魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ジークに私の気持ちをきちんと伝えるべく話の場を設けたつもりが、彼の本気具合を知る羽目となってしまった。私は東屋から足早に庭へと向かい、人気のない場所で蹲る。
まさかジークがあんなに真っ直ぐ思いを語るとは全く考えていなかった私には、意外な展開だったので困惑してしまった。ジークが席から立ち上がり、場からいなくなってくれたのは私のことを慮ってくれたのだろう。
「……のこと好きだけれど、ラブかライクか分かんない」
私は独り庭の隅っこで膝を折り頭を抱える。地面の一点を見つめる私は、傍から見れば凄く怪しいけれど誰もいないので問題ない。ジークのことは好きである。ずっと一緒に過ごしていたのだから、嫌いという感情は全くない。
でもラブかライクかと問われれば、良く分からないというのが正直な私の気持ちである。腰元のヘルメスさんが『ご当主さま~落ち着いてくださいまし!』と言っているのだが、私は至って落ち着いている。失礼だなあと言いたいけれど、先程のジークの姿と声が頭の中で反芻していた。ジークは確かに顔が良ければ、声も良い。性格も落ち着いているし、腕っぷしは強いし、頭も回るから一緒にいて楽である。
恋に恋する女の子であれば、ジークの告白を受けたならば天にも昇る気持ちになるのだろう。私は今までの関係性からお付き合いする未来が考えにくいというか。
前世のように付き合って別れても問題視されないなら、付き合ってみようと気楽に返事ができたはず。今の世界、というかお貴族さまの世界ならお付き合いを通り越して、婚約者となり、いずれ婚姻を結ぶ。簡単に返事はできないよなあと、地面から正面に視線を向ける。
「ずっと同じことを考えている気がする……」
私がはあと溜息を吐けば、なにやら馬の脚が八本視界に入った。更に顔を上げると、エルとジョセが私を伺いながらこちらに歩いてくる。少し手前でピタリと立ち止まった二頭に、私は地面から立ち上がって三歩ほど距離を詰めた。
「エル、ジョセ、どうしたの? あまり動くのは良くないんじゃ?」
エルとジョセはいつも通りの雰囲気であるが、ジョセのお腹ははち切れんばかりに膨らんでいる。次の満月の日に産まれてくるのではないかと話していた。
そんなジョセがウロウロして良いのかと私はジョセの側に寄って顔を撫でる。ジョセは大きな目を細め、エルは羨ましそうに私を見ているため苦笑いが出てしまう。ジョセの顔を撫でたあと、エルの鼻横を撫でれば満足そうな顔になった。
『あまり動かないのも問題だろうと、ジョセと一緒に庭を散歩しておりました』
『じっとしているのも大変なのです』
エルがジョセの顔を見ながら声を上げ、彼女は照れ臭そうに庭を闊歩している理由を教えてくれる。彼女は初産を経て何頭も仔を産んでいるから彼らの判断に間違いはないのだろう。
「そっか。無理しないでね」
私が声を上げ、ジョセのお腹を撫でるとぼこりと腹の部分が動く。なんだろう、大丈夫とでも胎の中の仔が訴えているのだろうか。なににせよ、無事に、そして元気に産まれてきて欲しいともう一度ジョセのお腹を撫でていれば、エルが私に顔を寄せた。
『しかし聖女さま、このような場所でどうなされたのですか? なにかあったではとジョセと心配しましたよ』
『はい。人気のない場所なので、聖女さまが泣いていらっしゃるのかと』
エルとジョセには申し訳ないが、私が泣くことなんてほとんどあり得ない。涙が枯れているわけではなく耐性値が高いというべきか。私が心配させてごめんとエルとジョセに伝えると、安心しましたと二頭は息を吐く。
『では、何故こんなところに?』
『ですね』
いつもであれば『そうですか』と引き下がるはずのエルとジョセが更に踏み込んだ。珍しいこともあるものだと私はどうしたものかと考える。エルとジョセは天馬さまなので、人間の恋愛相談をしても良いのだろうか。
そもそも番として結ばれるのが天馬さまのため、運命の出会いがあるそうである。エルもジョセもお互い初めて出会った時にびびびと身体が痺れて、目の前にいる天馬が番だと確信したらしい。
時折、人でも『出会った瞬間に身体に電撃が走った』と言って恋に落ちると聞くが私には縁がなさそうだ。私はエルとジョセを見つめて話し相手になって欲しいとお願いしてみる。彼らであれば私の話を聞いても誰彼に吹聴しないはず。心配なら黙っていて欲しいとお願いすれば良いだけ。
『構いませんよ。聖女さまとお喋りるすのは楽しいですから』
『はい。久しく時間を取れておりませんでしたから、聖女さまと語れるのは嬉しいです』
二頭が私に顔を近付けて、ぐりぐりと擦り付ける。揉みくちゃにされているような気がするけれど、おばあや小型の竜の方より加減されていた。私がジークの件をエルとジョセに伝えれば、ふむとなにやら考え込んでいる。やはり人間の恋愛について天馬さま方には難しかっただろうかと私は小さく首を傾げれば、エルとジョセが真面目な顔になる。
『我々天馬は番を得ますが、いない間に恋をすることもありますから』
『ええ。番と勘違いして称していれば、本物の番と出会って喧嘩になってしまったという話がありますよ』
エルとジョセが困り顔になって教えてくれる。そんな昼ドラみたいなことがあるのかと私は二頭の方へ顔を向けた。
「それは……凄く大変じゃ?」
あとから本当の番が現れたとなれば、いろいろ不都合が生じそうである。その時に相手が仔を成していればどうするのだろう……自然界で生きているから……いや、悲惨なことは考えないでおこうと私は頭を振る。エルとジョセは気を取り直して私の疑問に答えてくれるようだ。
『どうなったのか我々には分かりませんが、気がなければ仔を成せないですからねえ』
『おそらく最初の番とは別れたのでしょうねえ』
二頭は青く晴れた空を見上げる。今頃、その天馬さま方はどうしているのだろう。仔も無事で生きていれば良いなと願っていれば、エルとジョセが私の顔をじっと見ていた。
『聖女さまはジークフリードさんのことをどう思われているのですか?』
『我々は天馬なので人間の良し悪しはわかりませんから』
「ジークのことは今まで幼馴染で異性として見ることはなかったけれど……告白を受けて、良く分かんなくなっちゃった」
エルとジョセに私はジークに抱いている気持ちがよく分からないと告げる。すると腰元のヘルメスさんが『あ! またご当主さまの魔力が!! ヘルメス、少々黙ります!』と告げ、本当に黙り込んだ。二頭と私はまあ良いかと話を続ける。
『おや。では聖女さまはジークフリードさんのことを良く思っていらっしゃるのでは?』
『ええ。気がなければ、迷うことなどないでしょうから』
確かに今まで悩んでいるなあと私は空を見上げた。多分私はジークのことを多少なりとも男性として見ているのだろう。じゃなければクレイグのように異性には思えないと口にするはずだ。
でもやはり、お付き合いする決定打がないというべきか。貴族であれば感情が冷めれば仮面カップルになってしまうのだから。私が空を見上げたまま悩んでいると、二頭がまた口を開く。
『難しく考えすぎではないでしょうか』
『そうですね。物事を最も単純にするならば、相手の方と交尾したいか、したくないか……で良ろしいのでは?』
エルが落ち着いた声で、ジョセはなんだか凄いことを言い、私の頭が理解するのに数瞬掛かってしまった。
「ぶふっ!!」
ようやく理解した頭から口に衝撃が走ったようだ。勝手に口から息が漏れて、私の目が丸く見開いているのが分かる。エルは『聖女さまには少々過激でしたようです』とジョセの方を見て、彼女は『あら。聖女さまですからご理解なさっているかと……』と申し訳なさそうな顔を浮かべている。
確かに分かっているけれど、ストレートに口にされると驚いてしまう。私はエルとジョセに『もう少し考えてみるよ。話、聞いてくれてありがとう』と伝えて、場を足早に去るのだった。
◇
――一体、なにがあったんだ。
今日の晩飯も美味かったのだが、あり得ないことが起こってしまった。夕飯に同席しているジークはいつも通り、リンは片眉を上げながら自室へと戻って行ったナイの方に視線を向けていた。そして同じく同席しているヴァルトルーデさまがぽかんと口を開け、ジルケさまが怪訝な顔を浮かべて食事の手が止まっていた。俺は隣に座っているサフィールの方に顔を向ける。
「ナイが飯を残して部屋に戻るなんて……有り得ねえ」
俺がサフィールに声を掛けると、主のいなくなった席を見ていた。いつも小柄な身体のどこに食べたものを仕舞い込んでいるのか分からないほどの量を食べているのに、ナイの晩飯の食事量は普段の七割止まりだ。しかもアイツは食堂の扉を潜る際に半身を扉にぶつけながらも、フラフラと部屋に戻って行った。なんかヤベー気がするものの原因は分かっている。分かっているのだが、口にせずにはいられなかった。
「本当にどうしたんだろうね」
サフィールは驚きつつも食事の手を再開させながら、ジークの方を見ている。ジークはサフィールの視線に気付いて『すまん』と言いたげな顔を浮かべていた。
「ナイの奴どうしたんだ?」
「ジークフリードと話があるって言って今日は話していたよね?」
ジルケさまとヴァルトルーデさまはナイの身になにが起こったのか理解していないようだった。ジークに視線を向け視線でなにがあったと問い詰めているようにも見える。ジークは女神さまの視線を受けながらも澄ました顔のまま、持っていたスプーンを皿の上に置いて背を正す。
「はい。少し込み入った話をしていたのですが……俺の言葉がナイの食事量に影響を与える内容ではなかったと」
ジークは二柱さまに正直に答えたようである。ナイも双子も嘘を吐くようなことはしない。その辺りは長い付き合いがあるから分かっている。俺は仲間には優しい嘘以外は吐かない。サフィールももちろんそうだろう。
だからナイはなにに対して考えを巡らせているのだと、俺はアタリを付けてみるものの、全く想像が付かない。とはいえ、昼間にジークと話をして少しは進展があったのだろう。でなければ、ナイがあんな状態になるはずがない。
「じゃあなんで?」
ヴァルトルーデさまが凄く不思議そうな顔をしているが、これはもう直接ナイに聞いた方が早いのではないだろうか。どうにもナイは今まで恋愛に興味がなく、ジークの突然の告白にいろいろ戸惑っている節がある。発破をかけるにはまだ早い気もするし、俺もあの人との関係を突っ込まれればなにも言えなくなってしまうのだから。
「まあ、姉御。もう少し様子を見ようぜ。ナイの奴、自分で答えを見つけるかもしれねーんだしよ」
「大丈夫なの?」
ジルケさまが軽い調子で食事を再開させると、ヴァルトルーデさまも末妹さまに倣っている。
「死にはしねえだろ」
ジルケさまが詮無く言い放つ。確かに死にはしないなと俺は頷いて、女神さま同様に食事を再開させるのだった。人のことは言えないが……難儀しているな、ジークは。
◇
――うわあ……。
大丈夫かなと侍女の私が心配になるほど、ご当主さまの行動が雑になっていた。いや、やるべきことはきちんとなされているようだけれど、執務が終わればぼーっとしていることが多くなり、椅子や机の脚に足の小指をぶつけて『ぐふっ!』と低い声を出したり、扉から出て行く際に半身をぶつけて『痛い……』と零しているのだ。痛みに強い方なのか暫くすれば行動を再開させているけれど……介添えを担っている私、エッダはご当主さまが大丈夫なのか気になって仕方ない。
朝。ご当主さまのお着換えの介添えを終えた私は長い廊下を歩いていれば、丁度、ご当主さまの部屋へと向かうジークリンデさんの姿を捉えた。私は廊下の隅に寄って礼を執れば『お疲れさま』という彼女の声が耳に届く。
顔を上げればジークリンデさんは数歩先を進んでいる。足が長いためか、数歩でも随分とあった。私は丁度良い機会かもしれないと、失礼であることは承知で口を開いた。
「ジークリンデさん、ご当主さまは大丈夫でしょうか?」
私の声にジークリンデさんが立ち止まり、こちらへ振り返る。彼女の表情は普段と変わりなく感情が読み取り辛いけれど、ご当主さまのことだから少し考える素振りを見せた。
「大丈夫。珍しく考え込んでいるだけ」
短く答えてくれたジークリンデさんは身体を翻してご当主さまの部屋へと向かう。私は私で仕事があるからと侍女部屋に戻るべく足を動かす。ジークリンデさんとジークフリードさんはご兄妹ということで、お顔はそっくりだ。
お二人とも見目が良いので男女から憧れの眼差しをむけられており、屋敷の人たちは目の保養と言い張って盗み見ている方もいた。性格はジークフリードさんの方が社交的だ。時折、ご友人であるベナンター男爵さまが屋敷に訪れる。
逆にジークリンデさんは内向的、というよりも周りに興味がないのだろう。幼馴染がいればそれで良いと考えている節がある。ただ長く屋敷に勤めていれば、彼女の良いところは知っている。
分かりづらいけれど子供たちに優しいし、天馬さまやグリフォンさまたちとも普通に接している。重い物を持っていると手を差し伸べてくれる方なのだ。言葉数は凄く少ないけれど、態度で言い表してくれることが多い気がする。ジークリンデさんが男性であれば、多くの女性が目を奪われていただろう。まあ、ジークリンデさんの男性版はジークフリードさんだけれども。
ご当主さまは数日前に東屋でジークフリードさんと話した一件から、凄くポンコツ化――自身の主人を悪く言いたくないけれど、一番適切な表現だろう――している。大丈夫なのかなという心配と、二人の関係は上手くいくのだろうかと頭を悩ましていれば、曲がり角に差し掛かり私は身体を右へと向ける。考え事をしていたためか、私は壁に右半身をぶつけてしまった。
「痛っ!」
痛みで口から声が漏れると、近くを歩いていた侍女長さまがばっちり見ていたようだ。
「なにをしているのですか、エッダ。考え事をしながら歩くものではありませんよ」
呆れ声を上げながら侍女長さまは私の下へと歩いてきて、体調に問題はないか、今日の仕事は続けられるのかと片眉を上げながら問うてきた。私は問題ありませんと背筋を伸ばせば、侍女長さまはふうと息を短く吐いた。問題ないのであれば良いでしょうと言葉にした侍女長さまが『体調が悪くなったなら言いなさい』と更に告げる。私は礼を執り顔を上げ、少し慌てながら口を開く。
「は、はい。失礼いたしました、侍女長」
私の声に侍女長さまが頷いて、踵を返し廊下を歩いて場を去って行く。考え事をしながら歩くものではないなと私は前を向いて侍女部屋へと戻れば、暇を持て余して繕い物をしている他の侍女の方たちが私の方を見た。とりあえず私はいつもの定位置につこうと足を動かす。椅子に腰を下ろせば、繕い物をしていた同僚たちが私を囲う。
「ねえ、エッダ。ご当主さまとジークフリードさんはどうなったのかな?」
「三日前に人払いをしてお話されていたようだけれど、あまり変わった様子はないよね」
「変わったというより、ご当主さまの行動がおかしくなっているような? 調理部の人たち、ご当主さまが普段の量の八割くらいしか食べないって驚いているよ」
声を掛けてくれた同僚三人はご当主さまとジークフリードさんの仲が深まって欲しいと願っている。ジークフリードさんと結ばれる夢を見ていた人もいるけれど、彼がご当主さまに告白なさったと知りきっぱりと諦めたようだ。
ご当主さまとジークフリードさんの関係が凄く変わったということはない。ただ三日前からご当主さまがジークフリードさんに対してぎこちない態度を取っていた。そしてジークフリードさんは苦笑いを浮かべながら、ご当主さまの側に侍っている。
でも、ジークフリードさんは告白前よりご当主さまとの距離を半歩詰めている気がする。もちろん物理で。いつも静かにご当主さまの後ろに控えているのだが、半歩詰めたその距離は周りに手を出すなとアピールしているようにも見えた。
ご当主さまはジークフリードさんの気持ちにぎくしゃくしているようだけれど、まんざらでもないらしい。ただ、上の空になったり、なにもない所で転倒しそうになったり、壁に身体をぶつけたりと忙しそうだ。いつも落ち着いた態度で私たちと接してくださるご当主さまだが、恋愛は年相応というか年齢以下の行動なので微笑ましい。しかし、驚いた事実が今発覚したような。
「お食事の量が減っているの!?」
私はみんなに顔を近付けて声を上げる。煩く喋っていると他の部署から苦情が入るので、侍女部屋で騒ぐわけにはいかない。でもご当主さまのお食事の量が減っているとは驚きだ。
ご当主さまがミナーヴァ子爵を名乗っていた時は、私がお屋敷でお料理の介添えも務めていたからご当主さまが良く食べられることは知っている。
侯爵位を賜ってからは、私は食事の介添えから外されて着替え専門の介添えとなっていたため、ご当主さまの食事量が減っていることを知るのが遅れてしまったようだ。
高い爵位を持てば当然のことだから仕事を奪われたというより、仕事が楽になったのにお給金が上がるという。とはいえ侯爵家の侍女を務めるには、それなりの振る舞いが必要なので大変な部分もある。私が考えを巡らせていると、情報を提供してくれた子が深く頷いた。
「うん。調理部の人たちから直接聞いたから事実だよ。幼馴染の皆さまも、女神さま方も驚いているって」
「……本当にご当主さまは大丈夫かしら」
肩を竦める同僚に私は遠い目になる。この三年間、ご当主さまの食事量が落ちたとか、風邪を引いたとか全然なかったのに。しかし、ジークフリードさんの告白で右往左往している姿は好ましい気もする。
ずっと巻き込まれて大変だったのだから、ご当主さまの苦労が多少は報われても良いのではいないだろうか。まあ、ご当主さまにとって恋愛は凄く高い壁のようで、ご自慢の魔力量でもなにもできないようだ。
「まさか侯爵家が潰れる、とか……?」
「それはないよ。あったとしてもご当主さまの代わりにアルバトロス王国から誰か派遣されてくるんじゃない?」
心配そうな顔を浮かべる同僚と苦笑いを浮かべる同僚に私もうんうんと頷く。アストライアー侯爵家が潰れるなんて、よほどのことがない限りあり得ない。
女神さまがお過ごしになられている屋敷を潰そうなんて、アルバトロス王国の陛下はお考えにならないし、もし仮に侯爵家の屋台骨が崩れても誰かが力添えをしてくれる。そのためにハイゼンベルグ公爵家やヴァイセンベルク辺境伯家がご当主さまの後ろ盾となっているのだ。そしてアルバトロス王国を超えて、亜人連合国やアガレス帝国に共和国も援助してくれるはず。
女神さま方もいらっしゃるし、創星神さまもご当主さまとご懇意である。ご当主さまになにかあっても神さま方が助けてくださると、私は繕い物に手を伸ばして作業を始めるのだった。
◇
アストライアー侯爵家の調理部に研修生として赴き、合格点を貰った私は神の島に戻っている。北と東のお嬢さまの食事量が少し増えたため、私はアストライアー侯爵家で修行をして良かったと安堵していた。
どうやら毎日ほぼ同じ食事を提供していたことが、彼女たちから食への興味を失せさせていた。私の上司である創星神のグイーさまも酒の肴が増えたと喜んでおられ、私を受け入れてくれたナイさんと調理部の皆さまには感謝しかない。
ご飯時、私は本日の料理の説明を行うため、屋敷の食堂に顔を出せばご家族三柱が下界を覗いておられた。食事が冷えてしまうので早く食べて下さいと言えないのは、私が彼らより下級の神だから仕方ない。北と東のお嬢さまがアストライアー侯爵邸の様子を神力で映し出しながら、ふふふと微笑みを浮かべられていた。
「お嬢ちゃん、面白いわねえ」
「恋愛が苦手なのねえ」
ナイさんになにかあったようで、お嬢さま方は楽しんでおられるようだ。少しナイさんのことが気になるものの、悪い事態であれば側にいるグイーさまが解決に乗り出すはず。その解決に導くべき方は酒を片手に映し出された光景を見て、にやにやと笑っておられる。
「ナイがあんな初心なところを見せるとはのう。まあ、今までが今までだから仕方ないのか?」
はははと呑気に笑ったグイーさまであるが、その言葉と同時に北と東のお嬢さま方の表情が厳しいものになった。私は主の心配をしつつも、なにかやらかしてしまったのだろうと小さく息を吐く。
「お父さま、ジークフリードが告白しようとしたとき、あの堕神の所為で邪魔をされてしまいましたわ」
「ナイが右往左往しているのは、お父さまが適当に封じた石を投げたからではございませんか?」
北と東のお嬢さまがギロリと視線をグイーさまに向けていた。どうやら赤髪の彼がナイさんに告白をしたようだ。そしてナイさんは彼の告白に戸惑っているのだろう。確りしたお嬢さんだが二十歳を迎えてもいない子供だから右往左往することもあるだろうと、グイーさまの方を見れば情けない顔になっている。
「うぐっ……そ、それは、仕方ないだろう? 儂だって、奴を封じた時はこんなことになると全く考えていなかったんだ! どうして儂が投げたアレがナイの領地にあったのか……」
手に持っていた酒の入ったグラスは離さないまま、グイーさまは身体を小さく縮めていた。北と東のお嬢さまはそんな父親に対して深々と息を吐く。
「お父さま、ナイとジークフリードの関係が拗れたなら、どうにかなさってくださいましね」
「ええ。お父さまにも責任の一端がある気がいたしますわ。ジークフリードの恋路を邪魔したわけですし」
お嬢さま方にグイーさまが顔を上げる。
「分かった、分かった! だが、儂が出て行くのは完全に拗れた時だけだからな! というか儂が行くよりテラの方が適任ではないか……?」
グイーさまの声に確かにお母さまの方が適任……かも? とお嬢さま方は首を傾げているのだった。さて、ナイさんとジークフリードさんの恋はどこへ向かうのか。関わった者として見届けさせて頂こうと誓い、私はグイーさまとお嬢さま方に本日の料理の説明をさせて頂くことにした。