魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0084:見せしめ。

 銀髪くんの所業が説明されているというのに、大会議室の中に居る人たちの興味はアクロアイトさまに注がれている。彼の暴挙がなければ、今私の腕の中に居る方は存在しなかった訳で。少々複雑な心境になりつつ、視線をゆっくりと移動して大会議室を見渡す。

 

 不愉快そうな顔をしている人も居るので、今回の招集に不満を抱いている国もあるようだ。

 

 亜人差別が顕著な国は、良く捉えはしないだろう。だって見下している亜人にギルド運営の是正要求を突き付けられたのだから。

 とばっちりではあるものの、冒険者を利用して運営していくならば必要なこと。また第二、第三の銀髪くんを作る訳にはいかないのだ。ギルド本部上層部は改定案を練り上げるのに必死だったろう。

 

 『では改善事項をギルド側より――』

 

 「――それより何故この場に亜人が居る!!」

 

 だん、と机に拳を下ろし大声を上げ『私は亜人が嫌いだ』とありありと表情に出ている、大陸南東部にある某国のお偉いさん。

 拡声器もなしに会議室全体に響いたので、相当に嫌いらしい。黙って聞いているのが限界になり、青筋を立てているのが遠目からでも分かった。

 

 亜人が嫌いというよりも、怖い……のかもなあ。過去に亜人の方々を追い出した理由は定かではないが、亜人が弱ければ従属させるだろう。

 それが出来ていないのは、出来なかった理由がある。人間は欲深く、使える物や道具を見つけると利用するのが常。一番わかりやすいのは犬だろうか。牛や馬もだろうし。家畜のようになっていないのは、亜人の方たちが強かったから。

 

 「異なことをおっしゃる。今回この場を用意して頂いたのは、我々の要求を呑んで頂いたからだ」

 

 情報齟齬なのか、意図的に伝えられていなかったのか。代表さまたちがこの場に同席していることに、不満を持つ人が居るのは確実で。

 

 「また同じことが起これば、我々は総力を持って事を起こした者の所属国へと報復すると決意した。ただ無辜の者が死ぬのは忍びないのでな、こうして事前に知らせておこうという訳だ」

 

 もちろんギルドのルール改定にも口を出させて頂くが、とのこと。ふふふと笑い、ついでに魔力を放出して威圧している。

 話を遮った人は歯ぎしりをして耐えているようで、本当に亜人の方々が嫌いなようで。今は沈黙を守っているものの、何かあればまた止めるのだろう。議論することは悪いことではないが、果たして議論になるのだろうか。先程の遮りは只のいちゃもんである。

 

 「……っ!」

 

 不満はまだ残っているようだけれど、代表さまの圧に耐えられないようだ。これ以上口にしても自分の立場が悪くなるだけ。一度だけならば『亜人嫌いの国の者だから仕方ない』で済み、これ以上踏み込むと話の進行を妨げる厄介者扱い。

 

 「で、では、続けさせて頂きます」

 

 ギルド本部の進行役の方は、恐る恐るといった具合に話を再開させる。銀髪くんが愚行に及んだのは、昇進試験に焦りを覚えていたそうだ。実力を優先している傾向が強く、AランクからSランクへと上がる壁は厚く中々に難しいそうな。

 Aランクでも凄いようで、実力がなければ成れないそう。銀髪くんがあんな横柄な態度でもAランクに上がれたのは、金銭を渡し不正を行っていたようだ。お金を受け取った側は厳しい処罰が下され、運営側も腐敗が始まる前に歯止めを掛けなければと、今回の件を機にいろいろと奔走している、と。

 

 ――で。

 

 ・素行や品格審査も今以上に厳しくする。

 ・昇格審査の際には推薦人を立てる。

 ・普段の活動領域外へ赴く際は、派遣国の文化風習の教育徹底を行う。

 

 他にも細々としたものが提唱され、現状よりも更に審査内容が厳しくなるとのこと。以前を知らないのでどう変化したのか分からない部分もあるが、疑問や改善点を上げられていないから、問題ないのだろう。

 運営側も問題があったということで、ギルド職員側の昇格試験や身辺調査も同時に厳しくなるそう。本当に銀髪くんは凄い事をやってのけたと思う。悪い意味で、だけれども。

 

 「冒険者システムは魔物討伐時の重要な戦力。真っ当な冒険者を守る為、実力者が不利益を被らぬようにするのは当然」

 

 「今回の件は真に残念でなりませんが、良い機会だったのかも知れませんな」

 

 腕を組み各国の代表者が発表された内容に確りと頷いている。

 

 各国が対応できない場合はギルドへ討伐依頼を出し相応の金額を払い脅威を刈り取る。依頼を出されたギルドに所属する冒険者で対応不可能と判断されると、周辺の各ギルドに即依頼が出され実力者を募り、国を超え脅威に対応可能な実力を持った冒険者がやって来る仕組み。

 

 「しかし実力があるのに、人格が破綻している者の場合は如何致します?」

 

 戦力は期待できるのに、素行や態度で問題視される人物を使わないのは勿体ないと言いたいのだろう。その言葉に唸る人たちが多数いた。

 

 「そういう者は犯罪に手を染める可能性が高いからな。罪を犯せば罰として、捕虜や奴隷に落とし討伐に向かわせるのが妥当でしょうな」

 

 勿論、監視付きでということだろう。狩場に着けば解放され獲物を狩る。きちんとお勤めすれば恩赦を期待出来るようにすれば、少しは希望が見えるだろうか。本物の破綻者には無理だろうが。

 

 『各国の方々はご納得頂けているご様子。――亜人連合国のみなさまは如何でしょう?』

 

 「問題はない。――あとは我々が要求している、無害な竜に手を出すことや、亜人に対する無意味な迫害を止めろと再度の周知を」

 

 それだけあれば十分で、保護されたり大陸北西部に移住希望する亜人が居れば連絡を入れろと代表さま。

 

 「守れぬ者が居れば、我々が対応させて頂く。我々が本気を出せばどうなるかは、ここに居る皆であれば十分理解出来るはず」

 

 上の者や周囲に盛大に吹聴しておけと脅しを掛けてた。

 

 『ねね、魔力をちょーと練ってもらっていいかなあ?』

 

 『気持ちだけで良いから、ちょっとだけ魔力の放出もお願いできるかしら?』

 

 お姉さんズから念話が飛んで来る。受信しか出来ない、一方的なものなので彼女たちのお願いを聞き入れるしかなく、臍の辺りに意識を集中。

 

 「なっ!」

 

 「お、おい……!」

 

 「……う、嘘、だろ」

 

 この反応にも慣れてきた。そんなに練っているつもりはないし、魔力の放出も少しなのだけれど。それよりも代表さまやエルフのお姉さんズの魔力放出による圧が凄い。護衛の亜人の方も、威嚇しているし。

 

 「また無暗に竜に手を出してみろ。我々も許しはせんし、古竜の代替わりを抱く彼女も許さぬ。そして彼女が所属しているアルバトロス王国も、だ」

 

 え、まって。そんな話聞いていないんだけれども。しかも軍事同盟組んだみたいな言い方しているし。驚いてアルバトロス国王陛下の顔を見ると、疲れた様子を見せていた。あ、なんだか苦労しているようだから、突っ込みを入れない方が良いっぽい。いつの間に通商条約から軍事同盟ぽいものまで結ばれていたのだろうか。

 でもアクロアイトさまを預かっているのだし、何かあれば合法的に行動に起こせる手段はあった方が便利なのは事実。

 

 政治の場だし、裏でいろいろと手を引いているのは仕方ないけれど、一言くらい欲しかった。

 

 「なっ!? 引き篭もりのアルバトロスも出てくるのか!」

 

 「引き篭もりとは異なことを。我々は必要とあれば攻めることも厭わぬ。アルバトロス王国周辺国の理解と友好故に事に及ばなかっただけに過ぎんよ」

 

 陛下が真っ直ぐ前を見据えて堂々と流暢に語る。脅しの一環ぽいけれどね。

 

 「条件さえ整えば攻めることは何時でも出来ましょうぞ、なあヴァンディリア王よ」

 

 その為の軍や騎士団だと陛下の左隣に座るヴァンディリア王へと顔を向けて問う。

 

 「ですなあ。――我々が国を守るだけで手一杯なぞ、いつ申したか」

 

 アルバトロス王国とヴァンディリア王国とは友好国なので、事前に話を通していたのだろう。お互いに不敵な笑みを浮かべ、周囲を牽制している。

 周辺国と話し合いの末に平和路線を取っているから、それ以外の国から見ると腑抜けに見えるのだろう。陛下方も大変だなあと、遠い目になる。私も巻き込まれてしまったことは忘れよう。なんだか王国の方へ注目が集まっているし、藪蛇は良くない。

 

 ざわつく大会議室で私の存在を忘れてくれますようにと、願わずにはいられなかった。

 

 ◇

 

 引き篭もり体質のアルバトロス王国国王陛下とヴァンディリア王が『問題を起こした他国に、攻めるのも辞さない』と言ってのけたので、大会議室はざわめいてる。

 

 ――私の存在なんてちっぽけなもんです。

 

 目立たず、騒がず、そろそろ退室を……と願っていたのだけれど、なんでか注目されとりますやん。そこは代表さまやエルフのお姉さんズへ視線を向けるべきでは。魔力を練るのも止めているし、問題はないはずだったのに。

 

 『いや、無理だと思うよ~』

 

 エルフのお姉さんBが私の心の中を勝手に読んでるし。

 

 『何も話題にならないで、このまま退室なんてあり得ないでしょうねえ。さて、可愛い子が釣れると面白いけれど』

 

 お姉さんAにまで突っ込みを入れられ、くつくつと笑っている彼女はこの場を完全に楽しんでいる。馬鹿を発見する為に。

 

 「すまない。彼女が抱いている幼い竜は、彼の冒険者が屠り卵となり生まれた後の姿なのか?」

 

 お姉さんズが言った通りに釣れた人がいるけれど、片手を上げて口を開いた人は単純に興味か疑問っぽい。

 

 「そうだ。だが誤解がないように伝えておこう。愚か者の冒険者が屠り、卵となった訳ではない。彼女が浄化儀式の際に葬送も兼ねていたからこそ、魔石を卵へと変質させ、次代を残したのだよ」

 

 ふと漏れ出た声に答える代表さまが、私とアクロアイトさまに視線を向けて微笑む。彼の言葉に小さく頷き、膝に座るアクロアイトさまを見ると、一鳴き。

 

 「確かに凄い魔力を有しているようだが……そんな簡単に浄化儀式を執り行えるものなのか?」

 

 「彼女は我が国の聖女だ。――魔物が出現し対応の為に軍や騎士団が派遣されるとなれば、聖女も治癒師として同行する。彼女の実力に疑問があるならば、教会に問い合わせてみると良い」

 

 討伐派遣記録が残っているし、その際の行動が報告書として纏められている――と陛下が。教会もギルドと同じで国を超えて存在しているから、資料を取り寄せようと思えば出来るのだろう。

 自国の内情を開示しているようなものだけれど、問題があるような内容なら握りつぶすか内容開示出来ないように機密書類に分類されるかと、一人で納得。

 

 「はっ! 子供にそのような役目を押し付ける国がまともな筈はなかろう! やはり引き篭もりの腰抜けだなあ、アルバトロスは!」

 

 亜人嫌いの大陸南東部にある某国のお偉いさんが、また喰い付いてきた。嗚呼、学ばないなあと遠い目になる。

 

 『小物しか掛からないね~』

 

 『そうね。面白くないわ』

 

 好き勝手言っているお姉さんズ。確かに小物っぽいけれど、一応は国の代表者を務められるお偉いさん。

 

 「そう思いたいのならば、そう思っておけばよろしかろう。逸った行動を起こして困るのは貴国ぞ?」

 

 正しい情報を上に報告しろよと陛下が圧を掛けているようだけど、頭に血が上っていそうな彼に出来るかな。亜人嫌いと、引き篭もり体質な大陸南域の国々にアレルギーを持っているようで、正しい判断は難しそうだけれど。

 

 「ふむ、確かに。――それに此度の会談は冒険者ギルドの運営是正の為に赴いておる。亜人だの引き篭もりだのが問題ではない」

 

 偶々、大陸南部と亜人連合国が関わるようになっただけ。話を逸脱させる為に集まった訳ではないと、今回アルバトロス王国がこの件を機に食料援助をするようになった、大陸北西部の王さま。ぶっちゃけてしまうと冒険者を重用していない国は、あまり関係のない話である。

 

 「くっ!」

 

 嫌いな国以外の人の言葉には弱いのか、押し黙るお偉いさん。パワーバランスを把握するのが大変だけれど、こうして見ているだけなら面白い。

 

 「此度は我々が確りと管理監督すべき冒険者が私欲に負け、各方面へご迷惑をお掛けしたこと真に申し訳ない」

 

 話は終わったとばかりに、冒険者ギルド本部のお偉いさんたちが立ち上がって頭を下げる。冒険者システムが崩壊すれば困る国もあるから、これくらいが収めどころなのだろう。亜人連合国やアルバトロス王国が被った被害の補填を行うと宣言して、今回の会談が閉幕する。

 

 各々が立ち上がり大会議室から出ていくのを眺めていると、ふいに声が掛かった。

 

 「さて行くか」

 

 「そうね」

 

 「こっちがメインだよ~」

 

 代表さまとエルフのお姉さんズが軽い調子で言ってのけたけれど、一体何処へ行くのだろうか。席を立ちあがりギルド本部のお偉いさん方に声を掛けて、なにやら話し込んでいる。用は終わったのか振り返り、手招きされる私。

 

 「行ってきなさい。私たちは部屋を借り待機していよう」

 

 「はい。御前、失礼致します」

 

 まだ席に着いている陛下に頭を下げると、彼の横に座っているヴァンディリア王まで私に微笑み小さく頷いている。

 あの事件振りに会ったのだけれど、何か目的でもあるのだろうか。偉く好意的だし。何かあれば陛下や国を通して話がきそうだけれど、今の所その気配はなく。取りあえずは代表さまたちにくっ付いて移動だから、置いて行かれないようにと三人と護衛の人たちの背を追う私。その後にジークとリンに王国の近衛騎士数名が続く。

 

 ――ギルド本部、中庭。

 

 移動先は銀髪オッドアイくんが放置されている中庭だった。獣耳な亜人さんたちが厳しい表情で檻を取り囲んで、警備をしていた。そのうちの一人の手の中には、銀髪くんが得物として使っていた大剣が。軽々と持ち上げているので、亜人の方の力の強さが窺い知れる。

 

 「出して猿轡を外してやれ」

 

 「あいよ。――……出ろ」 

 

 結構気軽な返事だったけれど、代表さまとエルフのお姉さんは気にした様子はない。かちゃりと南京錠が開く音と、念の為に魔術を利用した施錠が解除される音が鳴る。銀髪くんの腕を無理矢理に掴んで、無理矢理に出される。

 抵抗する気力がまだ残っているようで、檻から掴みだした亜人の護衛の方を睨みつけていた。ぱちんと指を鳴らすと猿轡が外れる。

 

 「はっ……! ――おい、クソっ! なんなんだよ手前らはっ! ずっと俺を拘束して何が楽しいんだ!」

 

 威勢よく叫んだ銀髪くんが繋がれている手錠の鎖を代表さまが掴んで歩き始めると、お姉さんズに肩を押され歩くことを促された。私たちが街を歩いていると『離せっ!』『クソっ!』『何様のつもりだっ!』『解けねえっ!』等々の言葉を上げる彼。

 対して代表さまたちは始終無言を突き通している。割と表情豊かな方々だというのに、今は無。怖いよ、と口にしたくなるのを我慢しながら歩く。そうして辿り着いた先は、ギルド本部がある街の中心部。多くの冒険者が行き来をしており、武器屋さんや道具屋さんが立ち並ぶ場所でもあった。

 

 一体何を始めるのだろうと、無表情な代表さまの顔を見上げるのだった。

 

 ◇

 

 ギルド本部がある街の中心部。広場になっており真ん中には噴水が設置されており、潤沢に水を噴き出している。心地よい水の音が響いているというのに、騒ぎを聞きつけ道行く人たちが立ち止まる。

 

 「おい、手前らっ! じっとしていないで俺を助けろよっ! 冒険者だろうっ、なんでボケっと見てるだけなんだよっ!」

 

 今回の事件は周知というか『冒険者狩り』が行われたので、銀髪くんがやらかしたことは多くの冒険者に知れ渡ってる。

 もちろん容姿や身長もだ。銀髪自体は珍しくないけれど、オッドアイとなるとかなり特殊。だからこそ判別がしやすい。上半身裸に剥かれたまま石畳の上を引き摺られてやって来たので、身体のあちこちに擦り傷が出来ていた。

 

 「良い男が台無しね。治してあげましょう」

 

 凄く不快な顔を浮かべたお姉さんAが、後ろでに拘束され尻を地面に付けている銀髪くんを見下ろして傷を無詠唱で治した。

 

 「へえ。アンタ俺に気でもあんの? じゃあさ、これ解いてくれよ。礼なら弾むし――っぐ!」

 

 「黙れ。不愉快よ」

 

 魔力の流れを感じ取れたので、お姉さんAが身体強化を施して銀髪くんにグーパンを見舞ったようだ。当たった部分が次第に赤身を帯びている。早すぎて、あまり視認できなかったけれど。エルフの人って、あんなことも出来るのか。

 

 『君も出来るでしょ~。ちゃんと魔術お馬鹿な人に教えてもらいなね』

 

 お姉さんBのお気楽そうな声が頭の中に響いた。副団長さまが軽くディスられているけれど、事実だし否定ができない。

 しかしまあ傷を治したくらいで気があると勘違い出来るのは、羨ましいほどに前向きである。彼の理屈を当てはめるなら、傷を治しまくっている私は一体幾人の男性を落としたことになるのやら。ないわ~と冷めた目で銀髪くんを見る。

 

 「代表」

 

 「ああ」

 

 亜人の護衛の人から、銀髪くんの得物を受け取り片手で軽々と持ち上げ、長身の彼が渾身の力で振り下ろす。

 

 ――ガッ!

 

 凄い音が鳴り石畳に大剣の切っ先、どころか随分と奥までめり込んでいた。その光景を見ていた広場に居る人たちは驚きを隠せず、ざわめき始めた。

 これ、人の手じゃあ抜けないんじゃないかな……。そのくらい強大な代表さまの力で大剣が刺され、護衛の亜人の人たちが逃げられないように銀髪くんを鎖を使って大剣に縛り付けた。逃げても直ぐ捕まりそうだけれど。冒険者ばかりのこんな場所じゃあ。ぽいずん。

 

 「――冒険者の諸君っ! 少しだけ我らの声に耳を傾けて頂きたいっ!」

 

 代表さまの通る声が広場に響く。今回の経緯を代表さまが身振り手振りで語っている。若干、話が盛られている気もするが、最後の締めにとなった。

 

 「命を天秤に掛け日夜魔物と戦う冒険者諸君の勇気や誇り、そして献身は汚されてはならぬもの!」

 

 力強く腹から声を出す代表さまの声に呼応して、集まった聴衆は力強く頷く。

 

 「掟を破り周囲へ被害を被らせたこの者は、いまだに反省をしておらん!」

 

 傷を治したお姉さんAに妙なことを口走っている時点で、反省なんてしていない。本来ならば自分の犯した罪を自覚して、この場で土下座を始めてもいいくらいだ。

 今回の件で昇格試験は厳しくなっている。その煽りを受けるのは罪を犯した銀髪くんではなく、同業者である冒険者の皆さまで。

 

 「力で捻じ伏せるのは簡単だ。だからこそ我々は求める。この者の愚かさを、君たち冒険者が説いてくれたまえ!」

 

 「質問!」

 

 なんだかノリの良さげな青年が代表さまに向けて挙手をした。普通なら代表さまやエルフのお姉さんズの魔力量の多さに驚きそうだけれど、彼はそんな素振りは見せない。

 慣れているのか、はたまた彼も魔力を多く自身の身体に有しているのか。冒険者の装いで、装備は良い物を纏っていた。

 

 「構わんよ。答えよう」

 

 「暴力は有りでしょうか?」

 

 うん。力が自慢の冒険者だ。口で諭すより、肉体言語で理解をさせた方が早いと考えているのだろう。

 

 「そうだな。――過度なものにならなければ、と言っておこう。出来れば言葉で諭してやって欲しい。己の置かれている立場を全くと言って良いほど理解出来ていないのでな」

 

 なので魔力や武器の使用は禁止。素手による純粋な己の力のみと付け加える代表さま。それに続いてエルフのお姉さんAが『道具で魔力制御を施しているから、値はゼロにほど近いわ』と付け加える。そういえば銀髪くんが指に嵌めている魔術具は、私が副団長さまから譲り受けた物に似てる。

 

 「今回以外の件でもよろしいでしょうか?」

 

 顔がかなり整って胸の大きな女性が遠慮気味に手を上げて、代表さまに質問をした。

 

 「質問で返して申し訳ないが、この件以外にも何かあるのか?」

 

 少し首を傾げて女性冒険者に問い返す彼。

 

 「はい。以前、酷く絡まれまして…………」

 

 む、と少し考える素振りを見せる代表さま。本題からズレてしまうことに迷いがあるのだろうか。

 

 「いいんじゃない代表。沢山やらかしていそうだし、この際全部吐き出してもらえば」

 

 「ね。女の敵みたいだし~」

 

 気楽に、そして簡単にお姉さんズが言い放った。本当にお姉さんズを敵に回すと、恐ろしいことになりそう。

 

 「……わかった。あまり私事にならなければ問題ないとしよう」

 

 なんだか雲行きが怪しくなっていないかな。本題は今回の件を同業者から銀髪くんに理解させることが目的だったはずだけれど。というよりギルド本部がある国でも一応顔が知れ渡っていることが不思議だ。

 

 銀髪くんの前に一人ずつ並んで列を形成された。最初は代表さまに質問した青年だった。手甲を外してぱきぽき指を鳴らして、殴る気満々だけれども。

 

 「アンタがSランクパーティーに在籍していたことが不思議でならねえが、あのパーティーリーダーはお人好しだからなあ。俺もあの人たちに助けられたことがある」

 

 元とはいえどSランクパーティーの名前に傷をつけている側面があるのは許されないことであり、足を引っ張る存在だと言いたいらしい。今回の件もきちんとギルドへと報告と相談を行った上で、討伐へ向かうのが本来の道筋。

 駆け出しの冒険者でも守らなければならないことで、個人でBランク、パーティーでAランクを担っていたとは思えない。ギルド側の不手際もあるのだろうが、同業者に迷惑を掛けていることも許せぬ案件。腸が煮えくり返る所業だが、罰を下すのは亜人連合国の方たち。

 

 「……」

 

 黙って青年の言葉を聞いている銀髪くん。彼は今何を考えているのだろうか。

 

 「一発、殴らせてくれよ。腹が立って仕方ねえんだわ。冒険者狩りもあの人たちが名乗り出て、直ぐに解決しちまったしな」

 

 言い終えるやいなや、重い音が鳴った。え、顎骨折れていないかなあ、今の音。凄く嫌な音が鳴ったけれども。冒険者の人の力って凄いなあ。 

 銀髪くんは歯を食いしばって耐えていた。青年の言葉で知ったけれど、冒険者狩りの際に掛かった賞金は、ヴァイセンベルク辺境伯領へ全額寄付されたらしい。どのくらいの賞金が掛かっていたのか知らないけれど、銀髪くんを捕まえて王国へ連れてきたあの人の株が上がった気が。

 

 「ほい」

 

 お姉さんAが軽い口調で銀髪くんへ治癒を施す。

 

 「次の人~」

 

 青年の次にやって来たのは、もう一人質問を飛ばした綺麗な女性冒険者。なんだか銀髪くんの好みに合致しそうな人だった。

 

 「酒に酔っていたとはいえ、下品な言葉で毎度口説かれることに嫌気が差していたの」

 

 あー、うん。もうその言葉で銀髪くんがどんな台詞で口説いたのかは想像が付く。おそらくセレスティアさまとソフィーアさま、そしてリンに投げかけた言葉と似たり寄ったりの語彙だろう。素面でアレだ。酔っていたと言った女性冒険者に同情を隠せない。

 思い出しムカつきしてきたなあ……と魔力が上がるのが分かってしまう。するとアクロアイトさまが私の腕の中で一鳴き。未熟者で申し訳ありませんと反省しつつ、腕の中のアクロアイトさまを何度か撫でる。

 

 「うわ、サイテ~……」

 

 「ないわね」

 

 お姉さんズも女性冒険者の言葉を聞いて、蔑みの視線を銀髪くんに向けている。周囲に居た人たちも同様だ。特に女性からの視線が厳しい。

 

 「あ、こういう下品な冒険者はギルドに報告出来るようにすればいいんじゃない?」

 

 「良いね~。この機会にギルドに嘆願書でも出せばいいと思うよ。昇進査定に響くようになるなら自重するでしょ~」

 

 一般の人に絡んで品格を落としても評判が悪くなるだけだ。女性冒険者からみると願ったり叶ったりだろうか。セクハラ趣味の男性冒険者はストレス発散の場が無くなると、嘆くかもしれないが。お姉さんズの言葉に、女性冒険者たちが顔を明るくする。

 

 「私たちは動かないわ。自分たちでちゃんと行動に移してね。ただ今なら受け入れられやすい環境にはなっているはずよ」

 

 お姉さんズに頭を下げる女性冒険者の方々。力が正義の世界だから、男性に逆らえない所でもあったのだろう。改革に乗り出そうとしているから、素早く動けばギルドも組み込み易いだろう。

 

 「はい次」

 

 そうして次の人が銀髪くんと相対する。その人は真面目な人の様で、銀髪くんの前に胡坐をかいて座り込み、訥々と冒険者としての心得を説いている。そのことに気を良くしたのか銀髪くんが彼の顔に向けて唾を吐いた。

 

 「ああ、分かっておりませんなあ。どうしたものか……」

 

 飛ばされた唾を拭い苦笑を浮かべる男性冒険者の肩に手を置き『代わろう』と告げる、もう一人の男性。また胡坐を組んで訥々とまた語り始める。

 

 「おい……いつまで続ける気だ……!」

 

 「お前が理解するまでだよ。届かぬかも知れんが冒険者でない我々の言葉よりも、同業者である彼らの言葉の方が届き易かろう」

 

 銀髪くんが不貞腐れた面持ちで代表さまに声を掛け、それに答える代表さま。これを彼が理解するまで続ける気らしい。長丁場になりそうだなあと、青い空を見上げる私だった。

 


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