魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0080:後ろ盾増えた。

 アクロアイトさまが王国で生活することが決まり、その旨を陛下や上層部へと報告をした二日後、公爵家の別邸から王城の離宮へ移り住むことになった。

 

 「短い間でしたがお世話になりました」

 

 お世話になった侍女さんたちに侍従の方々や料理番さんにメイドさん、お別れの挨拶を告げた人数は結構多くなっていた。お貴族さまをお世話する人たちってこんなに居るんだなあと、しみじみと感じつつ王城から迎えの馬車へ乗り込む。

 アクロアイトさまは気ままなもので、私の腕の中に居たり肩に乗っていたりと気分次第の様子。馬車の中へ一緒に入ると、対面の椅子へ自分で座って毛づくろいしていた。毛は生えていないというのに。

 

 馬車に揺られること暫く、王城の門を抜け馬車停へと辿り着く。そこには宰相補佐さまに外務卿さま、護衛となる近衛騎士さまがお迎えしてくれて。馬車の外で警護に就いていたジークが手を差し伸べてくれた。アクロアイトさまは何故かリンの方へと飛んでいき、彼女の腕の中に納まる。 

 

 「よくいらした。聖女さま」

 

 「お世話になります」

 

 宰相補佐さまは陛下の名代で、外務卿さまは置き去りにされた件で迎えを寄越したことのお礼を告げに。近衛騎士さまの数が随分と多く不思議だったのだけれど、離宮の護衛任務に就く人たち全員が集まっているそう。女性騎士の数が多く、顔見世も兼ねているのだろう。

 

 「聖女さま……荷物はそれだけ、なのですか?」

 

 「はい。必要なものは揃っていますので」

 

 宰相補佐さまが訝し気な顔を浮かべ、私が引っ提げているソフィーアさまから借りたトランクを見つめている。

 中身は聖女の衣装二着と普段着五枚、寝巻三枚に下着は五枚。後は遠征用の服。後は歯磨き用の道具くらい。化粧品は保湿液くらいは欲しい所だけれど、高級品だから持っていない。仕事着と部屋着――という名の平民服――があれば十分生活できるからなあ。

 

 まだ教会宿舎に学院の制服や小物を残しているから回収を試みたけれど、屋敷を賜るのでそっちの予定が立ってからとなった。それまでは宿舎の部屋はそのままにしておくとの事。

 

 ジークとリンも近衛騎士用の宿舎で一人部屋を借りることになっているので、荷物を後で取りに公爵家の別邸に行くと言っていた。

 

 「…………誰か荷物を!」

 

 渋面を隠しもせず宰相補佐さまはトランクから視線を外して、騎士の方に声を掛けた後で外務卿さまを見る。傍に居た騎士の方が手を伸ばしたので『お願いいたします』と礼を述べてから渡すと、想定よりも軽かったのかトランクを上げる勢いが一瞬だけ早かった。

 

 「聖女さま、先日は我々の手配感謝いたします」

 

 宰相補佐さまと入れ替わり私の前へ出たのは外務卿さま。十日以上前に自己紹介をしたはずなのに、こんな顔だったかなあと記憶を探る。こんな顔だった気もするし、違う顔だった気も。とにかく印象に残っていない、不思議な人だった。

 

 「いえ、私は亜人連合国の方に連絡を入れただけですので」

 

 本当にごめんなさい。外務卿さまと部下の方は関係国との連絡役で亜人連合国の隣の国で待機していたのだ。

 途中で居なくなっていたのに全く気付かず、そのまま竜の背に乗って帰るという失態をしてしまったのだ。誰か気付けば良かったのだけれど、そのまま王国へ戻ってしまった。

 私が『花を添えたい』なんて言い出さなければ、予定通り転移魔術陣での移動だったので、私に頭を下げる必要はなかっただろうに。凄く悪い気がして、王城に設置された亜人連合国との連絡用の魔術具を借りて、ダメ元で代表さまへ連絡を入れると『竜を手配しよう』と快諾してくれた経緯がある。

 

 「それでも転移魔術陣の帰還では、各国と交渉もしなければなりませんので……重ねて感謝いたします」

 

 「ご丁寧にありがとうございます」

 

 「暫く離宮で過ごされるとのこと……お困りのことがあれば、我々も出来る範囲で手助け致します。では、これで失礼致します」

 

 印象に残り辛い人だが、苦労人の気配がひしひしと。執務室へ戻っていく外務卿さまの背中には、『哀愁』の二文字が浮かんでいるような。

 

 「離宮へ案内いたしましょう」

 

 「お願い致します」

 

 宰相補佐さまの声にはっとして、先を歩き始めた彼の後ろについて行く。聞いた話によると、私が借りる離宮は側妃さまが使用していたそうで。

 幽霊が出そうと微妙な顔をしていると、この話を教えてくれた公爵さまに、王城なんぞいわくつきの場所はいくらでもあると言われ、更に顔に出て大笑いされた。本当に出ないで下さい、本気でお願いします。浄化魔術って幽霊も対象に出来るのか……微妙な所。出たら全力で除霊してやると、ジークとリンに決意表明してやって来ている。ちなみに二人は幽霊を信じていない。

 

 「凄い……」

              

 主室に案内されたのだけれど、随分と豪華で広かった。これ陛下や王妃さまが使っている場所は、どんなものだろうと気になる。

 でも、それより前に装飾品や芸術品を、壊さないように気を付けなきゃ。アクロアイトさまにも気を配らないと、請求書一枚あれば破産確定しそう……。

 

 「こちらが聖女さまの部屋となります。手狭ですがご自由にお使い下さい。離宮で過ごされる間は侍女もご用意致しております」

 

 侍女さんや護衛の騎士を付けられることは分かっていたので驚かないけれど、随分と広い。公爵家の別邸で借りていた客室よりも広いから、驚きである。

 荷物を持っていてくれた騎士さんが、トランクを手渡してくれた。そしてずずいと侍女の方々が部屋へとやって来た。公爵家の侍女さんも洗練されていたけれど、王家に仕える人たちは更に洗練されている。まあ、それはいい。格が上がればそれなりのものが要求されるから。

 

 で、なんで居るんですかねソフィーアさま。

 

 「どうしてソフィーアさまがいらっしゃるんですか……?」

 

 「祖父に頼みました」

 

 一応、この部屋の主人は仮ではあるものの今は私。彼女は私につけられた侍女である。言葉を使い分けるのは理解できるが、どうにも気持ち悪い。

 どこかのタイミングで切り替えてもらうか、妥協案を伝えてみよう。それにしても公爵さまは、自分の孫になにをさせているのか。しかも今は長期休暇中なので学院生は本来、帰省の為に自領に戻っているだろうに。

 

 「申し訳ありません、こちらの事情で無理に通して頂いたのです」

 

 全く知らない人よりは全然良いし、妙な人を当てられるよりは良い。本人からの打診だし、問題はないはず。

 お屋敷を賜るまで、ここでの生活となるのだけれど、一体どうなる……いや、きっと平穏無事に過ごせる。だってここは王城の敷地内。問題なんて起こりようがない。

 

 取りあえずは、新たな生活の場に慣れることが近々の目標だと決意して、ソフィーアさまによろしくお願いしますと頭を下げるのだった。

 

 ◇

 

 公爵家から王城の離宮へと移った次の日。

 

 アクロアイトさまが部屋の備品を壊さないかと、戦々恐々していたけれど今の所は大丈夫だった。壊してはいけないことを理解しているのか、余り近づかない。お姉さんズから譲り受けた連絡用の魔法具もちゃんと置いてあって『服は出来た~?』『ご飯は食べたかしら?』とか些細な事でも連絡を寄越してくれる。

 

 そして変わった住環境。

 

 昨日の夕ご飯も、今日の朝ごはんも豪華だった。公爵家のご飯も豪華で美味しかったけれど。ジークとリンに聞いたところ、騎士宿舎に併設されている食堂も結構良い物が出るようだ。量も質もあるし、食べ盛りな二人には丁度良いのだろう。

 近衛の人たちに何か言われていないか心配だが、二人なら言われた所で気にしないだろう。学院のように実力でねじ伏せるのは無理だけど、彼らも近衛で立場もある。無茶はしないはずだ。

 

 「ヴァイセンベルク辺境伯閣下とセレスティアがお前に面会を求めているが、どうする?」

 

 ソフィーアさまは私のスケジュール管理役となったらしい。彼女が着替えやお風呂の介添えに立ち会う事は少なく、他の侍女さんたちがメインだった。最初、他の人の目もあるからと敬語を使っていたソフィーアさま。部屋に誰も居なければ、普段通りの口調でと、先ほどお願いした所。

 

 「辺境伯さまとセレスティアさまが?」

 

 「ああ。大規模遠征の礼を伝えたいそうだ」

 

 王城内なので魔術陣への魔力補填は直ぐに行えるので、先ほど終えてきた所。タイミングを見計らっていたのだろうと苦笑して、分かりましたと彼女へ伝えると、呼んでくると部屋を出ていくソフィーアさま。

 

 「……立場が逆になった」

 

 少し前までは私は呼ばれる立場だったというのに。まさか向こうからやって来ることになろうとは。まあ住環境が王城で外出も難しいから、辺境伯さまとセレスティアさまが足を運ぶのは仕方ないけれど、妙な気分だった。

 

 「偶には良いだろう」

 

 「うん。今までは向こうに呼びつけられていたからね」

 

 お貴族さまを好きになれないジークとリンはこの調子だ。アクロアイトさまは部屋の中で、猫のように気ままにしている。

 私の膝上に乗って寝たり、肩に乗ってみたり。ジークとリンの下へ行くこともあれば、外に出たそうに窓を眺めていることも。そんな時はなるべく一緒に散歩と称して庭園を歩くのだけれど、護衛の人たちの緊張感が凄くて落ち着かない。

 

 何だか申し訳ないけれど、部屋に閉じこもるのは勿体ないし、運動もかねてアクロアイトさまを連れての散歩であった。

 あとは王城内にある図書館への立ち入りも許可されていた。暇なら使って良いそうで。さっそく行ってみたのだけれど、蔵書が多いしなんでも揃ってた。暇潰しに丁度いいし、これからちょいちょい利用することになりそう。

 

 「どうぞ」

 

 ノックの音が聞こえたので入室許可を出すと、扉がゆっくりと開いてソフィーアさまを先頭に辺境伯さま、その後ろにセレスティアさまの姿が。更に後ろにはワゴンを引いた侍女さんが控えているので、お茶の用意をしてくれるのだろう。

 

 このまま座って出迎えるのは流石に失礼だと立ち上がり、深い礼を執る。

 

 「ヴァイセンベルク辺境伯閣下、セレスティアさま、ご足労をお掛けし申し訳ございません」

 

 辺境伯さまの言葉を待つべきかと迷ったけれど、先に声を掛けた方が良さそうだと判断して言葉にした。

 

 「聖女殿、仕方なかろう。貴女の価値は計り知れないのですから」

 

 顔を上げた私に苦笑を浮かべながら、声を掛けてくれた辺境伯さま。以前より纏う空気が違うのは、魔物の異常発生が収まった故なのか。

 

 「立ち話では疲れましょう、こちらへどうぞ」

 

 そう言って応接用のソファーへと案内する。下座へ座ろうとするとソフィーアさまに止められて、一人掛けの椅子を指された。

 辺境伯さまが座るべきのようなと疑問を浮かべつつ、教育を確りと受けている彼女が言うのなら間違いはないだろう。辺境伯さまとセレスティアさまが席に着いたと同時に、侍女さんが各人へお茶を配り茶請けも置いてくれた。

 

 「再度になりますが、此度は竜の浄化儀式と我が領地への寛大な手配、有難うございます」

 

 配り終えると、辺境伯さまとセレスティアさまが居住まいを正して、言葉を紡ぎ頭を下げた。浄化儀式をするだなんて思ってもみなかったが、仕事の内である。というか、仕事じゃないとやらない。

 鱗や牙の加工は、話が自分へ巡る前に国に丸投げしたのと、タイミングの問題だ。辺境伯さまの領地復興が早くなるなら、国としてもその方がいいだろうと思い付きで言っただけ。

 

 「閣下、私は自分の仕事を成しただけです。亜人連合国との交渉の件は彼の国の皆さまと王国の方々へお願い致します」

 

 私の言葉を聞いて辺境伯さまが妙な顔をし、セレスティアさまが苦笑している。不味いことは言ったつもりはない。当然のことを言っただけだ。

 

 「そうはいきません。これでただ貴女の厚意に甘えるだけでは、辺境伯家の名が廃ります」

 

 以前申していた後ろ盾の件は確実に行うこと、私が賜る屋敷の改築費用や警備の一部負担、爵位を賜る際の推薦状を書いてくれるそう。もう決まっていることだから意味はあるのかなと首を捻ると、セレスティアさまが笑って口を開いた。

 

 「馬鹿な連中を完全に沈黙させるのは無理ですが、王家と公爵家に辺境伯家の名があれば少しはマシでしょう」

 

 「だな、娘よ。――あとは彼の国も後押しすると聞きました。五月蠅い小物は黙りましょうぞ」

 

 残りは本物の馬鹿か実力者でしょうなあと、意味深な言葉を辺境伯さまが言い残す。アクロアイトさまを狙えば確実に亜人連合国の皆さまが、烈火の如くキレるだろうけど、私を襲う価値なんてあるのだろうか。あったとしても他国から障壁を維持する聖女を減らしたいとか、そんな理由じゃないかな。

 

 「最後ですが、我が娘を行儀見習いとして、貴女の侍女となることをお許し頂きたい」

 

 「え」

 

 なんでセレスティアさままで私の侍女になるの……。

 

 「あと二週間ほどで、学院が始まりますが……」

 

 「学力に関してなら心配ありませんわ。教育は十分に施されておりますもの。それに学院内でも貴女の護衛は必須。クラスメイトですし都合が良いのですよ」

 

 クラスメイトとして普通に学院生活を送りつつ、私の護衛をこなし放課後も侍女の仕事に就くそうな。

 

 「その辺りも陛下方と相談の上話は通してあります。娘は魔術も近接も対応できます故、盾になさると良い」

 

 王家と相談済ませているあたり用意周到だが、お上にお伺いを立てるのは普通か。ジークとリンが護衛に就いているけど、学科が違う為クラス内での護衛は無理だからと駄目押しされて。

 もう逃げられないなと観念して、無茶だけはしないようにと伝えながらセレスティアさまにお願いしますと頭を下げるのだった。

 

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