魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0723:別所にて。

 ――自由連合国首都。

 

 自由連合国の首都にある広場で、第五陣となる聖王国の派遣団が支援物資の配給している。私、アリサ・イクスプロードは聖女として一緒に付いてきた。フィーネお姉さまが第一陣の派遣団長として赴いた時とは随分と街の様子は違い、首都の皆さまは落ち着いた様子で列に並んでいる。青空治癒院も開かれているのだけれど、派遣団の回数が増えるごとに訪れる人は減っていた。良いことだと私は簡易天幕の中で訪れた方に治癒を施しているところである。

 

 「聖女さま、破格の値段で診て頂けて本当にありがとうございます」

 

 私が治癒を施した女性の方が椅子の上で礼を執る。聖王国で何度も同じ台詞を聞いているけれど、目の前の女性は切羽詰まっていたのか、言葉に真実味が詰まっていた。

 新しく代表として立ち上がったフォレンティーナさまの努力により、周辺の領主が引き籠もりを止めて商人が王都に入るようになっていっている。少し食べ物の価格が下がっており、財布には厳しいけれど飢えるほどではなくなっていた。もちろん私たち聖王国と各国の支援が入っているから、首都の状況が改善しているとも言えるからまだ油断はならないけれど。

 

 フォレンティーナさまであれば各国から派遣された助言役の方や自由連合国上層部にいたマトモな方々と協力して、きっとこの国を導いていけるはずだ。

 

 「お気になさらないでください。新に自由連合国の代表として立ち上がったフォレンティーナさまのお陰で、今の価格が取り決められました。感謝の気持ちは代表さまへお願い致します」

 

 私は目の前のお方に伝えておく。青空治癒院の寄付代が低いのは、自由連合国上層部が聖王国にお金をいくらか支払っているからである。無料で診るとなれば有象無象の方がくると分かっているので、心苦しいが治癒代を頂いていた。フィーネお姉さまが第一陣として訪れた時の値段は今より高かったのだ。

 だから第一陣の聖女さま方はケチでお金に汚いと首都の方たちが勘違いを起こしそうになっていたのだが、ウルスラと聖王国の聖女さまと四角い顔の宣教師と首都教会の方たちがこうして訂正している。

 流石に聖王国の大聖女さまはお金に汚いと噂が経てば問題だし、そもそもフィーネお姉さまはお金に固執していない。だから間違った情報を流すわけにはいかないと、特に私とウルスラと聖王国の聖女は頑張っている。

 

 「はい。ですが病気を快方へと導いてくれたのは聖女さまです。感謝致します」

 

 「ありがとうございます。無理をすれば再発することもあるでしょうから、その際は首都の教会へ話をしてみてくださいね」

 

 また礼を執る女性に私は声を掛けた。なんだかむず痒いけれど、お礼の言葉を述べられるのは正直嬉しい。なにも言わず当たり前のように去っていく人もいるので嬉しいやり取りだ。椅子から立ち上がった女性は何度も私に頭を下げながら簡易天幕から出ていく。すると次の方がまた座り、私は聖女として頑張って働こうと気合を入れ直した。

 

 「ふう、終わった。お姉さまがいないのは寂しいけれど、偶にはこうして頑張るのも自分を見つめ返すのに丁度良いのかな」

 

 椅子の上で私が背を伸ばしていると、視界の隅からぬっと影が差す。

 

 「確かに大聖女さま方がいらっしゃらないのは寂しいですねえ」

 

 「!」

 

 私は驚いて背伸びのために上へと上げていた両腕を膝元に一気に戻す。四角い顔の宣教師が声を掛けて私は凄く驚いた。護衛の方たちは身内と判定しているから私が彼の存在に気付くのが遅くなってしまった。恥ずかしい所をみられてしまったと顔に熱が点り始めるのだが、四角い顔の宣教師は片手に持っている聖典を胸に宛てて頭を小さく下げる。

 

 「おやおや、これはこれは。驚かせて申し訳ありません、聖女アリサさま」

 

 「い、いえ」

 

 この人、ちょっと苦手なんだよなあと苦笑いを浮かべながら私は短く声を返した。聖王国の宣教師として方々を回っているため弁が立つ人である。

 フィーネお姉さまが苦手としていた自由連合国前代表とも言葉の応酬を交わしていたそうで、フィーネお姉さまは四角い顔の宣教師が負けているとは感じなかったとか。彼が味方に付けば頼もしいかもしれないが、こうして普段の会話をするには少々落ち着かない相手と言わざるを得ない。

 

 「私は毎回派遣団に同行しておりますが、回を追うごとに首都には活気が戻っております。微々たるものですが、頭の方が変わるだけでこうも違う……いえ、聖王国もあまり他国のことは悪く言えませんな」

 

 はははと目を細めながら四角い顔の宣教師が笑う。毎回参加している彼が言うのであれば本当なのだろう。一緒にきている彼の小間使いであるフードの少年もうんうんと頷いていた。

 

 「患者さんが途切れたようですし、私は配給の手伝いをしてきます」

 

 椅子から立ち上がった私に四角い顔の宣教師の方が少し驚いた顔をしたものの、いつもの顔に直ぐに戻って小さく頭を下げた。

 

 「承知致しました。配給の列には横暴な男性が交ざっている可能性が高いのでお気をつけて」

 

 「はい」

 

 確かに配給の列には横入しようとする方や力で先に行こうとする方がいる。いるんだけれど亜人連合国から派遣されている小型の竜の方が目を光らせているし、護衛の方が私を守ってくれる。非常時は攻撃系の魔術を使っても致し方なしとなっているので、聖女だけでも身を守る手段があった。まあ聖女が攻撃魔術を使うのは、最後の手段であり命の危機と判断した時くらいだろう。

 

 天幕の外に出れば寒空の下に多くの方が配給の列に並んでいる。配給場所の皆さまは忙しそうに小分けにされた袋を首都の皆さまへ手渡していた。

 

 紫色の髪を纏めた女性が目に入る。あれはと私は目を細めるとフォレンティーナさまだと確信した。何故、自由連合国の代表を務める彼女がこんな場所にいるのだろう。しかも執務で忙しいのではないのか。少し前は方々の隣国に足を向け、支援のお礼と首都と周辺領の状況説明に赴いていたはず。疲れた顔なんて微塵も感じさせないまま、笑みを浮かべて作業に参加している。

 なんだか彼女が無茶をしているように見えて私は護衛の方たちにフォレンティーナさまの下へ行きたいと伝える。配給作業の邪魔にならないようにとフォレンティーナさまの下へと移動して、私は彼女の背中を見つめる。列が少し途切れ頃合いだと私は口を開いた。

 

 「フォレンティーナさま。何故、配給所に?」

 

 「あ、アリサさま! お疲れさまです! 少し手が空いたので皆さまのお手伝いをしようと。流石に全てを聖王国の方に任せるのは違いますし、こうして首都のみなさまと触れ合えるのは息抜きになりますから!」

 

 私の声に振り返ったフォレンティーナさまが笑みを浮かべる。にこやかに笑っているけれど、無理はしていないのか心配だ。彼女の後ろに控えている護衛のダルさんは微妙な顔になっているし。各国の陛下方にご自身を差し出そうとした方だから、私は彼女の言葉を真っ直ぐに受け取ることができなかった。

 

 「……」

 

 「え、私、なにか変なことを言っていますか?」

 

 ジト目を向けていた私にフォレンティーナさまが目を丸くして少し慌てていた。流石、元王族の方である。口元に手を当てて驚く仕草は私にはできない。おろおろと困っているフォレンティーナさまに私は片眉を上げ言葉を紡ぐ。

 

 「変なことは言っていませんが、無理をなされているのではないかと心配になります」

 

 ふうと息を吐いた私は目の前の彼女と視線を合わせた。その瞬間フォレンティーナさまの両腕がこちらに伸びてきて、私の背の方へと回った。

 

 「……! アリサさま!!」

 

 耳元で聞こえるフォレンティーナさまの声に、私は嗚呼彼女に抱き留められたのだなあと呑気なことを考えていると、抱きしめられた腕にどんどん力が入る。その力は万力で締め上げているようだ。

 

 「ぐほっ!」

 

 彼女の力に抗えなかった私は無様な声を上げるしかない。

 

 「ひ、姫さま? 聖女殿の背が軋んでおりますよ!」

 

 「え、はっ!? 申し訳ございません! あまりにも嬉しくて、つい……」

 

 護衛のダルさんの声にフォレンティーナさまがはっとして腕を解放してくれる。私は吐き出されていた空気を肺に取り込むように息を大きく吸い込む。元王女である彼女の腕力が想像を超えているなんて誰が思うだろうか。いや、もしかして王族教育として文武両道に鍛えられていた過去でもあるのか。彼女が気付いていないだけで、割と良い教育を受けていたとかあり得そうだけれど……多分、謎は謎のままだろう。

 

 「いきなりで驚きましたが、大丈夫です。でも本当に無理はしないでくださいね。フォレンティーナさまが倒れれば直ぐに駆けつけますが、ずっと側にはいられないでしょうし」

 

 私の言葉にまたフォレンティーナさまの両腕が伸びてきそうになるけれど、我慢ができたようだ。ううと変な顔に彼女はなっているけれど耐えたようである。苦笑いを浮かべていると、途切れていた配給を受けにきた方たちが妙な視線を私たちに向けた。サボっていると思われるのは癪だし、フォレンティーナさまに声を掛けて私は作業に加わるのだった。

 

 どうか、この国が元の活気に戻りますようにと願いながら。

 

 ◇

 

 西大陸の各国が魔獣や幻獣を保護すれば、王家に連絡するようにという取り決めをしたらしい。無抵抗な魔獣や幻獣に暴力を振るうのも駄目という決まり事を作ってくれた国もあるそうだ。行き過ぎれば生類憐みの令のようになりそうなので、匙加減は気を付けて欲しいところ。話を聞いた私たちはアストライアー侯爵領領主邸のサンルームで今回の件について幼馴染組と語り合っていた。

 

 「うーん……当事国以外も関わってくれるとは」

 

 本当に。私は他の国にお願いしたつもりはないというのに、話を聞いた各国の上層部が彼の国のルールを取り入れようと動いてくれたそうだ。亜人連合国の皆さまも喜んでくれているし、ヤーバン王も『無駄な犠牲が減りそうだな』と頷いてくれていた。

 けれど西大陸のほとんどの国が魔獣や幻獣を保護すれば国に報告するようにと、ルールを制定するなんて私は全くの想定外である。目の前で紅茶を静かに啜っていたクレイグとサフィールが持っていたティーカップをソーサーの上に置いて私と視線を合わせた。

 

 「ナイの名声が広がっちまった影響だな。おばあみたいな奴にとっちゃ良い結果じゃねえの?」

 

 「だね。優しい仔たちは本当になにもしないんだから。不幸が起こる前に問題の芽を摘み取れるようになるかもしれないよ。ナイは浮かない顔をしているけれど」

 

 片眉を上げるクレイグと小さく笑うサフィール。両隣で話を聞いているジークとリンは聞きに徹するようでなにも言わない。サンルームにいたおばあが『ピョエ』と鳴けば、クロが『お茶は美味しいの?』って聞いているよと教えてくれた。流石に紅茶をおばあにあげる訳にはいかないと、おばあには水を用意して貰うようにと侍女の方にお願いするのだった。

 

 ◇

 

 なんだか自由連合国は新たな代表の手に依り、首都の状況は随分と改善しているようである。グイーさまの使者として自由連合国に赴いた私たち一行は街の中を見たわけではないので、前後の変化はさっぱり分からない。

 ただアルバトロス王国から届くお知らせでは、首都は代表の交代により随分と雰囲気が変わっているそうだ。もちろん、良い方向に。各国から届いた支援物資は聖王国を経由して届いて――前代表が信用ならぬ方だからと、各国は聖王国を通して支援をすると決めたそうだ――滞りなく首都の皆さまに渡っている。エーリヒさまとユルゲンさまもアルバトロス王国の外務官として首都の状況調査に赴き、つい先程アルバトロス王都に戻ってきたそうな。

 

 私が城の魔術陣に魔力を補填するタイミングに合わせ、何故か彼らからの状況報告会をアルバトロス城で開くことになっていた。魔術陣への魔力補填を終え城内の本丸――で、良いのかな?――の廊下を歩いて、とある一室に案内された。

 

 会議室の雰囲気に近いものの調度品が豪華なので、高貴な方たちが話し合いの場で使用しているのだろう。一応、私も高貴な者に分類されるし、エーリヒさまもユルゲンさまもお貴族さまである。

 妥当な部屋かなあと視線を動かして、先に待っていてくれたエーリヒさまとユルゲンさまに私は礼を執る。私の後ろに控えているジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまも軽く頭を下げているようだ。そして何故か一緒に付いてきているヴァルトルーデさまとジルケさまは目の前のお二人を身内と認めているのか、軽い雰囲気を醸し出している。知らない人であれば割と空気が硬くなるので、そういうことだろう。

 

 「お待たせして申し訳ありません、ベナンター卿、ジータスさま。無事にお戻りになられてなによりです」

 

 私の姿を見るなり、エーリヒさまとユルゲンさまは応接用の椅子から立ち上がって頭を下げる。

 

 「ありがとうございます、アストライアー侯爵閣下」

 

 「閣下、ご丁寧にありがとうございます」

 

 友人と認めている相手に頭を丁寧に下げられるのは痒いけれど、きっとお二人も私と同じ気持ちだろう。顔を上げたエーリヒさまとユルゲンさまは出会った頃より随分と男性らしい顔となっている。

 背負う雰囲気も独特なものに変わっている。社会人となっていろんな国を飛び回っているため、身に着けざるを得なかったというか。そして彼らが方々を飛び回っている原因の大半が私由来な気がする。いや、本当に申し訳ないと平身低頭に謝りたい気持ちが湧いてくるものの、侯爵位を持つ私がそれをやればお二人が困る。なのでやらないけれど、いつかきちんと恩を返せると良いなあとは考えていた。

 

 「座りましょうか」

 

 私は部屋付きの侍女の方にお願いして、お茶を用意して頂く。ヴァルトルーデさまとジルケさまが『お茶、いいなあ』という雰囲気を醸し出しているものの、今は侍女の立場なので我慢しているようだ。私が女神さま方に座って飲みますかと問えば、今は私の侍女だからと固辞された。凄く珍しいので、明日は大雨でも降るかもしれないと肩を竦めながら私は前を向く。

 

 侍女の方がお茶の準備を始めれば、茶葉の良い匂いが漂ってくる。紅茶も最初は味が分からなかったけれど、飲み慣れてきたのか少しだけ銘柄や産地が判断できるようになっている。

 出されたお茶の産地を私が当てると、屋敷の侍女の方は嬉しそうな顔を浮かべるのでお茶好きの方なのだろう。確かに提供したお茶やお菓子の産地や銘柄を誰かが言い当てたならば、おお凄いと感動するので侍女の方が喜ぶ気持ちは分かる。湯気が漂うティーカップが部屋付きの侍女の方から差し出されれば話し合いが始まる。

 

 「首都の状況は随分と改善され、病気が流行る心配や飢餓に陥いる方の危険度は随分と低くなったかと」

 

 酷かった首都の状況が改善されているとエーリヒさまが報告してくれた。

 

 「それは良いことです。我が家も協力した甲斐がありました」

 

 一応、フィーネさまから前代表は困った人物だったと聞いていたし、首都の状況もよろしくないと聞いていたので、アストライアー侯爵家も支援物資を自由連合国に提供している。

 直接送るのは癪だったので、教皇猊下とフィーネさまとウルスラさまに相談して聖王国経由で届けていた。まあ改善の兆しがあるなら協力した甲斐があるというもの。失脚した代表が自由連合国の長を務めたままであれば、今頃自由連合国は隣国から攻め入られて分割統治されていそうである。新代表は未熟ながらも精力的に動いているそうで、首都の方から支持を集めているとか。

 

 「そのことですが、フォレンティーナ新代表から手紙を預かっております」

 

 ユルゲンさまが胸元の内ポケットから手紙を私に差し出した。なんだか先程新代表のことを考えていたので、記されている内容に対して少し身構えてしまう。ただ開封されているので、アルバトロス上層部を経由して私に届けるためだろう。ということは王家と上層部に内容は問題ないと判断されている。

 

 「検閲済みということは、アルバトロス上層部にも知っておいて欲しかったということでしょうし……なにが記されているのでしょう」

 

 私はユルゲンさまとエーリヒさまに視線を向けた。お二人は苦笑いを浮かべているので手紙の内容を知っているようだ。個人的なものではないと分かるが、今回は個人的なものであって欲しかった。

 むーんと私が考え込んでいればエーリヒさまとユルゲンさまが口を開く。

 

 「訝しむ必要はないかと」

 

 「一先ず、目を通して頂ければ幸いです。閣下」

 

 お二人に促されてテーブルに置かれた手紙を私は手に取り中身を取り出す。結構な枚数になっているのだが、果たしてなにが記されているのやら。一枚目は定型の挨拶がびっしりと書き込まれ、本題は二枚目からのようである。一枚目に軽く目を通した私は二枚目をゆっくりと読み進めた。支援のお礼が丁寧に綴られたあと、前代表の無礼の謝罪も記されている。

 特に気にしていないので忘れて欲しいのだが、グイーさまの使者である私に矢を向けた事実は方々の国から永遠に擦られそうである。新代表となったのだから、新たな縁を結びましょうとでも返事を記すべきだろうか。そして三枚目。これが新代表の一番伝えたかったことのようだ。

 

 「……」

 

 私は三枚目を読み切れば、ソフィーアさまとセレスティアさまが問題なければ読ませてくれとお願いしてくる。特に問題ないと私は素直に手紙を渡した。

 お二人が速読すると何故かジークとリンとヴァルトルーデさまとジルケさまにも手紙が渡る。まあ新代表が三枚目に記していたことがヤベーなら今読んだ四人と二柱さまが判断してくれるだろう。とりあえず私は前へと向き直って、エーリヒさまとユルゲンさまに視線を向けた。

 

 「グイーさまからお預かりした石が宝物庫に放り投げられていたことを物凄く謝られているのですが、どう返事をしたものでしょう。グイーさまに内容を伝えた方が良いのか……」

 

 新代表が綴った三枚目の手紙には『お預かりした石をずさんな管理をして申し訳ありませんでした! 今はきちんと城の一室に安置して厳重な警備を敷いておりますぅ!』という内容であった。最後には『私の首で許されるのであれば差し上げます』とも。手紙を読んだアストライアー侯爵家の面々が『要らないだろう』『貰っても困る』という顔になっている。

 私も新代表の首なんて要らないので、是非とも自国のために馬車馬のように働いて欲しい。本当にどう返事をしたものか。面倒だからと無視を決め込める状況ではないし、フィーネさまとアリサさまとウルスラさまも関わっている。仲良くなっているので、友人関係に皹を入れるわけにもいかない。

 

 新代表さまの不安を払拭するにはグイーさまに聞いてみるのが一番だろうと、エーリヒさまとユルゲンさまに問うてみれば微妙な顔になった。

 

 「それは新代表に大きな傷を与えそうなので……」

 

 「グイーさまであれば気になさらないでしょうし、新代表の暗鬱な気持ちを確実に解決方法のような」

 

 エーリヒさまが片眉を上げるので私も眉が釣られて上がってしまう。グイーさまであれば『娘たちが反応できるようにしているし、なんも問題ないぞい?』とか言いそうである。なんなら教会に大量のお酒をお供えすれば凄くご機嫌になりそうだ。

 

 「創星神さまの人となりを知っていれば問題ないと分かりますが、ほとんどの方は夢の中でお会いしただけですからねえ」

 

 今度はユルゲンさまが片眉を上げている。あの夢の内容でグイーさまの人となりが分かるとは確かに思えないけれど、割と軽い調子で語っていたから創星神さまっぽくないというのが私の感想である。

 

 「無難に手紙で返事を記すのが一番でしょうか。また首を差し出すという内容が届けば、グイーさまにお願いして説得して貰いましょう」

 

 部屋にいる皆さまが『オーバーキルじゃないか』と言いたげな顔になっている。隅っこに控えている部屋付きの侍女の方は顔が引きつっていた。

 いや、私の下に生首が届けば嫌だという気持ちは理解して欲しい。新代表は大陸会議で各国の陛下の慰み者になっても良いと啖呵を切った方である。私が新代表が生首差し出しそうと考えてしまうのは彼女の行動の末の結果だ。

 

 「現状の処置で良いのかを新代表に伝えていただければ、流石に首は届かないかと」

 

 「そうですね。石の扱いが分からず不安からくるものでしょうし、閣下からお言葉があれば安心できるのでは」

 

 エーリヒさまとユルゲンさまが苦笑いを浮かべて、手紙を認めて欲しいと私にお願いしてくる。元々、返事をする予定なので問題はない。

 

 「では、直ぐ返事を認めます。気が気ではないようですから」

 

 とりあえず手紙で様子を見て、生首が届きそうな勢いの内容がまた届けば対処法を考えよう。状況が改善しているとはいえ、まだまだ踏ん張らなければならないのが自由連合国である。本当に前代表はなにをしてくれたのかと恨み節を吐きそうになって、ふと気付いた。

 

 「前代表の方はどうなったのですか?」

 

 そういえば忘れていたと私はユルゲンさまとエーリヒさまに視線を向けた。お二人もああそうだと言いたげな顔をしながら口を開く。

 

 「まだ生きております。前代表としてどう責任を取らせようか考えあぐねているようですね」

 

 「いろいろな意見があるでしょうから、自由連合国の皆さまが納得できるものになれば良いのですが」

 

 どうやら前代表はまだ生きており、牢の中で『どうしてこうなった』とボヤいているらしい。プライドが高そうな人だったので獄中生活はさぞ辛いだろう。処分に関して私が口を出すと自由連合国に大きな影響を与えそうだから関与はしないと決めておく。私はアルバトロス上層部経由で自由連合国の新代表に『謝罪、受け取りました。石の管理は今のままで十分です』という内容の手紙を書いて送るのだった。

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