魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0071:お土産。

 ――どこだっけ、ここ。

 

 木で出来ている天井が視界に映る。割と早く就寝したのだけれど、一度も目を覚まさないまま朝になったようだ。ああ、そっか。

 

 「おはよう。よく眠れたかしら?」

 

 「おはよ~。朝ごはんもみんなで一緒に食べようね」

 

 お姉さんズが私が借りた部屋へとやって来た。エルフの街で一泊ということになったけれど、宿は一軒もないのでお姉さんズの家へ泊ることになったのだ。

 何の遠慮も、というかノックさえないまま入ってきたのだけれど、護衛の人が立ち番をしているし、問題ないと判断したのだろう。

 

 「おはようございます。すごくスッキリしました」

 

 なんだか魔力の回復量がいつもより多い気がする。昨日は――。

 

 『よく眠れる薬茶よ。疲れているようだからこれを飲んでさっさと寝なさい』

 

 お姉さんAにそう言われ、お茶を飲んで寝たのだけれど効果が凄い。体が軽いし、寝起きもスッキリ。

 エルフの方たちは魔術に長けているけれど、薬師としての技術も高いそうだ。ただ単に長命だから暇だし、研究好きな連中が多いから、そうなるのは必然だと苦笑いしてたけれど。

 

 「それは良かった」

 

 「あのね、金髪くんたちが戻って来てるから、食べたら早々に出発だって~」

 

 お姉さんBが殿下のことを金髪くんと称している。直ぐ分かってしまう私も私だけれど、本当に自由な人たちだ。お姉さんズがアルバトロス王国に所属しているなら大問題だけれど、亜人連合国の人だから何かいう資格はない。

 

 「大したものは用意できないけれど、お腹一杯食べていきなさいな」

 

 「はい、ありがとうございます。急いで着替えますね」

 

 寝巻はお姉さんたちの物を借りたのだけれど、すっけすけだった。エルフの特性なのか、薄いんだよね。肌の露出が多いので恥ずかしい。

 

 「……あの部屋を出て頂けると」

 

 「気にしないわよ」

 

 「うん。女の子同士だし~」

 

 何故か部屋から出て行かない二人。まあ気にしないのなら良いかと、服を脱ぎ始める。

 

 「小さい傷があるわね。治さないの?」

 

 暗に聖女なのだから治しても良いのではとお姉さんA。痛そう、と小さくお姉さんBが呟くけれど、古傷だし浅いものだから痛くも何もない。

 

 「自分自身に魔術は掛からないので。治すにもお金がもったいなくて」

 

 「お金がない訳じゃあないでしょう。浄化儀式を行えるんだし、聖女としてなら貴女は優秀な筈だもの」

 

 「ね。どうして治さないの?」

 

 真剣な話になるとお姉さんBは間延びした話し方は鳴りを潜めるようだ。

 

 「単に、守銭奴なんだとおもいます。教会からも何度か打診されていますが、見えない場所ですしお金が勿体ないと断っているので」

 

 うん、傷を治さないのは本当に単純な理由。傷があったとしても困らないし、見える場所に残っていなければそれで良かった。じーと私を見るお姉さんズ。あとは前世はお金に困っていたので、なるべく貯め込んで老後の生活に取って置きたいのだ。

 お金の管理は教会に任せて、必要分だけ引き出している。そういえば暫く明細を見ていない。今度確かめないとなあ。今回の遠征でどえらいことになりそうで、頭が痛いけど。

 

 「なら、私が治すけれど。――いい?」

 

 「そうだね、この際綺麗に消してもらおう。君、きっと気にするだろうから、浄化儀式のお礼だって思ってくれれば良いよ~」

 

 「なんで治さない貴女が言うのかしら……」

 

 「細かいことを気にすると皺が増えるよ」

 

 うっさい、とお姉さんBへ言い残して、お姉さんAがこちらへとやって来た。傷を消さなかった本当の理由があるけれど……。これから先を考えると、多分何度も言われるだろう。アリアさまに格好つけて言ったというのに、本当馬鹿だよなあと自嘲する。

 

 それに、断れる状況ではない。なら前向きに考えた方が、気持ち的には楽だよなと思考を切り替える。

 

 「よろしくお願いします」

 

 そう伝えてから一礼すると、何故か後ろにお姉さんが回り込んだ。そうして私の背後に立って、両横から彼女の腕がぬっと出てきた。

 

 「手を重ねて。魔術具外しましょうか」

 

 「ん。私が取るね~」

 

 後ろに回ったお姉さんの大きな胸が私の肩に乗る。ついでに頭が挟まってた。なんだか妙な状況だけれど、治してもらうのだから文句は言えない。

 

 「――~~」

 

 唄うように詠唱をお姉さんが唱えたけれど、さっぱり言葉が理解できなかった。おそらくだけれどエルフ語なのだろうか。自分以外の魔力が体の中を巡る感覚が慣れないなと、苦笑いしている間に傷は綺麗さっぱりと消えていたのだった。

 

 「貴女の魔力は本当に凄い量ね。お姉さん驚いちゃった」

 

 きょとんとした顔で、お姉さんAが私の後ろから顔を覗き込む。

 

 「はは、良く言われます」

 

 馬鹿魔力だと。そのお陰で仕事に就けたけれど、ここ最近は難事に巻き込まれ過ぎではないだろうか。

 

 「入って良いよ~」

 

 扉をノックする音が部屋に響いて、お姉さんBが許可を下した。服着てないから良くないよという抗議は出来ないまま、来訪者が扉を開ける。私の姿を見てギョッとするソフィーアさまだったけれど、直ぐに平静を装った。良かった女の人でと息を吐くと、エルフは耳が良いから足音で分かるんだよとお姉さん。

 

 「申し訳ありません、お邪魔でしたか?」

 

 状況が状況だから、ソフィーアさまが確認を取る。むしろこの部屋に居てくれないと、これ以上の何かが起こりそうで怖い。だから出て行かないで~という視線を彼女に送ると、それに気付いて苦笑いされた。ソフィーアさまは、お姉さんズに逆らう気はないようだ。

 

 「いえ、丁度終わったから問題はないわ」

 

 片手を取って魔術具を嵌め直してくれた。

 

 「うん。服着せたげて」

 

 聖女の衣装は少し複雑だけれど、一人で着替えることは可能だ。でもお手伝いしてくれる人が居るならばその方が楽。

 公爵邸を出る前に、ソフィーアさまは私に就いていた侍女さんたちから、この衣装の手解きを受けていた。侍女役まで兼ねさせて申し訳ないけれど、護衛役のリンだと入れない部屋もあるから正直助かる。

 

 「すみません、ソフィーアさま」

 

 「これも私の役目だからな。それに新鮮だ」

 

 ついこの間まで王子妃教育を受けていた人だというのに、前向きである。私も見習わないとと考えながら衣装の袖を通す。

 

 「ありがとうございます」

 

 「ああ」

 

 着替え終わると待ってましたとばかりに、椅子に座って待っていたお姉さんズが立ち上がった。

 

 「終わったのね」

 

 「ねね、ご飯食べようよ~お腹空いたでしょう。行こう」

 

そうして案内された部屋で、エルフらしいヘルシーな朝食を頂くのだった。

 

 ◇

 

 お姉さんズの家で朝食を済ませて、外に出る。銀髪くんは外で一夜を過ごしたようで、あまり眠れていない様子。

 彼の周りは小型な竜のみなさまが取り囲んで、大きく口を開けたり、檻を前足で揺らしたり、口から火を吐いたり。怖いのか涙目になっている銀髪くん。まだ処分は決まっていないので、暫くはこの状態だろう。妖精さんたちも彼の周りを飛んでいて、急に光ったり威力のない魔術を発動させたり。

 

 「あ、火気は厳禁だよ~。燃えやすいものが一杯あるからね、この街は」

 

 注意されると言葉が届いたようで、今度は氷とか風とかで、銀髪くんを弄んでいる。双子のハーフエルフの姿は見えず、一体どこへ消えたのだろうか。銀髪くんとどれだけズブズブの関係になっていたのかが、焦点になるだろう。酷い目に遭っていなければいいがと、願わずにはいられない。

 

 「何か気になることでも?」

 

 お姉さんAが顔を覗き込んで私に問いかける。気になるなら聞いておいた方がすっきりするなと、口を開いた。

 

 「双子のハーフエルフは、どこへ行ったのだろうと……」

 

 「ああ。エルフだしこの街で預かるわ。幸い、奴隷印で命令されていただけだし、世間の常識も不勉強だから再教育すれば更生可能だろうって判断されたの」

 

 銀髪くんを褒め称えていたのは、食事や寝床をきちんと与えてくれる彼に懐いていただけ。彼より以前の扱いが相当に悪かったこと、教育が施されていなかったこと。

 

 常識を知らない故に銀髪くんの考えの影響をモロに受けた。

 

 『俺に逆らうヤツは敵』『俺の邪魔するヤツも敵』『ウザい奴は排除』等々、上げればきりがない。俺さま気質な銀髪くんの下で生活した故か、彼女たちもその思考に染まったと。教育も施されていないので、彼の行動に疑問を挟む余地もない。

 

 まだ若いし人間よりは寿命が長いから、この街に馴染めるといいけれど、とお姉さん。素養は高いらしく、魔法師として期待値が高いようだ。厳しい人に預けるから、性根を入れ替えてちゃんと学べば伸びる逸材。貴重らしい。

 

 「そうでしたか。教えて頂き感謝いたします」

 

 「これくらい、いいの、いいの。気にしない」

 

「あ、代表~」

 

 お姉さんの声に顔を上げると、代表さまと殿下たちの姿が。殿下と宰相補佐さまの顔が随分とやつれていた。どうやら本当に不眠不休で隣国で作業をしていたようだ。これ隣国の人も迷惑被ったのだろう。まあそれに関してはアルバトロス王国がどうにかすべきことで。

 

 「待たせたな」

 

 「ううん、大丈夫だよ~」

 

 「ええ。良いタイミングだったもの」

 

 「例の物は用意できたか?」

 

 「問題なく」

 

 「それは重畳」

 

 そうしてエルフのお姉さんAが詠唱するとどこからともなく小箱が出てくる。それを手に取って、私へと押し付けた。

 

 「あの、これは?」

 

 両手で抱えてお姉さんAを見上げる。

 

 「私たちと直接連絡出来る魔法具!」

 

 え。そういうものは個人が所持するレベルを超えているのだけれど。たらりと背中に汗が流れるが、どうしたものか。

 

 「大陸の基準だと、一国の代表や王族の方が所持するような物なのですが……」

 

 「へー。でもウチだとみんな持ってるよ」

 

 そんな携帯電話のような気楽さで話さないで欲しい。魔術式はかなり限定的な公開だった気がする。それこそ国家レベルで管理するようなものだったような。

 技術形態が違うから、その辺りで差が出ているのだろうか。さっきの魔術も空間収納ぽい。その魔術も確立されてないから……なんだか目を光らせた人が居る気がするけれど、知らないフリしておこう。

 

 「何が問題なのかしら?」

 

 「えと、仮に譲り受けたとして、盗まれたらエルフのみなさまの技術の結晶が漏れる可能性が……」

 

 悪用される可能性だってあるような。勝手に亜人連合国に連絡を入れられて、何か問題が起こる可能性もある。

 

 「成程ね。そんな不届き者が居れば締め上げるけれど、一緒に居られる訳がないものね。うん、君以外の手に渡ると壊れるように術式付与しましょう!」

 

 ぱちんとウインクするお姉さんA。君たちの事情を考慮すればそうした方が良いでしょう。ついでに護衛の二人も触れるようにしておく、とのこと。何だか全方位で私の意見が取り入れられているのだけれども……。まあ、どうにもならなくなったら国へ献上しよう。使えないけれど。

 

 「代表、そういうことだから完成したら届けてね」

 

 「わかった。私か足の速い者を選出しよう。――構わぬな?」

 

 代表さまが殿下に向きなおると、力なく頷いた第一王子殿下。

 

 「というか、盗まれることを心配しなきゃならない環境の所に住んでいるの?」

 

 お姉さんA、鋭い。でも近々で移り住みそうな気がするんだよね。国王陛下に私の生活環境が知れたから、公爵邸で暫く寝泊まりしろと告げられた訳だし。

 

 「どういうことか……?」

 

 う、と青い顔になる殿下。本当、ごめんなさい、マジでごめんなさいと心の中で謝る。でもこれって私が我儘を突き通した結果だ。

 

 「代表さま。殿下をはじめとしたアルバトロス王国の方々に責任はありません。私がそう望んで叶えてくれていたのです」

 

 「む……そうか。しかしな、君のような者が、盗みに入られるような心配をしなければならない環境は望ましくない。国としても個人としてもだ」

 

 代表さまの言葉にうんうんと力強く頷くお姉さんズ。う、これは屋敷が国から貸与される可能性が上がったなあ。騎士爵邸くらいのこじんまりとした規模が望ましいけれど……。

 

 「代表殿、聖女さまの屋敷については問題提起されアルバトロス王国で協議予定でした。それまでは彼女の、公爵家の屋敷で日々を送るよう手配しております」

 

 ソフィーアさまの方を向いて殿下が状況説明をすると、ふと考えるような仕草をする。

 

 「彼女の境遇は改善されている所だったか、それは失礼した。――だがな、心配だ……一筆認めよう、貴殿の国の王へ届けてくれ」

 

 殿下がほっと胸を撫でおろすけれど、一体何を認められるのだろうか。代表さまは常識人ぽいけれど、どことなく抜けているからなあ。

 

 「承りました」

 

 代表さまに礼を執る殿下と宰相補佐さま。ま、まあ亜人連合国とのホットラインが出来たから、きっとプラマイゼロくらい。あとはドワーフさん達が制作してくれる予定の武器類は、終わり次第届けてくれる予定だから、それ以降は関わることはないだろう。

 

 「あ、あとこれ~」

 

 そういって布袋を渡してくれるお姉さんB。中身は薬茶だそうで、眠れない時とか胃もたれや風邪気味の時に飲むと良いらしい。

 

 「ありがとうございます」

 

 一番、平穏なお土産だった。無くなったらまた届けてあげるからねと笑って伝えてくれた。

 

 「聖女殿、我々が本気を出すと人間ではひとたまりもない。王国まで障壁展開を頼みたいのだが……」

 

 「はい、可能です。昨日、よく眠れる薬茶を頂き魔力は最大まで回復しておりますので」

 

 「そうか。――では、参ろう」

 

 そうして巨大な白竜さまの背に乗る。メンバーは代表さまとエルフのお二人に、ソフィーアさま、ジークとリンに私。他の大きな竜の背にはそれぞれ殿下や宰相補佐さま、護衛の騎士と軍の人。そして銀髪くんの所属国である使者とギルド長。

 

 ゆっくりと浮き始めて高度をどんどん上げていく白竜さま。

 

 『では最速で』

 

 「ああ、頼む。――聖女殿、障壁を」

 

 「はい」

 

 魔力を練る。範囲が広いと大変なので、個別に展開。代表さまにどれくらいのスピードなのか聞くと、亜人連合からアルバトロス王国まで半日掛からないそうなので、随分と速い。これは気合を入れないとなあと三節分の魔術詠唱。これで辿り着くまでは、障壁は持つはずだ。

 

 「へえ。凄いわね」

 

 「うん。――あ、無茶しちゃ駄目だよ。交代要員で私たちも居るからね~」

 

 「ありがとうございます」

 

 『行きますぞ』

 

 白竜さまのその声でぐっと体が後ろへ行く感覚を味合う。スピードに乗るとようやく慣性が緩んだ。随分と高い高度。白竜さまの後ろには五体ほどの巨竜、更にその後ろに中型や小型の竜が飛んでいる。数は約……うん、考えるのが億劫だ。

 

 取りあえず王都の市民の皆さまが腰を抜かさなければいいやと、いろいろと思考を放棄して空の旅を楽しむのだった。

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