魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
何故か同じタイミングでフィーネさまとエーリヒさまからアストライアー侯爵領領主邸に遊びに行っても良いですか、という手紙が届いていた。断る理由もないので都合の良い日を伝えれば、フィーネさまとエーリヒさまは示し合わせたかのように同じ日を指定する。
おそらく相談していたのだろうと私は笑い、そしてお客さまがくる日がやってきていた。フィーネさまもエーリヒさまもアルバトロス城から転移陣を使用して屋敷にきてくれている。お昼前、地下室にある転移陣で私はお客さまを迎えに出ている。私の側にはジークとリンもいて、いつも通りヴァナルたちも一緒だ。ロゼさんは影の中にいてまったり過ごしているようである。
ヴァルトルーデさまは何故か今日は顔を出さないらしい。いつもであればフィーネさまとエーリヒさまがくると知れば、話がしたいのか嬉しそうにしているのに。ジルケさまも『姉御が行かねーなら、あたしはいなくても良いだろ』と言って、天馬さま方の背中の上で昼寝をするそうである。
ソフィーアさまとセレスティアさまも仕事を片付けておくと言って、お二人に会うつもりはないらしい。挨拶を交わす仲だし、南の島行きの面子だから遠慮なんて必要ないはずなのに。無理強いすることではないから、彼女たちがこないのであれば仕方ない。
エーリヒさまとフィーネさまが護衛の方を連れて転移陣の上に現れれば、魔力の光が収まって行く。私の姿を認めたお二人が小さく礼を執る。
「ご飯前に申し訳ありません。お邪魔致します」
「ナイさま、お邪魔しますね」
エーリヒさまが少しばかり申し訳なさそうな顔をしているが、新しいレシピを持ってきてくれているので気にしないで欲しい。今回はフィーネさまのリクエストの品だそうで『納豆オムレツ』なのだとか。
私が納豆が苦手と知ったフィーネさまは慣れない人でも食べられるような品を捻り出したようである。レシピの提供がエーリヒさまであるところが、彼女の料理レベルを示しているような気もするけれど。熱を通すのでネバネバと匂いがなくなるらしいので、どんな味になるのか少し楽しみである。
ご飯前の時間になったのは単にみんなでご飯を食べた方が美味しかろうという気持ちと、フィーネさまがいるなら納豆を出せば喜んでくれるからだ。銀髪ロングの美少女――中身は面白い方――が納豆をお箸で混ぜながら幸せそうにしている姿がちょっと面白いということもあるけれど。
「いえ。ご飯を一緒に食べませんかと言い出したのは私ですし、今日はよろしくお願いします?」
私が返事をすればフィーネさまとエーリヒさまが苦笑いを浮かべている。一応、今日の目的は聞いているため私がお世話になるはずだ。とはいえ話の流れ次第で無為になることもあるだろうし、一体どうなるのやら。
エーリヒさまは私と話すというよりも、ジークと話をしたいようなのでお昼ご飯のあとは部屋を別れる予定である。クロとジークとリンたちもフィーネさまとエーリヒさまと挨拶を済ませたあと、地下室を出て来賓室に行こうとお二人を誘った。地下から一階に出て長い廊下を歩いていると、フィーネさまとエーリヒさまが私に話を振る雰囲気をなんとなく感じ取る。
「ユーリちゃんは元気ですか?」
「久しく会っていないので大きくなっているのでしょうね」
フィーネさまが笑みを浮かべ、エーリヒさまも目を細めていた。確かにお二人とユーリは暫くの間会っていないから、小さな子供が成長していることを分かってくれるだろうか。私たちはほとんど毎日ユーリと顔を合わせているので、過去を振り返った時にしか『成長したなあ』と実感し辛い。私は後ろを振り返って、お二人と視線を合わせた。
「元気ですよ。まだ小さいので熱を出したり、風邪を引いたりとしていますが」
ユーリは元気そのものである。幼いので体調を崩しやすくあるが許容範囲内のはず。孤児院で過ごしていた小さな子供もしょっちゅう寝込んでいた。なにかあればシスターや聖女さまがきてくれて治癒を施してくれていたので、大事にはならなかったし。
アストライアー侯爵家もユーリが寝込めば私が魔術を施している。病気を治す魔術というより、身体を活性化させて自然治癒を促すものだけれど。ユーリの部屋に向かって顔を合わせて貰うのもアリかなと私が考えていると、フィーネさまが窓の外に視線を向けて目を丸く見開いた。
「て、天馬さまが本当に増えてます!」
フィーネさまが窓の方へと一歩、二歩と進んで庭を凝視し始める。彼女の視線の先には少し前から侯爵邸で過ごしている天馬さまの姿がある。番の方たちが数組おり、八頭ほどで固まっていた。
他の方たちは広い庭のどこかで過ごしているのだろう。フィーネさまとエーリヒさまにも屋敷で過ごす天馬さまが増えたと伝えているので驚くことはないはず。けれどフィーネさまは間近で見られる幻想的な光景に『わあ……綺麗だなあ』と窓にへばり付きながら見ていた。
「凄い。ヴァイセンベルク嬢が喜んでいそうですね」
エーリヒさまも窓の外へと視線を向けていた。私も窓の外に視線を向けて口を開く。
「セレスティアさまは、暇を見つけては雄の方にお願いして、よく乗せて貰っていますね。ジルケさまは天馬さま方の背をベッド代わりにしていますし……貴族の屋敷ってなんだろうってなります」
私は深々と息を吐く。何故、いつの間にか天馬さまや竜の卵が増えるのだろうか。数を減らしている方たちなので増えることは問題ない。問題ないのだが、侯爵邸を繁殖場のように見ている気がする。私の魔力が原因だろうけれど、せめて産まれるタイミングをずらして欲しいが春には数組の仔を取り上げる予定だ。
お貴族さまのお屋敷は広い庭の東屋で優雅に茶をシバいているイメージが強い。アストライアー侯爵家の庭にある東屋で過ごしていると天馬さまに囲まれたり、毛玉ちゃんたちに『あちょんで!』とせがまれたり、いつの間にか集まった鳥さんたちに囲まれたりと忙しない。
楽しいけれど、お貴族さまの屋敷の景色とはかけ離れていた。
某辺境伯家のご令嬢さまは鞍を装備せずに天馬さま方の背に跨っている。よく振り落とされないですねと彼女に問えば、足腰を鍛えていれば問題ないそうだ。多分、体幹が凄く鍛えられているのだろう。
嬉しそうに侯爵邸の庭を爆走している某辺境伯ご令嬢さまの姿を見た某公爵家のご令嬢さまは『はあ……鞍くらい装備すれば良いものを』と呆れており、某お方が天馬さまに跨ることは認めたようである。
「アストライアー侯爵家ですからね」
「二柱の女神さまが過ごされておりますし、なにが起こっても不思議ではないかと」
フィーネさまとエーリヒさまが乾いた声を上げた。何故か最近の皆さまは『アストライアー侯爵家だから』とか『ナイだから』と言って納得していることが多い。不本意であるが、確かに魔力量が多い私の下に不思議が集うと思えば納得はできる。
「行きましょう」
廊下で長話は不味かろうと私はお二人を急かしつつ来賓室を目指す。途中、すれ違った方たちが廊下の端に寄り頭を深く下げていた。フィーネさまは慣れているのか小さく頭を下げるにとどめ、エーリヒさまも小さく頭を下げているけれど苦笑いを浮かべていた。
エーリヒさまはご当主さま生活に慣れたのだろうか。その辺りを聞いても良いのかもしれないと来賓室の中へと入る。侍女の方に人数分のお茶をお願いした。
あと侯爵領領都で見つけた美味しいお菓子屋さんの焼き菓子を茶請けにして貰う。そうして椅子に腰を掛け、転生者組が集まった。この面子だけで集まるのはなんだか久しぶりのような気がする。後ろにはジークとリンが控えて、側にはヴァナルたちがいるし、肩の上にはクロたちもいるけれど。
この面子であれば音頭を執るのは私かと一番最初に声をあげる。
「自由連合国の一件、お疲れさまでした」
私が最初に話題として挙げたのは、自由連合国の件だ。私が出張ることなく終わったので良かったと安堵の息を吐きたいところだが、代わりにフィーネさまとエーリヒさまとユルゲンさまが巻き込まれた気がする。聖王国の第二陣の派遣団の長をウルスラさまが務め、補佐役をアリサさまが担うと聞いているので今頃は支援の最中かもしれない。
「ナイさまが苦労されている一端を知れた気がします」
フィーネさまが私の第一声を聞いて、凄く遠い目になっていた。一応、報告としてどんなことが起こったかは知っているし、彼女からの手紙でもどんなことが起こったか私は把握している。
リバティーと呼ばれている男性が王家を打倒したのは良いものの、結局、同じ道を歩もうとしていた。運良く担ぎ上げられそうな神輿がいたので、自由連合国周辺国と私との繋がりが強い国の方が元王女殿下を利用したようだ。
フィーネさまはリバティーと呼ばれている男性から言いがかりを付けられて面倒極まりなかったそうだ。私との態度から推測するに、リバティーと呼ばれる男性は選民意識が強そうである。聖王国を見下していたか、神さまなんていないと信じていたのだろう。確かに変な方に絡まれるのは面倒だと私がふう息を吐けば、エーリヒさまがフィーネさまのあとを続く。
「一先ず、首都の皆さまが普通の生活にゆっくりと戻ることを願うだけですね。各国からの支援が入っていますから……」
自由連合国の代表が元王女殿下さまとなって、首都の状況は少しずつマシになっているようだ。随分と荒れていたようだが、元王女殿下は閉ざされていた商業流通ルートを復活させるため、精力的に動いているようである。
各地に閉じ籠っている諸侯の説得や話し合いの場を持ち、支援を得られた国とも首都の製品を買って欲しいと交渉しているようだ。成功するかはまだ未知数だけれども、なにもしない前代表より印象は違うらしい。
「フォレンティーナさま、お綺麗な方でしたよね」
フィーネさまがなにかを思い出したかのように、元王女殿下の名前を口にする。私は元王女殿下の姿を見たことがないので判断できない。何故、フィーネさまは王女殿下の名前を出し、かつ綺麗だと遠い目をしているのだろうか。エーリヒさまは王女殿下のご尊顔を知っているから、彼に向けた言葉だろうと私は黙っておく。
「……」
エーリヒさまはなにかを耐えるように無言を突き通している。なんだ、これと私がジークとリンの顔を見れば『なにか言ってやってくれ、ナイ』『黙ったままでも面白そう』と言いたげである。そういえばヴァナルと雪さんと夜さんと華さんも元王女殿下の顔を知っているなあと私は彼らの方を見る。
『人間の顔の良さ、よく分からない』
『顔より心ですよ。フィーネさん』
『ええ。貴女が考えているようなことにはなりませんわ』
『本当に疑い深い方ですねえ』
ヴァナルが困ったような渋い顔をし、雪さんと夜さんと華さんたちはフィーネさまに言葉を贈る。毛玉ちゃんたち三頭は暇だったのか、お股パッカーンしながら爆睡していた。
「だって、凄く心配です。エーリヒさまはカッコいいですし」
と、フィーネさまが頬を膨らませながらヴァナルと雪さんたちに視線を向けていた。なんだ惚気かと私は苦笑いを浮かべてエーリヒさまの方へと視線を向ければ、少し顔を赤くした彼がさっと視線を逸らすのだった。
◇
――お昼ご飯の時間となった。
転生者組はアストライアー侯爵領領主邸にある調理場に立ち、料理人さんたちが腕を振るう場を見ていた。新しいレシピを試すので、エーリヒさまは助言役、フィーネさまはどんな納豆料理が出来上がるのか楽しみで立ち会っていた。
私はお客人を放置するわけにもいかないと調理場で料理人さんたちを見守っていたのだが、彼らは見ている方たちがいようとも女神さまではないと知り安堵の息を吐いていた。
どうやらヴァルトルーデさまとジルケさまはご飯前に調理場に姿を現すことが多いようである。料理人さんたちの話では、ヴァルトルーデさまは中をこっそり見ているのだとか。ジルケさまは気軽に『今日はなにを作るんだ?』と聞いて、料理人さんたちの答えを聞いてすごすごと去っていくそうである。どちらにしても女神さまが台所に訪れるというのは稀有なことだろう。
まあ貴族の方や大聖女の称号を持つ方たちが他家の調理場に顔を出すというのも異例だが。今回は新しいレシピの助言という目的があるため、カウントをするつもりはない。料理人の方たちは慣れない納豆に苦戦しつつも、エーリヒさまのアドバイスを頂きながら料理を先程完成させた。
さっそく一緒に食べようと食堂に赴いたところである。
いつもの面子も集まってきており、ジークとリンとクレイグとサフィールにヴァルトルーデさまとジルケさまもいて、今日はソフィーアさまとセレスティアさまも加わっている。床にはヴァナルと雪さんと夜さんと華さんがごろんと転がっており、毛玉ちゃんたちは部屋でまだ惰眠を貪っているそうだ。クロたち竜組には果物を用意していつもの場所に移動していた。
いつもは料理を席に運んで貰う形を取っているのだが今日は納豆料理の試食会ということで、バイキング形式とさせて頂いている。フィーネさまはテーブルの上に並んだ数々の納豆料理に目を輝かせていた。
「納豆料理がたくさんです!」
納豆好きのフィーネさまが凄く嬉しそうに笑っている。納豆が苦手な方たちは微妙な顔になっていた。食べれない人や食べたくない人用に普通の料理も用意して貰っている。
結構な量が並んでいるのだが二柱さまがいれば問題なく食べ切れるはずだ。私も遠慮なく食べて良いようだし、苦手な納豆が食べやすくなっているならばいろいろと挑戦してみたい。口にせずに『不味い』と判断するのは作ってくれた方とレシピを提供してくれた方に失礼だから。
「フィーネ。納豆好きだね」
「納豆尽くめだな」
ヴァルトルーデさまとジルケさまが喜んでいるフィーネさまに声を掛ける。納豆好き少女は二柱さまに顔を向けて、納豆がいかに美味しいか、そして健康に良いかを力説し始めた。
確かに納豆は健康食品と言われているけれど、何事も加減が必要である。納豆を食べ過ぎると腹痛や吐き気を引き起こすし、婦人系疾患に掛かりやすくと聞いた記憶が残っている。
フィーネさまが一番気を付けなければならない方であるが流石に分かっているはず。それに『食べ過ぎは良くない』と私が口にしても、説得力が皆無なので一先ず黙っておこう。美味しいご飯の前に無粋なことを言ってはならぬと言葉を飲み込み、私は別のことを声に出す。
「皆さまが苦手な粘りや匂いは調理の過程で消えてて食べやすくなっているかと。エーリヒさまのレシピに感謝ですね」
料理の過程で納豆特有のアレは消えている。納豆オムレツは美味しそうだし、納豆焼き飯や油揚げの納豆はさみなどと本当に料理の種類がたくさんあった。私がエーリヒさまを見上げれば、彼は照れ臭そうに鼻頭を掻いた。
「あ、いえ。気になさらないでください。趣味みたいなものですし、なにか考えるのは楽しいですからね」
片眉を上げながら笑うエーリヒさまにフィーネさまが『尊敬します!』と元気良く笑っている。本当にフィーネさまは納豆が好きなのだと一同が同じ思いを抱きつつ私は音頭を執る。
「では――」
私が手を合わせれば皆さまも両手を合わせる。クロたちもこっちを見ており、一緒に食べ始めるつもりらしい。
――いただきます!
私が声を上げれば、他の皆さまもいただきますと声を上げる。そしてフィーネさまが直ぐに取り分け用のお皿を手に持ち、並べられた数々の料理を少しづつ取り分けていく。そんな彼女の姿を皆さまが見て笑い、自分たちも続こうと料理の前に立ち始める。
エーリヒさまはフィーネさまの側に立ち、クレイグとサフィールは各々食べたい品を選ぶようだ。ソフィーアさまとセレスティアさまは少し怪訝な顔を浮かべているものの、納豆料理に挑戦するようである。
ヴァルトルーデさまとジルケさまもフィーネさまには負けまいと料理を取り分けている。私は遅れて取り分け用のお皿を手にすれば、ジークとリンも同じように続いた。
クロとアズとネルは三頭一緒に果物を突っ突いている。慣れているのか綺麗に爪と牙で皮を剥き、中身を美味しそうに食べている。そういえば子爵領の試験用の果樹園に新しい品種を植えたい。とはいえ目新しい品はなさそうだから、なにか見つかれば良いのだけれど。
美味しそうに食べている三頭たちを横目に私は料理の前に立った。魔石を利用して保温されているため、料理が冷めることはない。湯気の立つ納豆チャーハンや油揚げの納豆はさみとか美味しそうだ。きょろきょろと視線を彷徨わせてなにを食べようかと思案する。
「どれが良いかな?」
迷った末にどれを取れば良いのか分からず、私の口から自然に言葉が漏れていた。
「ナイの好物に絡めたものはないな」
「お肉をたくさん使った品が少ないね」
そっくり兄妹の耳に私の声が届いていたようで、笑いながら答えてくれる。確かに今日のお昼ご飯にはお肉料理が少ない。納豆を使っている料理なので主役になれなかったようである。
少し寂しい気もするが、苦手な納豆を克服する機会だ。ジークとリンを私は見上げて『ご飯たくさん食べようね』と伝えれば、二人は片眉を上げて『たくさんあるから食べ損ねることはない』『納豆、美味しくなっていると良いな』と返事をくれる。私の腰元で最近凄く大人しいヘルメスさんがペかぺかと魔石を光らせていた。珍しい。
『杖にも味覚があれば良かったのですが。悩ましい……人型となれば味覚も備わるのでしょうか』
ヘルメスさんには聴覚と視覚は備わっているのだが、嗅覚は弱く、味覚はないそうである。ただ味覚まで手に入れてしまうと『錫杖』の定義がぶっ壊れてしまいそうなので止めて欲しいし、なにやら問題発言をしていたような。取り分けが終わったヴァルトルーデさまとジルケさまがしょぼんと悩ましそうにしているヘルメスさんに気付いた。
「ヘルメスが喋った」
「お、ナイの魔力が落ち着いたのか?」
ヴァルトルーデさまが目を細め、ジルケさまはなんだか失礼なことを口にする。確かにヘルメスさんはここ最近口数が少ない。ロゼさんなんて『静かで良い』と言っているし、他の方たちも仕方ないというような顔をしている。
ヘルメスさん曰く私の体内を巡る魔力が妙な流れを引き起こしていると教えてくれたけれど、私自身はヘルメスさんのお陰なのか魔力の流れがおかしいと分からない。
ジークの告白を受けてから変だ変だと言われているので、いろいろ考えていることが不味いのか。しかし、いつまでもジークを待たせるのは悪いし早く答えを出さないと。むーと私が唸っていれば、側にいたそっくり兄妹が苦笑いを浮かべ、女神さま方が『なにか考えてる』『忙しい奴だなあ』と少し呆れている。
『あ、女神さま方! ご当主さまの意識を向けさせるのは止めて頂きたく!?』
ヘルメスさんが慌てた様子で二柱さまに抗議の声を上げた。私はいかんいかん平常心となるべく意識を恋愛方面へ向けないようにする。とりあえず、ご飯を取り分けなければと女神さま方には少し失礼しますと断りを入れて、料理を取り分けていく。
食べたい品とお野菜を取り分けて席に着けば、他の方たちも取り分けが終わって各々箸を進めている。私もいただきますともう一度手を合わせて、納豆チャーハンに箸を付ける。納豆の独特な匂いと粘り気は消えて、チャーハンの味と納豆の味が上手く混ざり合っていた。他の料理も程よい味で、流石エーリヒさまのレシピと侯爵家の料理人さんたちであると目を細める。
「ネバネバが消えて、食べやすいな」
「ね。熱を通すだけでこんなに変わるんだね。不思議だ」
クレイグとサフィールが少し不思議そうな顔を浮かべて箸を進めている。どうやら納豆が様変わりしたことが面白いらしい。
「確かに食しやすいな」
「ええ。匂いも消えておりますし、見た目も悪くありません」
ソフィーアさまとセレスティアさまが顔を合わせて、意外だと言いたげな顔になっていた。ヴァルトルーデさまとジルケさまは美味しいのか、無言で納豆料理を食べ続けている。フィーネさまは食べている皆さまの顔を見渡して、へにゃりと笑い口を開いた。
「そのままの納豆も美味しいのですけれど……でも、皆さまが食べてくださって嬉しいです」
フィーネさまが嬉しそうに微笑む。彼女が提供してくれた納豆レシピは『納豆サンド』や『納豆おにぎり』であった。お寿司の軍艦巻きとかあるから食べれないことはないけれど、見た目のインパクトが強すぎて南の島では不評だった。今日はエーリヒさまのレシピや侯爵家の料理人の方たちの手が入り、印象が悪かった納豆に対して南の島組の皆さまの認識が変わったようである。
「良かったですね。フィーネさま」
エーリヒさまがフィーネさまを見ながら微笑んでいた。彼は普段より柔らかい顔をしているような気がする。恋人同士だというのに離れて暮らしているから、今日の様にこうして会えた時は嬉しいようだ。
クロたちにも美味しいかと問えば『美味しいよ~』と声が戻ってくる。納豆料理故なのか銀シャリさまが食べたくなるけれど、チャーハンがメニューにあったので用意していない。少し物足りなさを感じていると、ふと思い出したことがある。ジークのでっかいおにぎりは食べ応えがあって良かった。また食べたいなあと、ふと感じるのだった。