。あと近隣諸侯の皆さまに自由連合国を各国の陛下方に認めて貰ったことを通達します。それと共に首都へ商人を赴かせて欲しいというお願いもしようと考えております」
私の言葉に自由連合国の人たちの顔がぱっと明るくなる。え、簀巻きの男性は基本的なこともしていなかったのかと、床を這う彼に視線を向けた。ダルが彼の後ろ首に入れた手刀は綺麗に入り気絶して、目が一度冷めたあと直ぐにヤーバン王の一撃で今も気絶したままである。
面倒だから一生目覚めないで欲しいと願ってしまう。いや、ちゃんと自由連合国の代表としてやるべきことを行っていなかったことを糾弾した方が良いだろう。近隣諸侯の皆さまにも迷惑を掛けてしまっているのだから。
「ふう」
簀巻きの男性をずっと引っ張るのは大変なようで、男性がふうと息を吐いた。その姿を見たダルが右手をそっと彼に差し出す。
「代わろう」
「宜しいのですか? で……フォレンティーナさまの護衛は?」
男性はダルの顔色を伺いながら問うている。ダルはいつも不機嫌な顔を浮かべているように見えるけれど、それが彼の普通である。彼のことを怖がらないで欲しいと願っていると、またダルが口を開いた。
「思うところがあるのでな。遠慮をしないで欲しい」
ダルが男性から簀巻きの男性を縛り付けている縄を譲り受けた。そうしてみんなが歩き出すと、ダルは縄を伸ばして緩く握る。遅れてダルが歩き出し、縄が伸びきるところで腕に力を入れて前へと突き出した。
すると簀巻きの男性の身体がガクンと揺れて前へと進んで、また緩ませた縄のお陰で床に転がっている。縄がまた張り詰めればダルが腕に力を入れて前へと突き出した。ガクンとまた簀巻きの男性の身体が揺れて前に進む。ダルは飽きもせずに控室まで続けるようだ。
「元代表が本当に失礼を……!!」
「私に向けたものよりも、アストライアー侯爵閣下に行ったことを謝らなければなりませんね。私の謝罪の書簡で許して頂けるとは思いませんが……なにもしないよりマシでしょうから」
男性が平身低頭に謝ってくれるけれど、自由連合国の代表を新たに私が担ったならば、真っ先にやるべきことのひとつが侯爵閣下への謝罪だ。許して貰えないだろうけれど、手紙を送ったという事実は大事なことのはず。
そうしておけばアストライアー侯爵閣下が自由連合国の地を踏むことは二度とないだろうし、事情を知らない方たちが侯爵閣下に迷惑を掛けることもなくなるはず。
「私がその時に自由連合国上層部にいれば……」
男性が凄く悔しそうに言葉にするけれど、起きてしまったものはどうにもならない。
「悔やんでも仕方ありません。悔やみは首都の皆さまのお腹を満たせないですからね。まず行動しましょう。上手くいくか分かりませんが、結果は必ず出ますから」
私たちがやるべきことは首都の皆さまたちの生活再建である。私が後ろを振り向いて皆さまの顔を見れば確りと頷いてくれた。男性がいうには、集まった自由連合国の方たち――ようするに革命軍の面子――は政には素人に毛が生えた程度の方が殆どなのだそうだ。彼らに教育を施さなければいけないかもしれないと息を吐けば控室に辿り着く。
「では、帰国の準備をしましょう」
私が声を上げれば、扉からノックの音が聞こえる。誰だろうと顔を傾げているとダルが簀巻きの男性を四人掛けの椅子の脚に括りつけ対応してくれた。大聖女であるフィーネさまとウルスラさま、聖女のアリサさまが別れの挨拶にきてくれたとのこと。私がみんなに会っても構わないかと告げれば、快く了承をくれるのだった。
お三方とは短い時間だったけれど、聖王国でいろいろと話をさせて頂いている。私なんかの友達になってくれると言ってくれた優しい方たちだ。別れるのは寂しいけれど、泣いて別れるよりも笑って別れを告げなければ。
でも、部屋に姿を現したお三方を見て私は目に熱いものを浮かべてしまう。お三方は笑みを浮かべながら扉を抜けて、私の前にやってきた。フィーネさまが真ん中に立ち、左右にウルスラさまとアリサさまが立っている。
「フォレンティーナさま。首都で無理をなされませんように。どうかお元気で」
「聖王国から第二陣の派遣団が編制されることになりました! 次はわたしとアリサさまが赴きます。どこまでご助力できるか分かりませんが、よろしくお願い致します!」
「状況が良くなると良いですね。民の方たちが苦労をする姿は見たくないですから。私も自由連合国の皆さまの一助になれば嬉しいです。向こうに着いた際はよろしくお願いしますね」
フィーネさまは落ち着いた声色で告げ目を細め、ウルスラさまは元気良く自由連合国への派遣団員に選ばれたと笑う。大聖女を務めているお一人だから、今度はウルスラさまが派遣団長となるのだろう。
「フィーネさま、この度は自由連合国の者が大変ご迷惑をお掛けしました。あと短い間でしたが、ご一緒に過ごせて楽しかったです。ウルスラさまとアリサさまも、ありがとうございました」
私が礼を執ると我慢していたものが頬を伝う。本当に同じ世代の友人と呼べる方が私にはいなかったので、お三方は私にとって初めての友だ。フィーネさまが泣かないでくださいと言いながら、ハンカチを渡してくれる。
こういうことも初めてで凄く照れ臭い気持ちと、嬉しい気持ちが同時に溢れだしてくる。借りたハンカチで涙を拭っていると、微笑みを浮かべたフィーネさまが私の隣に立って背を撫でてくれる。
「頃合いを見計らってお手紙を送りますね。ペンフレンドが増えて嬉しいです」
私の顔を覗き込んだフィーネさまの肩からサラサラと銀糸の髪が流れ落ちていた。ペンフレンドの相手が私なんかで良いのだろうか。聖王国の大聖女さまと手紙のやり取りをするなんて凄く名誉なことだし、しかも個人的にやり取りをしようということだろう。突然の提案に驚いた私の涙が引っ込めば、ウルスラさまも私の前で小さく手を挙げる。
「わ、私も良いでしょうか!? あ、でも……派遣団が首都に赴けば、直接お会いできますよね。戻って時間が経った頃に送っても良いですか?」
遠慮している雰囲気の彼女だけれど、話が勝手に進んでいる。もちろんウルスラさまとの手紙のやり取りが嫌というわけではなく、前しか見えていない所のある彼女らしいとつい笑ってしまう。
「わたしも参加したいですが、三人の相手を務めるとなると大変ですよね。なにか違う形があると良いのですが……」
アリサさまが困ったような顔になる。確かにお三方からのお手紙を受け取るのは良いけれど、三通の返事を書くのは大変かもしれない。しかし個人的なやり取りとなれば手紙くらいしか方法がないわけで。
どうしたものかと考えるもののなにも浮かんでこないし、私がお三方への返事を認めれば良いだけである。フィーネさまとウルスラさまとアリサさまという友人を私は失いたくないのだから。大丈夫ですよとお三方に声を掛けようとすれば、隣にいるフィーネさまがポン! と手を叩いた。
「あ、交換ノート!」
フィーネさまの声に私とウルスラさまとアリサさまの頭の上に疑問符が浮かぶ。交換ノートとは一体なにと顔を傾げれば、フィーネさまが説明してくれた。
仲の良い友人たちでノートにその日の出来事や嬉しいことを認めて、順番に回していくものだそうである。愚痴でも構わないし、ムカつくことでも構わない。相談事が記されていれば、他の方が解決方法を考えるとか。四人で回すのであれば、誰かに打ち明けて、他の人には打ち明けないという不平等が起きないし、丁度良いだろうとフィーネさまが笑顔で仰られた。
「おもしろそうです!」
「手帳くらいの大きさなら、魔道具で送ることができますね」
ウルスラさまが笑い、アリサさまが受け渡し方法を示してくれた。少し私的な利用になるけれど、聖王国の大聖女さま方と縁を持てるのであれば、王城にある魔道具を借りることができるはず。もし、借りることができなければ正規の方法で送り届けるしかないけれど……どうにかなるはず。
「楽しみです!」
私が手を合わせて喜んでいると、後ろで『良かったですね、姫さま……』と泣きそうな顔のダルがいた。心配を掛けてしまっていたのは申し訳ないけれど……少し恥ずかしい。交換ノートの方法や派遣団の到着時期について話していれば、時間は直ぐに過ぎていく。
「では、みなさま……お元気で!」
聖王国のとある場所にある転移陣の上でフィーネさま方と別れを告げれば、一瞬の間に自由連合国上層部が使用している首都の城へと辿り着いた。私は前を向き、戻ってきた皆さまと顔を合わて『まずは代表者が交代したことを首都の皆さまに知らせましょう』と告げるのだった。