魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
亜人連合国を経て王都へと戻り、辺境伯領へ行き花を添え、また王都へ戻った。公爵邸に戻って食事を終えお風呂を借りて直ぐに寝たのだけれど、随分と寝過ごしていた。
陽は既に空の真上に昇っており、丁度お昼の時間。公爵邸の客間で目が覚め、一人で着替えていると侍女さんがノックをして部屋へと入ってくる。
「聖女さま、起きられた際には呼び鈴を鳴らして下さいと、何度……」
「すみません、いまだに慣れなくて」
彼女の苦言は仕方ない。侍女の仕事を奪ってしまっているのだから。そしてバレたら怒られるのは彼女たちで、私はお咎めを頂くことはなく。そろそろコレも諦めなければならないなあと苦笑いをしながら、着替えを手伝ってもらう。
「食事は如何なさいますか?」
「ありがとうございます。――お腹が空いたので、何か頂けるものがあるといいのですが」
着替え終わったのでお礼を告げ、苦笑いをしつつお腹をさすりながら伝えると侍女さんも上品に笑う。
「では、料理長に伝えておきますので暫くお待ちくださいませ」
「すみません、お願いします」
しずしずと礼をして部屋を出ていく侍女さんの背を見送る。他の人たちはどうしているのかは分からないけれど、自分一人の為にご飯を用意してくれるなんて随分と贅沢。
亜人連合国へ出発する前公爵邸に居た数日間で、公爵さまを始め、公爵夫人に次期公爵さまに奥方さま、ソフィーアさまにカトラリーの使い方を仕込まれていた。
どんどんと普通の生活からかけ離れて行くことに、不安を覚える。王家からお屋敷を与えられそうな予感がするし、そこには護衛の方や侍女さんたちも付けられるだろうから、ジークとリンと別れることになる可能性もある。
「…………」
仕方ない、のかな。私の専属護衛から外れることはないだろうけれど、ずっと一緒に過ごしてきた時間は本物で。家族ではないけれど、家族以上の絆を感じている。そうなってしまうと寂しいが、二人も仕方ないと判断したなら一緒に暮らすことはないのだろう。
「どうぞ」
ノックの音が聞こえて扉越しに声が聞こえたので、入室を許可した。
「目が覚めたと聞いたから、来てみたが」
「おはよう、ナイ」
ひょっこりとジークとリンが顔を出した。扉を開いたままで、こちらへとやって来る。窓際に立っていたので、二人以外誰も居ないことを理由に窓の桟に凭れた。これをやると行儀が悪いと怒られたのだった。
「おはよう、ジーク、リン。ちゃんと休めた?」
「ああ」
「うん」
なら良かった。強行日程だったし、二人も公爵邸で過ごしていたから、環境が変わってしまい慣れなかっただろうに。
「ご飯は?」
「もう食べた。あとはお前だけだ、寝坊助」
目を細めて笑みを浮かべるジーク。どうやら冗談のようで。
「ごめん、一度も目が覚めなかったから。侍女さんたちも気を使って起こしてくれなかったし」
何か用事や予定があるのならば、侍女さんたちが叩き起こしてくれるので、急いだ用事はなかったのだろう。二人は規則正しく朝に起き食事を済ませ、昼食も済ませてしまったようだ。仕方ない一緒に食べるのは諦めて、大人しく食事が出されるのを待とう。
「報告書、仕上げなきゃね」
教会にも国にも報告書を提出しなきゃならないから、戻ってきたとしても仕事はまだ続く。提出期間までまだ少し時間があるものの、後回しにしていると直ぐに期限が迫っているから、早めに仕上げたい。
「……苦手」
この手の作業を得意としていないリンが渋い顔をして苦言を漏らした。
「手伝うから一緒にやろう、リン」
「うん」
いつものように三人集まって作業をすれば、一人でやるよりも効率よく終わるだろう。今回は同行者も居たから、事細かく書く必要はなさそうだし。
あとは昨日の会談がどうなったのか、代表さまたちは帰ってしまったのか。公爵さまかソフィーアさまが知っているだろう。屋敷の中で会ったら聞いてみよう。ただこの広い公爵邸で出会える確率は低いので、執事さんでも捕まえられるといいが。彼に出会うのも案外難しかったりする。
本当に広いよなあと苦笑いしていると『お食事の用意が出来ました』と、侍女さんが部屋の扉の前に立って教えてくれた。
「直ぐに済ませてくるから、ちょっと待っててね」
ここで待っていて貰えば良いだろうと、直ぐに戻る旨を伝えて部屋を出ようとする。
「俺たちも行こう」
「ん。後ろで控えているね」
「気になるんだけれど……」
見られるのは気になる訳で。食べる時くらいゆっくりしたいけれど、どうもそうはいかないようで。侍女さんも横について、メニューを出したり下げたりしてくれる。気軽に食べられる、ジャンクなものがそろそろ食べたいけれど、王都の街に出ることは出来るのか……。
「慣れろ」
「ナイ、頑張ろう」
尤もな二人の言葉に力なく頷いて、食堂へと足を向けるのだった。
――夜。
報告書を三人一緒で必死こいて仕上げて、後はゆっくりと過ごせるねえと雑談をしていたその時だった。
「陛下から呼び出しだ。明日の朝、行くぞ」
ソフィーアさまが客室へとやって来て、無慈悲に告げ。長期休暇は残り一ケ月を切っているけれど、休暇ってなんだっけと頭に疑問符を描く、そんな日だった。
◇
王城の会議室で国の重要人物が集まって、いい歳こいた連中が雁首並べて唸っていた。
「とんでもない人物を引っ張り出してきましたなあ、聖女は。彼女の扱いをどういたします?」
そろそろワシも人前では敬称くらいは付けた方が良いかもしれんな。亜人連合国の代表をアルバトロス王国にまで引っ張り出し、交易を持ちかけるとは。あの娘は一体何を考えているのか。何も考えていないから……いや、面倒だから国へ擦り付けておこう位には考えていたのかもしれないが。
「現状で良くないことは重々承知している。だが……王都の貴族街に適切な屋敷があるかどうか、怪しいな」
この場では甥と叔父ではなく、国王陛下と公爵家当主。難しい顔をしながら手を口元に当てて考えるしぐさを見せる甥。
「この機会に無能な連中の首でも切ればよろしいでしょう。追い出せば良いのですよ、国に貢献できぬ奴など」
冗談を吹かすと、ざわりと騒ぎ始める奴らに腕を組んで悩む仕草を見せる奴。あの黒髪の娘以上の功績を齎せと言われても、誰も出せぬだろうよ。ワシも同じことを言われれば、頭を抱えるだろうが。
冒険者が調子に乗って竜を殺してしまい、あまつさえ浄化儀式が必要な事態まで引き起こし、それを鎮め。
魔石ではなく卵を残し、その説明の為に亜人連合国へ向かわせただけ。だのに、何故竜の大群を引き連れてこちらへ戻ってくるのだ。怒らせて攻め込んできた訳ではなく、死に絶えた竜に花を供えにと聞き、安堵から腰を抜かしそうになった。
「公爵、口を慎みたまえ」
「すみませぬ、陛下。どうにも歳を取り過ぎたようで」
ワシの軽口に『早く引退しろ』という視線を向けてくる連中がちらほら。目障りだろうなあ、軍を動かして不正をやらかす連中に圧を掛けたりしているのだから。だが息子に代を譲ったとしても、変わることはない。
国へ尽くすのが貴族の務め。裏切るなど、頂点に立つ者がどうしようもなく愚かであった時のみ。
「しかし此度の一件は聖女の枠を超える仕事を成し遂げた。――まだ締結には至っておらぬが、亜人連合国とのパイプが出来たことは我が国にとって大きな益となる」
甥のその言葉に力強く頷く者、やれやれと首を振る者、鼻で笑う者。よし、今賛同しなかった連中の顔は憶えた。
「ですなあ。いつまでもハイゼンベルグ公爵家に居候させる訳にもいきませんぞ。会談の際に彼の国の代表から釘を刺されたのでございましょう?」
「ああ。――何故、盗難を心配しなければならない環境下に住んでいるのかと問われた。そして彼女の為に動くならば、協力をしようともな」
本当に彼の国で何をしおったのだあ奴は。昨日は家に戻ると疲れて既に就寝しておったし、今朝も起きてこなかった。昼までは寝かせておけと、侍女に言いつけて登城したのだが無理矢理にでも起こして話を聞くべきだった。
眼から光が消えた甥に同情を禁じ得ない。
昨日王都の壁外で亜人連合の三人と対峙したときは、このような覇気を持つ者が居るのかと驚いた。彼らとの会談に臨んだ甥を始めとした者たちの気苦労は計り知れないが、国の為だと我慢するのが為政者というもの。
「では、どうするので?」
「爵位を与えようと考えている。ただ聖女にあまり高い爵位を与えてしまうと方々から突き上げをくらう」
「確かに。五月蠅い連中には聖女以上の功績を上げてみよと言いたくなりますが」
「ははは。公爵、面白いことを言うなあ。確かに彼女以上の功績を国へと齎せば、好きな爵位をくれてやろう。……そのような者が出るとは思えんが」
そう言って甥が先ほど同意をしなかった連中へと視線を向けた。どうやら彼もあ奴を良く思っていない連中を見定めたらしい。何か不正でもしていないかと考えるが、兎にも角にも早急にナイに新しい家を与えねばなるまいて。亜人連合もこちらの動向を見ているだろうし。
「手始めに、貴族街の不動産を取り扱う者を召喚させよう。良い物件か、土地さえあれば新たに建てることも出来よう」
「へ、陛下っ!」
汗をハンカチで拭いながら一人の男が立ち上がった。
「どうした?」
「此度の一件で王都の民や周辺国家の民が、大量の竜の群れを見て恐れおののいております! 放置すれば不安を煽るばかり、一体どうなさるおつもりで?」
「ああ、その件は時間を掛けて解きほぐす予定だ。――王都に噂を流した。黒髪の聖女が浄化儀式で竜を弔い卵を見つけ、それを返しに亜人連合国へと向かい見事成し遂げたとね」
「は、はあ……」
あまり納得していない様子の臣下に甥は言葉を続ける。少しばかり経緯を誇張して流し、噂が広まれば幸運であると。ついでに演劇や書物にでもなって、後世に語り継がれればなおよし、とも。
嗚呼、あ奴が頭を抱えて涙目になっている姿が目に浮かぶ。
噂が広まれば、娯楽の少ない王都の民のことだ。空を埋め尽くした竜の大群と聖女の関係を面白おかしく広めてくれることだろう。
時間が経てば、王都を出て周辺領にも広がる筈だ。何故、竜が空を飛んだのか疑問に思う連中は、王都からやってきた行商人に問うことだろう。
あれは一体何だったのか、と。
そうして行商人は大袈裟に語るのだ。あの竜たちは黒髪の聖女さまが、手懐けてやってきたのだと。