魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
今日、集まってくれた皆さまに伝えておくべきことは伝えたので、みんなで遊ぼうとなった。寝ていたおばあも起きて、ジルケさまはくわっと大あくびをしながら背伸びしている。毛玉ちゃんたちは遊びの時間だと察知したし、天馬さま方も私たちの話し合いが終わったのでお喋りができるとわらわらと東屋に近づいていた。
毛玉ちゃんたちはヴァナルの頭の上にいるロゼさんにお願いしてボールを出して貰っている。それを口に咥えて私の足下に置いた。どうやらボール遊びがしたいようで、三頭が目の前にちょこんと座りしっぽをぶんぶん振りながら期待の眼差しを向けている。おばあとイルとイヴは毛玉ちゃんたちに気付いたのか、一緒に交じって遊びたいようである。尻尾をぶんぶん振っている毛玉ちゃんたちの後ろでキラキラと目を輝かせているのだから。
私は芝生の上に転がったソフトボールほどの大きさの玉を握り込み、彼らに見せた。ジャドさんと雌グリフォンさんたちは参加しないようで、芝生の上にごろんと寝転がったままだ。
近くにいるヴァナルが耳をピコピコ動かしながら、なるべく私を見ないようにしている。我慢しているヴァナルを察した雪さんと夜さんと華さんは、彼の視界を塞ぐように前にちょこんと腰を下ろす。夫婦仲が良いようでなによりと私は目を細め、ボールを握り直す。
「毛玉ちゃんたち、イル、イヴ、おばあ。投げるよ、それ!」
私は大きく右腕をふりかぶってボールを投げる。芝生の上を何度かバウンドしたボールを毛玉ちゃんたちが真っ先に追いかけ始め、イルとイヴが遅れて走り出し、おばあも身体をくるりと翻してボールを追いかける。
今日は楓ちゃんが一番にボールに辿り着いて口に咥え、嬉しそうにボールをみんなに見せている。こちらにくる気はまだないようで『とったどー!』と言いたげだ。
「ぶふっ!」
ヤーバン王が私の投げたボールを見て盛大に吹いた。それはもう遠慮なく。右手で口元を押さえ、左手はお腹に当てているし、私から顔を逸らして背を屈めていた。ボールが結構大きく重いので、少ししか飛ばせないのは仕方ない。そもそも身長が低いので、当然飛距離はその分短くなるのだから。
「……」
「…………女性ですからねえ」
ディアンさまは笑いを必死に堪えて口を真一文字に結び、ベリルさまは一応フォローを入れてくれた。お二人の隣ではダリア姉さんとアイリス姉さんが目を細めて、毛玉ちゃんたちの方に向けていた視線を私に向ける。
「ナイちゃん、非力なのね」
「もう少し飛んでもよさそうなのにねえ~」
笑いを我慢しているダリア姉さんとうーんと微妙な顔になっているアイリス姉さんに私は笑って誤魔化すしかない。ジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさま、そしてエーリヒさまとユルゲンさまは無言を貫き、副団長さまと猫背さんは『聖女さまですからねえ』『魔術師や聖女さまなら仕方ない』と少し私寄りの意見であるらしい。
確かに運動しない日々が多くなってきているけれど、毛玉ちゃんたちとイルとイブとおばあたちとボール遊びをするなら今のままでは楽しくないはず。パチンコのような投石系の装置でも作って貰うのもアリだけれど、一緒に遊ぶなら自分の力でボールを遠くへ飛ばしたいなあという願いもある。
楓ちゃんはとったどーと自慢するのは飽きたのか、てってってとこちらに戻ってボールを私の前に置く。私はまたボールを拾うと、ヤーバン王が良い顔を浮かべながら『私も良いだろうか?』と問うてきた。問題ないですよと握ったボールを私はヤーバン王に渡す。
毛玉ちゃんたち三頭は次はヤーバン王がボールを投げてくれると悟り、彼女の周りをクルクル回る。イルとイヴも早く投げてと言いたげにヤーバン王に視線を向け、おばあはボールが向かうであろう先の方へと既に身体を向けている。
「うむ。侯爵邸の庭は広いから遠慮は必要なさそうだ! いくぞ、そらっ!!」
ヤーバン王はおばあが身体を向けた先にボールを『ばひゅ!』と投げた。毛玉ちゃんたち三頭はきっちりとヤーバン王が投げるところを確認しながら、彼女の手からボールが離れた瞬間に走り出し加速していく。
イルとイヴもボールが放られた先に向かい走り出す。彼女たちはおばあを追い抜き、一気に加速してボールへと向かっていく。おばあは脚元が覚束ない走り方をしており、石畳の上に差し掛かると『カリカリ』という音がこちらまで届く。
「脚の爪、擦ってますよね。音が凄い」
おばあは走る際に爪を地面に擦っているようである。おそらく今までの運動不足が原因だろう。イルとイヴの歩様とおばあの歩様を比べると、脚が上がっていないし交互に出ていない。おばあの走り方は可愛らしいけれど、険しい道を歩くには不十分だろう。おばあには歩様の矯正が少し必要かなと私が目を細めれば、他の方たちも難しい顔をしている。
「むう」
ヤーバン王が腕を組んで悩ましい顔になっていた。そして『おばあから自由を奪っていた者がいるなら、くびり……』となにか言葉を零しながら怖い顔に変わっていた。
「十分な運動をしてこなかったのだろうな」
「動けないわけではありませんし、遊びの中で鍛えれば良いですね」
ディアンさまとベリルさまも目を細めておばあの歩き方や走り方は頼りないと判断したようである。ただおばあは動けているので、日々こうして遊んでいれば自然に治る可能性もあるだろうと教えてくれた。
「そうね。ウチにきて、山道を歩いてみるのも良いかもしれないわ」
「最初は大変だけれど、グリフォンやフェンリルなら直ぐに慣れてひょいひょい動けるようになるよ~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんは亜人連合国の険しい山道を散歩すれば勝手に筋肉が付いて、脚元が丈夫になるだろうと提案してくれる。確かにアストライアー侯爵領はただっぴろい平地が殆どなので、亜人連合国にお邪魔して運動するのは良いのかも。
私も一緒にいけるなら、おばあと一緒に散歩するのもアリだろう……いや、流石に歩幅とかの関係でおばあに筋肉が付きそうにない。それなら毛玉ちゃんたちやイルとイヴにジャドさんたちにおばあを見て貰う方が賢明か。
かなり小さくなった毛玉ちゃんたちの姿を見ていると、ボールを取った仔が先頭を走ってこちらを目指していた。
「あ、戻ってきたわね」
「あれは……どの仔だっけ? そっくりだから分からないや」
ダリア姉さんとアイリス姉さんは先頭を走る毛玉ちゃんと追いかけている二頭の毛玉ちゃんたちの区別はつかないようである。彼女たちの更に後ろにはイルとイヴとおばあの順で走って戻ってきていた。
「今度は椿ちゃんがボールを取ったみたいですね」
確かに毛玉ちゃんたちはそっくりだけれど見慣れればそれぞれに特徴があるし、バンダナで三頭を色分けしている。毛玉ちゃんたちと偶にしか会わないダリア姉さんとアイリス姉さんに見分けは難しいようである。
尻尾をプリプリ振りながら喜んでいる椿ちゃんがボールをヤーバン王の前に放る。また投げて欲しいようでみんなが期待の眼差しを向けており、般若のような顔をしていたヤーバン王は一瞬にしてだらしのないものに変わった。
凄く現金なと驚いていれば、さっとボールを拾ったヤーバン王がまた『ばひゅ!』という人間から外れているのではと言いたくなるような音を醸し出しながらボールを放った。そうしてみんながまた追いかけていく。
「脚の速さは毛玉たちの方が速いのねえ」
「意外だよね~グリフォンの方が身体大きいのに」
確かにフェンリルより身体の大きいグリフォンが足の速さに競い負けるとは。おばあは運動不足なので仕方ないけれど、若いイルとイヴが毛玉ちゃんたちより脚が遅いとは。ダリア姉さんとアイリス姉さんの声にむくりと身体を起こしたジャドさんがこちらに視線を向けた。
『飛ぶ方が得意ですからね。大地を駆けるフェンリルと空を翔けるグリフォンでは我々の方が分が悪いのです』
ジャドさんの声にヴァナルと雪さんたちも加わる。
『跳べるけど、飛べない』
『まあ、仕方のないところでしょうね』
『種族で得意不得意は分かれますから』
『競っても意味はないのでしょう』
どうやらそれぞれに得意分野があるので比べるのはナンセンスだと言いたいようである。近くにいたエルとジョセは『逃げ足は自慢できますが』『武力面で天馬は役に立てないですからねえ』とぼやいていた。そこにルカが大きな嘶きを上げ、ジアが煩いと兄を嗜めるように尻尾でルカの後ろ脚の肉付きの良いところを『べちん!』と叩く。なんだか侯爵邸の庭は平和だよねえと目を細めるのだった。
◇
私はとある国の宰相を務めている者だ。はあと深いため息を吐いて、数日前の出来事を静かな執務室で反芻している。
――不味い、不味い、不味い!
自由連合国という不届き者が統べる国を大陸会議で糾弾し、西大陸は平和な時間となっていたのに。アルバトロス王国とアストライアー侯爵から届いた書簡により、我が国は大騒ぎになっている。
私はこの国の宰相を務めており、書簡が届いたことを陛下に早く知らせねばと城の廊下を走り抜けている。目指すは陛下が執務を執り行っている部屋であるのだが、いつもより道程が遠く感じるのは何故だろう。そして足が凄く重いのは何故だろう。
どうにか辿り着いた執務室の前には近衛騎士が涼しい顔を浮かべて警備に就いている。今から私が陛下に書簡が届いたことを報告すれば、彼らの顔は真っ青に染まることだろう。
警備に就く近衛騎士は息を切らした私に『宰相殿、どうされました?』『大丈夫ですか、そんなに急いで』と呑気に声を掛けてきた。私は彼らに『危急の事態が起こった! すまんが通してくれ!』と伝えて執務室の扉に手を掛ける。驚いている近衛騎士に無視を決め込み、執務室の中へと私は雪崩れ込むのだった。
「へ、へ、陛下っ! ごほっ! 急いでこちらに目を通してくださいませっ!」
「宰相。どうしてそんなに急いで……アルバトロス王国からの書簡か?」
私が書簡を掲げれば、おっとりしている我が国の王が目を見開いた。ちょうど二枚の書簡が重なり陛下にはアルバトロス王国から宛てられたものしか見えなかったようである。
「は、はい! あとアストライアー侯爵家からもあります!」
「は?」
陛下は目を見開いていた。アストライアー侯爵家が他国に問い合わせの書簡を送ってきたと他国の者から聞いたことはない。侯爵と仲の良い国であればあり得る話であるが、付き合いのない国とは縁がないのは当然である。
我が国もアストライアー侯爵とは縁がなく、何故書簡が届いたのか意味が分からないと陛下の顔が物語っていた。ただ内容を知れば届いた理由に納得できるはず。
「陛下、戻ってきてください! そして早く目を通してくださいませ!!」
「はっ!」
遠くなっていた陛下の目に生気が戻る。陛下は頭を振って手を差し出した。私は陛下に書簡を渡せば、アストライアー侯爵家から届いた書簡を先に目を通している。
本題の部分に陛下は辿り着いたのか、額から一筋の汗が流れ落ちていた。そうしてアルバロス王国から届いた書簡に目を通すと、視線を下げた陛下は机上の一点を見つめている。執務室にいた者たちが大丈夫かと騒ぎ始めれば、陛下ががばりと顔を上げた。
「我が国でグリフォンを虐げていた者は誰!? 誰なの!?」
陛下が突然奇声を上げれば、周りの者たちが『ご乱心!? いつもおっとりしている陛下がご乱心なされている!?』とざわめいている。いや、理由を知れば『なるほど』と理解できるから、少しばかり陛下が落ち着くのを待って欲しい。
「陛下、早急に王国内を調べ上げましょう。一先ず……我々は知らないが国内に不届き者がいるかもしれないから総力を挙げて調べると返事をして誠意をみせねば!!」
私は混乱している陛下を落ち着かせるために、やるべきことを伝えてみた。そりゃ、書簡で『アストライアー侯爵と懇意にしているグリフォンが貴国の森で弱っているグリフォンを保護した。魔術具を使用して自由を奪っていたようなのだが……事情、知らね?』というものである。
もちろん文面はもっと丁寧なものだし、国と国とのやり取りなのだから正式な問い合わせであるが、あのアルバトロス王国とアストライアー侯爵からの書簡に驚くのは仕方ない。
「ううっ。何故、何故、平和な我が国に問題が舞い込んでくるのだ。アルバトロス王は大変だと高みの見物をしていた私がいけなかったのか?」
良い歳をした陛下が半泣きになっている。気持ちは分かりますが、早く動かねばグリフォンを国獣と定めているヤーバンも出てきますよと急かせば、陛下は大急ぎで返事を認めるのだった。
◇
アルバトロス王国とアストライアー侯爵からの書簡を受けて、陛下は直ぐ国内を調べると宣言し、先ずは全領主たちに魔獣を飼っている者はいないかという知らせを送った。
知らせを受けた翌日、近衛騎士団と騎士団を動かして魔獣や幻獣を飼っている者がいないかと、王都を精査しようとしていた所に某領主から『領内の商人が飼っていたかもしれない』と連絡が入る。その領主は弱ったグリフォンが見つかった森も管理していた。私と陛下は執務室で顔を見つめ合い『見つかった!』『よくぞ知らせてくれた!』と手に手を取り合って目に涙を溜め込みながら喜ぶのだが、まだ気を抜いてはならないとハッとする。
「よし。近衛騎士団を急ぎ彼の領地に派遣せよ。あと領主には該当の商人を即時捕えよと命を下せ。拒否すればどうなるか分かっているだろうなと脅しも念のために掛けておくんだ」
陛下が厳しい顔を浮かべて執務室で命を下す。普段のおっとりしている性格はどこへ消えたのか、きちんと正しい命令を下している。宰相である私は陛下が本気を出したとほっとして、目の前の大問題が無事に片付きますようにと願うばかりだ。あとは当該の商人が逃げないように祈るばかりである。
そうしてまた数時間が経った頃。某領主から『商人を捕らえた』と連絡が入り、今度こそ安堵の息を陛下と共に吐くのだった。
◇
問い合わせの書簡をアストライアー侯爵家がとある国に出し数日が経っている。流石にまだ連絡はこないだろうと私はアストライアー侯爵領領主邸で過ごしていた。
ヤーバン王は事前に『お泊りしたい!』と連絡を受けていたため、今は庭でジャドさんや雌グリフォンさんとイルとイヴとおばあと毛玉ちゃんたち三頭とエルとジョセと天馬さま方に囲まれながら遊んでいる。クロとアズとネルも珍しく私たちの下から離れて庭に出ているし、ヴァルトルーデさまとジルケさまもおばあが心配なのか外でヤーバン王の側で過ごしていた。
執務机から私が庭に視線を向けると、ヤーバン王がボールを凄い勢いで投擲している。毛玉ちゃんたちとイルとイヴは素早く移動を開始し、おばあは遅れて走り出す。
おばあは身体を左右に揺らしながら相変わらずヘンテコな脚取りで走っていた。ボールに追いつくことはなく、毛玉ちゃんたちとイルとイヴが先に取ってしまっている。
忖度のない本気のレトリーブのため奇跡が起こらない限り、おばあがボールを回収できることはなさそうだ。それでもみんなと遊ぶのは楽しいようで、垂れた目を更に細めて機嫌が良い。おばあが嬉しいようならなによりと私は窓から視線を外して前を見る。
「元気ですね、ヤーバン王は」
本当に彼女は何度ボールを放っているのやら。毛玉ちゃんたちとイルとイヴは飽きずにヤーバン王にボールを投げてと強いているし、ヤーバン王も嫌な顔ひとつせず投げ続けているのだから。天馬さま方はボールが投げられても本能は揺さぶられないらしい。落ち着いた様子で毛玉ちゃんたち三頭とイルとイヴとおばあを興味深げに眺めているだけであった。
「我々とは体力が違いますからね」
家宰さまが苦笑いを浮かべつつ肩を竦める。デスクワークがメインである私たちにヤーバン王のような体力は備わっていない。ヤーバン王は執務が終われば、国の戦士たちと手合わせをしているそうだ。くるもの拒まず殴り倒しているとカカと笑っていた。それは訓練なのかと言いたくなるけれど、ヤーバン式の特訓法なのだろうと私は心を無理矢理に納得させた。
「ずっと動いているのに、鈍くなっていないな」
「鍛えておられる証拠でしょう。嗚呼、わたくしも庭に出たいものです」
ソフィーアさまも呆れ顔を浮かべ、セレスティアさまは口をへの字にしてヤーバン王を羨ましがっている。
「じゃあ、気合を入れて早く終わらせましょう」
私は執務室にいらっしゃる方と視線を合わせて、書類の山を捌くべく気合を入れ直す。そうしてお昼前、いつもより少し早い時間に今日の分の執務を終えることになり、某辺境伯令嬢さまは『行って参りますわ!』と言い残して執務室から姿を消した。
「なんという素早さ」
私は某辺境伯令嬢さまが一瞬にして消えた扉を執務机から眺める。家宰さまはいつものことだと気にしていない。ジークとリンも特に問題ないと判断しているようだ。そして深い深い溜息を吐いたソフィーアさまが口を開いた。
「すまないな。幻獣や魔獣のことになるとセレスティアは人が変わる」
「大丈夫です。前からですし、仕事はきちんとこなしてくれていますので」
呆れているソフィーアさまに私は肩を竦めながら返事をした。まあセレスティアさまの幻獣魔獣好きは今更であるし、アストライアー侯爵家幻獣見守り隊の隊長である。
天馬さま方に騎乗して楽しんだあとは、愛おしそうな顔を浮かべて天馬さま方の馬体を洗ったりブラッシングしている。ジャドさんたちともいろいろと話して、コミュニケーションを取ってくれている。ヴァナルや雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちとも同じように接してくれているから、怖いと言って近づかないより有難い。
「ナイにそう言って貰えるのは助かる」
ふっと笑うソフィーアさまを見ながら私は席を立つ。
「いえ。ソフィーアさまも外に出ますか?」
私がソフィーアさまに視線を向ければ彼女も席を立った。家宰さまは執務室に残って雑務を裁いてくれるそうだ。
「私も行く。今日は客人がいるから、セレスティアが暴走しないように見守らないとな」
では庭に出ましょうと声を掛けると、壁際に控えてくれていたジークとリンも動き始める。執務室から階下に降りてサンルームに入り、そこから庭に続く扉を抜けた。東屋の側でヤーバン王とみんなとセレスティアさまが遊んでおり、護衛の方たちは少し離れて様子を伺っている。
ヤーバン王は先程と変わらず毛玉ちゃんたちと遊んでいるし、セレスティアさまは天馬さま方に囲まれながら顔を撫でたり、身体を掻いたりして幸せそうにしている。ヴァルトルーデさまとジルケさまは芝生の上に腰を下ろして、数頭の天馬さま方と話をしていた。
ボールを咥えて戻ってきたイルがヤーバン王に返してまた投げてと要求すれば、ヤーバン王がまた『ばひゅ!』という音を鳴らしながらボールを投げた。そうしてまたみんながボールを追いかけていく。
「おばあは元気過ぎだな!」
『保護して数日ですが、良く回復してくださいました』
ヤーバン王の明るい声にジャドさんが答え、雌グリフォンさんたちがうんうんと頷いていた。確かに弱っていたというのに鬼の回復速度を見せたおばあの体力はどうなっているのだろう。
今まで拘束具により力を抑えられていたから、魔道具が壊れたことにより本来の力が働いたのだろうか。まあ奇跡でも魔術でもなんでも良いから、おばあが回復したのは良いことだと私は一行の側へと歩いて行く。
「遅くなって申し訳ございません」
私の声にヤーバン王が振り返る。
「構わん、構わん! 本来なら即帰国していたところだが、私が我が儘を言っただけだ。侯爵が謝る必要はあるまいよ」
にっと歯を見せながら笑ったヤーバン王は戻ってきたイヴからボールを受け取った。ヤーバン王はおばあと視線を合わせて『そら』と声を上げて、彼女の口元あたりにボールを放る。
毛玉ちゃんたちとイルとイヴは空気を察したのか地面にお尻を付けて見守っている。山を描いたボールはおばあの口元に落ちていく。くわっと口を開けたおばあの上の嘴にこつんと当たり、ボールが明後日の方向に転がっていく。
「ははは! 上手く取れないか! よし、もう一度……ほれ!」
ヤーバンの戦士の方が転がったボールを拾い、ヤーバン王に投げ返した。おばあはまた自分の番がきたと尻尾をプリプリに振っていて愛らしい姿を披露しながら、山なりのボールを取るために嘴を開けばボールが丁度口の中に入っている。飲み込んでしまわないかと一瞬心配になるけれど、おばあは食べ物と玩具の区別がちゃんとしているようだ。嬉しそうな顔をしてヤーバン王にボールを返している。
『ピョエ!』
おばあがなにやらヤーバン王に訴えているのだが、流石にグリフォン語は分からないようできょとんとしていた。
『遠くに投げて欲しいそうです。取れなくともみんなと走るのが楽しいと』
「なんと……! おばあは優しいのだなあ……!」
ジャドさんの通訳にヤーバン王が目尻に涙を溜めていた。セレスティアさまの耳に入っていれば、ヤーバン王と一緒に感動に打ちひしがれていそうである。
ヤーバン王はボールを左手に握り込みぐにゅりと形を変形させながら、右手でおばあの頬を撫でていた。器用なことをしていると感心しながら私は東屋に移動して、彼女たちが戯れる姿をソフィーアさまと一緒に見守るのだった。
午前中一杯遊んだ方たちはお昼ご飯の時間に差し掛かると流石に疲れたようである。侍女の方が『食事の用意ができました』と呼びにきてくれたため、お客人と一緒に食堂へと向かう。
おばあが寂しそうに『ピョエ~ピョエ~』と鳴いているので、後ろ髪を引かれる思いを抱えている方が二名いるが、ジャドさんと雌グリフォンさんに囲まれたおばあは鳴くのを止めている。毛玉ちゃんたちは『またくりゅ!』『あしょぼ!』『まっちぇちぇ!』と声を掛け、おばあもおばあで『ピョエ!』と返事をしていた。
「毛玉たちも優しいな!」
ヤーバン王は種族を超えた思いやりに感動を覚えているようである。毛玉ちゃんたちに視線を向けて目を細めていた。
『ちょうじぇん!』
『おばーはまみょる!』
『にゃーばんおうはごーきゃい!』
毛玉ちゃんたちはヤーバン王を見上げてドヤと胸を張っている。どこまで理解しているか分からないけれど、毛玉ちゃんたちの中でおばあは保護対象のようだ。セレスティアさまも『種族を超えた愛ですわ!』と唸っており、鼻にハンカチを当ててなにかに耐えている。
ご飯と聞いたヴァルトルーデさまとジルケさまは寝転がっていた芝生から立ち上がり、私たちの下へ歩いてきた。毛玉ちゃんたち三頭が二柱さまの周りをクルクル回り、ついでにヤーバン王の周りとセレスティアさまの周りもクルクルする。
「足下、危ない」
「毛玉、蹴られてもしらねーぞ」
二柱さまの声に『だいじょうびゅ!』『よけりゅ!』『いちゃくにゃい!』と毛玉ちゃんたちが主張する。どうやら歩いている私たちの足とぶつかる気はないようだ。ヴァルトルーデさまとジルケさまに声を上げる毛玉ちゃんたちにヤーバン王とセレスティアさまが目を細める。
「毛玉は愛嬌があるな」
「ぶほぉ!」
ふふふと笑うヤーバン王と毛玉ちゃんたちの可愛らしさにやられる某辺境伯令嬢さま。とりあえずご飯を食べようと促して今度こそ食堂へ向かう。それぞれの席に腰を下ろして配膳された昼食を嗜んでいる途中、珍しく家宰さまが姿を現した。どうしましたと私が問えば、家宰さまは一度咳払いをする。
「ご当主さま、書簡を送った国から返事が届きました」
不届き者を捕らえたため早急にアルバトロス王国へ護送するとのことです、と家宰さまが教えてくれるのだった。家宰さまの声に目の色を変えて攻撃的な顔になる方がいらっしゃる。これは一緒に行動することが決まったと息を吐き、食事を終えれば王都に赴くと家宰さまに返事をするのだった。