魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0708:自由連合国の次代。

 フィーネさまから頂いた手紙とアルバトロス王国上層部からの報告で、自由連合国の代表――確かリバティーと名乗っていた男性――が代わったということを私は知った。アストライアー侯爵領領主邸にある執務室で私は首を傾げながら、家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまに向き直る。

 

 「自由連合国の代表が交代したって、凄く早い交代劇ですね。国の顔が早々に変われば、周囲の国の方々から良く思われないんじゃないかと……?」

 

 前世の日本ではコロコロ首相が替わることを良しとしていなかった。各国のお偉いさん方との付き合いを深め、いろいろとやり取りができるというものである。サミット等に出席してぼっちになっている首相なんて給料泥棒も良いところだろう。テレビを見ながら『なにをしているのか』と首を傾げていた。

 不祥事や能力のなさ故に早期退陣を迫られたり、病気が判明して続けられない場合もあっていろいろだけれど。

 

 「彼の国周辺の陛下方は話が理解できる方に代わったために、前の代表よりやりやすいと仰っているようですね」

 

 家宰さまが苦笑いを浮かべながら私の疑問に答えてくれた。今代の代表の方は話が通じる方であるようだ。石配りの際にその方が私の相手を務めてくれれば良かったのにと愚痴を言いたくなる。

 そうであれば弓矢を向けられることはなかっただろうし、もっと友好的に接することができ、なにか美味しい料理を紹介してくれたかもしれないのだ。石配りの時期がズレていればと悔やんでしまうものの、終わったことは仕方ない。

 

 自由連合国の首都は前代表が無能だったお陰で、デグラス伯爵領より悲惨な状況だったそうである。代表交代により各国からの支援を取り付けたことで、暫くの間は危機を回避できるそうだ。その間に状況を改善させなければならないから、新代表はかなり大変な思いをしそうだ。せめて無事に事が進むようにと願うしかないのだろう。

 

 「けれど、新しく代表に就いた方が元王女さまだなんて。生きておられたとは」

 

 革命軍は王族の皆さまを見つけ次第手に掛けたと聞いている。そんな中で生き残っていた王女殿下は運が良かったのか。ソフィーアさまとセレスティアさまが私の方を見ながら口を開いた。

 

 「運良く革命が起きる前に王城から出ていたそうだ」

 

 「父王に諫言していたら、疎ましく思われて城を追い出されたとのことですわ」

 

 どうやら元王女殿下は革命前に首都から逃げおおせていたようだ。本当に運が良い方だと私が小さく笑えば、机の上に置いているヘルメスさんがペカペカペカーと魔石を光らせる。

 

 『ご当主さまに歯向かう者がいるならば粛清してみせましょう!』

 

 ドヤ顔をしていそうな声色で物騒なことを言い始めた。私に歯向かう方を全て粛清していると凄く面倒なことになりそうなので止めて欲しい。ただでさえ変な人に絡まれて、妙な状況に陥ることがあるのだから。堕ちた神さまが怖いのか屋敷には鳥さんたち以外にも、リスやイタチやらの小動物が集まってきている。彼らは大人しく、私が『庭の花や木を痛めないでくださいね』と伝えればきちんと守ってくれていた。

 ルカとジアの背中の上で寝ているジルケさまと一緒に惰眠を貪っていることもある。平和だけれど、凄い光景だよなと改めて思わなくもない。平和な日常をこれからも謳歌したいので、ヘルメスさんが凶行に走らなければ良いのだが。

 

 「恐怖政治になってしまうので駄目ですよ、ヘルメスさん」

 

 『しかし、ご当主さま。うっとうしいと感じている者がいるならば、消してしまうのも一つの方法です』

 

 確かにヘルメスさんの言葉には一理ある。あるんだけれど、邪魔だからと消していれば心が病んでしまいそうである。清廉潔白な領主とは言い難いけれど、黒字運営の凡人当主でいたいからご勘弁ください。なのでもう一度私はヘルメスさんに念を押しておく。

 

 「どうしてそんなにヘルメスさんの思考は極端なのでしょうか……絶対に駄目ですからね」

 

 『残念です。私の力をご当主さまにアピールできる場ですのに』

 

 しょぼんとしょぼくれてしまったヘルメスさんの魔石から輝きが失われている。レダとカストルも煩いけれど、ヘルメスさんも感情豊かだ。ヘルメスさんはロゼさんに対抗意識を燃やしており、そんなことからロゼさんもヘルメスさんを意識している。

 

 ロゼさんは私の側を時折離れ、王都の副団長さまと猫背さんのところに赴いて魔術の勉強をしているそうだ。面白いことを発見すれば、ロゼさんが転移で私の下へと戻ってきて『ハインツとヴォルフガングと一緒に新しい魔術考えてたから、マスターの側をもう少し離れる』と言って王都に戻ることもある。

 まあ、ロゼさんが楽しいなら止める必要はないのだけれど……これ、副団長さまと猫背さんもロゼさんと一緒にパワーアップしているのだろうか。あの人たちもどこまで成長するつもりだろう。落ち着かなければならない年齢は疾うに越している気がするのだが。私が無反応になったヘルメスさんを指でツンツンすれば、ソフィーアさまとセレスティアさまが苦笑いを浮かべる。

 

 「それなら、どこか広い荒野に赴いて、試し打ちをしてみては?」

 

 「ナイの魔力制御に徹しているだけで、まだ試し撃ちをしたことがないですわね。ナイが防御壁を張れば被害を減らせるでしょうし」

 

 お二人の声に錫杖さんの魔石が一瞬輝いてなにか言いたげにしているけれど、私が口を開く方が早かった。

 

 「防御壁の中にいる私たちが被害を受けそうです」

 

 ヘルメスさんが攻撃魔術を放ったならば、凄く威力の高そうだし周辺に及ぶ影響も凄いことになりそうである。だからと言って防御壁を張って凌いでいれば、中にいる私たちがヘルメスさんの魔術を受けて怪我をしそうだ。

 言い出しっぺのソフィーアさまとセレスティアさまが確かにと頷いたあと『ナイに諭されるとは』『ええ。驚きですわ』と告げる。何気に酷くないかと言いたくなるが今更の関係だし、確かに私がお二人に突っ込むのは珍しいので否定はしない。

 

 『確かにご当主さまから名前を賜り進化した私の力は無限大。なにが起こるか分かりませんからねえ……しかし一度は試しておきたいものです』

 

 ヘルメスさんの名前が決まってからというもの、確かに魔力制御の質が上がっているようで、お城の魔力補填が前より早く終わるようになっているし、治癒魔術の魔力量の調整も以前より上手くいっている。

 私はヘルメスさんに頼り切りになっているから、錫杖さんの小さな願いを持ち主が叶えるべきかもしれない。しかし地上で撃てば高威力の魔術でなにが起こるかわからないという問題がある。

 

 地上の被害を気にするならば、宇宙空間に出てブッパした方が安全を確保できる気がする。紫外線やら空気の問題を解決しなければならないが、魔術でどうにかならないだろうか。

 副団長さまと猫背さんに相談してみて駄目ならば、グイーさまに聞いてみよう。彼でも駄目ならテラさまに聞いても良いのかもしれない。テラさまであれば、文明が進んでいる地球だから情報を得てくれる可能性がある。

 ただこれを告げてしまえばヘルメスさんが期待してしまうだろうし、部屋にいる皆さまが空の更に上に赴くとなれば腰を抜かしてしまう。暫くは黙っておこう――といっても副団長さまと猫背さんに相談した時点でバレる――と私が小さく息を吐けば、ソフィーアさまとセレスティアさまの肩の上に乗っている卵から孵った小さな赤竜さんと青竜さんが『くえ!』と一つ鳴いた。

 

 「どうした?」

 

 「如何なされましたか、貴方方が鳴き声を上げるなんて珍しい」

 

 お二人が肩に赤竜さんと青竜さんを乗せたまま首を傾げている。確かに彼らが声を上げるのは珍しい。卵から孵ってすぐの頃は良く鳴いていたけれど、時間が経つにつれてどんどん大人しくなっていた。

 ソフィーアさまとセレスティアさまに懐いているため寝る時も一緒だし、ご飯の時も一緒に果物を食べているか、肩の上で大人しく見守っている。ただ話が一段落するまで赤竜さんと青竜さんは黙っていたようだから、ちゃんと空気を読めている。私が首を傾げると、クロが通訳をしてくれるようで尻尾をぺしぺし揺らして私の背を叩く。

 

 『彼らも名前が欲しいって~まだ決まらない?』

 

 ぺしんぺしんと私の背中を尻尾で叩きながらクロが首をくるっと回転させている。もげないのが不思議だし、フクロウのように回る首の骨はどうなっているのだろう。クロの声に珍しくお二人が困り顔になり、横にいる家宰さまも小さく笑いながら話を見届けてくれている。

 

 「クロさま。申し訳ありません。良い名を贈ろうと考えれば考えるほど迷ってしまって」

 

 「ええ。ナイのことを言えなくなりますわね」

 

 珍しくソフィーアさまとセレスティアさまが眉を八の字にして困り顔になっていた。確かにお二方から『名前は決まらないのか?』とか『早く決めてくださらないと、呼べませんわ』と私はプレッシャーを掛けられることがある。

 ただ今回、彼女たちが赤竜さんと青竜さんに名前を贈ることになったので、随分と悩んでいる。即断即決しているお二人だけれども、竜の仔の名前には慎重にならざるを得ないようだ。面白い光景に私がふふふと笑っていると、ヘルメスさんの魔石がペカッと光る。

 

 『ご当主さま、仲間が増えたと喜んでおられますね』

 

 ヘルメスさんは私の魔力を制御しているためなのか、感情の流れが分かるようである。大したことは考えていないからバレても問題ないけれど、公の場でポロリするのは止めて欲しい。あとで伝えておこうと私が頭に刻み付けていると、ソフィーアさまとセレスティアさまが少し呆れた様子で私を射抜く。

 

 「こんなことで喜ぶな」

 

 「ええ。ナイ、屋敷に訪れている小動物が増えているなら、そのうち魔獣や幻獣もやって参りましょう。その時に名を求められれば、考えるのはナイですわよ?」

 

 肩を竦めるソフィーアさまと私の執務机の前に立って両手を置いて顔を近付けるセレスティアさま。彼女の綺麗な顔と大きな胸が視界に入る。

 確かに屋敷に訪れる小動物が増えて賑やかになっているけれど、魔獣や幻獣の方はまだきていない。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちにルカとジアがいるから入りづらいのか。

 はたまた興味がないだけなのか。いずれにせよ、幻獣や魔獣の方が屋敷に訪れれば大騒ぎとなるのでご勘弁頂きたいところ。でも確かに幻獣や魔獣のみなさまが屋敷に訪れれば、パワーアップの名目で名前が欲しいと乞われそうである。

 

 「また私ですか……あ。ヴァルトルーデさまとジルケさまにもお願いしましょう。私が名前を付けるより、女神さま方から頂いた方が嬉しいでしょうしね。もちろんソフィーアさまとセレスティアさまも」

 

 私だけが大変な思いをするのは癪なので、皆さまに協力してもらおう。

 

 「気軽に考えすぎだぞ、ナイ」

 

 「本当に。どうしてそう簡単に女神さま方を頼ろうとするのでしょうか……」

 

 凄く呆れた顔になったお二人が私を見据えているが、お屋敷で過ごしているなら多少は協力をお願いしたい。そもそもグイーさまが全ての生き物に夢を見せてしまったことに原因があるのだから。

 

 「居候代と言えば、考えてくれそうですから」

 

 私の言葉にお二人は長い長い溜息を吐く。まあ魔獣や幻獣の方たちが屋敷に大量に押しかけてくることなんてないだろう。そもそも珍しい生き物なのだから。

 私が仕事を再開しましょうと告げれば、お三方は執務机に向かって書類を裁いていく。私もどんどん書類に目を通して、ミナーヴァ子爵領、デグラス領(仮)、アストライアー侯爵領の未来のためにと予算を通していく。

 

 ふと、執務机に置かれているフィーネさまの個人的な手紙が視界に入った。

 

 フィーネさまと自由連合国の新代表は友人関係となったと手紙には記されていた。ウルスラさまとアリサさまとも元王女殿下と距離を詰めているとのこと。私の知らない間にと驚くものの、交友関係に制限なんてない。いつか私も自由連合国の新代表に会うかもしれないと、午前の執務を終えてご飯の時間になるのだった。

 

 ◇

 

 ドエの都から、籠で一日かけてとある山奥へとやってきている。森の奥深くには温泉が湧き出ていると最近発見され、ドエ政府が管理を始めたところだ。件の計画を進めるために九条を派遣させ、寝泊りできる小屋が建ったと聞きワシも駆けつけた次第だ。

 陽が暖かく降り注ぐ昼間の時間。森の中には褌一丁の職人たちが木を切ったり、ノミで継を作っていたり、木槌を使いながら柱を立てている者たちが精を出している。征夷大将軍を務めるワシが着いたと知り、職人たちの棟梁が顔を出し頭に着けていたねじり鉢巻きを取って礼を執る。

 

 「大樹公さま、わざわざ遠いところへ、ようこそお越しくださいました!」

 

 礼を執った棟梁が顔を上げワシと視線を合わせた。本来であれば、目の前の者たちはワシに平伏しなければならない立場であるが、先に過度なものは必要ないと告げている。

 効果があったのか目の前の棟梁は深く礼を執るだけにしていた。他の職人たちも一度手を止め礼を執れば、直ぐに作業に戻っていた。九条がワシが現場にきたことに気付き、慌ててこちらを目掛けて走り始めていた。

 

 「気にするな。作業は順調であるか?」

 

 「へい。工期は十分頂いておりますので、安全に気を付けながら気合を入れて作業をさせて頂いてございまする」

 

 棟梁にワシが答えると、まだ柱しかできていない建物の方へと視線を向けた。その建物はこれからできるであろう物の主要建築物となるものだ。

 

 「公方さま! 気付くのが遅れてしまい申し訳ありません!」

 

 九条が慌てた様子でワシの前に立つ。流石に九条は職人の様に褌一丁ではないが、羽織が邪魔にならぬように白い布でたすき掛けを施している。九条の小間使いたちも同様な恰好でワシに頭を下げていた。

 ワシの護衛として一緒にきている者たちも柱だけの建屋に視線を向けながら目を細めていた。温泉が近いためか火山の煙のような匂いが微かに漂い、真冬の雪が降り積もった露天風呂で熱燗を楽しむ己の姿を想像する。本当に完成が楽しみなのだが、ワシのために造っているものではない。

 

 「構わん。九条よ、指揮は滞りなく?」

 

 「もちろんでござりまする! 大役を任された責任をきちんと果たしてごらんに見せましょう!」

 

 もちろん九条も誰のために造られているのか知っているので気合が入っているようだ。

 

 「うむ。だが、無理をして死人が出ればアストライアー侯爵が気にしよう。職人たちには自分の命を最優先にと伝えておいてくれ」

 

 そう。今いる場所はアストライアー侯爵に向けた保養地となる可能性がある。アストライアー侯爵にいつも侍っている赤毛の兄から問い合わせがあったのだ。

 フソウには温泉という地があり、そこに主人が興味を持つかもしれないから、良いところを紹介してくれないだろうかと。それを知った帝さまとワシはフソウにある有名な温泉地を順に挙げて行ったのだが……どこも観光地と化しており、侯爵がゆっくり過ごすには不適合であるという結論に至った。

 時を同じくして、ドエの都から一日掛かる場所に温泉が湧いていたという報を受け『そこだ!』と帝さまとワシは閃いた。良い場所がないのであれば、良き所を造るだけ。そのため、急いで大勢の職人を手配して温泉宿――貴人向け――を造れと命を下したのだ。本来、他国の者に接待などしないのだが、アストライアー侯爵……もといナイはフソウにとって特別な存在である。

 

 フソウの神獣さまの番の主であり、神獣さまの仔を無事に育て上げ、ましてや創星星さまの使いまで果たした。

 

 そんな方に接待という言葉では足りないかもしれないが、保養地としてナイに使って貰えたならば感無量である。神獣さまも湯に浸かることもあるし、彼女と一緒に過ごしているクロ殿も一緒に入るかもしれない。とんでもない光景が広がりそうであるが、フソウにとっては大金を投じても益にしかならない。帝さまも事が上手く運べば、ナイと共に温泉に浸かれるかもしれないと微笑まれておられたのだから。

 

 ただ一つ気になることは、ナイがくるのであれば女神さま方も一緒にくるかもしれない。

 

 まあ、フソウにきて下さったならば精一杯のおもてなしをするだけか。どう転んでもフソウにとって益しかないと、ワシは九条と棟梁の顔を見た。

 

 「……はっ!」

 

 職人たちの『そら!』『そーら!』『えい!』という小気味良い声と共に、柱がどんどんと増えていくのだった。

 

 ◇

 

 ――聖王国の派遣団、第二陣が自由連合国首都へと辿り着きました。

 

 私、ウルスラは聖王国とアルバトロス王国と南の島にしか赴いたことがないので、自由連合国の首都に辿り着きどんな街かと楽しみにしていたのですが……フィーネお姉さま……ではなく、大聖女フィーネさまと報告書からの情報通り、民の皆さまに活気がありませんでした。

 首都教会の方の話によれば、代表が新しくなって少しだけ首都の状況が良くなってきたとのこと。新代表となったフォレンティーナさまは精力的に動いており、元サンドル王国の諸侯の方たちと話し合いの場を開き、首都に商人を送り込むことに成功しているようでした。それでもまだ数が足りないようで、各国からの支援は有難いとのこと。

 

 自由連合国首都にある街で一番大きな広場に辿り着いて、新代表となったフォレンティーナさまと護衛のダルさんと上層部の皆さまに首都教会の皆さまが、初顔合わせをしようと集まっています。紫色の長い髪をざっくりと纏め上げたフォレンティーナさまが一歩前へと出ました。

 

 「聖王国派遣団の皆さま、ご足労感謝致します。私は自由連合国にて代表を務めております。フォレンティーナです。どうぞ、お見知りおきを」

 

 「首都教会の枢機卿でございます。本当に、本当に自由連合国の民の者たちをお救い頂き、感謝を申し上げます」

 

 フォレンティーナさまが名乗りを挙げれば、首都教会に所属している枢機卿さまも礼を執りました。本来、私たちはフォレンティーナさまと友人関係にあるので挨拶は必要ありませんが、彼女以外はその事実を知りません。

 外交上、名乗りを上げておいた方が良いのだろうと私も一歩、皆さまの前から出ました。すると一緒に派遣団に編成されているアリサさまも半歩前へと進みます。私と並ばないのは大聖女と聖女という立場を明確にさせるためでしょう。こんなことは必要ないと思うのですが言っても仕方のないことだと我慢をして、私は聖女の礼を執りました。

 

 「聖王国から参りました。大聖女ウルスラです!」

 

 「同じく、聖王国から参りました。聖女アリサと申します」

 

 私とアリサさまが名乗れば、他の面々も礼を執り各々挨拶を交わしておられます。暫くすると、フォレンティーナさまが口を開きました。

 

 「自由連合国も人員を手配し、支援物資の仕分け作業や配給作業を手伝わせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」

 

 片眉を微かにフォレンティーナさまは上げて、こちらを伺うように問うてきました。凄く有難い申し出なので異論などありません。

 

 「もちろんです。支援物資は第一陣よりも量が多くなっていますので、人手が多い方が早く作業が済みます。フォレンティーナ代表、お気遣い感謝申し上げます」

 

 「いえ。前回は勝手が分からず、聖王国の派遣団の方に頼り切りとなっておりました。経験者が少ないので最初は足手纏いになる可能性がありますが、精一杯務めさせて頂きます」

 

 私が頭を下げると、フォレンティーナさまがようやく普通に笑ってくれたような気がします。他の自由連合国上層部の方たちもほっとしているのか、肩を撫で下ろしておりました。

 挨拶を早々に終えれば、天幕が聖王国の皆さまの手で張られ、私たち聖女の出番がやってきます。支援物資の仕分け作業もお手伝いしたい気持ちがありますが、私とアリサさまは聖女です。聖女にしかできないことをやろうと、私とアリサさまは顔を見合わせます。

 

 「ウルスラ、無茶はしないでね」

 

 「大丈夫です! 私が倒れると皆さまが心配なさると分かりましたから」

 

 アリサさまが小声で私に語り掛けてくださいました。いつも彼女は私の心配をしてくれており、彼の枢機卿さまの下から離れた私が加減を理解していなかった頃は、治癒院で止めに入ってくださいました。

 もちろんフィーネさまも私が無茶をしていると気に掛けてくださり『今日はもう終わり』という声を頂く機会が多かった気がします。今は自身の限界を熟知しているため、倒れるまで魔術を施すことはなくなりました。どうしてあの頃の私は無茶をしていたのだろう。そう考えると、誰かに見捨てられることが怖かったのかもしれません。

 

 フィーネさまとアリサさまと聖王国の聖女さま方、教皇猊下やシュヴァインシュタイガーさま、アストライアー侯爵閣下に南の島でお会いした皆さま、いろいろな方と会って私の世界が広がったことで、私に余裕というものが生まれたのでしょう。

 なんだか少しむず痒い気もしますが、以前よりも治癒院での施術にやりがいを感じています。まだまだ未熟でフィーネさまとアリサさまに助けられることもありますが、以前の私と今の私を比べると、きっと今の自分の方が優れているように思えるのです。

 

 きっと私にしかできないこともあるはずと、張られた天幕の方へと向き直りました。

 

 「では、大聖女ウルスラさま、参りましょう」

 

 「はい。行きましょう」

 

 アリサさまが恭しく聖女の礼を執り、私は確りと頷いて前へと進みます。まだ首都は口元に当て布をしなければならないですが、きっと良い方向へ進むと信じて。

 

 ――夜。

 

 派遣一日目の作業が終われば、既に陽が暮れておりました。自由連合国の代表であるフォレンティーナさまから食事会に誘われていたのですが、流石に今の首都の状況で参加するのは憚られるとお断りしています。アリサさまによれば、貴族の習わしのようなものだから、断ったことを気にする必要はないと教えてくださいました。というか、断って正解だろうと。

 

 自由連合国の上層部にも面子というものがあるから、国外から自国へ赴いた要人を無下にはできないそうです。だからフォレンティーナさまは食事会に参加しないかと誘ったのだろうと。晩餐会ではなく、食事会と称していたのは自由連合国上層部の懐事情の表れだとか。

 

 首都教会の客室にあるベッドが二つ並ぶ部屋で私はアリサさまと就寝前のお喋りをしているところです。簡素な服を纏ったアリサさまがベッドに腰を掛け、今日のことを振り返っていました。

 

 「今日一日、大変だったけれど、フィーネお姉さまのことを聞けて幸せだったなあ」

 

 「そうですね。フィーネさまが第一陣で治癒院を開いてくださったお陰なのか、首都の皆さまは私たちに好意的でしたから」

 

 相変わらずアリサさまはフィーネお姉さまが一番なご様子です。私もフィーネお姉さまのことが大好きなので、彼女の気持ちを理解できました。自由連合国で開いた治癒院には多くの患者さんが列を成し、長時間待たされても文句など口にしませんでした。前回、フィーネさまが開いた治癒院の方が大変だったようで、今回も派遣されている四角い顔の宣教師の方が教えてくださったのです。

 

 『歩く気力もない方がおりましたから。今回の方がマシでしょう』

 

 と。それでも今の首都の状況が良いとは言えませんし、まだまだ踏ん張らなければと私はアリサさまに伝えます。

 

 「ほどほどにね、ウルスラ」

 

 「難しいですが、頑張ります!」

 

 呆れた顔になるアリサさまに握り拳を作れば、まあ前よりマシだものねと彼女の呆れた声がまた返ってくるのでした。

 

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