魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0729:ちょっと西へ。

 ジルケさまが何故かジャーキーを食べたいと言い出した数日後、今度はヴァルトルーデさままで食べてみたいと告げた。私はまた『味がないですよ』と言っても、とりあえずトライしたいようである。

 周りの皆さまは女神さまに魔獣と幻獣用のおやつを渡して良いのかと悩んでいるものの、女神さま方の好奇心が勝っているのだから仕方ない。私はまた調理場からストックしていたジャーキーを貰って、ヴァルトルーデさまに渡せば微妙な顔を浮かべて食べているのだった。

 

 また数日の時間が過ぎて。三月初旬になっている。

 

 普段通りの日々を過ごしている中、テオとアンファンが王都に旅立つ準備を始めていた。持って行く荷物は少なく、鞄一つで十分なのだとか。

 ユーリと別れることで少し寂しそうなアンファンと、王都でお針子見習いとして働いている妹のレナに会えるテオは嬉しそうである。ユーリはアンファンとの別れの時期が近づいているとは知らず、いつも通りに過ごしていた。いなくなってから気付いて大泣きしそうだと乳母の方が心配していたけれど、どうなることやら。

 

 私たちは私たちでいろいろとお誘い頂いているため、今日はヤーバン王国に向かう。亜人連合国の皆さまも招待されており、ヤーバン王国はちょっとしたお祭り騒ぎなのだとか。私は雌グリフォンさんたちから預かった卵四つをヤーバンの皆さまにお見せするため。亜人連合国はヤーバンに移り住んだワイバーンさんたちと小型の竜のお方の様子を伺うためという理由があった。

 

 早朝。まだ薄暗いアストライアー侯爵領領都の外に降り立った超大型竜である青竜さんと赤竜さん二頭の盛大なお迎えに苦笑いを浮かべながら私は挨拶をする。一緒に向かうおばあは驚きで垂れた目を見開いて、うず高い超大型竜の方を見上げていた。

 クロが飛んで行き青竜さんと赤竜さんに事情を説明すれば、二頭のお方はなるほどと理解してくれておばあの方に顔を向ける。ド迫力な顔が近づいてきて驚いたおばあは私の後ろに隠れて様子を伺っている。

 

 『おや、老グリフォンは我々のような竜には初めて会いましたか。驚く必要はありません。貴女に敵意はなく、食べることも致しません』

 

 『ええ。我々の図体が大きいだけで貴女と変わらぬ存在です。仲良くしましょう』

 

 尻尾が垂れ下がっているおばあに赤竜さんと青竜さんが声を掛けた。おばあは彼らの声に驚くものの、一生懸命に言葉を理解しようと首を傾げている。私はどうにかなるだろうと見守るだけだ。私の肩へと戻ってきたクロが着地して『大丈夫だよ~』とおばあに呑気な声を掛ける。

 

 『ピョエー……?』

 

 おばあは私の頭の上に顔を置き、また首を傾げている。ジャドさんと雌グリフォンさん四頭はおばあの行動を楽し気に見つめていた。

 

 『さあ、乗ってください』

 

 『時間もありましょうからね』

 

 赤竜さんと青竜さんの声にアストライアー侯爵家の面々がそれぞれ乗り込む。毎度、いつものメンバーで私とジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまと護衛の皆さまである。

 そして当然のように侍女に扮せていないヴァルトルーデさまとジルケさまが一緒だ。まあヤーバン王は二柱さまの正体を知っているから今更だけれど。騒ぎになるため知っている方以外には二柱さまのことは『私の侍女』で押し通す。

 あとジャドさんとイルとイヴ、おばあと雌グリフォンさん四頭に天馬さま方も顔見世として一緒に赴く。身重の天馬さまはなにがあるか分からないのでお留守番だ。赤竜さんの背に乗り込んで鱗の感触を確かめながら私は前を向く。

 

 「では、よろしくお願い致します」

 

 侯爵家の面々が乗り込んで、私は赤竜さんと青竜さんに声を掛ける。

 

 『はい。参りましょうか』

 

 『ナイさんたちを乗せて移動するのは久方ぶりですねえ。では確りと捕まっていてくださいね』

 

 大声を出したわけではないのに、二頭の方にはきちんと届いていた。本当に不思議だと目を細めていれば、大きな翼を広げた赤竜さんと青竜さんから魔力が溢れ出す。

 彼らが動こうとすると身体の中の魔力も一緒に動いているようだ。腰元のヘルメスさんがそう教えてくれ、おばあはきょろきょろと当たりを見渡す。青竜さんの背に乗った天馬さま方は初めて竜の方の背に乗るため、少しおっかなびっくりという感じだった。

 

 侯爵領の領都を見下ろすのは久しぶりである。壁の補修工事や道路整備を行ったため、以前より見た目が綺麗になっている。

 ミナーヴァ子爵領もデグラス領(仮)もアストライアー侯爵領も少しづつ成長しているので有難い限りだろう。私の手腕というより部下の方たちの手柄だろう。そういえば、忘年会とか新年会とか慰労や新しい年になった決起会のような概念はまだないので、今年の年末か来年度早々に開催しても良さそうだ。いろいろと頭の中で考えていると、割と時間が過ぎていたようである。

 

 赤竜さんと青竜さんが地面から離れて随分と高度を上げている。既にアルバトロス王国を超え、国を二つ三つ経ている。西へと移動しているのだが、反対側、ようするに赤竜さんの尻尾側に視線を向けると地平線が見えていた。

 

 「うわあ……凄い景色」

 

 はるか先にある地平から陽が昇り始めていた。陽の光で赤くなっている空と藍色の境目が交じり合って、なんとも言えない色合いを醸し出している。屋敷で寝ていれば見られない景色だと感心して、私の口から勝手に声が漏れていた。

 クロとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんに、毛玉ちゃんたち、そしてジャドさんたちも同じ景色を眺めている。隣の天馬さま方も陽が昇ってきたところを目に焼き付けているようだ。

 

 「凄いな」

 

 「綺麗だね」

 

 ジークとリンが私の後ろで同じ景色を見ている。私が落ちないようにとガードされているのは子供扱いされているようだけれど。

 

 「こんな景色、誰彼が見られるものではないな。本当に凄い」

 

 「ええ。なんて美しいのでしょう」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまも壮大な景色に見惚れているようだ。グイーさまの使いを果たしている時も朝陽が昇る中を移動していたことがある。ただあの時は余裕がなかったのか景色を楽しむことはあまりなかった。偶にはこういう贅沢も良いなあと目を細めていれば、ヴァルトルーデさまとジルケさまが私の横に並ぶ。

 

 「確かに今の景色は竜の背に乗っていないと無理」

 

 「だな、姉御。地上で見るのとはまた違う」

 

 そんなこんなを言いながら景色を楽しんでいれば、幻想的な光景は一瞬だった。陽が昇って空が明るくなり冬の青い空が広がっている。カラりとした澄んだ空気を肺いっぱいに取り込んで、背伸びをすれば凄く気持ち良い。

 お喋りをしつつ、料理長さまが持たせてくれた朝食をみんなで食べていればヤーバン王国に辿り着いていた。なんだか移動時間が短くなっているのは気のせいだろうか。眼下に見えるヤーバン王国王都のお城では見張り台から兵士の方がこちらを確認して、なにやら伝令を飛ばしている。

 

 『少し早く辿り着いたようですね』

 

 『迎えの方たちが慌てているようです。申し訳ないことをしてしまいました』

 

 赤竜さんと青竜さんが王都の上空を旋回しながら高度を落としていく。私はヤーバン城に視線を向ければ、一つの尖塔からヤーバン王の姿を確認することができた。

 

 「あ、ヤーバン王がいる。見えるかな?」

 

 私の声にジークとリンが『上側だからな』『見えていないかも』と答えてくれる。とはいえ彼女と視線が合ったような気がするので私は小さく礼を執る。すると尖塔の窓から顔を出しているヤーバン王がにっと笑って手を振ってくれた。

 

 「見えているのか……凄い視力だ」

 

 「まさか捉えているとは」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが結構な距離があるというのに、ヤーバン王が私たちを視認していたことを驚いている。ヴァルトルーデさまとジルケさまは『彼女だし』『だな』と納得していた。

 私たちはヤーバン王国王都の外にある空き地に降り立ちお迎えがくるのを待っていると、北の空から緑竜さんがこちらに飛んでくる。彼もまたヤーバン王都の空を旋回して、ゆっくりと広場に降り立った。緑竜さんの背の上から、ひょいひょいとディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんが降りてきた。

 

 私たちは彼らの下へと歩いて行き礼を執る。畏まる必要のない仲ではあるが外交の場――多分――である。私がお久しぶりですと声を上げれば、皆さまが笑みを浮かべながら私を見下ろした。

 

 「久方ぶりだ。会えて嬉しい」

 

 「そうですね。なかなか、貴女の領地に行けずにいますから」

 

 「天馬がきて、グリフォンもきて、卵を預かって、ナイちゃんは変わらず忙しそうね」

 

 「本当にね~でも良いことだから。あたしたちは嬉しいよ~」

 

 以前はアルバトロス王都のミナーヴァ子爵邸の隣でしょっちゅう顔を合わせていたけれど、領地に移り住むと簡単に会えなくなっていた。少し寂しい気持ちがあるけれど、頻繁に他国の方と会っていた方が変だったのだろう。とはいえ私が会いたいといえば直ぐに時間を見繕ってくれるし、逆に皆さまが私に会いたいと願えばスケジュールを調整して貰う。

 

 黄金の畑の妖精さんのことや、妊娠している天馬さま方のこと、おばあのことを話していれば、迎えの方たちがやってきた。ワイバーンに乗って。しかも先頭はヤーバン王だ。見事な手綱さばきを披露しながら、ワイバーン十騎が地面に降り立つ。ヤーバン王都の門からは馬車が数台こちらに向かってきている。ワイバーンの背からひょいとヤーバン王が降りて私たちの前に立つ。

 

 「アストライアー侯爵、亜人連合国の皆、良くきてくれた! 歓迎する!」

 

 カラカラと笑うヤーバン王に私とディアンさまが代表として声を返せば、ヤーバン王はジャドさんとイルとイヴと雌グリフォンさん四頭とおばあの方に視線を向けて、なんとも言えない顔を浮かべる。そして私が下げているポシェットに視線を落としてなにか言いたそうな顔をするものの、ぐっと堪えて彼女は城の方を指で差す。

 

 「積る話はたくさんあるが、先ずは城へ向かおう!」

 

 ヤーバン王の声に従い、寄越してくれた馬車に私たちは乗り込んだ。ヤーバン王は馬車には乗らず、そのまま歩いて私たちの護衛に就くそうだ。え、一国の王さまが気軽に務めて良いものなのかと首を傾げるも、ヤーバン王国である。

 強者が王となる風習だからあり得ることかと私は納得して、動き始めた馬車の窓から景色を見る。ヤーバン王国の王都の中に入るのは初めてだし、どんなところだろうと密かに笑みを浮かべるのだった。

 

 ◇

 

 迎えの馬車に乗り込んだ私たちはヤーバン王国王都の景色を窓から眺めている。雌のグリフォンが八頭いるということで、街のメインストリートはヤーバン王国の人たちで溢れ返っていた。

 ヤーバン王が先頭を行き、その後ろにジャドさんとおばあとイルとイヴと雌グリフォンさん四頭が歩き、その後ろに私が乗る馬車が続き、亜人連合国の方たちが乗っている馬車が続いている。ジャドさんと雌グリフォンさん四頭は確り前を向いて歩いているのだが、おばあは街並が珍しいのかきょろきょろと顔を振っていた。

 

 「転ばないよね」

 

 私は馬車の中から心配の声を上げるものの、おばあに届くはずもなく。おばあは狭い場所で過ごしていたためか運動をしておらず、筋肉があまり発達していなかった。

 侯爵邸に移り住み体力が回復してからは、毛玉ちゃんたちとイルとイヴと一緒に走り回っていたので少しはマシになっている。とはいえ野生で過ごしていたジャドさんと雌グリフォンさんの脚取りと比較すれば、危なっかしい歩き方をしているのだ。むーと前を向いて悩んでいると、いつものようにサンドイッチされているヴァルトルーデさまとジルケさまが声を上げる。

 

 「ナイは心配し過ぎ」

 

 「コケても怪我しねえだろ。仮に怪我したなら、ナイが治してやりゃ良いじゃねえか」

 

 肩を竦めるヴァルトルーデさまに呆れて息を吐くジルケさま。私は前を見たまま――ジャドさんたちの姿は見えないけれど――目を細める。

 

 「そりゃそうですけれど、怪我をしないに越したことはないので」

 

 痛い思いはしないで済む方が良いだろうに。確かに魔獣だから怪我の一つや二つ負ったことはあるだろう。とはいえおばあは自由を知らないまま育ったのだ。なるだけ幸せな余生を送って欲しいから、怪我を負うなんてしないに限る。前の座席に腰を下ろして私たちのやり取りを聞いていたソフィーアさまとセレスティアさまが苦笑いを浮かべた。

 

 「ユーリにも過保護なところがあるが、ナイはおばあも心配なのか」

 

 「気持ちは分かりますが、我々にできることは見守るしかありませんわ」

 

 ユーリにもおばあにも過保護になっているつもりはないのだが、周りにはそう見えるようである。幻獣や魔獣が大好きなセレスティアさままで呆れているので、私の心配は大袈裟なのだろうか。

 

 「まあ、心配なものは心配です。というか、ヤーバンの男性は皆さん半裸なんですね……」

 

 私が窓へ顔を向け、メインストリートに集まった方たちを見れば男性は半裸であった。女性も胸の位置を布で撒いているだけなのでお腹が丸見えだ。しかも皆さま鍛えているのか、街中の人であれ腹筋が割れていた。若い女性たちはシックスパックにはなっていないけれど、お腹に縦に筋が綺麗に入っているので結構鍛えているはず。私の声に二柱さまとお二方が窓へと視線を向けた。

 

 「だね」

 

 「だな」

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまはアルバトロス王国や他国と比較しているものの、ヤーバン王国だからと特に感じていないようである。

 

 「服を着て欲しいが」

 

 「こればかりは文化ですものね。なにも言えませんわ」

 

 生粋のお貴族さまであるソフィーアさまとセレスティアさまは視線のやり場にまだ慣れないようだ。ヤーバン王曰く、ヤーバン人は鍛えた筋肉を褒めてくれたら喜ぶそうだ。女性も嬉しいそうだから、ボディービルダー選手権みたいなことを企画すれば、沢山の方が参加してくれそうである。そして応援席から面白い声援が飛ぶ日がくるかもしれない。

 

 「街の雰囲気はアルバトロス王国や西大陸の国々と変わりありませんね。少しこじんまりとしているなという印象がありますが」

 

 私は窓から見える街並に目を向けた。王城に入ったことはあるけれど、ヤーバンの王都の街中を直接見ることはなかった。なんとなくだけれど、中世の欧州というよりは古代っぽい街並みか。少し年代が違うというべきか。

 一階の軒下では売り物の野菜や果物に数々の商品が並んでいるので、経済活動は活発に行われているようだ。さらに王城に近くなれば高級店が増えるのだろう。ヤーバン王国に高級店というイメージはないが貴族階級の方がいるので、そちらの区域に入れば少し空気が違うはず。

 

 露天商があれば店舗を構えて商いをしている方もいるようだ。お店の看板が立っているし、目を凝らせば店の中の商品を捉えることができた。食堂や武具店に装飾品店に衣料品を取り扱うお店もあるので、本当に少しこじんまりとしているだけでアルバトロス王国の王都と変わらない。ヴァルトルーデさまとジルケさまの目線があるお店で止まる。私もそこのお店は気になっていたところである。

 

 「あ、美味しそう」

 

 「すげーな。肉をでけえ串に刺して焼いてるぞ。美味そうだ」

 

 二柱さまの目に入った店前では炭火を熾して、肉の塊を大きな鉄の串に刺して豪快に焼いている。煙の匂いとお肉の良い匂いが馬車の中に入ってきていた。まだ朝の早い時間だけれど、食欲をそそる匂いだ。

 お店の人が頃合いを見て、肉の塊を刺した巨大串をくるりと回している。焼き台の側には大きな瓶が置いているので、中にソースが入っているのかもしれない。塩胡椒で食べるのも美味しいけれど、やっぱりお肉はタレやソースで味わうのも良いよねえと私は目を細める。

 

 「ヤーバンの料理でしょうね。本当に豪快だなあ」

 

 おそらくヤーバン独自の料理だろう。アルバトロス王国では見たことがないし、他の国でも見たことがない。もしかするとお貴族さまだから豪快な料理を知らないだけかもしれないけれど。お腹が鳴りそうになるのを我慢していると、ソフィーアさまとセレスティアさまが苦笑いを浮かべる。

 

 「ヤーバン王が歓迎の宴を催すと言っていたからな。もしかすれば食すことができるかもしれないぞ」

 

 「どうでしょうか? ヤーバンの貴族もあのような料理を食べるのか」

 

 馬車の中で話していれば、ヤーバン城に辿り着いたようである。城門を抜け広い庭を過ぎて馬車回りに辿り着く。ジークのエスコートを受けて馬車から降りたのだが、なんだかいつもより照れ臭い。

 ジークは普段通りなので、少し狡いと愚痴を言いたくなるがぐっと堪える。ふうと息を吐いて前を向くと、後ろの馬車から降りた亜人連合国のディアンさまとベリルさまとアイリス姉さんとダリア姉さんが隣に立った。

 

 少し先にはヤーバン王国の戦士たちが整列し、槍と盾を構えて私たちを待ち構えている。そしてヤーバン王が私たちの前に立ち、大きく息を吸った。

 

 「改めてになるが……アストライアー侯爵、亜人連合国の皆、ようこそ、ヤーバン王国へっ!!」

 

 耳がピリピリしそうになるくらいの大音声が周りに響く。いきなりで驚いてしまったけれど、これがヤーバン王国流の歓迎の仕方のようである。

 ヤーバン王の導きで私たちは戦士たちの前を歩けば、打楽器の音が鳴り始め、ヤーバンの戦士たちが一斉に敬礼を執った。私は胸に手を当て彼らに敬意を表する。ディアンさまも亜人連合国の代表として、戦士の方を見ながら確りと目線を合わせていた。私たちの後ろを歩いている皆さまも、戦士の皆さまに敬意を表していれば、更に後ろを歩いていた雌グリフォン八頭のうち、おばあが立ち止まりこてんと首を傾げる。

 

 『ピョエ?』

 

 『はいはい。行きますよ、おばあ』

 

 おばあにジャドさんが声を掛ければ、歩みを再開させてぴょんこと一度おばあが跳ねる。その姿にヤーバンの戦士の一部の方が『ぐほ!』『ぐっ!』『お可愛らしいっ!!』と口にして、お偉いさん方に怒られていた。

 

 「うっ!?」

 

 「っう!!」

 

 で、もう一方、おばあの愛らしさにやられている方がいる。いや、正しくは二人か。ヤーバン王と某辺境伯家ご令嬢である。アストライアー侯爵家の面々は通常運転と認識しているため平然としているが、亜人連合国の皆さまは一部の方たちが衝撃を受けているのか分からないようである。

 気にしては駄目だと伝えたいけれど、魔獣と幻獣の愛らしさに衝撃を受けてテンションが上がっただけだと知れば彼らは人間に対してどういう気持ちを抱くのか。どう伝えたものかと私が悩んでいると、クロがこてんと顔を傾げて尻尾を動かしながら口を開く。

 

 『おばあはみんなが同じことをしているから不思議みたいだねえ。ぴょんって跳ねたことに意味はないと思うよ』

 

 確かにおばあは侯爵家の庭で跳ねることがある。私たちを見つけてこっちにくるかと思いきや、クルクル回って跳ねてから走り始めることが多い。走れることが楽しいのか、ご飯の時間が嬉しいかくらいに考えていたのだけれど、クロ曰く意味はないようだ。

 まあ、楽しそうならなによりだと私は笑い、おばあの可愛さにやられた人たちに『進みませんか?』と声を掛ける。

 

 「す、すまない。行こう」

 

 ヤーバン王が咳払いをして歩を進める。王城の玄関ホール前にある大きな扉の前には隻眼の雄グリフォンさんとヤーバンに住む雄グリフォンさんたちとアシュとアスターが待ってくれている。アシュとアスターは私に気付いて、こちらに走ってきた。一メートルほど手前で立ち止まり、首を伸ばして顔を近付けてくる。私は手を伸ばしてアシュとアスターの嘴を撫でる。

 

 「顔立ちが確りしたね。元気だった?」

 

 なんとなく彼らの顔から幼さが抜けて、精悍になっている気がする。ジャドさんがいつの間にか私の後ろに回って、アシュとアスターがピョエピョエ言っている内容を教えてくれる。

 

 『元気だそうです。偶に遊びにきて欲しいそうですよ』

 

 ジャドさんがふふふと笑いながら私に顔を向けた。ヤーバンは他国となるので移動は難しいけれど、飛竜便を利用すれば数時間で辿り着く。移動手段のメインは馬車な世界での移動時間数時間は凄く短い時間と捉えられている。それならば、ヤーバン王国にお邪魔する回数を少し増やしても大丈夫だろう。

 

 「そっか。あまり時間が取れないかもしれないけれど、ヤーバン王にお願いしてまたくるね」

 

 「うむ。侯爵や亜人連合国の者ならいつでも歓迎だ!」

 

 私の声にヤーバン王が凄く嬉しそうに許可をくれる。ヤーバン王以外の他の方たちもうんうん頷いているので問題ないようだ。アシュとアスターは嬉しそうに『ピョエ!』と一鳴きして、私が下げているポシェットに顔を寄せる。

 そこには卵さんが四つ入っているので、気配を感じたのだろう。気になるのかなと私はポシェットを持ち上げて、アシュとアスターに見えるように布を捲る。

 

 「あ、卵、気になるよね」

 

 私がポシェットの布を捲れば、黄色く輝く卵さんが四つ見えた。ヤーバン王もぱあと顔を輝かせながら中を覗き込みたそうにしているけれど、アシュとアスターに先を越されている。ポシェットの中を覗き込むアシュとアスターはピョエピョエ鳴いてなにかを訴えていた。

 

 『卵を初めてみたと。他の雄たちにも見せてあげて欲しいそうです』

 

 「良いのかな?」

 

 ジャドさんを私が見上げると彼女は目を細める。

 

 『ナイさんが良いのであれば』

 

 私は問題ないとヤーバン王の顔を見れば、彼女も構わないと無言で頷いてくれた。しかし雄グリフォンたちの中に私が行っても大丈夫だろうか。少し心配になっているとアシュとアスターが『こっちだよ』と言いたげに、雄グリフォンさんたちの方に顔を向けた。

 そしてアスターが私の背の後ろに回って、顔を背に押し付けて移動を促す。ぐいぐいと押された私の身体が勝手に前へと進めばジークとリンも一緒にきてくれ、ジャドさんが眼光鋭くして横を歩いてくれている。

 

 私が雄グリフォンさんたちの下へ辿り着いて、彼らにポシェットの中を見せれば『ピョエーーーーーー!』という大合唱が始まった。嬉しさのあまりに歓喜の鳴き声をみんなが揃って出しているそうなのだが、流石にグリフォンさん全開の声量で鳴けば耳がおかしくなりそうだ。卵さん、驚いていないかなと心配になってポシェットの中を見れば、なんだか黄色く輝いている卵さんの光が弱くなっているような。

 

 『はあ……これだから雄は……仕方ありません。ピョエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

 

 ジャドさんが呆れ声を上げれば、雄グリフォンさんたちの声を上回る声量で一鳴きした。すると雄グリフォンさんたちがビクンと身体を揺らし目を丸くして驚き、一歩、二歩と下がって行く。アシュとアスターは平気なのか、特に気にする様子はないまま卵さんの入ったポシェットを愛おしそうに見ていた。そして隻眼の雄グリフォンさんが『ピョエ……』と短く声を漏らす。

 

 『煩くしてごめんなさい、だって……』

 

 今度はクロが通訳を担ってくれたのだが、一番煩かったのはジャドさんではと周りにいたみんなが思うのだった。

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