魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
まさかのヤーバン王の妊娠報告に驚いてしまうが、直ぐにめでたいと周りの方たちが盛り上がって王城の庭はどんちゃん騒ぎになっている。私もおめでとうございますとヤーバン王に伝えれば、凄く嬉しそうな顔に彼女がなった。ヤーバン王はそのまま周囲の方たちに報告へ赴いた。
本当に驚いてしまうし、妊娠報告を聞き過ぎではなかろうかと考えるものの、ふと思い至ったことがある。私はダリア姉さんとアイリス姉さんの方に顔を向ければ、どうしたのと声が返ってくる。
「南大陸のエルフの村の方との交流はどうなっていますか?」
私が見上げながら問えば、お姉さんズは苦笑いになる。
「ああ。ナイちゃんから見れば私たちはなにもしていないように見えるかもしれないわね」
「何度か行き来して、移住したいって手を挙げたエルフはこっちにくる予定だよ~まあ、環境に慣れることができるのか微妙なところかなあ」
肩を竦めるダリア姉さんとアイリス姉さんだけれども、やることはやっているようだ。ただ人間とエルフの時間間隔が違うから、私から見ると動いていないように感じてしまう。移住計画は割と早いペースで動いているそうで、百年後くらいには向こうのエルフの方と亜人連合国の方と結婚しているかもしれないそうである。
ダリア姉さんとアイリス姉さんは良い相手を見つからないのかと喉まで出かかったけれど、寸でのところで我慢できた。私に相手がいないのに、お姉さんズにソレを聞けばきっと返り討ちになってしまう。ディアンさまとベリルさまは単体で子を成せると聞いているため、番へのこだわりは薄いとか。
「なにを考えているのかしら?」
「ナイちゃんの顔が変になっているよ~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんがくすくすと笑いながら私へ問うている。変な顔をしていたつもりはないけれど、私が頭の中でなにか考えていたとお二人にはバレているようだ。
「交流が上手くいっているなら良かったなと。私が紹介しましたしね」
「そんなことを気にしていたの?」
「律儀だよねえ、ナイちゃんは~まあ、ゆっくり進んでいるから安心してよ。変なことにはならないから~」
私が肩を竦めると、ダリア姉さんとアイリス姉さんが少し驚いた顔になる。まあ紹介を担っただけで、二国間のことだと私はノータッチを貫いていたから、お姉さんズ的には私が気に掛けていたことは意外だったようだ。変なことにならないならなによりだし、将来エルフの方たちが増えるのであれば嬉しいことである。
「天馬さま方も、グリフォンさんたちも増えますし、竜の方たちも増えているので良かったです」
本当に希少と言われている方たちが順調に増える予定だ。最初こそ『どうしてこうなった!』と頭を抱えていたけれど、最近の私は振り切れつつある。
仔天馬さまも卵から孵ったばかりのグリフォンさんと竜の方たちは可愛いし、成獣には成獣の魅力があるし、歳を経てもおばあのような可愛さがあるのだ。お世話が大変なこともあるけれど、その分癒しを貰っているから問題ない。彼らのお陰で侯爵家の名声が高くなっている――カンストしている気もするが――のだから。
「そうね。ナイちゃんのお陰」
「だね~ナイちゃんが受け入れてくれなきゃ、彼らは途方に暮れていたと思うよ~?」
「流石にそれは。自然に生きる方たちなので、自力でどうにかできるかと」
ダリア姉さんとアイリス姉さんが目を細めながら笑う。仮に私が受け入れなかった場合はどこか安全な場所を見つけて産み落としていたはずだ。危なくなるかもしれないが、そこは自然に生きている彼らだ。弱肉強食の理を知っているので文句はあるまい。私が苦笑いを浮かべると、お姉さんズが真面目な表情になる。
「安心できる場所があるって大事よ」
「それにナイちゃん、お産に立ち会ってくれるじゃない」
「それは無駄に命が散るよりは良いですから。自然の流れには逆らっているような気もしますが」
自然の流れに逆らっているのは明らかだろう。本来、天馬さまやグリフォンさんたちや竜のお方が人間の下で過ごすなんてあり得ないことだし。
とはいえ、出産は大変なものだと身に染みているので、私は彼らを追い出せないわけで。彼らも望んでいるのだからという言葉を免罪符にして、屋敷で受け入れているような気もする。私の取った行動が良いことか悪いことかは、後世に分かるだろう。まあ駄目ならヴァルトルーデさまが渋い顔をしそうだから、きっと大丈夫。
「ヴァルトルーデさまとジルケさま、延々と食べていますね。お腹壊さないのかな」
二柱さまは椅子に腰を下ろして、お肉を延々と食べていた。味に満足しているのか箸が止まることはない。焼き台の調理人さんも給仕の方も女神さまが嬉しそうに食べてくれているので、気合が入っているようだ。私も随分とお肉とお野菜を頂いたのだが、女神さま方は更に上をいっている。
「本当に良く食される方たちよね」
「美味しそうに食べられているから、こっちまで幸せな気分になれるよ~不思議~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんも二柱さまの方へと視線を向けた。確かに美味しそうに食しているのでこちらまで幸せな気分になるし、お腹に隙間ができてきた。とはいえ箸を置いているのだから我慢するけれど。
「あ、ヤーバン王に先程ストールをお渡ししたのですが、構わなかったでしょうか?」
私はそうだと言わんばかりに話の内容を変えた。ヤーバン王に渡したストールはタダのストールではない。エルフの方たちが編んでくれた反物であり、妖精さんの鱗粉が付与されていたものである。定期的に頂いているため、新調してクローゼットの中に前の品が眠っている状態なのである。私の勝手な判断でヤーバン王に渡したのは不味かっただろうと、贈り主であるお二人の顔を見上げた。
「問題ないわよ。ナイちゃんに譲ったものだもの。好きにしなさいな」
「気を使わなくて良いよ~エルフの反物の販路が広がって、潤っているのはナイちゃんのお陰だしね~」
この辺りのダリア姉さんとアイリス姉さんの太っ腹さは有難い。変な人やケチな人なら『なんで渡した!』と問い詰められそうである。私はすみませんと一度断りを入れれば、話の内容がまた変わる。
取り留めのない話であったり、ちょっと他国の土地を貰っちゃったと茶目っ気たっぷりにお姉さんズが教えてくれたのだが、一体どういう経緯で手に入れたのか。気になるけれど、聞けば私も巻き込まれそうだと聞けず仕舞だ。
お姉さんズと話していれば、毛玉ちゃんたちがてててと走ってくる。後ろにはおばあもいて、お肉の塊――味付けしていない――を咥えている。毛玉ちゃんたちもお肉の塊をちゃっかり咥えており、焼き台の料理人の方から貰ったようである。私は焼き台の料理人の方へ顔を向けて礼を執れば、彼は慌てて頭を下げた。そうして私が見下ろせば毛玉ちゃんたちは顔を上げてにんまりとする。
『もらっちゃ!』
『おいちい!?』
『ちゃべる?』
尻尾をぶんぶん振りながら、口の横から涎を垂らす毛玉ちゃんたちに苦笑いを浮かべて私は『食べて良いよ』と促した。すると地面に伏せて毛玉ちゃんたちは脚を使って肉の塊を抑えて、大きく口を開けて食べ始める。
「毛玉は無邪気ねえ」
「本当にね~そういえば人の形にはならないの~?」
ダリア姉さんとアイリス姉さんが腕を組んで胸を寄せながら肩を竦める。羨ましいけれど、私にはできない技だと落ち込みそうになった。そういえば毛玉ちゃんたちは最近、人の形になっていない。狼の姿で過ごす方が楽なのか、それとも他に理由はあったかなと頭の中を探る。
「最近、フソウに赴いていないので興味がなくなったようです」
そういえば最近、フソウに赴いていないなあと懐かしくなって私は目を細めた。そのうちフソウにも行きたいなと考えていると、遅れて辿り着いたおばあが肉の塊を口に咥えたまま私に顔を寄せた。
『ピョエ!!』
「良かったね、おばあ。食べて良いよ。あとでお礼を言いに行こう」
通訳のクロとジャドさんが側にいないためなにを言っているか分からないものの、言いたいことはなんとなく理解できる。毛玉ちゃんたちと同様におばあも私に食べて良いか確認を取りにきたようだ。
私の声におばあも地面にお腹を付け、毛玉ちゃんたちと同じ格好でお肉を食べ始める。顎の力が弱いのか、食べるスピードが毛玉ちゃんたちより遅い。まあ喉を詰まらせなければ良いし、おばあは美味しそうに細い目を更に細めているから構わないだろう。エルフのお姉さんズと私が肩を竦めれば、側にいたジークとリンがヤーバンの料理人の方からなにかを受け取っている。そうしてジークとリンは私の前にお皿を差し出した。
「ナイ。ヤーバン王からだ」
「美味しそうだね。アルバトロスだと珍しい」
二人が手に持つお皿の上にはさくらんぼが大量に乗っている。チェリーと称した方が良いかもしれないが、呼び慣れている方で良いだろう。リンが言ったとおり、アルバトロス王国では珍しい品となる。エルフのお姉さんズも興味があるのか、お皿の上の大量のさくらんぼに目を惹かれている。私はジークが持っているお皿を受け取ろうとして止め、リンの方のお皿に手を伸ばした。
「ありがとう、ジーク、リン」
「?」
私の声にジークが片眉を上げ、リンが苦笑いを浮かべている。そろそろ答えを出さなきゃいけない時期に近づいているので、ふいの瞬間にジークのことを意識してしまう。多分、私が手を引いた理由なんてそっくり兄妹にはバレているだろう。
「あら?」
「おやおや~?」
ダリア姉さんとアイリス姉さんはにやにやしながら、なにも言わないでおきましょうと二人して納得していた。私は気持ちを切り替えて、受け取ったお皿をお二人の方へと向ける。
「ダリア姉さんとアイリス姉さんも食べませんか?」
「頂くわ。あまり向こうでも見ない品種ねえ」
「可愛い形してる~。どんな味がするのか楽しみ~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんが顔を綻ばせれば、お肉の塊を食べ終えた毛玉ちゃんたちも興味を持ち、おばあも遅れて食べてみたいとアピールしていた。
ふと、私は興味がなければ相手の好意を受け取らないはずと、手を伸ばしてきたダリア姉さんとアイリス姉さんの顔をぼーっと見る。特に男性相手であればきっぱりと受け取らない。だというのにジークの告白にうんうん悩んでいるのは、彼のことを好きだからであろうか。なんだかそんな気もしてきたと思いながら、私は毛玉ちゃんたちとおばあにもさくらんぼを渡す。
あれ? あれ? と心の中でまた悩み始めるのだった。
◇
ヤーバン王国から戻って一週間が経ち、三月に入っている。随分と暖かくなり、庭の草木に元気が戻ってきている気がする。やはり元日本人として春と言えば桜だし、王都の学院にある桜の木から挿し木か接ぎ木で侯爵領で増やせないだろうか。
少し小高い丘に桜の木が満開に咲けば、良い観光スポットになりそうである。私もお花見がみんなで出来て嬉しいし、ヴァルトルーデさまとジルケさまが喜んでくれそうだ。ちょっと計画してみようと頭の片隅で考えつつ、私は王都の侯爵邸にやってきていた。
フィーネさまから手紙が定期的に届いているのだが、お喋りしたいからアストライアー侯爵邸に行っても良いかという問い合わせがあった。特に問題はないと返事をして、日時だけ指定して欲しいとお願いしていたのだが、今日がそのフィーネさまが王都のタウンハウスである侯爵邸にやってくる日だ。
何故かエーリヒさまとユルゲンさまも一緒にくるとのこと――デートがなかなかできないので、侯爵邸で会うそうである――らしい。フィーネさまとエーリヒさまは目的があるから良いだろうが、一緒に付いてこなければならないユルゲンさまが不憫なような。とはいえ彼はきちんと婚約者を再度迎えているそうだから、色恋に目覚めると厄介なことになるので大丈夫なはず。
私は当主としてお客人の対応をしようと地下室へと降りている。
ジークとリンに視線を向けて久しぶりに彼らに会えるねと目を細めると、そっくり兄妹もまた『そうだな』『そうだね』と答えてくれた。ジークはエーリヒさまとユルゲンさまの相手を務め、リンと私はフィーネさまのお相手を務めることになっている。
せっかくの逢瀬だというのに、一緒に過ごさなくて良いのかと私がフィーネさまに問えば『今回はナイさまとお話したいので!』と力強い文字で返事がきた。フィーネさまが私と話したいことってなんだろうと首を傾げつつ、私は背の高いそっくり兄妹をもう一度見上げる。
「少し急だけれど、南の島に行く相談とかしておきたいな」
南の島には今年もお邪魔する予定である。ヤーバン王国にお邪魔した際にディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんから『今年もくるよね?』と問われたし、私も私で『行きたいです』と返したのだ。
どんどん島に向かう人数が多くなっているけれど、コテージの拡張やダークエルフさんの村の整備が整ってきたため、受け入れ人数を増やしても良いとのこと。島に住むダークエルフさんと竜の方たちと魚人の方たちが私たちがくるのを楽しみにしているとも聞いたので、再会を果たさなければとも考えている。
「今年も行くんだな」
「みんな誘うの?」
ジークが肩を竦めて笑い、リンがこてんと首を小さく傾げる。彼女の肩に乗っているネルもこてんと顔を一緒に傾げている姿が可愛らしい。
「うん。去年声を掛けた人には招待状を送ったし、ボルドー男爵さまも行きたいってソフィーアさまから相談があったよ」
首を傾げているネルに反応したのか、クロとアズもこてんと首を傾げた。今年はボルドー男爵さまも向かうようになるので、果たしてどうなるのやら。長期休暇のイベントだから『儂に構わなくて良い。好きに過ごさせて貰おう』とか言って、海に潜りそうな勢いが彼にはある。公爵位を担っている時より、ボルドー男爵さまは精力的に動いていそうである。まあ、公爵という重責から身を引いた――ご本人はそう捉えていなさそう――のだから、自由を楽しんでいるのだろう。
「元気だな、閣下は」
「ね。歳なのに無理しないで欲しい」
ふっと笑うジークとリンが少し心配そうな表情で眉尻を下げている。まあボルドー男爵さまは放っておいても問題ないだろう。女神さまの相手を務めていても、いつも通りのお方なのだから。他愛のないことを話していれば、地下室に施された魔術陣が淡く光り始める。
「あ、きたみたい。魔力を込めるね」
私が魔力を練って魔術陣に注ぎ込めば、光が増してフィーネさまとエーリヒさまとユルゲンさまに、護衛の方たちの姿が現れた。
「お久しぶりです。フィーネさま、エーリヒさま、ユルゲンさま」
魔術陣の上に現れたお三方に私は頭を下げる。出会った頃より背が高くなっているし、フィーネさまは胸が成長している。羨ましい、けしからんという気持ちを抑えていると、フィーネさまが礼を執る。
「ナイさま、お久しぶりです! 少し急な形となってしまって申し訳ございません」
「いえ、予定が空いていたので問題ないですよ」
急になったのは確かなことであるが、予定を空けてもらったので問題ない。急ぎの案件もなかったし、侯爵家には優秀な方がたくさんいる。仕事は少し溜まってしまうけれど私が頑張れば問題ない。お客人がくるとお茶とお菓子が豪華になるし、ご飯も気合が入ったものになるため楽しみが増えるのだ。仕事は明日からまた頑張ろうと誓っていれば、エーリヒさまとユルゲンさまも礼を執った。
「お久しぶりです、閣下。本日はよろしくお願い致します」
「閣下、お邪魔致します」
お二人に私もよろしくお願いしますと軽く頭を下げて、賓客室に行こうと上階を指差す。彼らも分かっているので静かに頷き移動を開始する。細い階段を上り一階の廊下に出れば、窓から差し込む光が少し眩しかった。私が先頭を歩いていると、後ろからふいに声が掛かる。
「ナイさまの屋敷に天馬とグリフォンが増えたと聞いていますが、王都ではないんですよね?」
フィーネさまが窓の外を見たあと私に視線を合わせて問うてきた。天馬さまたちとグリフォンさんたちが増えたことは私の手紙で彼女は知っている。興味があるのか少しウキウキしているようだ。
「侯爵領の方ですね。皆さま、のんびり過ごされておりますよ」
今回、私は直ぐ侯爵領に戻ると知っているため、彼らはこちらにきていない。興味のある方がいるそうだが、王都に赴いても騒ぎになるだけと分かっていたようだ。
ただグリフォンさんの卵四つは一緒に過ごして欲しいというお願いがあったので、私はいつも通りポシェットを下げている。時間があればお三方に紹介するのもアリだろう。フィーネさまは私の返事に少しだけ残念そうにして、すぐに気を取り直す。
「聖王国でも安易に魔獣や幻獣を捕まえたり、傷付けては駄目という法が施行されます。少しでも彼らの役に立つと良いのですが」
フィーネさまが簡単に捕まえたり傷付けることができる人は凄く少ないでしょうけれどと言葉を付け加えた。確かに簡単にできることではないが偶に特異な方が出現する世界だ。魔獣や幻獣の皆さまの安全に少しでも寄与できるなら有難い法だろう。国によりマチマチではあるが罰則があると聞いている。
「他の国でも動きがあるようなので良かったです」
「本当に。グリフォンの卵を偶然得て飼い続けた、なんて例がでてくるとは誰も予想していなかったでしょうから」
エーリヒさまとユルゲンさまも苦笑いを浮かべている。おばあの一件でとある国のとある人がやっちゃっているので、お二人は外務官としていろいろ動いてくれたようだ。
多分彼らはとある人がどうなっているのか知っているのだろう。家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまが知っている可能性もあるが私には興味がない。おばあが楽しく過ごせているならそれで良いと、賓客室の前に辿り着く。
「では、一旦別れましょうか」
「またあとで!」
私の声にフィーネさまが笑みを浮かべ男性陣に小さく手を振る。男性陣は小さく頭を下げているのだが、エーリヒさまの表情がいつもより緩いような。
「はい。また後ほど」
「失礼しますね」
「行こう、エーリヒ、ユルゲン」
男性陣が声を上げて隣の賓客室の方へと入って行く。私はリンとフィーネさまの方を見て行きましょうと声を上げ、部屋の中へと入りフィーネさまに席を勧める。リンは私の後ろで続けて護衛を務めてくれるようだ。
私も椅子に腰を下ろして部屋付きの侍女の方にお茶とお菓子を用意して貰う。クロは私の肩から降り、ネルと戯れ始めた。毛玉ちゃんたちもフィーネさまに挨拶をして、床の上で三頭がワンプロを始めていた。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんもよっこらしょと床に寝転がって、こちらには興味がないよというスタンスになっている。侍女の方がお茶を淹れてくれ、壁際に下がって行った。私は紅茶を一口どうにか飲んで、フィーネさまと視線を合わせる。
「フィーネさま、今回は突然どうしたのですか?」
私とフィーネさまが会う場合、一ケ月くらいは余裕を持って約束を取り付けているのだが、今回は一週間という大分早い時間で調整を行った。
お互いに役目を負っているためそうなるのはしかたないことだと、フィーネさまも私も理解している。なので今回、早くお会いして話がしたいですと願った彼女の行動が気になるのは当然で。私の声にフィーネさまが一瞬視線を逸らして、また元の位置へと戻した。
「まあ、いろいろとありまして……再度になりますが、ジークフリードさんからの告白をナイさまはどうするのかなーとか進展はあったのかなー……なんて気になったものですから」
「ぶふっ!」
あははーとフィーネさまが笑っているけれど、瞳の奥には『恋バナ!』という文字が宿っているように思えてならない。私は私で二口目の紅茶を吹き出しそうになる。私の後ろでリンが『落ち着いて、ナイ』と言いたげであるものの声には出さないらしい。
「何故、二度目の突っ込みが……」
「アルバトロスの陛下から、もしナイさまが私に恋愛相談を持ち掛けたならば乗って欲しいとお願いされたので」
私が項垂れるとフィーネさまがくすくすと笑っている。嫌な笑い方ではなく、私の驚きに何故予想していなかったと言いたいようだ。そして私は彼女の声に顔を思いっきり上げた。
「へ、陛下から!?」
「はい。アルバトロス王からです」
どうして陛下からフィーネさまにお願いされているのだろう。あ、いや、でも……転生者同士だから価値観を共有しているため、恋愛事も相談し易いと考えたのだろうか。
そう考えてしまうと陛下を責められない。おそらくソフィーアさまからボルドー男爵さまに報告されているし、家宰さまか侍女長さま辺りからも王国へ知らせを入れているはず。報告時間に差異があっただろうけれど、いずれは知れ渡ってしまったのはお貴族さまとして当然のこと。
「あ、あれ? ということは公認されてる?」
ジークがアルバトロス上層部から問題のある人物と判断されていれば、陛下から『告白を受けるな』と言われそうである。手も口も出してこないということはジークと私の関係を認めるということだろう。
「ですねえ。きっとナイさまとジークフリードさんが婚姻すれば、諸問題が丸く収まると考えられておられるのでは?」
「う……」
フィーネさまが肩を竦め、私はなんとも言えない気持ちになってしまう。ジークの件が公認というのは大人の事情というか国の事情というか……いろいろとお貴族さまのしきたりによるものだろう。
私が婚姻して子を成さなければアストライアー家の直系が途絶える。ユーリという半妹がいるけれど、彼女が侯爵位を継げば傍系だ。できることなら直系に継いで貰い代々を経て欲しいと陛下方が願うのは当然のこと。
「貴族としては問題ないでしょうけれど、ナイさまの気持ちが一番大事です。ジークフリードさんのことをどう思っているのですか? 考えを整理するために吐き出してみるのも、一つの手ですよ?」
フィーネさまがドヤという顔をして胸を張っている。私は誰かの話を聞く場合が多いけれど、偶には聞いて貰うのもアリなのだろうか。今は身内しかいないし相談できる相手もいない。リンは存在が近すぎるため『兄さんと婚姻すれば良い』としか返ってこないだろう。私が悩んでいることを吐露するのは憚れるけれど……せっかくこうして機会を作ってくれたなら。
――正直な気持ちを聞いてもらうのもアリか。
私は長く息を吐き、フィーネさまと目を合わせるのだった。