魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0079:話し合い。

 ――アルバトロス王国王城・謁見場。

 

 壇上に置かれた玉座に腰掛ける陛下が難しい顔をして、昨日の夜に亜人連合国から戻った私の報告に耳を傾けていた。

 

 「そ、そうか。うむ……いや、しかしな……」

 

 まあご意見番さまの生まれ変わりを託されたとあれば、アルバトロス王国上層部は頭を抱えるしかない。下手な所に放り込む訳にもいかないし、粗相をする訳にもいかないのだから。

 

 「聖女、ナイ。これからどうするつもりだ」

 

 平伏している私の横で、凄く柔らかそうな座布団というかクッションを数枚重ねた上に、大人しく鎮座しているアクロアイトさま。すぴすぴ寝息を立てているのだけれど、周りの様子は気にならないらしい。大物だ。

 

 時間は少し巻き戻る。

 

 ドワーフさんから依頼した物の進行具合を聞いてから、昨日の夜に公爵邸に戻った。私たちが帰還したことを知った侍女さんが慌てて公爵さまと奥方さまに、次期公爵さまと夫人さま、次期公爵さまの長兄にソフィーアさまたちが、別邸の私が間借りしている部屋へと飛び込んできた。

 卵さまが孵ったことと、仕立て屋さんの件の話を終えると、顔を引きつらせていた。判断が難しかったのか、警備の増強と今から王城に使いを出すと言い残して部屋を去って行った。

 

 誰も居なくなったのでジークとリンと私で話していると、アクロアイトさまが二人を気にし始める。すんすんと匂いを嗅いで何かを確かめてた。その仕草にリンが根負けしたのか、片腕をそっと差し伸べると手の平の上に顔を乗せるアクロアイトさま。リンはその事が嬉しかったのか、えへへと締まりのない顔をしながらゆっくりと顔を撫でていた。

 向こうでも触りたかっただろうに、ここまで我慢していたらしい。ジークも興味があるようで眺めていると、頭の上に飛び乗られていた。くえっと羽を広げて一鳴きするとジークは顔を顰めたけれど、重くないのかアクロアイトさまの気の済むまで乗せていたので、彼もまんざらでもない様子。

 

 お風呂に入ってスッキリして寝床に入ると、アクロアイトさまが枕元で丸くなって寝始める。

 それを確認して私も眠りに就き、朝起きると布団の中に潜り込んでいた。

 寒さや暑さには強いと聞いていたのだけれどなと、起こさないようにと布団から出ると、目が覚めたのかのそのそと布団から顔を出す姿が愛らしかった。

 

 『おいで』

 

 アクロアイトさまに告げると、ベッドの上からジャンプして私の胸をめがけて飛び乗ってくる。丁度、朝を告げに来た侍女さんに見られると、微笑ましい顔をされた。どうやら侍女さんたちにも話は伝わっているようで、粗相のないようにと昨晩知らせが入ったそうだ。

 お休みの所を騒がせて申し訳ないです、と伝えると『これも仕事ですから』と笑顔で返された。そして朝食を終え支度が済めば登城命令が出ているとも言われ。

 

 仕方ないかと諦めて公爵さまたちと謁見場へ足を踏み入れたのだけれど、王国の上層部が殆ど集まっていた。私が入るとどよめきが広がり、アクロアイトさまへと視線が注がれた後、暫くすると陛下が入場。

 

 で、今に至る。

 

 「卵さまのお世話係ですので、学院を辞めてご迷惑の掛からない田舎に引っ越すか……」

 

 「無理であろう」

 

 陛下にバッサリと切られた。やっぱり無理かあと床を見ていると、周囲もざわりと騒ぎ始める。

 

 「学院には共に通えるように手配しておこう。屋敷については爵位を授与する際に用意するのだが、まだ時間が掛かる……」

 

 どうしたものかと陛下も考えているようだった。公爵家にこのまま居候する可能性が高そうだなあと、少し遠くの床を見る。

 

 「陛下、発言のご許可を頂いても?」

 

 「構わぬ、申せ」

 

 この声の主は……何度か遠くで耳に挟んだことがある。おそらく王妃殿下だ。少し視線を上げて確認する。濃紺の髪に深紅の瞳に誰もが羨む美貌とスタイルを誇り、隣国から嫁いできた姫さまだというのに、王城内でも人気が高いとかなんとか。

 

 「丁度良い離宮が空いておりましょう。暫く聖女さまにはそちらへ住んで頂いては?」

 

 声もまた良いときた。遠くから聞こえた声しか聴いたことがなかったから、近くで聞くとその良さが分かりやすい。高くも低くもない声にはっきりとした発音と、心地よい速度を保った喋り方。というか離宮って何……。悪い予感が当たり始めているのだけれど、止めてくれとか口にできない。

 

 「亜人連合国との国交締結もまだ暫く掛かりましょうし、彼の方の警護やお食事、適切な住環境については先方と話し合って決めれた方がよろしいかと」

 

 「む。確かに我々は竜の生態についてあまりにも無知だ。――国交協議の際に話し合う方が良いな」

 

 こくりと頷く陛下を見て、頭を軽く下げて元の位置へ立つ王妃殿下が、ふっと笑みを浮かべてこちらを見たので黙礼を返しておく。

 

 「では、ハイゼンベルグ公爵邸から王城内にある離宮へ生活の場を移せ。――近衛は警備計画を即時提出せよ」

 

 細々としたことは追って使いを出し連絡するとのこと。いや居候の身だし一日もあれば引っ越しの準備は完了するけど、話の進み具合が早過ぎる。戻ったら荷物を纏めるか。退室していく陛下や王妃さまを見送りながら、亜人連合国へと赴いた件の報告書を書かなければと落胆する。

 

 「行こう」

 

 私の後ろに控えていたジークとリンに声を掛け、寝ているアクロアイトさまを抱える。するとアクロアイトさまが起きて一鳴して頭を擦り寄せてきた。空いている片手で撫でつつ公爵さまたちの下へ行く。

 

 「苦労するなあ、お前さん……」

 

 「うっ」

 

 代わって下さい公爵さま、という言葉を既の所で飲み込む。そんな私に気が付いたのかソフィーアさまが苦笑していた。

  

 「しかし、状況が目まぐるしく変わっていますね」

 

 「ああ、我が国に対する周辺国の目が変わっているな。――そうそう、面白い話を聞かせてやろう。今、陛下と教会の下へは釣書が多く届いているそうだ」

 

 釣書ってお見合いの時に届く履歴書みたいなものだっけ。そんな機会に恵まれたことはなかったので、良く知らないけれど。

 

 「お前さんを是非に伴侶として据えたいとな」

 

 「え?」

 

 くくくと面白そうに笑う公爵さま。

 

 「一躍有名だな、ナイ」

 

 「……孤児出身の平民に何をしているんですか」

 

 「貴族籍へ一度入れば問題ない。あとは相手方と釣り合う爵位まで上げれば解決するぞ」

 

 ソフィーアさまが問題点を解決する方法を教えてくれたけれど、知りたくなかった。亜人連合国から戻って十日以上経っているから、噂が広まっているのは理解できるけれど。

 

 「えぇ……」

 

 「国内外からだぞ! 愉快だなあ!」

 

 「閣下」

 

 「まあ全て蹴っているがな!」

 

 今度はガハハと豪快に笑う公爵さまは、本当に愉快そう。ストレスでも溜まっていたのだろうか。

 

 「国内はまだしも、国外はありえんな。内政干渉と言われても仕方ない気もするが……」

 

 公爵さまに続いてソフィーアさまが難しそうな顔をして補足した。障壁を維持している聖女が他国へ嫁ぐなんてアルバトロス王国から見れば、横から掠め取られたようなものか。

 でも私よりアクロアイトさまを狙った方が不味いと思うけれど。代表さまやお姉さんズを始めとした実力者が、確実に怒って世界の滅亡が始まる気もする。

 

 そもそも結婚なんて考えていないから、縁のないものだと目の前のお二人に苦笑いを向けるのだった。

 

 ◇

 

 謁見場から公爵家の別邸の借りている部屋へ戻ってすぐ。掛けていたアクロアイトさまをベッドの上に置いて、二人に向き直る。

 

 「ジーク、リン。話があるんだけれど良いかな?」

 

 普段は私から離れたがらないアクロアイトさまは、空気を察したのかベッドの上でじっとしている。

 

 「ああ、構わないが」

 

 「どうしたの?」

 

 「これからの事かな。着替えたら部屋に来てもらえると助かる」

 

 聖女の衣装と教会騎士用の儀礼服だと、仕事中みたいだから私的な時間だと思えるように気分を変えたい。取りあえず着替えようと提案すると、二人は頷いて部屋へと戻って行った。

 

 「すみません、三人分のお茶を用意して頂いても構いませんか?」

 

 「勿論です。お召替えが終わり次第準備致しますね」

 

 介添えで部屋を訪れていた侍女さんに、お茶の用意をお願いした。

 

 以前にこの部屋で、教会宿舎で余っていた茶葉を使ってお茶を飲もうとしたら、運悪く見つかって取り上げられた。それからは侍女さんにお茶を頼んで飲むしか方法がない。彼女たちの仕事を奪っているのだから仕方ないけれど、すごい剣幕で怖かったんだよね。

 何であんなに怒っていたのだろうと、かなり後になってからソフィーアさまに聞くいてみたら、言い辛そうに『公爵家の品位にかかわるので、客人である聖女に安い茶葉など飲ませられない』と嘆いていた事、そして侍女たちが集まって『聖女さまにこんな安物を飲ませるなんて教会は何を考えているのか』と憤慨していた事を教えてくれた。

 

 着替えが終わり侍女さんがお茶の準備の為に部屋から出ていくと、ジークとリンが顔を見せた。扉はそのまま開いたままにしてもらい、部屋へと入って来る。丸テーブルには椅子が三つ。

 多分、こうして私たちが客間に集まることを公爵さまは見越していたのだろう。最初から用意されていた物だった。

 

 「失礼致します。聖女さまお茶のご用意が出来ました」

 

 私が最後の仕上げをすることもできるけど、やはり慣れている人というかプロに任せた方が美味しいので淹れてもらう。礼を伝えると用は終わったとばかりに退室していく侍女さんを見送って、二人に向き直る。

 

 「ジーク、リン、お疲れさま。取りあえず座ろう」

 

 「ああ」

 

 「うん」

 

 座って直ぐにアクロアイトさまが、こちらへ飛んできて私の膝の上に座る。部屋の扉は開いていて、部屋の前には護衛の騎士さんが居るけれど、聞かれても問題はない。

 

 「教会宿舎で生活してた時より状況が変わってきているから、ちょっと相談というか確認というか……」

 

 「どうした?」

 

 「ね。どうしたの、改まって」

 

 リンがジークの顔を見て、私へ視線を移す。ジークもジークで私から視線を外そうとしない。

 

 「えっと。私の専属護衛を務めてること、二人は負担になっていない? ここ最近、大変でしょ」

 

 急に予定が変わったり、アルバトロス王国から亜人連合まで行ったり来たりしていたし。一介の聖女だったのに、ここの所激変しすぎだ。

 

 「確かに驚くことばかりだが……」

 

 「あの頃と比べれば、どうってことないよ」

 

 確かに孤児時代は大変だったけれど、こうも環境が変わると精神的に無理をしていないか心配だ。現に私は胃が痛かったし。

 

 「だな」

 

 「うん」

 

 そっくり兄妹が顔を見合わせて笑う。ふうと息を吐いて二人を見据える。

 

 「そっか。えっと、多分これからもいろんな事が変わっていくと思う。爵位を賜る予定だしお屋敷も貰えるみたいだから」

 

 王城の離宮でしばらく過ごした後は爵位の授与と屋敷への引っ越し、それが終われば二学期も始まる。長期休暇も残り二週間だし、本当に時間が経つのが早い。

 

 「そうなったら、お貴族さまとして生活しなきゃで、雇わないといけない人も居るだろうから」

 

 侍従さんに侍女さんや、料理番に庭師にその他諸々。私のお給料で払えるか分からないけど、収支がマイナスになることはないだろう。警備や護衛は陛下が出してくれると踏んでいる。出さなければ亜人連合の人たちが怒るだろうから。

 

 「教会や公爵さまの判断を仰がないといけないし、まだ分からないけど二人を直接雇用も出来るし、専属を辞めることも出来るから」

 

 私の下から離れることだって出来る。そしてその判断をしたならば、引き留めるなんてことをしちゃいけない。寂しいけれど、二人が持っておくべき権利だろう。

 

 「だから後悔しないように、少しだけでも良いから私と一緒に進む以外の道も考えておいて欲しいかなって」

 

 今更、二人が騎士以外の職に就くのは難しいけれど、教会騎士でなくとも国の方の騎士にもなれる。

 私と別れてしまった場合、男爵家へ入った籍は失うかもしれないが、実力は国内トップクラスになるのだから問題はないだろう。私の専属を辞めて他の聖女さまの護衛に就けば、忙しい日々を送る必要もなくなる。

 

 「……」

 

 「…………」

 

 何とも言えない空気が流れ、膝の上に座っていたアクロアイトさまが突然、二人が居る方へと飛んで行った。様子を見ていると、くるりと不器用そうに身体を半回転させ、ジークとリンを後ろにして私の顔を見上げてる。

 

 ――何とも言えない鳴き声で、ひとつ、ふたつと鳴いて。

 

 一体何だろうと見つめていると、ジークとリンが笑ってる。

 

 「お前は、いろいろと考えすぎなんだよ」

 

 「だね、兄さん」

 

 そっくり兄妹が視線だけを動かして、確認を取りつつ私を見た。

 

 「俺たちがお前の傍を離れる訳がないだろう?」

 

 「うん、絶対にあり得ない」

 

 「だから余計な心配はするな。聖女としてお前が突っ走るなら、俺もリンもどこまでもついて行ってやるさ」

 

 「そうだよ。ナイの邪魔する人が居れば振り払ってあげる。その為に兄さんも私も剣を取ったから」

 

リンの言葉にああと頷くジーク。

 

 「二人とも、ありがとう。こんなどうしようもない馬鹿だけれど、これからもよろしくお願いします」

 

 泣きそうになるのを我慢しながら二人に頭を下げると、アクロアイトさまが下げている私の頭の上に飛び乗って一鳴きするのだった。

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