魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0719:気になる物。

 おばあを水場で洗っているのだが、大人しくしてくれているため直ぐに洗い終わることができた。ただ大きな身体から水気を取るのは大変で、様子を見にきていたセレスティアさまとソフィーアさまにも手伝って貰う。

 だらしのない顔をしながら布でおばあの身体を拭く某辺境伯令嬢さまには、エルとジョセたち天馬さま方が面白そうな顔をして見ていた。おばあの身体をみんなで拭きあげること三十分。ようやく水気が取れておばあの毛が風に揺れるようになった。

 

 私が『終わりだよ』とおばあの身体を軽く叩けば『ピョエ』と一鳴きする。クロ曰く『ありがとう』とお礼を伝えているそうで、私は『どういたしまして』と返しておく。そしてクロがこてんと首を傾げておばあを見ながら口を開いた。

 

 『おばあがモコモコしてるねえ~』

 

 汚れが落ちおばあの体毛はふよふよになっている。アンダーの毛が多少生えているので、あとでブラッシングをしてムダ毛を取らなければ。とはいえ数時間前のみすぼらしい身体から一回り大きく見える。

 決して身体が大きくなったわけではないが汚れたままでいるより全然良いし、おばあも気持ち良さそうだ。セレスティアさまはドヤとおばあの身体を見ているし、ジークとリンも綺麗になって良かったねとおばあに声を掛けている。ソフィーアさまも綺麗になったおばあが顔を寄せたため、手を差し出してゆっくりと撫でていた。

 

 そんな光景を見るためなのか、エルとジョセたち天馬さま方がおばあを拭き終えた時より近くに寄ってきていた。セレスティアさまは嬉しいのかわさあと特徴的な御髪を広げて、テンションが爆上がりしている。ジークとリンとソフィーアさまは驚きつつも『ここは侯爵邸だから』と言いたげな顔になっていた。エルとジョセが私の前に立って、おばあの方をみながら前脚で地面を掻く。

 

 『皆が羨ましがっております』

 

 『厩の方が我々の身体の手入れをしてくださっていますので贅沢は言えませんが、わいわいと身体を洗われるのは楽しそうです』

 

 エルとジョセが首を曲げて私の顔の左右に顔を近付けた。サンドイッチになっているけれど、圧迫感はなくエルとジョセの綺麗で大きな眼が視界に映る。後ろではルカがブモブモと鼻を鳴らしているので、おばあが羨ましかったようだ。

 ただ流石に天馬さま方みんなを洗うのは大変な労力である。お一人だけは凄く気合が入って『洗ってみせましょう!』と言いそうだが、問われている先が私であるためなにも言えないようだ。言いたいことを我慢しているというよりは、彼女の背後で某公爵令嬢さまが『ナイに迷惑を掛けるようなことを口にするな』と圧を掛けているからだけれど。まあ効果のほどは定かではない。

 

 「天馬さま方を毎日一頭洗うとして……二十日以上必要になるからねえ」

 

 私はエルとジョセを視界一杯に納めながら目を細める。お貴族さま方が馬を利用しているためか、馬のお手入れ道具は充実している。鬣を結ぶための紐も派手なものから地味なものまで様々だし、ブラッシング用の道具もいろいろとあるのだ。逆毛を立てて馬体に模様を描いていることもあるし、へえと感心することもある。天馬さま方の毛は冬毛になっているが短いため、ジャドさんたちほど手は掛からないけれど、なにせ数が多い。

 

 『そうですねえ。諦める他なさそうです』

 

 『皆を説得しましょうか』

 

 「ごめんね。でも綺麗になるのは気持ち良いから時間を見繕ってみるよ。みんなでワイワイしながらだと楽しいから女神さま方も誘ってみよう」

 

 私の声にエルとジョセが『いえいえ、恐れ多い』『ナイさんの手を煩わせるだけでも申し訳ないというのに女神さままで』と恐縮していた。言い出しっぺはエルたち天馬さま方なので、遠慮は不要のような。

 それにみんなでワイワイしていれば、ヴァルトルーデさまとジルケさまは『なにをしている?』と顔を出すはずである。ヴァルトルーデさまは楽しそうと言って参加してくれるし、ジルケさまは面倒だなと言いながら手伝ってくれるはず。

 

 エルとジョセと私たちの会話を聞いていたおばあが目の前に立った。どうしたのかと私がおばあを見上げると、頭の上に顎を置いてぐりぐりとし始めた。

 

 「おばあ、どうしたの?」

 

 揺れる視界に私は目を回しそうになるけれど、おばあは楽しそうである。喉を鳴らしているのが分かるし、尻尾も左右にぶんぶんしているのだ。グリフォンの尻尾にぶたれたら吹っ飛びそうだなあという明後日のことを考えていると、クロも私の肩で揺られつつ通訳をしてくれる。

 

 『構って欲しいみたい』

 

 クロが私の肩から逃げて行き、お邪魔するねと言ってエルの頭の上に乗っていた。おばあはまだ飽きないようで私の頭に顎を乗せたままで『ピョエ』と短く何度も鳴いていた。しかし、おばあの行動が幼い気がするのは何故だろう。でもまあ楽しそうだから良いかと私はおばあの行動を受け入れていれば、イルとイヴが顔を出しておばあと共に庭へと駆けて行くのだった。

 

 「おばあって呼ばれているけれど元気だね」

 

 私はイルとイヴと共に庭に駆けていくおばあの後ろ姿に目を細める。イルとイヴの方がおばあより体格が大きい。彼女たちと一緒に並べばおばあの方が小さいのだ。

 骨格の関係もあるが、栄養状態がよろしくなく大きくなれなかった可能性もありそうである。うーん。おばあには美味しい品をたくさん食べて貰って、大きくなるのは無理だけれど元気になって貰わねば。大人のグリフォンさんたちは魔素がご飯なので、私の心配は無用なものかもしれないが。

 

 『だねえ。でも、おばあが歳を取っているのは確実だよ』

 

 「分かるものなの?」

 

 『うん~なんとなくだけれど、ボクたちは感じることができるよ~』

 

 どうやらクロたち魔獣や幻獣は相手の命の残り時間をなんとなく判断できるそうである。クロ曰く『感じる命の灯が大きかったり小さかったりするんだよ』と。おばあは確実に命の灯が弱いのだとか。

 

 「おばあが少しでも長く元気に生きられるようにしないとね」

 

 『ありがとう、ナイ。元気になってくれると良いねえ』

 

 私が笑うと、エルの頭の上に乗っているクロもへへへと笑っている。他の天馬さま方たちも集まってきて私の方に顔を寄せてくる。彼らの鼻息が掛かるし、頭の上や肩の上に顎が乗りぐりぐりしてくれる。

 嬉しいけれど、鼻息とおよだが掛かるのは宿命だし、私の足が彼らの勢いに押されてよろよろしている。ジークとリンは助けてくれそうになく、セレスティアさまは嫉妬の視線を向けてくる。ソフィーアさまは『すまん、ナイ』と声に出して私の無事を祈ってくれていた。誰も助けてくれない状況に自分でどうにかするしかないと声を上げる。

 

 「どうして私を揉みくちゃにするの~!」

 

 『ナイさんの側は心地良いので、つい』

 

 『皆、側にいたいようですから』

 

 侯爵邸の庭で騒いでいればヴァルトルーデさまとジルケさまが遅れてやってきて『どうしたの?』『うるせえぞ、ナイ』と声を掛けてくれる。ジルケさま何気に酷くないですかと言いたくなるものの、私が大きな声を上げたのは事実で否定ができない。二柱さまが現れると天馬さま方は私の側から離れていく。道を譲っているのか、二柱さまの姿をはっきりと確認することができた。

 

 「揉みくちゃにされていたのですが、誰も助けてくれなくて……」

 

 とりあえず私が状況説明すると二柱さまは呆れた顔で視線をくれる。

 

 「頭、ぼさぼさ」

 

 「酷え格好になってんな。エッダが悲鳴を上げるぞ、それ」

 

 そんなに酷い格好をしているのかと頭に手をやろうとすれば、しゅばっとリンが私の後ろに立つ。手櫛で乱れた髪を直してくれ、持っていたハンカチで顔の汚れを拭ってくれる。

 

 「ジークリンデはナイに甘い」

 

 「今更だろ、姉御」

 

 呆れ顔の二柱さまにリンは『なにか悪い?』と言いたげな雰囲気を醸し出している。ジークは肩を竦め、ソフィーアさまとセレスティアさまはいつものことだと小さく笑っていた。

 そうして侍女の方が『お茶の時間ですがどう致しますか』と私たちに声を掛けてくれれば、ヴァルトルーデさまとジルケさまが目を輝かせて『飲む』『甘いもん、食いてえな』と伝えていた。侍女の方は困った顔を浮かべて私に助けを求めるので『サンルームに人数分のお茶の用意をお願いします』と口に出す。そして私はジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまに身体を向けた。

 

 「お疲れさまでした。休憩にしましょう」

 

 私の声に何故かヴァルトルーデさまとジルケさまが『行こう』『早く行こうぜ』と急かしてきた。他の面々は二柱さまに苦笑いを向けるだけだ。私は肩を竦めて、みんなと一緒にサンルームへと向かう。

 エルとジョセとルカとジアは庭に出て、気が向いた数頭の天馬さま方が一緒にサンルームの方へと歩き始める。本当に二柱さまの食い気は凄いなあと感心しながら時間が進み。

 

 ――翌日、朝。

 

 ちょっと出てきますと言って留守にしていたジャドさんと雌グリフォンさん四頭が戻ってきた。庭に降り立った彼女たちは『ピョエー!』と鳴いて私を呼んでいる。丁度、朝ご飯を済ませたところなので、少し待っていてくださいと声を掛け、ジークとリンと一緒に庭へと出た。イルとイヴとおばあや天馬さま方もなにごとかと、戻ってきた彼女たちの下へと集まっている。

 

 『ナイさん、こちらを』

 

 「なんでしょう、これ……足輪かな?」

 

 ジャドさんの前には鉄製っぽい輪っかが転がっている。輪っかと言っても壊れていて、きちんとした形を成していない。修復すれば足輪に戻りそうだ。ジークとリンも私の後ろから地面を覗き込み、クロとアズとネルも不思議そうにこてんこてんと首を傾げていた。

 

 「みたいだな。おばあの脚に入りそうな大きさだ」

 

 「魔術が施してある?」

 

 足輪(仮)の内側には魔術文字が刻印されていた。壊れているので術式がはっきりと読めないが、なんとなく拘束系のものだと理解できる。

 

 『おばあを見つけた近くに落ちていたものです。一緒に拾っておけば良かったのですが、おばあを優先させたので』

 

 「うん。おばあの方が大事だし、取りに戻ってくれたんだから問題ないよ……」

 

 私は交互にジャドさんと雌グリフォンさん四頭の顔を撫でていれば、戻ってきた彼女たちを見つけたセレスティアさまが庭に駆けてくる。魔獣幻獣が大好きな方の後ろにはソフィーアさまもゆっくりとした足取りでこちらにきていた。そうして私たちの下にお二人が合流すれば大所帯になる。とりあえずお二人には目の前の物の説明をしておく。するとセレスティアさまがぶわりと覇気をまき散らす。

 

 「誰がこんなものを……!」

 

 「しかし魔獣や幻獣に施せるものなのか?」

 

 怒りのセレスティアさまと落ち着いた雰囲気でソフィーアさまがいろいろと考えているようである。確かに人間が作ったものにグリフォンという強い幻想種が囚われることはなさそうだ。うーんと頭を捻っていれば、ジャドさんが困り顔で答えてくれる。

 

 『卵を拾った人間の下で孵った個体であれば可能ではないでしょうか。唯一の救いはおばあが人間を恐れていないことですねえ』

 

 『ピョエ?』

 

 ジャドさんの推測におばあが不思議そうに首を傾げた。たしかに人間に捕らわれていたのなら、恐れていても良さそうなのにおばあにはソレがない。とにかく。

 

 「術式の調査は魔術師団にお願いしてみましょう。魔獣や幻獣を飼える方は限られるはずですし、おばあを側に置いていた方は案外早く分かるかもしれません」

 

 私は足輪(仮)を手に取って、アルバトロス王国上層部と魔術師団に連絡を入れようと執務室のある場所に視線を向ける。

 おばあを飼っていたなら何故捨てたという気持ちと、大地を駆け空を飛ぶグリフォンの自由を奪ったのは誰だという気持ちがふつふつと湧き、なににしてもおばあの幸せを一番に考えつつ起こった問題に取り組もうと決めるのだった。

 

 ◇

 

 ジャドさんたちが戻ってきたこと、卵さんを四つ預かったこと、足輪(仮)の件をアルバトロス上層部に知らせて数日が経っている。一応、速報が流れてきて、足輪(仮)は足輪であり、従属の魔術が仕込まれている……と思われると教えてくれている。

 おばあがどうして森の中で衰弱していたのか理由は分からない。クロやジャドさんがおばあに問うても疑問符しか浮かべないのだから。せめておばあに足輪を付けた人物を探りたいところだけれど、分からないので手をこまねいている状態である。

 

 今日はおばあにユーリを紹介してみようと、彼女と一緒に侯爵領領主邸の庭に出ている。ユーリを抱き抱えて、イルとイヴと一緒に遊んでいたおばあを見つけて私は歩み寄って行く。私たちに気付いた三頭は遊ぶのを止めて、首をぐるりと動かしてこちらを見た。クロもそうだけれど、良く首が取れないなと思うくらいに首の可動範囲が広い。

 

 ユーリは特に嫌がったり怖がる素振りを見せないので有難い。天馬さま方の顔がたくさん近づいても問題なく対処しているため、魔獣や幻獣には慣れているようだ。私の後ろではジークとリンは大丈夫かと心配そうに、セレスティアさまはニコニコ顔で様子を見ていた。

 おばあはとことことこちらに近づいてきて、ユーリの顔を覗き込んだ。初対面なので誰か気になるようである。こてんと首を傾げたおばあの頭の上には『小さい人間』という文字が浮かんでいる気がした。

 

 「おばあ、ユーリだよ。可愛いでしょ」

 

 私は笑いながら腕の中にいるユーリをおばあの顔に近づける。ユーリはおばあに両手を伸ばして口を開いた。

 

 「おばー」

 

 ユーリが言葉足らずだけれどおばあと声を上げた。

 

 『ピョエ!』

 

 おばあもユーリと挨拶を交わしたのか一鳴きして顔を近付けてくる。ユーリは広げた両手をおばあの嘴に『ぱちん!』と挟み込んだ。周りの皆さまが『あ』と声を小さく上げ、ユーリはおばあの反応が面白かったのかキャッキャと笑って目を細め、おばあは驚いたのか細い目を目一杯見開いて――それでも細いが――ユーリを見下ろす。

 

 『ピョエ~』

 

 こてんと首を地面に向けたおばあは落ち込み、ユーリはおばあを見て何故か面白そうにしているままだ。クロが私の肩の上でこてんと顔を傾げる。

 

 『嫌われたっておばあが落ち込んでる』

 

 「ユーリの挨拶みたいなものだから、気にしないで欲しいなあ」

 

 本当に。女神さまにも披露するし、毛玉ちゃんたちやヴァナルに雪さんと夜さんと華さんにも両手ぱちんを披露しているのだから。特に意味はなく、みんなの反応が面白いから行動に移しているだけである。

 

 『ピョエ?』

 

 おばあが顔を上げてクロのように顔をこてんと傾げる。イルとイヴはおばあの喜怒哀楽を興味深そうに眺め、天馬さま方も年老いたおばあを労わってくれている。とりあえず、明日、屋敷にくるヤーバン王にはおばあの元気な姿を見せられそうだと私は笑みを浮かべる。他にも一緒に客人がくるため、邸内は少し忙しないのだった。

 

 ――翌日。

 

 朝からヤーバン王を迎える準備に取り掛かっている。本当は王都のアストライアー侯爵家のタウンハウスで会うべきだろうけれど、おばあに無理に移動してもらうのは申し訳ない。飛べなくはないだろうけれど、体力の回復が優先すべきことであるとヤーバン王に説明すれば侯爵領にきてくれると快諾してくれたのだ。

 

 「凄いことになっているな、侯爵っ!」

 

 転移陣を使用して先程到着したヤーバン王は庭の東屋から視界に捉えた光景をあははと大笑いしている。私的には魔獣や幻獣の方たちが何故か寄ってきて、居着いているだけである。お世話に手は掛からないし、託児所の子供たちと遊んでくれたりするので有難いけれど、常識からは外れている。

 おばあは東屋の近くの芝生の上で寝転がっているのだが、側にはジルケさまが寝息を立てている。お茶が用意されればがばりと起きてきそうだが、果たしてどうなるのやら。私の側にはヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちがいるし、ヴァナルの頭の上にはロゼさんが鎮座していた。ヴァルトルーデさまは気が向けばこちらにくるはずである。

 

 「良いことだ」

 

 ディアンさまがふふと小さく笑っていた。他のお客というのは亜人連合国の方たちのことである。天馬さま方や雌グリフォンさんが飛来したことやおばあの話を聞き、様子を教えて欲しいとお願いされたから、私は屋敷にきませんかと打診したわけである。

 私から話を聞くより、実際に目にした方が情報が集まるし相談したいこともある。ベリルさまはディアンさまの隣に立ち、ダリア姉さんとアイリス姉さんは仔を持つ天馬さま方の様子を見てくれている。ジャドさんと雌グリフォンさんたちはヤーバン王とディアンさまたちと挨拶をするため、東屋に姿を現していた。私はポシェットの中から卵さんを四つ取り出して机の上に並べる。

 

 「座りましょうか」

 

 「うむ!」

 

 「そうだな。ゆっくり落ち着いて話した方が良いだろう」

 

 「よろしくお願い致します」

 

 私の声にヤーバン王とディアンさまとベリルさまが答えてくれる。そして他にも場にいたお二方が申し訳なさそうな顔をして礼を執る。

 

 「私たちまで同席させて頂き、感謝致します」

 

 「有難いお気遣いです」

 

 エーリヒさまとユルゲンさまがヤーバン王とディアンさまとベリルさまが椅子に掛けたことを確認してから彼らも腰を下ろす。各国の要人がくるため、アルバトロス王国の外務部からお二人が派遣されたのだ。

 同席してくれた方がきちんとアルバトロス上層部に報告されるので有難い。エーリヒさまとユルゲンさまの後ろには魔術師団副団長さまと猫背さんが控え、私の後ろにはジークとリンとセレスティアさまとソフィーアさまが控えてくれ、ヤーバン王の後ろには彼の国の戦士が二人控えている。ディアンさまとベリルさまの後ろには誰も控えていないのは、彼らが自ら身を守る術を持っているからだろう。ダリア姉さんとアイリス姉さんが控えているから過剰戦力ともいうけれど。

 

 お茶が用意され私がジャドさんに視線を向ければ、待っていましたと言わんばかりに東屋の柵の近くまできてくれる。

 

 『ヤーバン王、お元気でしたか? 他の雌を見つけてナイさんの下に転がり込みました』

 

 「ジャドさま。ジャドさま以外にも雌がいたとは驚きです。しかも卵まで産んでくださったとは」

 

 ふふふと笑うジャドさんにヤーバン王が顔を向けて驚いている。机には四つの卵が並び、おばあの側には四頭の雌グリフォンさんたちが寝転び始めていた。

 確かに驚きの光景だなあと目を細めていると、某辺境伯ご令嬢さまが魔道具で今の光景を収めて欲しいと私に念じている。確かに雌グリフォンさんたちが五頭揃い芝生の上に寝転がり、側には南の女神さまと天馬さま方もいる。私は少し失礼しますと断りを入れておばあの周りを魔道具で収めると、ヤーバン王も今の光景が欲しいらしく力強い目線で訴えてきた。本当に忙しい方たちだが、ジャドさんは彼らを気にせず会話を続ける。

 

 『ナイさんに卵を預けようと皆が頑張りましたので』

 

 うん。道中に気合で卵を産み落とすとは思わなかった。まあ、そのお陰でおばあを見つけられたらしいので良しとしておこう。

 

 『おばあを偶然助けることもできましたし、今回の旅は収穫がたくさんありました』

 

 ジャドさんの声に皆さまがおばあの方へと視線を向けた。今では衰弱していたとは思えないくらいに回復している。でも年齢には抗えないようで、おばあの命の灯は残り少ないそうだ。四つの卵は倍方式で増える可能性もあるので、ジャドさんが産んだ卵でなくとも嬉しいらしい。

 

 「グリフォンが増えるなら我々ヤーバンは嬉しい。ジャドさまにも侯爵にも感謝せねば」

 

 良い顔で言いきったヤーバン王は手でご自身の膝を一度叩く。

 

 『いえいえ。気になさらないでください。雄の居場所はヤーバン王国なので彼らを守ってくださることは種の繁栄に繋がりますから』

 

 ジャドさん的には雄のグリフォンさんたちをヤーバン王国の方たちが守ってくれているので有難いそうである。人間に狩られることもあるから、雌より弱い雄グリフォンが心配になるそうだ。

 ヤーバン王は片眉を上げて苦笑いを浮かべていた。雄グリフォンが弱いという言葉に疑問を抱いているようだが、一国を上げて保護してくれるならば有難いことはない。おばあのような個体は現れないだろうし。

 

 「私はグリフォンや天馬さま方が側にいたいと申し出てくれて、許可を出しているだけですから。こうしてヤーバン王国や亜人連合国と繋がりが持てているので、こちらが感謝しなければならないことかと」

 

 何故か私の下には魔獣や幻獣の皆さまが寄ってくる。私が持つ魔力の影響だろうけれど、それだけが原因ではないかもと最近思い始めてきた。過干渉していないことが良いのか、セレスティアさまのような愉快な方がいるのが良いのか、分からないけれど。一番は私が聖女として産まれてくる仔を取り上げられるというのが大きな利点、かもしれない。

 

 「本当に君には驚かされてばかりだ」

 

 「まあ我々もナイさんに迷惑を掛けているので申し訳ない限りですが……強い仔が産まれやすい環境ですからね」

 

 ディアンさまとベリルさまが私に意味ありげな視線を向けている。もしかしてまた竜の誰かが卵を預けようと計画を立てているのだろうか。とりあえず雌グリフォンさんたちの卵を預かっているから今は控えて欲しいところだけれど。

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが天馬さま方との触れ合いを終えて、ディアンさまとベリルさまの後ろに立つ。背凭れに手を掛けて笑みを浮かべているのだが怒気が含まれている。エーリヒさまとユルゲンさまが冷や汗を掻いているけれど、彼らに向けたものではないから耐えられるはず……はず。

 

 「で、おばあをこんな目に合わせていた人間は分かったのかしら?」

 

 「ね。酷いことをするよね~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが今日の本題に入れば、席に腰を下ろしているお二方以外の視線が厳しくなった。そして副団長さまと猫背さんが半歩前に出て足輪(仮)について説明してくれる。

 

 「詳しく調べたのですが、やはり拘束具ですね。体内の魔力を抑える術式とあるワードで雷撃が発動される魔術が仕込まれています」

 

 そんなものが仕込まれていたのか。拘束具っぽいと聞き及んでいたものの、短い時間できちんと答えを導き出してくれるとは。ダリア姉さんとアイリス姉さんがしげしげと足輪に視線を向け、なにやらブツブツと呟いている。にっこりと笑みを深めた副団長さまが言葉を続けた。

 

 「しかし、この魔道具をジャドさまや雌グリフォンの方々が身に着けたとしても効果は薄いでしょう」

 

 「術式、適当だから」

 

 「確かに雑そうだわ。貴方たちがきちんと術式を構築した方が良い品を作れそうね」

 

 「私たちも作れるけれど、魔獣や幻獣に使うなんて以ての外だしね~」

 

 ふふふ、へへへ、と副団長さまと猫背さんが笑い、ダリア姉さんとアイリス姉さんが笑っているのに凄く怖いオーラを醸し出している。ヤーバン王とディアンさまとベリルさまは平気そうにしているけれど、エーリヒさまとユルゲンさまが縮こまっていた。副団長さまと猫背さんの更に後ろにいるアルバトロス王国の騎士の方も冷や汗を掻いているし。とりあえず私は今行動に移していることを口にした。

 

 「陛下にお願いして、おばあを助けた森を所領している国へ問い合わせをして頂いております。回答に時間を要するでしょうが、必ず調べ上げると相手国から返事を頂いているそうです」

 

 アルバトロス王国の陛下からはアストライアー侯爵家からも問い合わせをすれば、回答はもっと早くなると教えて貰ったので昨日問い合わせの書簡をヤーバンとアルバトロス王国の中間地点の国に送っている。ふむ、と頷いた皆さまが『どう回答するかな』と悪い顔になる。あれ、ここは悪役の巣窟だっけと疑問を抱くのだった。

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