魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ジャドさんの凄く大きな鳴き声に驚いていれば、しょぼんと首を下げたジャドさんが私たちの前に直る。
『すみません。雄があまりにも煩かったもので』
首を下げたジャドさんに一部の方たちが『可愛い』とときめいているが、彼女の声を無視するわけにはいかないため、ヤーバン王がはっとして口を開いた。
「驚きましたが、仕方ないことかと」
はははと笑うヤーバン王にジャドさんが以後気を付けますと言えば、お城の中へと案内される。雄グリフォンさんたちは王庭で過ごし、イルとイヴと雌グリフォンさん四頭とおばあと天馬さま方も庭で過ごすようである。
毛玉ちゃんたちはどうしようか迷って、私たちの方にくると決めたようだ。ヤーバン城の中はアルバトロスの王城や他国の城と比べると凄く質素である。ただ使用されている柱は凄く太いため、凄くゴツく感じてしまう。飾られている調度品も鎧や武具が多く、壺や皿は控えめであった。またヤーバン王が先頭を歩き始め後ろに振り返る。
「挨拶は済ませたからな。先ずはワイバーンたちの家を見て欲しい」
ふっと笑うヤーバン王は既にワイバーンの方と仲良くなっており、お迎えにきてくれたワイバーンさんが彼女の相棒なのだとか。会話はできないけれど、なんとなく雰囲気で彼らの気持ちを察することができるらしい。
手綱捌きが下手だと直ぐに落とされるため馬より扱いが難しいとか。とはいえ乗りこなせば空を飛ぶことができるため、凄く重宝しているそうだ。
「なにか上空から地上に攻撃できる武器があると良いのだがなあ。ヤーバンは魔術に長けた者が少ないから、決定力に欠ける……」
道すがら、ヤーバン王は私たちの方を向いていろいろと喋ってくれていた。どうやら彼女はワイバーンの背に乗っている時の攻撃手段が欲しいようである。
アルバトロス王国は後ろに魔術師の方を乗せ、遠距離攻撃を可能としていた。空対地、空対空に対応できるし、操縦と攻撃を分けていることにより、それぞれに集中できるので効率が良いらしい。二人乗りとなっているために、ワイバーンさんの機動力や体力が落ちることが難点だとか。竜のお方と違ってワイバーンの方たちは少し力の面で劣るため、どうしても竜並の体力や飛行能力は期待できないらしい。
「一番、簡易なのは弓矢でしょうか」
私はヤーバン王の顔を見上げながら首を傾げる。銃でもあれば良い航空兵器となるかもしれないが西大陸では広まっていない。となればやはり弓が一番、遠距離攻撃として優れているはず。
「そうなんだが、構えて狙いを定める時間が必要となるし、動くと狙いが外れてしまうからな。精度の面で少々難があるんだ」
馬上で弓を構えて相手に充てるのも難しいそうで、ワイバーンさんの背の上となれば更に難しくなるそうである。ドラマとかアニメで簡単そうに相手を射抜いているところを見るけれど、現実はそう簡単にいかないようだ。他になにかあるかなと考えていると、壁に飾られた槍が目についた。
「槍を銛のように使うのは?」
海の中で泳ぐ魚を突くように、地上の敵を突けそうだけれど……うーん。私が首を傾げると、ヤーバン王が苦笑いを浮かべて口を開いた。
「弓より射程が短くなるし……騎乗していると下半身の力を利用し辛いからな。余計に射程が落ちる」
ヤーバン王が残念そうな顔になれば、周りの兵士の方たちも残念そうにしている。今の状況ではワイバーンさん部隊の運用は偵察や上空警備が主となりそうだ。戦闘に参加できるのは、まだ時間が掛かりそうな感じである。
まあ、アルバトロス王国の竜騎兵隊も上空警備や偵察が主任務となっているから、ヤーバン王国もそこに落ち着きそうだ。とはいえ戦争になればどうにかして運用できるようにと考えそうである。できれば戦なんて起こって欲しくないと私はヤーバン王と視線を合わせた。
「難しいですねえ」
「と、すまない。侯爵にこんな話はつまらないだろうな」
「考えるのは好きなので大丈夫です。ただ素人意見となりますが」
ヤーバン王が謝ってくれるけれど、話のネタだろうし、考えることは嫌いじゃない。適当なことを言ってしまうかもしれないし、全く見当違いのことを言うかもしれないのだから、お互い様である。
ヤーバン王と私の話を聞いていたダリア姉さんとアイリス姉さんは『鷹みたいに敵兵の頭を掴ませて、谷にでも放り投げる?』『ぴゅーって凄い速度がでるから、大将首狙えたら面白そうだねえ』とアドバイスをくれる。
「そんなことができようか?」
ヤーバン王がエルフのお姉さんズの話に面白いと言いたげに凄い笑みを浮かべた。ディアンさまとベリルさまが『いらんことを』『知らない方が良かったのでは』と微妙な表情になっている。
ヤーバンの兵士の方たちは楽しそうだとウキウキした顔になっているし、ジークとリンはなにやら考え込んでいるので緊急時には使えるかどうか頭の中で思い浮かべているようだ。ソフィーアさまは呆れ、セレスティアさまは自身にもできるかと悩ましそうにしている。発言者であるエルフのお姉さんズは面白そうな顔で、ヤーバン王と視線を合わせた。
「人間を持ち上げて暫く飛ぶくらいならできるわよ」
「竜より力が劣っているから、無茶はできないけれどね~」
あまりにも体が重いと持ち上げられないから、そういう時は複数で飛び込めば良いらしい。お姉さんズはやたらと詳しいけれど、試したことがあるのだろうか。じっとお姉さんズを私がみていると、お二人はふふふと笑みを返してくれる。私は怖いから聞かないでおこうと視線を逸らして前を向けば、外へと続く扉の前に立っていた。
「こちらだ」
ヤーバン王に導かれて、木で造られた建屋に入る。中にはワイバーンさんたちが過ごしており、藁の上でまったりと過ごしていた。私たちに気付いた彼ら彼女らは身体を起こして、こちらにやってくる。
こてんこてんと顔を動かして物珍しそうな顔を浮かべている。ヤーバンの皆さまが騎乗していた方たちよりも小さいので、まだ仔供かもしれない。そして奥から口に卵を咥えたワイバーンの方がにゅっと私の前に顔を出し、一緒に歩いてきた仔が口を開いた。
『見て見て、聖女さま~卵だよ~孵るかなあ?』
「ちゃんと面倒を見てあげれば孵るはずだよ。確約はできないけれど」
どうやら卵を咥えている仔は今喋った仔の番のようである。無事に孵るか心配している仔は父親として初めての卵なのだとか。雌も初めて産んだため、あまり勝手が分からないそうである。
他にアドバイスを貰える方はいないのかと問うてみれば、みなさま適当に抱き抱えているだけで特になにもしないらしい。卵に皹が入るまで温めておけば良いと教えて貰ったけれど、随分と長い期間抱えているのに孵らないので心配なのだとか。念のために卵を見せて貰い、ディアンさまとベリルさまに聞いてみる。特に問題なさそうだから、単に孵る時期がまだきていないだけらしい。バレーボールくらいの大きさの卵だというのに、まだ孵らないのかと私がマジマジト見つめる。
『番と頑張るー!』
『大事に温める~!』
ディアンさまとベリルさまの声を聞いた番のワイバーンの仔たちは凄く嬉しそうに顔を上げて一鳴きしている。クロも肩の上で『良かったねえ』と目を細めていた。
「うん。頑張ってね。元気な仔が孵ると良いね」
私も彼らの顔を撫でながら声にすると、嬉しさが勢い余ったようで番のワイバーンの仔たちが顔をぐりぐりと擦り付けてくる。頭の上や肩の上に横腹へと顔をすりすりすりすりしてご機嫌そうだ。
けれど私は二頭のワイバーンの仔たちの力に抗う術はなく。ヤーバン王とダリア姉さんとアイリス姉さんは面白そうに、ジークとリンは心配そうな顔に、ソフィーアさまも大丈夫かと気にしてくれるけれど手を出せない。セレスティアさまは凄く羨ましそうに私を見ていて、それぞれ反応が違っていた。そして一番近くにいたお二方が助け船を出してくれる。
「あまり揉みくちゃにしてやるな」
「竜種の方ではないですから。加減をお願いします」
ディアンさまとベリルさまの声に番のワイバーンの仔たちがぱっと身体を止める。彼らは一歩二歩と私から後ろに下がり、こてんと顔を傾げながらお二人を見上げる。
『はーい、ごめんなさい~』
『ごめんね、聖女さま』
番のワイバーンさんが私に向かって頭を下げた。手に持っていた卵さんを彼らに返せば、寝床に戻って雌のグリフォンの仔が両脚に卵を挟み込んで、よっこらせと身体を藁の上に寝かせた。
雄のグリフォンの仔は雌を労わるように顔に顔を寄せて小さく鳴いている。他の仔たちも彼らの卵が気になるようで、なにやら声を掛けているようだ。彼らの微笑ましい姿に目を細めれば、ヤーバン王が隣に立つ。
「はは! 侯爵、髪がぼさぼさだぞ!」
「カピカピになってないだけマシです」
くつくつと笑いながらヤーバン王が私の顔を覗き込む。指摘に私が頭に手を当てれば、確かに髪がぼさぼさになっていた。手櫛で直せば問題ないので構わないけれど、ソフィーアさまやリンみたいに髪を纏めていると直すのは大変だろう。髪は短いに限るのだが、それでも難を逃れられない時があった。
「カピカピ? になるのか?」
「おばあのおよだでなりました」
そう。おばあが私の頭の上で顎をぐりぐり擦り付けたり、アホ毛を食むとおよだが垂れてカピカピになることがある。嘴から漏れやすくなっているようで、気付くと髪がおばあのおよだで固まっているのだ。
私も寝ていれば涎を垂らすことがあるのだから、おばあに文句は言えないのでエッダさんに濡れタオルを用意して貰ったり、そのままお風呂に直行することもある。毛玉ちゃんたちだってジャーキーを見ておよだを口の端からポタポタ落としているから生き物のご愛敬だ。ヤーバン王は私の声になにやら考え込んでいる。
「なんと! 私もカピカピになれるだろうか」
「陛下の身長が低ければ」
ヤーバン王の身長が私くらいになれば、おばあの顎が置きやすくなるからおよだを浴びることができるだろう。それか脚の長い椅子に腰を掛けるとか。
「…………そうか」
私から視線を逸らしたヤーバン王は不味いことを言ってしまったと感じているのか、答えに少しだけ間を置いていた。深い意味はなかったのだが、おばあの体高と私の身長を考えてしまったようである。
まあ、私から言い出したことなので怒る気はない。それにおばあのおよだを落とすのは大変だと思うので、一度味わってみて欲しい気持ちもある。もうお一方、おばあのおよだを浴びたい方がいるようだけれど、お貴族さまが体験しても良い物なのか。微妙だなあという顔をしていると、ヤーバン王が一つ咳を払う。
「さて、昼食としよう! 今朝、私が一頭牛を絞めておいた。ヤーバンでは客人にはこうして振舞うんだ」
「楽しみです。街で見かけた串に刺して焼いていたお肉も美味しそうでしたから」
にっと笑うヤーバン王を私は見上げる。しかし一国の王さまが牛を絞めることができるとは。うーん……でも儀式で牛を絞めることもあるし、王さまが牛を絞めても問題ないのだろう。
捌かれた牛には申し訳ないけれど、私にできることは美味しくお腹の中に納めて命の糧とすることのみ。ヤーバンの街中で見た店先の肉料理を食すことはできないものの、似た料理が提供されるかもしれない。
「それは我が国の名物料理だな。いろいろなソースで味を楽しむことができる」
美味いぞと笑うヤーバン王に案内されると何故か中庭に通された。そこには料理人の方の姿と焼き台と塊のお肉がこんがりと焼けていた。もしかして店先で焼いていたお肉と同じ料理かとヤーバン王を私が見上げると、彼女はドヤという顔になるのだった。
◇
ヤーバン王国の伝統料理は豪快であるものの美味しいものである。串に刺した肉の塊をナイフで切り落とし取り分けてくれ好きなソースを選んで付けて頂くのだが、お肉の味を誤魔化しているわけではない。ちゃんとお肉の味を残しつつ、ソースで味を引き立てていた。ヤーバン王国なのに繊細な仕事をしていると考えてしまうのは失礼だろうか。
焼き台に乗ったお肉の前には毛玉ちゃんたちが涎を垂らしながら見上げていたため、味付けしていないお肉も焼いてくれている。待ち切れないのか毛玉ちゃんたちは『まじゃ?』『おにゃかすいた』『おいちい?』と料理人さんに向かって問うている。問われた料理人さんは毛玉ちゃんたちが喋ったことに驚きつつも、もう少し待って欲しいとお願いしていた。一番美味しい焼き加減のところで提供してくれるようである。
ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんとジャドさんたちグリフォンさんもちゃっかりお肉を貰うようである。雄グリフォンさんたちも楽しみにしているようで、焼き台をじっと眺めている。
天馬さま方は肉食ではないため、匂いを嗅ぐだけで充分なのだとか。ちょっともったいない気がするけれど、食べられないのだから仕方ない。
食事はバーベキューと言った感じで、適当に皆さまが腰を下ろして楽しんでいる。
私が取り分けて貰ったお肉を頬張りつつ、一緒に焼いてくださっていたとうもろこしさんやお芋さんも頂いていた。味付けが確りしているので、好みさえ合えば美味しい食事である。
時々、辛いソースがあるので油断していると咽てしまうのはご愛敬だ。十種類近くソースが用意されているので、いろいろと楽しむことができて楽しい。
女神さま方も美味しいと楽しんでいるし、手が空いている人たちも一緒に食べるのがヤーバン流なのだとか。そのため、護衛のジークとリンや側仕えのソフィーアさまとセレスティアさまも順に食すことができている。席も自由になっているため、入れ替わりがあって面白い。私たちは客人となるので固定の席だけれど。
亜人連合国のディアンさまとベリルさまもお肉料理を楽しんでいるし、ダリア姉さんとアイリス姉さんもお肉と野菜をバランスよく食していた。
エルフの方は菜食なのかと思っていたが、そうではないらしい。お野菜を好んで食べるというだけで、一切お肉を食べないという方は非常に少ないとか。ダークエルフさんたちは逆で、お肉をたくさん食べ、必要な分だけ野菜を摂るという感じだ。
お皿が空になる前にお肉を追加投入してくれるため、私はもくもくと口へお肉とお野菜を運んでいる。ダリア姉さんとアイリス姉さんが苦笑いを浮かべてこちらを見ているが、残すのは申しわけないという気持ちがあるためなかなか箸を止められないのだ。ヤーバンの方たちも私に視線を向けて『よく食べるな』という顔になっている。クロたち仔竜組は果物をたくさん貰ってご機嫌で食べているため、私たちの肩の上にはいない。
しかしこれは、どうやって追加投入を止められるのだろうか。そろそろ胃が満たされているため打ち止めにしたいのだが。私が悩んでいると、ヤーバン王が笑いながら隣に腰掛けた。
「腹一杯になったか、侯爵?」
どかっと椅子に腰かけたヤーバン王はグラスを手にしてにかっと笑う。グラスの中身はお酒なのか凄く機嫌が良さそう――ヤーバン王の機嫌は大体良いけれど――である。
「はい。十分に」
「食べられないなら、皿を横に置いてしまえ。でないとまた追加の肉や野菜が入れられることになるからな」
くつくつ笑うヤーバン王に私は料理人さんの気配を伺いつつ、良さそうなところでお皿の中身を平らげて横に置く。すると料理人さんの方が悔しそうな顔をしながら他の方のお皿に目をやっていた。どうやらヤーバン王国では振舞いを受ける方たちを満腹にすることが良いとされているようである。
「陛下はちゃんと食事を摂られましたか?」
私が彼女に目線を合わせると、ふっと笑った。ヤーバン王は周りの方たちに声を掛けることに精を出していて、マトモに食事を摂っていなかった。ホストだから仕方ないところもあるが、食べなければ力が出ないだろう。一応、一晩泊まらせて頂くことになっているので、接待はまだまだ続くわけだし。
「気にするな。侯爵が美味そうに食べている姿を見れたから、私も十分満たされている」
「……いや、見ていただけではお腹は膨れないかと」
「女神さま方にも楽しんで頂いているようだしな。本当に良かった」
会話を逸らされたので、突っ込んではならないようである。まあ、お腹が空けば間食できるだろうと私は笑って前を向く。ジャドさんたちにはヤーバンの方たちが凄い視線を向けている。イルとイヴにも刺さっているし、雌グリフォンさんたち四頭にも。雄グリフォンさんたちは庭の隅で固まり、ジャドさんをはじめとする雌グリフォンさんを見つめていた。
そんな彼らが気になるのか、おばあが雄グリフォンさんたちの前に移動して『ピョエー?』と鳴いている。隻眼の雄グリフォンさんがおばあに『ピョエ』と鳴いているのだが、なにを言っているのかさっぱりだ。ただおばあはくるりと身体を返して、雌グリフォンさんたちの方へと歩いて行く。おばあが今度は雌グリフォンさんたちの前で『ピョエ~?』と鳴いた。
『おばあ、私たちが雄と交わるのは交尾の時だけです。なので相手にしなくて良いですよ』
ジャドさんが律儀に答えているが、おばあは不思議そうな顔をして雄グリフォンさんたちの下へと戻って行った。ジャドさんからおばあの生殖能力は枯れていると聞いているため、雄と交わっても問題はない。
ただおばあはグリフォンさんたちのルールを知らないだろうし、雄の仔たちに影響がないか少し心配だ。私がジャドさんを見れば『問題ない』と言われた気がする。なら良いかと、私はヤーバン王の方へと顔を向ける。
「最初はジャドさんの卵を預かってご報告に赴いただけだったのに、こうして国内に入らせて貰えるようになるとは思いませんでした」
「だな。だが侯爵が我々を慮ってくれているからな。未開の地の者だと敬遠しなかった」
お互いにふふと笑う。本当にこうしてヤーバン国内に赴くようになるなんて思っていなかったし、亜人連合国の方たちも移住することになるなんて。
ヤーバン王国の方々の気質がワイバーンさんや竜の方たちを受け入れやすいようだから、これから先も上手くいってくれると良いのだが。私とヤーバン王とは仲良くさせて頂いているけれど、アルバトロス王国とはどうなっているのだろう。なかなか話を聞く機会がないし、ヤーバン王やアルバトロスの陛下に直接話を聞くのは憚られる。こればかりはなるようになるしかないし、外交政策次第では敵対することもあるだろう。
「上半身が露出しているのは驚きましたけれど。シルヴェストルさんとのご連絡は?」
確かにヤーバン王国の方たちとの初接触は驚いた。そこからヤーバンの第一王子殿下であったシルヴェストルさまは国元の地を踏んでいない。もしかすると個人的に連絡を取っているのではと聞いてみたのだが果たしてどうなか。
「ん? 兄上なら勝手に生きておられるさ。心配することでもない。だから連絡など必要ない。縁があればヤーバンに戻ることもあるだろうしな」
ヤーバン王はケロッとした顔で教えてくれた。どうやら本当に連絡を取っていないようだ。誰か彼の側仕えの方でも気にして、密かに接触していないのだろうか。
でもまあ、冒険者としてSランクパーティーの方と行動をともにしていると聞いている。ヤーバン以外の国を見ていろいろと学ぶことがあるだろうし、まだ接触するには早いのか。むうと私が唸っていると、ヤーバン王がはっとした顔になった。
「して、侯爵」
凄く真面目な顔をしたヤーバン王に私はなんだろうと背を伸ばした。
「アルバトロス王国には良い男がいないのか?」
「は?」
まさかの明後日な方向の質問に私の口から短く声が漏れた。
「もうすぐ二十歳となるのに婚約者もいないのでは、そう考えられても仕方ないぞ。アルバトロス王やボルドー男爵の考えもあろうが、私は心配だ。奇跡のような繋がりを次代にも受け渡さなくてはらないからなあ」
確かに侯爵位を持ちながら二十歳になるというのに将来の伴侶がいないというのは如何なものかとは思う。思うんだけれど、急いでも仕方ないし、陛下から特に言及されたこともない。
アルバトロス王国には顔の良い男性はたくさんいる。顔だけならヒロインちゃんに惚れ込んだ第二王子殿下や側近の皆さまに副団長さま、陛下もボルドー男爵さまもイケ小父枠に入るだろう。でも、私が彼らに恋愛感情を抱くというのはなかったわけで。それにそれぞれ婚約者の方や伴侶がいるから、まあ恋心を抱く前に頭が心にストップを掛けるわけで。
「それをおっしゃるなら、陛下もでは?」
「失礼だな。伴侶はいるぞ。子もできたからな!」
そう。良い男性がいないのは陛下も同じではと問うてみれば、どうやらそうではないらしい。伴侶の方がいたのかという驚きと、どうやって婚姻に至ったのか凄く気になったのに、ヤーバン王の爆弾発言ですべてが吹き飛んだ。
彼女の声は割と大きい。話をしている内容が問題なければ、それはもうよく聞こえるのだ。周りの方が目を見開いて驚いているけれど、ヤーバンの皆さままで目を丸く見開いている。
「ぅえ? 聞いてませんよ」
そして私も聞いていないので驚いた。
「そりゃそうだ。今言った」
「ぶっ! あ、あの、ちなみにヤーバン王国の中では誰が既知なのですか?」
カラカラと笑うヤーバン王は面白そうな顔をしている。凄く大事なことをあっさりと聞いてしまったのだが、良いのだろうか。だって妊娠した報告なんて、もっとお腹が出て安定期に入ってからのはず。お貴族さまならなおさらである。しかしヤーバン王は普通にご飯を食べていたし、お酒を飲んで――あ、でも中身がお酒とは限らないか……一体、ヤーバンの皆さまにどれほど事実は広まっているのだろう。
「私の旦那と側仕えと乳母とお抱えの医者だけだな」
少ない。限りなく少ないのに、公表の場が私の前で良かったのかと背中に汗が一筋流れる。私の腰元にいるヘルメスさんが『むむむ』と声を上げて、なにやらしているようだ。
「そんな大事なことを私が聞いて良かったのでしょうか……」
「構わん、構わん! 他の者たちより腹の出が目立たない性質のようでな。分かり辛いらしい」
私が微妙な顔をしていると、ヤーバン王が面白そうな顔を浮かべながら腹を擦る。どうやら妊娠二ヶ月はとうに過ぎて安定期にはいっているそうだ。本当に、見た目ではお腹に子がいるのか分からない。私が本当にお腹の中に子がいるのかなと悩んでいれば、腰元のヘルメスさんが魔石をぱっと光らせる。
『嘘ではないようですね。彼女の胎には子が宿っておられます』
ヘルメスさんの声にヤーバン王が頷いた。というかヘルメスさんが喋ってもヤーバン王は驚いていない。
「たくさん子を産んで、一人でも良いから侯爵家と縁を繋ぎたいな!」
「そんな勝手に」
「言うのはタダだし、侯爵に隠れて裏でコソコソするより良いだろう?」
確かに裏で画策されるよりは表で堂々と宣言してくれる方が良いけれど。私はまだ寒いのだし、お腹を冷やさないでくださいと持ってきていたストールを彼女に渡すのだった。