魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0725:修行開始。

 そんなこんなでディオさんの研修が始まるわけだが、食材庫に赴けば凄く感動した様子を見せてくれている。大量の食材が一ヶ所に集められているのが、彼にとって珍しいことなのだそうだ。

 神さまの島では神力を使って食材を生み出し、調理に取り掛かっているのだとか。調理した品を生み出さないのかと問えば、グイーさまが『それは味気ない』と仰ったそうである。何気にグイーさまが神さまムーブをカマしているなあと私が目を細めていると、ディオさんが食材の一角に興味を向けていた。ちなみにフソウの食材を多く置いてあるところである。

 

 「ナイさん、こちらはなんという食材でしょうか?」

 

 どうやら彼はゴボウが気になったようである。私がフソウという国で使われている食材であると伝えれば、彼は丸めていた目を補足した。

 

 「え? 木の根っこを食べるのですか? 食べ物……?」

 

 やはりフソウの食べ物は神さまでも珍しいようである。ラディッシュ、ビーツ、コールラビ、ルッコラ、ケールなどのヨーロッパの方で普及しているお野菜さんは普通に受け入れており、それ以外の品となると珍しく感じるようだ。

 知識の差なのか創星神さまであるグイーさまの知識に影響されているのか分からないが、彼のテンションが少し上がっているので楽しいようならなによりだ。彼の質問に答えていれば、隣にいた料理長さまが苦笑いをしている。他にも気になる品があるようで、またこれはなにかという質問が飛んでくる。そして私が答えると、想像の域を超えているのかディオさんの頭の上に疑問符が浮きまくっていた。

 

 「やまいも……? 擦るとネバネバする?」

 

 どうやら山芋さんも珍しいようである。分からないのであれば食してみるのが一番だろうという結論になり、数日後はフソウの食材がふんだんに使われそうである。ディオさんは次にフソウの大根へ目がいったようだ。私がラディッシュの一種であると伝えれば、またも目を見開いている。

 

 「このように大きなラディッシュがあるのですか?」

 

 「フソウにはあるんです」

 

 「フソウという国は人間ではない者が住んでいるのでしょうか……不思議な国です」

 

 小さな国だからディオさんにとってフソウはどのような国なのか想像ができないようである。一度、案内してみるのもアリかなと私が考えていると、ヴァルトルーデさまとジルケさまが面白そうに口を開いた。

 

 「ミカドもナガノブも普通の人間」

 

 「島国だから独自進化したんだろ。身に纏う衣装も変わっているしな」

 

 ヴァルトルーデさまもジルケさまも行ってみるまで、全く知らなかったはずなのにドヤ顔でディオさんに語っているのは面白い。

 

 「王都の子爵邸にある畑がこっちにないのが残念」

 

 「そうだな。妖精が野菜作ってくれて美味かったのに、こっちじゃあ穫れねえからな」

 

 何故かヴァルトルーデさまとジルケさまが子爵邸の家庭菜園について口にした。確かにドカドカ野菜が採れる不思議な畑がないのは不便であるが、侯爵邸に妖精さんの畑が現れると領内にある商店から買い付ける量が減ることになる。

 規模次第だけれど、大きな家庭菜園を作ればそれだけ魔力も必要になってくるはず。あ、でも天馬さま方とグリフォンさんたちが増えたことで野菜の購入量が上がったと聞いている。

 魔獣や幻獣の方たちのために小規模の畑を作るのはアリかもしれない。おばあも喜んでくれそうだし。それなら小さな規模の畑を作って貰って、魔力をドパーしても良さそうだ。ふむ、と私が一人で頷いていると、ディオさんが首を傾げた。

 

 「お嬢さま、そのような畑があるのですか」

 

 「ある」

 

 「あるぞー。ナイの屋敷だからな」

 

 ディオさんが不思議そうにお嬢さま方に問えば、凄く軽い答えが口に出ていた。ディオさんも『確かにナイさんの魔力量があれば、妖精が居付くでしょうね』と納得している。

 なんだか理不尽と言いたくなるのを抑えて、どうして妖精さんが作ったお野菜さんを女神さま方が気に入っているのだろう。特に今まで言及されていなかったため、女神さま方の気持ちに私は全く気付いていなかった。疑問に感じてお三方に聞いてみれば、ディオさんが代表して答えてくれる。

 

 「妖精由来のものなので、神であるお嬢さま方が口にした際、体内で馴染みやすいのでしょう。おそらく私も」

 

 なるほど。妖精さんが関わって作ってくれた物は神さま方には体内吸収効率が上がるというわけか。もしかしてコレは早急に畑を作らなければいけないのかと、私はジークとリンと料理長さまに視線を向けた。

 三人は『だな』『面白畑がまたできる』『有難いですが、奇跡の産物ですから……』と微妙な反応であるものの、私の意見に反対する気はないようである。ちょっと家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまに伝えて許可を貰えたら庭師の方と相談しよう。天馬さま方とグリフォンさんたちが増える予定もあるし、他家よりエンゲル係数が高いと聞いている。

 

 そんなこんなでディオさんを料理長さま方に引き渡しするのだった。大丈夫か心配だけれど、物腰柔らかい彼であれば特に問題はないだろうと。

 

 ◇

 

 ご当主さまから男神である神さまを預かることになった。

 

 神さまが調理の修行を受けるって一体どういうことだと言いたくなるが、アストライアー侯爵家ではヴァルトルーデさまとジルケさまという女神さまがいらっしゃる。

 二柱さまは割と高い頻度で調理場に顔を出し、今日のメニューはなにかと問うて一喜一憂したり、小腹が空いたからなにか食べさせて欲しいと我々に訴えてくることもあった。腹が空いては大変だろうと、ちょっとした品を出せば凄く喜んだ顔で食べてくれ『美味しかった』と皿を返してくれるのだ。

 

 そんな二柱さまを見て料理人として凄く誇らしいのだが、ご当主さまは『ご飯前に女神さま方に差し出すのは禁止です!』とぷりぷり怒りながら――といっても怖くない――調理場に赤毛の双子を連れてやってきたこともある。

 ご当主さまは三時のおやつを過ぎて夕飯までの間食を女神さま方にして欲しくないようだ。思い返せば、ご当主さまはたくさん食べるというのに時間以外で食べることをほとんどしない。そりゃ、政務で遅れて食べることもあるのだが、そういう時は次の食事量を減らしたりして……はないか……おやつの時間をナシにしている。

 

 猫又であるトリグエルさまも頻繁に『カツオブシ~くれ!』と要求してくるし、今更、修行したいと神さまから求められてもおかしくないのかもしれない。まさか他家の料理人を修行で受け入れるより前に神さまを受け入れることになるとは。本当にアストライアー侯爵邸はトンデモなことが起こりやすい。

 

 私、料理長は男神であるディオさまを引き連れて、食材庫から調理場に戻ってきた。後ろを歩いていたディオさまは下級の神さまだとご当主さまから聞いている。

 確かに二柱さまから感じる圧より柔らかければ物腰も凄く低い。丁寧な言葉使いを心掛けているようだが、私はご当主さまではなく屋敷の料理人というだけ。神さまに丁寧な態度で接せられるのは少しむず痒いが、直して欲しいとも言えない。そのうち環境に慣れてディオさまが普通の態度になってくだされば良いのだが。

 

 「調理の基礎はご理解なさっていると思うので、最初はなにか一品作って頂きましょうか」

 

 「なるほど。私の料理の腕前を推し量るのですね。緊張しますが、頑張ります」

 

 私が告げればディオさまがふむと頷いた。創星神さまより『普通に人間と接する態度で構わんぞ』というお声は頂いて――侯爵家の調理人全員が夢で見た。ご当主さまが創星神さまの使者を務める際に見た夢と同じ方だから本物だろう――いるので遠慮は必要ないのだが……やはり緊張してしまう。他の者たちも私とディオさまがどう行動するのかと気になるようで、作業をしながらチラチラ横目で見ていた。

 

 働いている者の腕を確かめるために得意な料理を作って貰い、私が評価を下すということは偶に行っている。見習いの料理人もいるし、正式な侯爵家の料理人でも腕を鍛えることに余念がない。

 私もいろいろと学びを得て日々成長しているはずだ。侯爵邸では世界各国のレシピを得ることができ、食材も方々からご当主さまが取り寄せている。料理長としても有難い環境であるが……神さまに料理を教える日がこようとは。

 

 私が考え込んでいると、ディオさまが調理台に並べられた食材を見定めて調理に取り掛かり始めていた。まだ慣れていない調理場なのでどこになにがあるか分からないだろうと、必要な道具を聞き出しておく。そして空いている火の場を伝えて、私はディオさまが野菜を切る姿や鍋に具材を落とすところを見ているのだが所作が凄く綺麗だ。

 

 「凄い」

 

 私以外の誰かがぽつりと声を零す。確かに雰囲気があるし、ディオさまの姿を見ていた者たちが見惚れていた。そんな見惚れている者のことなどディオさまは一切気に留めず、人参、セロリ、玉ねぎを細かく切り、ズッキーニ、インゲンを少し大きめに切ったあと鍋に入れ水を足し、最後にローリエを入れて火に掛けた。

 ポトフかと私が首を傾げながら暫く観察させて頂いていると、彼は最後に塩胡椒で味を調え、オリーブオイルを垂らしている。やはりポトフを作っていたようだ。好みでベーコンを加えたり、豆や米を入れることもあるのだが、ディオさまはオーソドックスな作り方を選んだようである。ディオさまは作り終えて、スープを皿に盛り私の前に差し出した。

 

 「お待たせしました。初めて屋敷の方以外に提供するので少し不安ですが」

 

 「作る過程は全く問題なかったので、心配しておりませんよ」

 

 片眉を上げるディオさまに私は味の心配はしていないと伝える。スプーンを取ってひと掬いして口に含めば味は全く問題はない。気になるところといえば、盛られた皿に色気がないところだろうか。

 

 「どうしてこちらの皿を使われたのでしょうか?」

 

 「特に理由はありませんね。食べられれば問題ないでしょう」

 

 確かに食事は腹を満たすことが一番の目的である。目的ではあるが、余裕があるのであれば皿や盛り付けにも気を使って欲しい。創星神さま方に料理を提供なされている方なので腕の方の心配はないようだ。ただ、お皿の選び方や盛り付けの仕方は少し力を入れてディオさまに学んで欲しいことかと、私はもう一口ポトフを口に入れる。

 

 「……」

 

 ふと、いつも新人の面倒を見るようにディオさまに料理を一品作って貰ったのだが、ご当主さまより先に神さまが作ってくださった料理を食べている……と私は冷や汗を流すのだった。

 

 ◇

 

 ディオさんを調理部の研修生として受け入れて数日が経つ。調理部の皆さまは彼が神さまであることに緊張しつつも、受け入れてくれているそうだ。ヴァルトルーデさまとジルケさまも彼が気になるのか、この数日頻繁に調理場に顔を出しているそうである。

 彼が作った料理の品定めを良くしているそうで、以前より腕が上がっているとか。一日二日で上がるようなものではない気がするものの、女神さま方が言っているのであれば本当だろう。彼が神さまの屋敷に戻り、北と東の女神であるナターリエさまとエーリカさまの偏食が治れば良いのだが。

 

 私は午前中の執務の最中、一息ついたため顔を上げて家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまの方に顔を向ける。真面目に仕事をしている時に申し訳ないが、少しは息を抜かないと肩が凝りそうだ。

 いや、うん。私以外であれば魔術で治すけれど。顔を上げた私にお三方が気付いたようで小さく首を傾げている。あ、これは黙っていると『なにかあったのか?』と聞き出されるパターンなので、彼らより先に言葉を紡ぐ。

 

 「料理長さんによればディオさんの料理の腕は問題ないようですね」

 

 私が口を開くと、ソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまが苦笑いを浮かべる。壁際ではジークとリンがいつも通り護衛に努め、ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちが床に寝転がっていた。ロゼさんはヴァナルのお腹の所でぽよんぽよん動いているから、新しい術式でも考えているのかもしれない。クロとアズとネルと青い幼竜さんと赤い幼い竜さんはそれぞれの肩の上でご機嫌に過ごしていた。

 

 「ん、ああ。最初はどうなるのか不安だったが、調理部の者たちは普通に接しているようだな」

 

 「ええ。まさか神さまに料理の手解きをするなど、誰も考えませんもの」

 

 「とはいえ、神さまに調理を教えたとなれば彼らの実績となりますから。良いことではないでしょうか」

 

 お三方はとんでもないことではあるけれど、調理人の方たちに箔が付くので問題ないと捉えているようである。確かにヴァルトルーデさまとジルケさまが屋敷で寝泊りしているのだし、今更、神さまが増えたところで問題は少ない気がしてきた。聖王国は涙目になるかもしれないが。

 

 「ナイ。畑に魔力を与えるのか?」

 

 「はい。準備が終わったようなので、今日の午後に行おうかなと」

 

 ソフィーアさまの疑問に私は答えた。王都のタウンハウスである子爵邸と同規模の畑をお願いしたため、直ぐ庭師の方が用意してくれたのだ。どうやらタウンハウスの庭師の小父さまと連絡を取って、侯爵領領主邸の庭師の方はいろいろと聞いたらしい。庭師の方とお弟子さんたちの力で完成した畑は立派であった。水汲み場や肥料に道具を揃えてくれていたし、既に畝も作られている。

 

 至れり尽くせりだから畑の妖精さんが怠けないか心配になってくるものの、天馬さま方やジャドさんたちに伝えれば凄く期待していたから、妖精さんは忙しいかもしれない。ルカとジアにはマンドラゴラもどきを楽しみにしているとご機嫌な様子だったので、畑の妖精さんたちにお願いできるだろうか。そんなことを考えていると、セレスティアさまが音を立てながら鉄扇を開き窓の外を見る。

 

 「ナイ! 気合を入れて取り組みましょう!」

 

 彼女は鉄扇を窓の方へと向けているので天馬さま方とグリフォンさんたちのために頑張ろうと言いたいようである。そんな彼女を見てソフィーアさまはふうと深く息を吐き、家宰さまが苦笑いになる。

 

 「ははは。ご当主さま、無事に妖精が誕生することを願います。ヘルメスさんがいるので大丈夫だと信じておりますので」

 

 家宰さまは王都の子爵邸の庭を知っているため今更驚きはしないようである。ただ私の魔力量が以前より増えていることが気になるようで、彼はヘルメスさんに視線を向けていた。

 

 『家宰殿。不肖ヘルメス、ご当主さまの為とあらばたとえ火の中、水の中、森の中、どこへでも駆けつけますし、ご当主さまの役に立って見せます! ええ。食費が嵩んでいるということなので、確かに畑の妖精が誕生すれば便利でしょう!』

 

 執務机の上に置いていたヘルメスさんが魔石をピカピカーと光らせて、何故か凄く気合の入った台詞を吐いた。ヘルメスさんが高笑いをしている幻聴が聞こえるのは何故だろうか。まあ、支出に占める食費の割合が高いと家宰さまが渋い顔になっていたから丁度良い機会のはず。あとは私が畑に込める魔力量を間違えなければ良いだけだ。

 

 「なら、食事を済ませたあと行う予定なのか?」

 

 「はい。そのあと畑に子供たちとほうれん草やキャベツの種を蒔いてみようかなと」

 

 ソフィーアさまが再度質問を飛ばしてきたので私は答える。ヘルメスさんはご機嫌なのか鼻歌を奏でていた。

 

 「分かった。一応、なにか起こってからでは遅いから私も参加する。構わないか?」

 

 「大丈夫ですよ。見ているだけでも良いですし、種蒔きが気になるなら参加なさって貰っても大丈夫です。子供たちがいますが」

 

 ソフィーアさまは畑に魔力を込める際に見守ってくれるようである。彼女であれば問題が起こっても即応してくれるので有難い。私が連絡役を務めると『やべえ、どうしよう』という意識が先にきて、動くのが少し遅くなってしまうのだ。ソフィーアさまが参加を決めれば、セレスティアさまも一緒にくると挙手をし、家宰さまは執務室で待機しているとのこと。ジークとリンはもちろん一緒だし、ヴァナルたちもきてくれるはずだ。

 

 「じゃあ。お昼ご飯まで、執務、頑張りましょう」

 

 私が声を上げるとお三方が返事をくれる。子供たちが参加するなら、ユーリも誘ってみようと決めて再度仕事に取り掛かった。

 

 ――お昼の十二時となった。

 

 今日の仕事は綺麗に片付き、明日の分の仕事を少しだけ裁くことができたので上々だろう。今日のお昼ご飯はなにかなと食堂に移動すれば、ヴァルトルーデさまとジルケさまとクレイグとサフィールが先に待ってくれている。

 

 「遅れました」

 

 「大丈夫。時間通り」

 

 「ま、あたしらが早くきただけだからな。気にすんな」

 

 私が謝罪を口にするとヴァルトルーデさまとジルケさまがフォローを入れてくれた。確かに時間通りだけれど、待たせてしまったことは事実である。五分前行動を心掛けているけれど、偶に外れることがあって今日がその日だった。身内ばかりだから構わないけれど、知らない方だと平身低頭謝らなければなと考えていればクレイグと視線が合った。

 

 「ナイ、俺も畑に行って良いか?」

 

 「構わないよ。サフィールもくるしね」

 

 クレイグは畑に興味があるようで午後からお手伝いをしてくれるようである。彼なら子供たちの面倒を見れるし助かると、私は特に問題ないと許可を出してサフィールに顔を向けた。サフィールは私と視線を合わせて肩を竦める。

 

 「子供たちが楽しみにしているから、魔力を込めすぎて変なことにならないように気を付けてね。ナイ」

 

 「……頑張ります」

 

 どうやら彼は私のざっくり魔力放出が危ないから十分に注意して欲しいようである。ヘルメスさんが魔力制御を行っているので大丈夫なはずだけれども……錫杖さんがアッパーな方向にスイッチが入ると少々怪しい……いや、大分怪しい。

 自分でも魔力制御には十分に気を払おうと決めれば昼食が運ばれてきた。焼きたてのパンとスープがメインで、スープにはお野菜さんがゴロゴロ入っていて美味しそうである。パンも綺麗に焼きあがっているのだが、いつもより形が歪なような。といっても味に変わりはないだろう。そもそも料理長さまの厳しいチェックが入っているため、合格ラインに届かなければ私たちに提供されないのだから。

 

 「いただきます!」

 

 さっそく手を合わせて頂くのだが、いつも通り美味しい料理なので大満足である。女神さま方も幼馴染組も特に問題ないようで、ぺろりとみんな平らげていた。お皿の上に残り物がないようにと気を付けて『ごちそうさまでした』とまた手を合わせる。

 すると物陰から料理長さまとディオさんがひょっこり現れた。料理長さまは被っていた帽子を脱いで胸元辺りに抱え、ディオさんがこちらへと歩を進めて礼を執った。クレイグとサフィールがぎょっとしているけれど、今更ディオさんに礼を執るなと言っても無意味だろうから諦めて欲しい。

 

 「如何でしたでしょうか?」

 

 どうやら今日はディオさんが昼食のほとんどを任されていたそうだ。料理長さま曰く、最初にディオさんに作って貰ったスープは薄味だったので改良を加えたと。

 パンも昨晩から用意して種を寝かし、早朝に窯の中へ放り込んだとか。形が少し歪だったのは、彼は神力を使ってパンを創造していたため手作業に慣れていないためだったそうである。

 というかディオさんは数日で成長し過ぎではないだろうか。でなければ料理長さまから信を得て一食を任されたのだから。

 

 「美味しかったです。ごちそうさまでした」

 

 「うん。美味しかった」

 

 「そういや、屋敷の飯より全然美味かった。ごちそうさん」

 

 私がディオさんにお礼を伝えると、ヴァルトルーデさまとジルケさまが続き、ジークとリンとクレイグとサフィールも『ごちそうさまでした』と声を上げる。

 ディオさんは照れ臭そうに『お嬢さま方に褒められました』と料理長さまに告げると『良かったですねえ』と声が返った。ディオさんの修業期間は短そうだと私は頷き、一時間休憩したあとで裏庭に集合と声を掛けておく。ディオさんと料理長さまは片付けと従業員の皆さまの食事の準備に取り掛かるとのことで私たちとは別行動である。

 

 ――一時間後。

 

 私はユーリを連れて、ジークとリンとヴァナルたちと一緒に裏庭に移動する。裏の日当たりの良い場所に小さな畑がぽつんとできていた。庭師の方が私の姿を見て礼を執り、私も軽く頭を下げる。

 

 「本日はよろしくお願い致します。急な話となってしまい申し訳ありませんでした」

 

 「いえ、ご当主さま。私の好きなように庭を管理させて頂いておりますので、裏庭に畑を作ることくらい造作もないことです」

 

 侯爵領の領主邸の庭師さんとは余り話したことはない。基本、庭は庭師の方の趣味嗜好に任せるとお願いしているので、方向性を示せていないので当主としては失格だろう。

 屋敷にある庭園を凝るお貴族さまは多いと聞くし、当主が庭を気に入らなければ退職という理不尽な目に合い易いとか。侯爵邸は広いというのに、ずっと綺麗な庭を維持して貰っているのだから文句なんてない。時折、庭師の方から育てる植物はなにが良いかとか相談があるけれど、生憎と花関連はさっぱりなので家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまに協力して貰っている。

 

 庭師の方と今後、庭をどうしていきたいか話を聞いていれば、クレイグとサフィールが子供たちを連れて、ヴァルトルーデさまとジルケさまがエルとジョセと天馬さま方とジャドさんとイルとイブとグリフォンさん四頭とおばあを連れてきた。

 

 子供たちは天馬さま方やグリフォンさんたちがいてもなにも問題ない。というか天馬さま方の鼻を撫でたり、グリフォンさんたちの尻尾で遊んでいた。サフィールが気まずそうな顔をしたけれど、天馬さま方とグリフォンさんたちが問題ないなら構わない。

 私は子供たちが天馬さま方とグリフォンさんたちと遊んでいる間に魔力を込めてしまおうと、ユーリをジークに預けて畑の前に立つ。十二畳ほどの広さの小さな畑であるものの、家庭菜園レベルなら十分なもの。

 

 「ヘルメスさん、私が魔力を込めすぎないように調整をお願い致します」

 

 『はい! もちろんです! 初めての共同作業ですね、ご当主さま!! うふふ……!』

 

 なんだろう。ヘルメスさんの艶めいた声に不安しかないけれど、私のお願いは聞いてくれるはず……と腹の真ん中あたりを意識して魔力を練る。私の短い髪がはらはらと揺れ始めお腹に熱が点る。

 

 『流石、ご当主さま。並の者ではできないことを、やってのけてくださいます! ヘルメスでなければ御しきれませんよ!』

 

 ヘルメスさんがなにか言っているけれど、凄く喋る錫杖さんのことだ。ノリが良いだけだろう。私は無意識に右手を前へと突き出して、身体の中に渦巻く魔力を一気に外へと放出させた。なんだかアルバトロス城の魔力陣への補填以外で久しぶりに魔力を消費した気がする。

 

 『あ、あら? ……まあ、良いでしょう』

 

 なんだか凄くスッキリしたのだが、ヘルメスさんの助力のお陰だろうか。ヴァルトルーデさまとジルケさまが呆れた顔になって『魔力凄く出してた』『ケロッとしてやがんな、ナイの奴』と言っているが、そんなに出したつもりはない。さて、今度は畑に種を蒔こうと庭師の方にお願いしていた、冬に種を蒔く野菜を受け取るのだった。

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