魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0085:闖入者。

 入れ替わり立ち代わり。銀髪くんの下には冒険者が絶えずやってきていた。

 

 「……おい、いい加減にしろよ……」

 

 疲れた様子で銀髪くんが口にする。流石に飽きてきたらしい。

 

 「いいや、アンタにゃあ言いたいことが山ほどあるんだ。まだまだ続けるぜ」

 

 冒険者の皆さまが口々に言う。銀髪くんの反応が愉快になってきたのか、ギルド本部の街広場では日が暮れても説教大会が終わらずに続けられていた。言葉で諭されつつ、肉体言語に代わる時もあるけれど。話を聞いていると随分と問題児だったようだ。所属ギルドでない場所なのに

 

 最初は代表さまとお姉さんズが取り仕切っていたけれど、冒険者の皆さまが慣れてきたのか指揮は彼らが執っている。

 手荒な人が居るとお姉さんズが治癒魔法を施したり、冒険者の中から治癒を施せる人が掛けたりと結構忙しそう。

 

 「あの、いつまで続けるのですか?」

 

 流石にそろそろ止めてもいいのではと代表さまへ聞いてみる。

 

 「あと数日は続けるさ。――それでも反省せんだろうがな」

 

 分かっていてやっているのか。しかもあと数日。反省を促すというより精神を折りに来ているような……。

 

 「まあ冒険者たちの溜まった鬱憤をアレで晴らそうって訳ね」

 

 「そそ。こっちに矛先を向けられても困るしね~」

 

 お姉さんズも話に加わって、銀髪くんをみんなで見る。矛先が亜人連合に向かうことはなさそうだけれど。

 

 「人間って怖いでしょ。念の為よ、念の為」

 

 この方法を思いつくお姉さんたちの思考の方が怖いけれど。大陸北西部に追いやられた過去があるから、慎重になっているのだろうか。人間、なにをやらかすか分からないし、慎重になっておいた方が得なのだろう。

 

 あと背後では亜人の護衛の方が冒険者の人と手合わせしており、トトカルチョも開催され、ちょっとしたお祭り騒ぎとなっている。

 それにかこつけて露天商が現れて食べ物や飲み物の販売を始めているし、フットワークが軽い。広場はわいわいと騒いで明るいけれど、銀髪くんの周囲だけはどんよりしてた。

 

 「私がここに来た意味……」

 

 あるのかなあ、と疑問が浮かぶ。

 

 「そんなのは~君と君の膝の上の方の周知だもの~」

 

 「そそ。居るだけで意味があるのよ」

 

 「迂闊に手を出して貰っても困るしな」

 

 アクロアイトさまは分かるけれど、基本王国から出ることのない私が国外に出て顔を広める必要性がないけれど。しかも冒険者を重用していないアルバトロス王国だと、更に意味のないものに。

 

 「おいっ! 貴様らっ!!」

 

 広場に大声が上がり、腕試しをしている亜人連合国の護衛役の人と対戦相手や銀髪くんに説教を続けていた人、屋台の人たちの声が一斉に止まる。

 声を上げた主は私たち三人に向かって指を指し、青筋を立てていた。誰かと思えば、大陸南東部の亜人嫌いの国の代表さまだった。彼付きの護衛の人たちは顔色が滅茶苦茶悪いので、彼の独断専行っぽい。

 

 「どうなされたか?」

 

 代表さまがなんてこともないように、平坦な声で答えた。

 

 「亜人の癖に生意気を言いよって!! しかも何が古竜の生まれ変わりだっ! そこらに居るただの竜じゃないかっ!」

 

 あ、周囲の冒険者の人も雰囲気が一変した。喧嘩を売っている状況で不味いと判断したらしい。騒がしかった広場が一瞬にして、葬儀会場のような静けさになってしまった。

 

 「ほう。貴様にはそう見えるのか」

 

 目の前の青筋を立てている人の魔力量は少ないのだろうか。それか魔力感知が凄く鈍いのか。私の腕の中にいるアクロアイトさまは竜だし、ご意見番さまの次代だ。

 その凄さを分からない筈はないのだけれど、体内を巡る魔力が微量だと感知が鈍いと聞くから、その手の類の人か。 

 

 「そこらに居る竜と言えど、価値のある竜を……金のなる木を餓鬼が独占している!!」

 

 売れば高値が付くと聞いているからなあ。竜の肉を食べると不老不死になるとか、眉唾物の言い伝えとかあるし。お肉、欲しい……というより本心はお金の方か。

 

 「……」

 

 また餓鬼って言われた。どうにもこの言葉を言われ易い。もう少し身長が伸びればなあと心底思う。

 私に矛先が変わったことで、ジークとリンが前に出て厳しい視線を向けているけれど、青筋の人は気付いていない。広場に居る冒険者のみなさんも、じりじりと立ち位置を変えて青筋の人を取り囲み始めた。護衛の人は真っ青から土気色の表情に変わってる。

 

 ――仕方ない。

 

 噴水の縁に腰を下ろしていたのを、ぴょいと降りて立ち上がる。

 

 「独占、ですか。私の腕の中にいる仔は私の意思ではなく、自身の意思で私の下にいらっしゃるのです」

 

 そう言って、アクロアイトさまを腕の中から解放する。軽く周囲を飛んで、私の肩へと乗って顔に顔を擦り付けて、仲良しアピールをしてくれた。

 

 「はっ! 嘘を吐け! 隷属の魔術でも使っているのだろう! アルバトロスは引き篭もりらしく魔術研究に勤しんでいるからなっ!」

 

 何をどう言っても曲解してドツボに嵌まっていきそうな青筋の人に、誰かもう止めてあげてと心で叫んでいる土気色した顔の護衛の方々。

 リンが剣の柄に手を掛けたそうに、右手を開いたり閉じたりしてる。それにこれ以上の罵倒はアルバトロス王国への侮辱で外交問題に発展してしまう。抗議案件だよなあ。報告書に記すことが増えたなあと、遠い目になってしまう。青空ではなく暗くなっている空を見上げ現実逃避。

 

 隷属の魔術もあるにはあるが、細かく指示できない。

 

 「そう捉えるならば、捉えていれば良いでしょう。事実を直視出来ず身分を笠に着て我々を……我が国と亜人連合国を侮辱なさったことは正式に抗議させて頂きます」

 

 「餓鬼が偉そうにっ! 何が出来ると言うのだっ!!」

 

 聖女の衣装はアルバトロス王国独自のものだから、私が聖女だと知らなくても仕方ない。他国の人だし。ただ私がアルバトロス王国の聖女だという事実は変わらない。代表さまたちも国のトップとしてこの場に来ているというのに、亜人だからと言って盲目的に下に見ているのは問題だ。

 

 「子供の身故、私が出来ることとは確かに治癒魔術を施すことくらいですが――」

 

 冒険者の人たちが驚いた顔をしている。アルバトロス王国外の基準は知らないけれど、治癒魔術を使える人は少ないと聞いているからなあ。あと使えたとしても、効果が低いとか回数制限があるとかなんとか。

 

 陛下も大会議室で疑うなら教会に問い合わせろと言ったけれど、聞いていなかったのか。嫌いなものフィルターが掛かりすぎだよ、青筋の人。この手の人は何を言っても聞く耳を持ってくれないから、苦手だ。

 

 「微力ではありますが国へ尽くし、行動しております。我らの矜持を貶められる行為は断じて許せるものではありません」

 

 そろそろ引いてくれないかな、面倒だから。護衛の人たちも止めてくれればいいのに、身分差があるのか青筋の人の行動を見守っているだけ。

 

 ――ダンっ!

 

 冒険者の一人が無言で右足を石畳に打ち付ける。少し間隔を置いてもう一度。それに気付いた他の冒険者が調子を合わせて、ダン、ダン、ダンと石畳を叩く。どんどんと波及して、地面が微振動しているのが伝わってくる。言葉にすると不敬になってしまうので、彼らなりの無言の抗議なのだろう。

 

 「なっ! 何故っ! 何故、亜人や餓鬼の味方をするのだ!!」

 

 青筋の人の言葉に誰も答えない。ただひたすらに足を一定間隔で石畳へと打ち付ける。

 

 「もう止めにしましょう。我らの負け……最初から勝負になどなっておりませんでしょう」

 

 青筋の人の護衛で、装備が良い物を身につけている人がようやく止めに入り『申し訳ありませんでした』と頭を下げた。事ここに至るまで止めなかったのは、青筋の人の仕出かしを国へ報告する為なのだろうか。自身も道連れにして。抗議が来れば護衛の人にも波及するものなあ。

 

 広場から去る人たちを、なんとも言えない気持ちで見つめる。

 

 「大陸南東部は身分差が随分と厳しいのです。護衛が止められなかった理由はその辺りにも起因しておりまして……。あと、亜人嫌いをまだ引き摺っておるのですよ」

 

 とは冒険者の人。すみませぬなあと謝ってくれ出身国だと告げた。国によっていろいろと抱える事情が違い、少し複雑な気分になるのだった。

 

 ◇

 

 聖女さまが亜人連合国の方々と一緒に、ギルド本部のある街の中心部である広場へと足を向けていた。

 

 我々、アルバトロス王国の面々はギルド本部の一室を借り受け待機中。が、外務卿として顔を売るのは大事な仕事の内の一環。

 諸外国の代表を務める高官や王族が居るこの場は絶好の機会である。陛下に断りを入れて、部屋の外へと赴き廊下で歓談中の方々の機を見計らい、声掛けをしようと口を開こうとした瞬間。

 

 「失礼。アルバトロス王国の外務卿殿ですな?」

 

 初めてなのかも知れない。相手から声を掛けられたことは。その事実に少々塩辛い水の所為で、視界が少しばかり歪む。苦節うん十年。嗚呼、ようやく私も外務卿として脚光を浴びる時が来たのだと、口が伸びるのを実感し。

 

 「はい。確か貴方さまは……――」

 

 アルバトロス王国に隣接する国の代表者だ。私と同じく外務卿を務めている。にこやかに笑い握手を求め手を出すと、友好的に彼も手を差し出して力強く握りしめてくれた。

 

 「我が国の陛下から書状を預かっております。是非、件の黒髪の聖女殿に渡して頂きたい」

 

 我が国は聖女を沢山抱えているけれど、黒髪の聖女と言えば今回同行している彼女しかいないので分かりやすい。

 家名でもあればもっと分かりやすくなるのだが、彼女は孤児出身。此度の件で爵位を賜ることになっているが、陛下は教会側との折衝で気を揉んでいる様子。教会も国側に取り込まれ過ぎると困るので必死だが、彼女の評判がここまでくれば諦めれば良いものを……。金満体質な教会貴族の一部は、黒髪の聖女を金の生る木だと勘違いしている。

 

 彼女の取り扱いを間違えれば、アルバトロス王国どころか大陸各国を吹き飛ばしてしまうほどの勢いだというのに。

 

 専属護衛である赤毛の双子は、まだ十五歳という年齢でありながら近衛騎士顔負けの実力で。彼女が抱いている仔竜も大変な存在で、日々魔力量が上がっている。異能持ちの所為なのか、そういうことに敏感で感じ取りやすく、仔竜の恐ろしさがひしひしと肌へと伝わる。

 

 それに亜人連合国の代表格三名も、仔竜に向ける情は本物で。あれは仔竜を最上位に置いている目だ。私が陛下を最上位に置いているように、彼らもまた仔竜をそういう存在と位置づけている。

 

 少々形は違えど、同類なのだ。そして仔竜の元となる古竜を救った黒髪の聖女をいたく気に入っているご様子。人間に迫害されて大陸北西部へ追いやられた亜人が、人間にあのような好意を向けるのは稀だ。そう考えるだけで、ぶるりと震え上がる。黒髪の聖女は我が国にとって手放してはならない存在で、敵にもしてはいけない。

 

 「……内容次第ですね。然るべき措置を行ってから、聖女さまへの手渡しとなりましょう。それでもよろしいでしょうか?」

 

 だから私個人で勝手な行動を取る訳にはならぬのだ。上に確認を取らねば。今回問題を起こした大馬鹿者と同類となってしまうから。

 

 「構わない。検閲を受けるのは致し方のないこと。ただ、是非とも聖女殿へと話を通して欲しいのだ」

 

 理解を得られるのは有難いことである。傲慢な奴は無理を押し通せと、平気な顔で言ってのけるから。そんなの出来る訳ねーじゃんと目を細めて相手を見るが、そういう連中に限って全く意に介していないし。

 

 「私の全力を持って事に当たりましょう」

 

 外交は、相手の要望を受けるだけでは仕事にならない。受けたならば、向こうにも何か条件を飲んでもらわねば外交官として失格である。まあ、あとでこの事をネチネチと攻め立てるのも一手ではあるけれど。影が薄いと言われている私だ。忘れ去られている可能性が十分にあるので、この場で何か見返りを求めたい所である。

 

 「有難い! これで我が国の陛下に良き報告ができましょうぞ」

 

 うんうん。外務卿として一仕事出来ると誇らしいよね。私もそう在りたいから頑張らないと。何かネタはあったかなあと、頭の書棚を引っ張りだしてひとつ手に取る。

 

 「確か貴国は新たな鉱脈を見つけたと聞きました。全く羨ましい限りですなあ」

 

 金脈でも掘り当てれば、国の財政が潤う。もちろん用途は多岐に渡るから、銀脈や違う鉱脈でも嬉しいけれど。

 

 「我が国への融通もお考え願いたい所」

 

 「ふむ、悪い話ではありませんなあ。安定供給が見込めるようになれば、貴国へ交渉を持ち掛けましょう」

 

 私たちが女性に生まれていれば扇子を広げ、うふふ、あはは、とほくそ笑んでいる所だろうと、妙な想像をしてしまった。軽く首を振り妙な絵面を吹き飛ばす。ではまた、と相手国の外務卿殿と別れると、待っていましたとばかりに、また声を掛けられた。

 

 ――なんでこんなに人気なの、私。

 

 影が薄いと言われる私が、何故か周囲の人たちに持て囃されている。嬉しいけれど、自身の事ではなく我が国の聖女さまや亜人連合国についての問い合わせだが。それでも嬉しいと感じちゃうのは、日頃の影の薄さ故。

 なんだか女性たちに言い寄られるより、喜ばしいと笑みを浮かべて機嫌良く外交活動に勤しむのだった。

 

 「外務卿……良かったですねえ……! ようやく貴方に陽の目が……!」

 

 ずびっと鼻を啜る私の補佐官。私の存在の薄さ故に君も無意味に巻き込まれていたものねえ。嗚呼、ようやく私の人生に彩りが施されたよと彼を見る。

 

 「しかしこの量凄いですね……」

 

 「うん、全部聖女さま宛てだよ。陛下や宰相殿は大変だろうなあ」

 

 受け取った書状を補佐官が見て、感嘆のため息を漏らした。中身を吟味するのは外務を携わっている私ではなく、政を賜っている陛下やその補佐である宰相殿の管轄で。

 この話を持ってきた国には、陛下に話を通してから聖女殿へと話が流れるか、封殺されるかのどちらかだろう。

 治癒依頼で実入りの良さそうなものならば受けるだろうが、婚約話だと断る筈である。あれほどの人材を国外へ逃してしまうのは、馬鹿の極み。亜人連合国が申し出れば、一考の余地はあるのかも知れないが、それでも渋るであろう。

 

 「陛下、ただいま戻りました」

 

 「ああ。……それは何だ、外務卿」

 

 椅子に腰かけた陛下が私を見上げ、怪訝な顔を浮かべた。こんなに書類を持っていれば不思議に思っても仕方ない。

 

 「全て聖女さま宛ての書状です。中身の確認の為、陛下と宰相殿にお預け致します」

 

 そう言って今回同行している宰相補佐殿へ大量の書状を預けると、顔が引きつっていた。中身を精査しなきゃならないから、下手をすれば不眠不休の作業となるのでは。

 

 「外務卿殿、君も手伝いたまえ」

 

 「え、私もでありますか……?」

 

 なんでそうなるの。私、ちゃんと働いて国へ貢献できる話を沢山得て来たのに。

 

 「おいそれと受け取るからだ。陛下の下にも同じようなものが届いている。我々だけでは人手が足りん」

 

 宰相補佐殿が厳しい表情を浮かべて、私へ押し迫る。確かに嬉しくて受け取ったけれども。私の後ろで頭を抱えている私の補佐官の気配を感じ取るのだった。

 

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