魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0077:卵さま。

 朝起きて、朝食を取り窓から空を見上げる。

 

 ――花を添えてから、十日が経つ。

 

 雲一つない青い空が遥か彼方まで広がっていた。空をトンビか鷹が優雅に飛んでいる。少し暑いけれどカラッとした空気で、湿気でベタ付く不快感には程遠い。

 着替えを済ませ、今日は孤児院にでも顔を出してみると公爵家の侍女さんたちに予定を伝えている。早々に馬車をご用意しておきますと告げられ、しずしずと部屋から出て行った所。

 

 「ん?」

 

 エルフのお姉さんズから頂いた、連絡用の魔法具がキンと甲高い音を一度鳴らした。魔力が通っている合図であり、着信音の代わりだそう。掛けた対象の人しか分からないという優れモノで、魔法具から離れていても着信音が必ず鳴るので、出られない時の為の掛け直し機能でもあるそうだ。

 

 数日前に上等な反物を頂いてお礼の連絡を入れて『ちゃんとした物を作って貰いなさいね』『出来たら見せてね~』とかなり気軽なやり取りを交わし、通話を終えたのだけれど。またしても連絡があるとは、これ如何に。兎も角、通話に出なければと魔法具に手をかざす。

 

 「はい、もしもし」

 

 『あ、居たよ~』

 

 『じゃあ大丈夫ね。代表』

 

 代表さまを呼んだお姉さんズの声しか聞こえず、通話が途切れた。え、一体何事と目を白黒させていると、部屋に人影が現れた。

 

 「!!!?」

 

 いや、本当に驚いた。目の前に突然、見知った顔が三人現れたのだから。亜人連合国に戻った人たちが何故、アルバトロス王国のハイゼンベルグ公爵家に突然現れるのか。しかも連絡は一切なしで。いや、さっきのが連絡なのだろうか。

 

 「あ、王さまたちには連絡しといたよ~」

 

 「大事な大事な聖女さまを借りるわねって」

 

 国王陛下や上層部は『必ず返してくれるなら、どうぞ』と返答したそうな。なんだろう、私の扱いが雑過ぎないかな。そこはこう『ウチの大事な聖女さまに手を出すな』とか格好よく言えないものだろうか。……いや、無理か。亜人連合国と交易を結ぶ予定だし、頓挫しても困るので言えないか。

 

 「突然済まない。――彼の卵が孵りそうでな。迎えに来た」

 

 お姉さんズを押しのけて代表さまが、何故ここに転移してきたのか理由を話してくれる。どうやら卵さまが孵る直前らしい。迎えを寄越している場合なのかと疑問に思うけれど、エルフのお姉さんズによる転移ならば秒で終えるからなあ。

 

 「赤毛の双子は?」

 

 きょろきょろと借りている客間を見渡すお姉さんズ。彼らの代わりの公爵家の騎士が部屋の前で立ち番をしているので、ジークとリンは部屋でゆっくりしている筈だ。

 

 「借りている自室に居るかと」

 

 「君の護衛がいなきゃ駄目なんだよね?」

 

 「そうなっています」

 

 護衛は必ず付けることになっているから、単身でどこかへ出掛けることはない。連れて行かなかったことを教会から怒られるし、二人も怒られてしまう。割と自由が少ないよねえと遠い目になるけれど、この四年間で慣れてしまうもので。

 

 「分かったわ。――……」

 

 そう言ってエルフのお姉さんAが目を瞑る。どうやら念話のようなもので二人を呼んだらしい。今はまだ近距離だけの試験的な運用だそうで。

 ジークとリンは魔力を外に出せないタイプの人間なので、お姉さんズからの一方的なものだそう。事情は粗方話しておいたとお姉さん。

 

 亜人連合国からアルバトロス王国まで距離が随分とあるので、代表さまは魔力タンク代わりに一緒にお姉さんズと来たそうで。こちらから向こうへと戻る際は私が代わりを務めるそうだ。聞いていないと文句を付けたい所だけれど。

 

 「ごめんね~流石に魔力が足りないんだよね」

 

 「人数も多くなるものね」

 

 雑談をしながら暫くすると足音が聞こえ、部屋の扉を叩く音が鳴り響くのだった。

 

 「どうぞ」

 

 十中八九、ジークとリンだよなあと入室を促すと、蝶番の音を鳴らしながら扉が開いた。そこには良く見知った顔が二つ。そして立ち番をしていた騎士の人たちが、部屋の中を覗き込みかなり驚いた顔をしてる。扉を開いたまま、二人はこちらへとやって来た。

 

 「失礼します」

 

 「失礼します」

 

 騎士服を纏い帯剣しているジークとリン。いつの間にと思うけれど、早着替えも訓練のひとつで随分と鍛えられたそうだ。何があったのか余り理解していない顔をしているけれど、私も事態に付いていけてない。

 

 「準備は整ったな」

 

 「あ、あの! 公爵家の誰かに伝えておかないと、流石に責任問題になります」

 

 そう、勝手に居なくなるのは不味い。今日の予定は伝えているし、その為の人員を動かしている。せめて中止になった旨だけでも知らせておかないと、不味いのだ。

 

 「仕方ないなあ~こういう所は人間って面倒」

 

 「ルールが違うものね」

 

 「少しだけ待つが、急いで欲しい」

 

 三人の言葉に頷いて呼び鈴を鳴らすと、静かに侍女の人が開いたままの扉から入って来て、三人の顔を認めるなり驚いた顔を見せたけれど、直ぐに鳴りを潜めた。流石、公爵家に勤めている人。三人の角と耳をチラ見して一瞬で判断したようだった。

 

 「済みません、今日の予定が変わってしまって……」

 

 「では、関係する方々に連絡を入れておきます。お帰りは何時になりましょうか?」

 

 目の前の侍女さん、私たちが亜人連合国に行くことも理解しているようだ。卵さまの孵化ってどれくらい時間が掛かるのだろうか。知識がないので、三人を見る。

 

 「夜には帰れるかしらね、代表?」

 

 「ああ、そう時間は掛かるまい」

 

 そういう事らしい。侍女さんの方へと向き直って口を開く。

 

 「――だ、そうです。夜には戻ります」

 

 「畏まりました。皆さまへお伝えしておきます」

 

 よろしくお願いしますと頭を下げる。

 

 「それじゃあ一足飛びで彼の住処へ飛びましょ!」

 

 どうやら一気にご意見番さまの住処だった場所へと戻るようだ。長距離転移は距離がありすぎると何度か転移を繰り返すものだけれど、エルフのお姉さんズには一気に移動できる技術があるみたい。

 

 「ん~」

 

 「ああ」

 

 短くお姉さんAの言葉に返すお二人に苦笑しつつ、リンとジークへと顔を向ける。

 

 「よろしくお願いします。――ジーク、リン急な話でごめんね」

 

 後ろでお姉さんズが『ごめんね~』『悪気はないのだけれどね』と困ったような言葉を紡いでいるけれど、雰囲気はどことなく楽しそう。愉快な人たちだと背中の空気を感じつつ、双子のきょうだいを見る。 

 

 「いや、気にするな。お前の専属護衛だからな」

 

 「うん。ナイに付いて行くのは当然」

 

 私も随分と状況に振り回されているけれど、その私に付き合わなきゃいけないジークとリンは大変だ。

 それでもこうして文句一つ言わずに付いてきてくれる。有難いことだった。

 

 お姉さんAの唄っているような魔術詠唱。

 

 そうして次の瞬間にはご意見番さまの住処へと辿り着き、数多くの竜のみなさまと他の亜人の皆さまが大勢集まっているのだった。

 

 ◇

 

 数多くの竜や亜人の方たちに出迎えられ、道を譲られる。

 

 代表さま、私を先頭に立たせないで下さい。この国の現在のトップは貴方でしょうに。本来の位置は彼の後ろか最後方で良いのだけれど。私が前を行くからジークとリンがその直後に居て、なんだかなあと目を細める。

 急斜面に無理矢理穴を空け、敷物が一番下に敷かれその上に枯れた小枝が集められ器用に卵さまが鎮座していた。最後に見た時よりも大きくなっているような。バスケットボール程の大きさにまで育っているソレには、皹が細長く入っていた。

 

 「私が卵さまの一番前に立つのはおかしいのでは……」

 

 普通は同族の人じゃないのかなあ。鳥とか一番初めに見たモノを、親だと思い込む習性があると聞くし。

 竜の親が人間……しかもご意見番さま程の竜が残した卵さま。絶対に国宝級とかそんなレベル。一国家の聖女が背負えるものではないような。だから代表さまが前に立てば良いのにと、後ろを振り返る。

 

 「構わない。君の魔力に影響を受けている、今更だ」

 

 今更なのか、そうなのか。ええい、こうなればエルフのお姉さんズにでもと代表の後ろに立っている彼女たちに視線を向けると、気付かないふりをされた。でもまあ、竜なんてファンタジーなものが孵るのは興味がある。ご意見番さまってどんな姿だったのかな、とか想像していると楽しいし。

 

 諦めてしゃがみ込み、卵さまに顔を近づける。なんとなく丸いけれど、ごつごつとした表面に黒髪黒目が特徴の私の顔が映り込んでいた。

 

 「え?」

 

 ふっと私の身体の中に巡っていた魔力が随分と減り、しゃがみ込んだ体勢を維持できなくなり尻もちをついた。

 

 「ナイっ」

 

 「リン、ありがと」

 

 尻もちをつき地面に倒れそうになった所で腕が伸びてきた。よく見ているなあと彼女の方に顔を向けて、苦笑いを浮かべながら礼を伝えた。カキンと金属同士がぶつかるような小気味いい音が鳴ると、卵さまに入っていた皹が蜘蛛の巣状に広がって。

 

 『おお!』

 

 『彼の方のお帰りだ!』

 

 『きっとまた我々を導いてくれるに違いない』

 

 「――おかえりなさい」

 

 「本当に」

 

 ご意見番さまが残した次代と言っても、彼らにとってはやはり特別。目に涙を浮かべている方も居れば、笑っている方も、涙に笑みを浮かべているという器用な方もいらっしゃる。割れた部分から鼻先が見えた。どうやら突き破ってそこから出てくるのだろう。リンが支えていてくれた手を取って、ゆっくりと立ち上がった。

 

 少し時間が経ち、随分と顔と体が出てきていた。必死になってもがいて卵の殻から這い出ようとする姿は、自然の中で生きる生き物の力強さ。見ているだけの私たちが出来ることなんて、何もない。静かにじっと見守ることだけ。

 

 卵さまの上半分に開いた穴から、ようやく身体の半分が出てきた卵さま。もとい、幼竜さま。自重で卵が転がって、身体が地面に着いた。そこからまたジタバタと地面を這って、こちらへと足取り危うく後ろ足で歩いて来た。

 

 それと同時に、見守っていた竜の方たちの咆哮が上がる。以前に聞いた何処か物悲しいものではなく、生命の新たな誕生に喜んでいる歓喜の叫び。彼ら流の生命の言祝ぎだった。

 

 「あ……ぅ」

 

 そうして代表さまの言葉通りに、卵さまの幼竜は私の足元へとやって来た。足首に身体を一生懸命に擦り付け、か細い声で鳴いている。抱きしめたい衝動に駆られながらも、自然に生きる生き物、自然に生きる生き物、自然に生きる生き物……と、念仏のように唱えて空を仰ぐ。

 

 「もう諦めたらどうだ。君が孵したようなものだろう」

 

 勝手に私の魔力を吸って育っただけで……代表さま。でもこれってある意味で、製造者責任となるのだろうか。下を見たら絶対になし崩し的に、私の下へ居るようになるという確信がある。でも結局、下を向いた。

 

 銀色の身体に黒色の瞳。またしゃがみ込んで手を伸ばすと、何度か匂いを嗅いで、すりすりと顔を私の手の甲に擦り付けた。

 なんだか良心が痛むなあと考えていると、後ろ足を屈めて私の頭の上に飛び乗って、一鳴きする幼竜さま。首が折れそうだし爪が頭皮に立ちそうだしで、恐怖やら重みやらに一生懸命に耐えていると、代表さまが幼竜さまを抱えあげていた。

 

 「そのくらいで。彼女は人間です。せめて肩か腕の中にでも」

 

 随分と穏やかな顔をしている代表さまを覗き込んで首を傾げてこちらを向くと、ぱたぱたと小さな羽を広げて飛んできた。避ける訳にもいかないので、腕を伸ばして抱きとめる。先程よりも軽い気がするのだけれど、気の所為だろうか。

 

 ぐりぐりと私の顔に幼竜さまの顔を押し付けられ、納得すると私の肩に顔を乗せ、寝た。

 

 「いや……これは、どうすれば……」

 

 竜の生態なんて分からないし、どう接していいかも分からない。肝心な代表さまは微笑ましそうに見ているのだが、これで良いのだろうか。

 

 「この場で話し込むには不適切だな。エルフの街へ移ろう」

 

 代表さまがそう言うと、白竜さまがこちらへとやって来た。『背にどうぞ』と声を掛けてくれると、エルフのお姉さん二人が『また格好つけて』『ね~』と頷き合っている。竜族とエルフの人たちに何か因縁でもあるのか、はたまた個人的なものなのか。後者であればいいと願いつつ、ジークのエスコートで白竜さまの背に乗る。

 

 ちなみに幼竜さまは、一度目が覚めてぱたぱた飛んで私が白竜さまの背に乗るまで宙に浮いており、乗ったことを確認するとこちらへとゆっくりやって来て私の胸元に飛び込む。

 竜だというのに生まれたばかりで鱗がまだ固くなっていないのか、体温が伝わるしふにふにしてた。なんとなく目と口元の間を親指で撫でると目を細めた後に、顔を腕の中へと突っ込んでまた顔をだす。

 

 自由だなあ。

 

 全員が白竜さまの背に乗るとゆっくりと浮かび上がってエルフの街へと進む。二度目の光景だけれど、少し閑散としているけれど自然の大地が目の前に広がっている。緑に包まれた森が見えてくると高度が下がり始めて、広場へと降り立った。

 

 ――あれ。

 

 まだ銀髪オッドアイくんここに放置されていたのか。最後に別れたあの日から約十日経つけれど、やつれた様子もないし元気そう。

 時折、妖精さんが現れて光っているけれど慣れたのか動じていない。猿轡を噛まされているので、言葉を喋ることはないけれど。小型の竜の方もちらほらと降りてきて、檻を揺らしたりと嫌がらせをしている。

 

 「そこまでにしておけ。ソレは放置で良い」

 

 代表さま、どうやら眼中にはない様子。一瞥すらせずに言い放ったから、ちょっと怖い。あと他の人たちも。この環境下で過ごしていられる銀髪くんも凄いけれども。冒険者だし、悪い環境に耐性があるのだろう。

 

 「ああ、すまない。君を脅かすつもりはなかったんだ」

 

 「いえ、お気になさらず」

 

 そんなやり取りをしつつエルフの街、以前会談を行った場所へと歩いて行くのだった。

 

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