魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ゆっくりと白竜さまの背中から降りる。
道中セレスティアさまが凄く興奮していたけれど、見ないふりをしていた。一人で盛り上がり、直ぐに空の旅が終ると何とも言えない微妙な顔になっていたから。ソフィーアさまも彼女の姿を見て呆れたのか、ため息を吐いていた。
年若い女性が男の子が憧れるようなものに夢中になっても、笑う権利は一ミリだってない筈だから。
「ありがとうございます」
「気にするな」
政治的なパフォーマンスで代表さまは私のエスコートをしたのだろうと考えていた。けれど、アルバトロス王国側のお偉いさん方はこの場に居ないので、やっても意味はない。単純に彼が紳士なだけだろうと納得させて、ご意見番さまが果てていた場所へと進む。地面にまだ黒い染みが残っているから、迷うことはなかった。
確かこの辺りで卵さまを拾ったはずだ。
おそらくそこは彼の心臓があったであろう場所。生き物だというのに、死骸や倒した魔物から魔石が落ちることは稀にあるそうだ。そして強い個体になればなるほど、その確率は上がる。
ご意見番さまともなれば確実に落ちるのだろう。魔石を卵へと変えて、次代を生み出したようだし。花を添えるならば、ここだろうと決めていた。しゃがみ込んで、彼がお気に入りだったという花をゆっくりと丁寧に地面に下ろして、目を瞑り手を合わせた。
私と入れ替わって代表さまがしゃがみ込み、地面に片手を突いて目を閉じた。そうして暫く、ゆっくりと目を開けて立ち上がる。
次に白竜さま。顔を下げて何度か鼻を近づけて匂いを嗅いでいた。満足したのか直ぐに離れて次の竜へ。いつの間に手に入れていたのか、はたまた私の真似なのか。咥えていた花を器用に地面へと置いて、白竜さまのように顔を下げ匂いを嗅いでいる。
彼らなりのお別れの仕方なのだろう。
「待たせて済まない、我々は終わりだ」
暫く、竜の方たちの参列を待って次にエルフのお姉さんズが花を添えると、いつの間にやって来ていたのだろうかドワーフの方や獣耳や尻尾が生えている亜人の方々の番となる。
どうやら隊列の後方で竜の背に乗っていたらしく、私たちは気付かなかったし、王都や辺境伯領へと挨拶した際も、上空で待機していたのだろう。そりゃ分からないと一人で苦笑いをしていると、参列を終えた方たちが私の方へとやって来た。
「彼の方の葬送、感謝する」
軽く頭を下げられたのだった。
「礼には及びません、我々の行動でご意見番さまの望みを叶えることが出来ませんでしたから」
人間に迫害されて大陸北西部へと追いやられた彼ら。きっと良くは思っていないだろう。
「いいや。生きている者が強者に狩られるのは仕方ない、それに彼は次代を残した。必ずや我々を導いてくれるお方になりましょうぞ」
何度やり取りしたのか分からない言葉に苦笑を浮かべると、彼らも笑った。
「気合を入れて腕を振るいましょうぞ。楽しみにお待ちくだされ」
「お手間をお掛けします」
ドワーフさんが袖を捲り上げて力こぶを作って私に見せてくれた。制作依頼を頼んだ方の一人らしい。職人気質故に頑固で口が悪いと代表さまが仰っていたけれど、彼はその中に含まれないのだろう。人好きのする笑みを浮かべて私の下から離れていき、獣人の方々も一緒に歩いていく。
「ナイ」
「ありがとう。ジーク、リン」
陛下や殿下方から預かっていた花束を二人から受け取って、先に添えていた花々と一緒に添えると、次にソフィーアさまがやって来て地面へとしゃがみ込む。暫く黙とうしたのちに、入れ替わりでセレスティアさまが同じように花を添えて黙とう。暫くすると立ち上がり、元の位置へ戻って行った。
――ん?
ふと目に付くものがあった。こんなの数日前にあっただろうか。黒い染みの上に、三十センチほどの高さの細い若木が一本だけ生えていた。
「?」
何故と疑問符を浮かべるも、何も考えが浮かぶはずもなく。
「どしたの~?」
「首を傾げていたわね」
私の背後からエルフのお姉さんズがやって来て、背後から若木を覗き込む。聞いてみる方が早そうだなと、数日前までは若木は生えていなかったと伝えた。
「あー、種が彼の残した魔力に反応して成長したか、彼から放出された魔素を取り込んじゃったか……なんにしても彼の影響を受けているわね。この若木」
「浄化儀式の時は生えていなかったんでしょう~?」
「はい。染みが出来ている場所には何も残っていませんでした」
「ならば、少しでも彼の願いが叶ったということか」
お姉さんズの言葉に返事をすると代表さまもこちらへと来ていて、どうやら二人の言葉を聞いたらしい。嬉しそうな顔をしている。
「ええ」
「そうだといいな~」
お姉さんズも若木を眺めながら微笑んでいた。私はゆっくりと地面にしゃがみ込み、若木から力強く生えている葉の一枚に手を添えた。
「"大きくなりなね"」
大地に深く根を張り、太く大きな幹へと育ち、立派な枝をつけ、葉が生い茂るそんな木に。
時間は掛かるだろうけれど、彼が生きていたという印になれば良いだろう。きっと、またこの地を訪れる竜たちの標にもなる。そして運良ければ、何千年と生きているだろうから。雨にも風にも負けない木に育って欲しいと願いを込めて。
「!」
「!!」
「っ」
そうして立ち上がるとお三方がなんとも言えない顔をしている。首を傾げると噴き出したけれど、何に対してなのか教えてくれる気はないみたい。
「さて戻ろうか。大方の者は先に国へ帰るが、残りは会談だな。取りあえず辺境伯領へ寄ろう」
途中で拾ったお嬢さんを帰さねばなるまい、と代表さま。あ、そうだセレスティアさまは辺境伯領からこちらへと来たのだった。それに会談だと言っていたから、辺境伯さまも拾って王都へと行くつもりなのかも。
『またね』と言いながらすりすりと体を擦りつけてくる、小竜さま。彼らに私も『また』と返すと満足したのか、大型の竜の方の背に爪を立ててよじ登っていく。
用は終わったとばかりに飛び立っていく竜の皆さまを見ながら、また白竜さまの背に乗りこみ辺境伯領を目指し、領主さまも白竜さまの背に乗って王都を目指すのだった。
◇
――戻った。
何かいろいろと残っているような気がするけれど、王都へと戻ってきた。
途中、帰路に就いていた遠征組の人たちを見つけると、白竜さまがいたずら心を見せて低空飛行を敢行したのはご愛敬。
連絡が入っているだろうけれど、驚いただろうなあ。流石にあの人数を拾える訳がないので、申し訳なさを覚えながら王都まで帰って来たのだけれど。王都を守る壁の外。白竜さまが降りられる場所を見つけて、ゆっくり下降。
「白竜さま、ここまでありがとうございました」
首を上げて白竜さまへ話しかけると、顔を地面へと下げてくれた。
『礼には及びませんよ。何か用があれば私を呼んでください。何処へなりとも参りましょう』
そう言って白竜さまは空へと飛び立つ。会談を終えた後、お三方の移動手段が居なくなってしまった。代表さまが竜の姿を取れるから、そうして帰るのだろう。暫くすると、壁門が開いて豪華な馬車が数台連なりやって来きて、私たちの前で止まった。お迎えの馬車のようで、同道して馬に乗っていた近衛騎士の方々が降りてきて、敬礼。
「お迎えにあがりました! 亜人連合国代表さま。城まで案内をと陛下から命を下され参りました」
「手間を掛ける。すまないが彼女らも送って貰えるか?」
「はっ! 勿論でございます、そのようにと陛下からも伝えられております故!」
随分と緊張した面持ちの騎士さまの言葉にこくりと頷く代表さま。あまり感情が読み取れない顔になっているのだけれど、営業用なのだろうか。ポーカーフェイスが出来るのは羨ましいなと、彼を見上げているとこちらへ視線を先に寄こして、身体はあとからゆっくりと向いた。
「我々はアルバトロス王国との打ち合わせに入る。君はもう休むと良い」
代表さまの言葉は魅力的だけれど、私が言い出したことだから、責任の一端はある訳で。
「言い出しっぺは私なので、同席させて頂きたいのですが……」
「今回は君が責任者だったのだろうが、ここから先は我々為政者の場だ。心配は要らぬ、どちらも損をしないように取り計らおう。――任せて貰えるか?」
そう言われると頷くしかない訳で。
「よろしくお願いいたします」
代表さまに礼を執ると後ろに控えていたお姉さんズが『任せて』『大丈夫だよ~』と軽い調子で笑ってる。彼の言葉より、彼女たちの言葉の方が心配になるだなんて。まあお姉さんたちが飛ばすようなら、代表さまも流石に止めるだろう。
「どうぞ」
近衛騎士さまのエスコートを受けて馬車へと乗り込む。私より後から乗り込んだソフィーアさまとセレスティアさま。王都で取引の会談が行われるから、辺境伯さまも一緒に王都へと白竜さまの背に乗り、セレスティアさまも同道を願い出ていた。
そして馬車へと乗り込んだのだけれど、割り振りが先頭の一番豪華な馬車に代表さまとお姉さんズ、最後に辺境伯さまとなった。
私たち三人は各々の屋敷へ送ってもらう為に別の馬車に乗っている。ジークとリンは外で護衛に就き、先に公爵邸へと行き後で辺境伯さまのタウンハウスを目指すそうだ。
「大丈夫かしら、お父さま」
「大丈夫だろう。まあ……生きた心地はせんかも知れんが……」
二人の言葉が終わると同時に馬車が動き出す。取って喰われたりはしないだろうし、大丈夫、大丈夫……。大丈夫かなあ。
三人とも魔力値が高いから、なんにもしていないのに威圧されているとか勘違いを引き起こす可能性もある。辺境伯さまだし、魔力が低いということはないだろうけれど、亜人連合国の人を相手にしたことなど皆無だから、その辺りは気を使うだろうなあ。
「…………」
お二人の会話を聞きながら窓から見える景色を眺める。もう見慣れた王都の風景は、いつも通りで何も変わっていない。
「ん?」
窓から視線を外して、声を上げた本人を見る。
「どうか致しましたか、ソフィーアさん」
「ああ、いや。何か引っ掛かったんだが……」
そうして考えるような仕草を見せるソフィーアさま。確りしている彼女がそうした仕草を見せるのは珍しい気がする。顎に手を当てて馬車の床を眺めて、頭の中の引っ掛かりを探しているようだ。そして――。
「……あ」
彼女の視線が下から上へと上がって、呆けた顔になった。
「思い出したのですか?」
「あ、ああ。外務卿がな……」
「影が薄いと言われている方ですわね。それが何か?」
「いや。関係各国との連絡役で、亜人連合国の隣の国で待機していたんだが…………」
「?」
セレスティアさまが不思議そうな顔をする。そういえばいつの間にか外務卿さまは居なくなっていた。
確か、最初に彼も同行していた筈だ。影が薄いというか、存在感があまりなかったが。最初の転移と次の転移までは彼は一緒に居たはずだし、一泊した亜人連合の隣の国では晩餐会に出席していたはず。
影が薄かったが。
そうして亜人連合の隣の国で一夜を過ごし、馬車に乗り込んだのだが、そこから彼の記憶がない。隣の国で待機していたというのは、初耳である。亜人連合国へと向かう馬車の中で殿下も宰相補佐さまも、そしてソフィーアさまも気にも留めていなかったし、私も全く気にならなかった。
――あれ。
私たち使節団一行は王都へと戻っている。
「どうやって外務卿さまは帰路の途に就くのでしょうか……」
そう。私たちと別れて行動していたことに問題はない。仕事なのだから。でも、竜に乗ってアルバトロス王国へ帰還した今、彼の移動方法が転移か馬車での超距離移動しか選択肢が残されていないような。
「ま、まあ、帰る方法はいくつかあるし、最悪は迎えがでるのではないか?」
「……でるのかしら?」
顔を引きつらせながらソフィーアさまが外務卿さまへのフォローを入れるけれど、セレスティアさまの言葉を発した瞬間に目を逸らす。
外務卿って外交官の長だよね……なんだか立場を疎かにされている気がするのだけれど。流石に隣国に居残るのはあり得ないだろう、向こうだって迷惑だもの。そんなに心配する必要はないのじゃないかなあと、また馬車の窓へと視線を向けるのだった。
ナンバリングの仕方を変えました。漢数字だと文字数多いので。サーバーに負担が掛からないように、少しづつ直していきますね~。