魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0078:お名前。

 ――卵さまが孵った。

 

 喜ぶべきことである。あるのだけれど、どうして今現在私の腕の中に居るのだろうか。以前に会談を行った場所なので、机の真ん中に幼竜さまを鎮座させて椅子に座ると、よたよた歩いて私の膝の上に乗った結果そのままとなってしまった。その姿を見て、亜人連合側の皆さま方は苦笑しているか、微笑ましいものを見ているような顔で。

 

 「懐いてるな」

 

 「懐いてるね」

 

 ジーク、リン……他人事だと思って簡単に言ってくれるじゃないですか。これ私の下を離れないなら、このままここに住むか、アルバトロス王国に連れて帰るかの二択しかない。

 前者ならばアルバトロス王国は抗議するだろうし、後者ならアルバトロス王国の上層部がまた右往左往して頭を抱える案件だ。

 

 「懐いてくれるのは嬉しいけど……」

 

 本当にこの状況をどうするべきか。離すと付いて来るからなあ。

 

 「嬉しいが?」

 

 代表さまが首を傾げて、私に問うてくる。懐いてくれるのは単純に嬉しいけれど、世話をするとなれば大変だろう。

 

 「いえ、この子は此処で生きるのが一番でしょうし……」

 

 彼に向けていた視線を、私の膝の上で大人しくしている幼竜さまへと移した。すりすりすりすり。

 目を細めながら身体の至る所を使って、匂い付けが凄いのだけれども。

 

 「それを判断するのは君の腕の中に居る本人だよ」

 

 くつくつと笑いながら代表さまの適格な助言に反論できない私。エルフのお姉さんズも笑っているし、他の亜人の代表格の方々も笑ってた。妖精さんも部屋の中で何体も自由に飛んでいるし、若干カオス気味。

 

 でもなあ、餌……もといご飯とか用意するのも大変そうだし、そもそも何を食べるのだろうという謎もあるし。ファンタジー生物だから魔力で生きられるのか。あの巨体を維持するためには、魔力だけでは足りなさそう。

 

 「魔力で事足りるし、竜って基本は何でも食べるよ~」

 

 「勿論、個体差や種族差もあるけれど」

 

 小さく笑いながらお姉さんズが私の心の声を勝手に読んでた。楽でいいけれど、そんなに駄々洩れなのかな、私の感情って。

 

 「そんなことを気にしていたのか」

 

 「まあ仕方ないよ~」

 

 「引き篭もりが随分と長いものね」

 

 代表さまの言葉にお姉さんAが肩を竦める。情報遮断されているので、亜人の方々の話って中々聞くことがないし、噂レベルで耳にするくらいだ。後は歴史上で。三人の言葉に、やれやれと言った顔をしている亜人の代表格の方々。

 

 「ということは私が暫く預かることになるのでしょうか……」

 

 「そうなるな。放っておいても勝手に育つ。何も問題はないから、君の傍に居させてやってくれ」

 

 彼の言葉に頷くしかなかった。膝の上でごそごそしている幼竜さまを抱えて、私が座るテーブルの前にゆっくりと置く。きょとんとして顔をフクロウのように傾げた幼竜さま。お願いだから其処に居てねと願いつつ、口を開く。

 

 「私で良いのかは分かりませんが……。えっと、よろしくお願いします」

 

 私は幼竜さまに頭を下げると、短く一鳴きしたあと結局は私の膝の上に乗る幼竜さま。

 

 「『よろしく』だそうだ」

 

 「分かるんですか?」

 

 代表さまに視線を向けると、膝上でまた一鳴き。

 

 「何となくだが、私も竜に属するからな。あと名前を付けてくれと言っている」

 

 「え?」

 

 いやいやいやいや。名前って大事なもので、名乗ってないんじゃあなかったけ。そういうものは自分で決めるか、親が……親がぁ……私なの!?

 

 「君が決めると良い」

 

 「あの……私はこちらの国の文化に疎いのですが」

 

 「好きに決めると良い、特段気にするべきことではないからな」

 

 命名基準やルールは特にないそう。部族ごとにルールがある所や、全く気にしていない所も。代々の親の名前を引き継いで、滅茶苦茶長い名前の人も居るらしい。

 で、膝の上に乗っている幼竜さまを見る。そんなつぶらな瞳で見ないで下さいな。私、ネーミングセンス皆無ですよ。下手をすればポチやタマくらいしか考え付かないレベルなのですが。うーん、うー-んと悩むけれど、良い名前なんて思い浮かばず。何かヒントになるようなものか、意味のあるものが良いけれど。

 

 ――アクロアイト。

 

 ふと前世で見た鉱石だか宝石だかの図鑑の一ページを思い出した。卵さまの見た目もそんな感じだったなあ。卵さまと実際のアクロアイトと比べると大きさが全然違うけれど。

 花言葉ならぬ石言葉が『透明性』『クリアな気持ち』。パワーストーンとしての効果が『潜在能力を発揮する』『リーダーシップを発揮する』『冷静な状態を取り戻し、迷いをなくす』だったかな。こちらの世界に存在しているのかは分からない。ただ、パワーストーンの効果は幼竜さまに似合う気もするし。

 

 「アクロアイト……どうかな? センスがないから気に入らなければ、ちゃんと断ってね」

 

 目の前の幼竜さまが言葉を理解しているのか分からないけれど、じっと私の顔を見て短く一鳴きして顔を身体に擦り付けて、腕を甘噛みした。

 

 「うわ」

 

 あの、突然魔力を吸い取らないで下さい。幼竜さまに半分くらい持っていかれたのだけれども。幼竜さま、もといアクロアイトさまに妖精さんが近づいて光ったり、鱗粉……かなあ、振り掛けている。お祝いしてるのかな、コレ。

 

 『名前!』

 

 『ご意見番さまの名前!』

 

 無邪気だなあ、妖精さんは。これは認めてくれたという事だろうか。代表さまやエルフのお姉さんズに亜人の代表格の方々も、確りと頷いてくれたので良かったらしい。

 ふうと胸を撫でおろす。いや、本当にポチとかタマとかのレベルしか思いつかない人間だから、気に入ってくれたのならば良かった。ぐりぐりと顔を撫でつけるアクロアイトさまに『よろしくね』と心の中で呟くと『こちらこそ』と聞こえたような気がしたのだった。

 

 ◇

 

 卵から孵った幼竜さまの名前無事に決まった。

 

 ――アクロアイトさま。

 

 ぐりぐりと私の身体に顔を撫でつけているアクロアイトさまを撫でていると、先ほどまで名付けの際に喜んでいた妖精さまが私の周りを飛んでいる。

 

 『服、着ていない』

 

 「え?」

 

 私の袖を妖精さんが引っ張って、謎の言葉を発した。服は着てます、私は全裸族じゃあないのだから。

 

 『わたし、頑張った』

 

 『何で、着てない?』

 

 「ああ。送った反物のことじゃないかしら。前にも言ったけれど、妖精も協力してくれたからかなり良い物よ。そちらの服飾が分からないから反物のままで仕方なく送ったけれど」

 

 「本当は最後まで携わりたかったけどね~。そういえば、あれからどうしたの?」

 

 私の周りを忙しなく飛んでいる妖精さんたちの補足を、微笑みながらお姉さんズが語ってくれた。

 

 「公爵家の伝手を頼って仕立て屋さんに依頼しております。直ぐに出来るとのことでした」

 

 侍女さんに要件を伝えると公爵さまに直ぐに連絡が入ったのか、王都で有名な仕立て屋さんが公爵邸に召喚された。

 私の希望は取り入れられず、公爵さまが『聖女の衣装』と『遠征用の服』を頼むと問答無用で依頼され。何故かオーバーサイズは頼むなと釘を刺され、公爵さまが部屋から出ていった。いや、まだ伸びる可能性だってあるはずだ。頻繁にヤギの乳を飲んでるし。

 

 なんだか公爵さまが頼んだものだけだと寂しいし『余った布で小物を作ることは出来ますか?』と聞いてみると、作れるとのこと。

 しかしまあ、女性らしさが抜け落ちている私が思いついたものは『ハンカチ』程度。悩んでいると採寸に同席していたソフィーアさまが『コサージュや守り袋なんかどうだ?』と一言くれて。仕立て屋さんも『ポプリを入れる袋なども出来ますね』とのことなので、適当に見繕って頂けると助かりますと言い残して採寸を終えたのだ。

 

 『あの……聖女さま。不躾なことを聞いて申し訳ないのですが……』

 

 おずおずと仕立て屋さんが私に問いかけた。反物の出所が気になるようで、亜人連合国から賜ったものですと伝えると凄く残念がっている。

 ただそこで諦めないのが商売人なのだろうか、どうにか紹介頂けませんかと……。仕方がないので、話は通しますが期待はしないで下さいねと逃げておいた。とは言え約束は約束。話を切り出すには丁度良いタイミング。

 

 「そっか~。良い物が出来ると良いね~」

 

 「そう。出来たら着ている所、見せて頂戴ね」

 

 うぐ、逃げられなくなった。まあいいや、それは未来の自分に丸投げしておこう。

 

 「あの。仕立てを頼んだ店の方がこちらの反物に興味があるようで、紹介して欲しいと頼まれたのですが……」

 

 「あら。欲深いわね、その職人は」

 

 「まあ、商人みたいなものだもん~」

 

 面白いことを言うわねえと目を細めて笑うお姉さんAに、それを受け流すようにお姉さんBが。空気が険悪になったので、無理そうだから直ぐ引いたほうが良いだろうと判断。

 

 「あの、ではお断り――」

 

 「――いいわ。その話受けましょう」

 

 「え、受けるの~?」

 

 話の方向があっち行きこっち行きしているけれど、受けてくれるのならば良い事だろうか。ただお姉さんズと仕立て屋さんとの連絡が取れないので、一度は繋ぎ役をを引き受けなければならないケド。

 

 「正し条件付きね。貴女に譲った物は妖精たちが協力してくれたものだから、中々出回ることはない希少品」

 

 お姉さんの言葉にこくりと頷く。

 

 「だから私たちエルフが作った物に限らせて。布の質自体は然程変わらないはずよ」

 

 「伝えておきます。無理を言って申し訳ありませんでした」

 

 「気にしないで。値段交渉は腕の見せ所だから」

 

 ぱちんと片目を瞑ってウインクするお姉さんAにお姉さんBがちょっと引いてる。ようするにぼったくる気満々のようだ。

 その辺りはエルフのお姉さんと商人……仕立て屋さんとの問題なので、私が関知することじゃないか。仕立て屋さんが欲を出して喧嘩別れしなきゃいいけれどと願いつつ、軽い段取りだけ付けておくと王城へ丸投げする気らしい。

 

 「ふふふ……搾り取って上げましょう」

 

 エルフの方が作った布だと言えば、お貴族さまが飛びつきそう。珍しいモノ最新のモノに敏感で、社交界だと我先にと先陣を切るのがステータス。そして自慢話に花を咲かせ、ぐぬぬと悔しがる人を見るのが愉悦なのだとか。

 良く分からない世界だけれど、まあそういう社会性なのだから仕方ない。仕立て屋さんも、その辺りの事を見越して私に声を掛けたのだろうし。

 

 交渉が上手くいくかは分からないけれど、お姉さんが吹っ掛ける気満々だ。値段交渉に折り合いがつけば、上手く事が運ぶだろう。あとは社交界で火がつけば、仕立て屋さんが不利益を被ることはない。

 

 「お手柔らかに……あ」

 

 随分と気合の入っているお姉さんに、頭を下げるのだけれど思い出したことがあった。

 

 「どうしたの~?」

 

 「そう言えば、この話が公爵閣下に伝わっているのかが分からなくて」

 

 「それがどうしたの?」

 

 やはりお貴族さまの事については分かり辛いようだ。とはいえ私も人の事は言えないが。仕立て屋さんが勝手をしたと言って怒らないかなあ、公爵さまは。ソフィーアさまがあの場に居たので、話を聞いていないということはないだろうけど、公爵家に伺いを立ていなければ不味い気が。

 それじゃあ一旦は公爵さまに話を通してからと言われ、直ぐに連絡を折り返しますと伝えておいた。

 

 「痛い……」

 

 どうやら随分と放置していたことにアクロアイトさまが無視するなと主張しているようで。

 

 「本当に気に入られているのね」

 

 「ね~」

 

 「しかし良いのでしょうか。名前まで付けてしまって……」

 

 「良いの良いの。この子は王国まで付いて行くよ~ご飯は魔力で良いし、まだ小さいから寝床は困らないでしょ~」

 

 楽で良いけれど、アクロアイトさまを連れ帰った事実を知れば、王国の人たち倒れてしまいそう。暫くは幼竜さまのお世話係だなあと、遠い目になる。

 あれ、私も大丈夫なのかな……まさかねえ。不意によぎった嫌な予感を、頭を振って打ち消すのだった。

 

 

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