魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
夜。まだまだ冒険者による銀髪くんへの説教大会が続いていた。アルバトロス王国側のスケジュールを聞いていなかったが、迎えが来ないということはまだ余裕があるのだろう。
「なかなか折れませんなあ……」
甲冑を着込んだ筋骨隆々な中年男性が蓄えた髭を手でなぞりながら、目を細めて銀髪くんを見つめている。海千山千を超えたベテラン冒険者で、気さくな方だった。
私が『外の国へ赴いたことが少ないから』と言って興味を示すと、面白おかしく冒険譚を語ってくれた良い人である。エルフのお姉さんズも暇を持て余していたのか、彼に質問をしたり合いの手を入れたりと、楽しく喋っていた。
ジークとリンと私が冒険者となれば、直ぐに実力を発揮できると太鼓判を押してくれたけれど、残念ながら私たちはアルバトロス王国の聖女と護衛騎士である。登録だけでも済ませてみてはと勧められたが、陛下や教会の許可がないと出来ないだろう。勝手にやると怒られる。
「だな。骨があると言うべきか、状況を理解できていない大馬鹿者とみるか」
「後者しかありませんぞ、代表殿」
亜人嫌いの国出身だというのに、亜人である代表さまやエルフのお姉さんズに護衛の方たちを嫌っている様子は全くない冒険者さん。
亜人嫌いの国の中でもいろいろな考えを持つ方が居るようで、彼はそれが嫌になって国を出て冒険者業を営んでいるそうな。生粋の亜人嫌いは彼の国のお貴族さまの中に多いと聞いた。だから青筋の人はあんな剣幕で私たちを責め立てたのかと納得できたけど。
「確かに」
くつくつと笑い合う代表さまとベテラン冒険者さん。治癒関連で困ったことがあれば、私の名前を出して教会を頼って下さいと伝えておいたけれど、そんな日は来ない方が良い。
興味を示してどんなことが出来るのかと聞かれたので、病気や怪我の治療が主と伝えると『病気が治せるのですか!?』と驚かれた。どうやら病気を治すのは医者の仕事らしい。しかも医学が発展していないので藪医者が多いそうな。後は民間療法で賄っているとのこと。
「逆に彼奴を構わぬ方が効果がありそうな気も致しますが」
確かに、この場に放置して一週間ほど相手にされなければ、心が折れそうだ。構うから銀髪くんも反発しているのだろうから。
「それでも良いが、君たちの鬱憤が晴らせまい」
「それはそうでしょうなあ。しかし何故我々冒険者に同情的なのです? てっきり人間を毛嫌いしていると思うておりましたが」
「我々にもいろんな連中が居てな。長く生きる者は当然、迫害された事実を忘れてはいない。だが、知らぬ者とて生まれているのだよ」
亜人連合国だけでは狭い世界だから、これを機に外に出ても良いのではと考えている者もいると代表さまが口にする。
「良い事ではありませんか。我々人間にもいろいろな者が居りましょう。全ての者と友好を結べることはないでしょうが、強い御仁が多いと聞いております」
我々冒険者は歓迎いたしますよ――とベテラン冒険者さん。周りに居る他の冒険者さんたちもうんうんと頷いていた。
「そうか。受け入れられると良いのだがな」
外に出て見識を広めたい亜人の人も居ると聞いている。閉じ籠っているだけでは、それが出来ない。世界は広く、可能性は無限大。多分、外に出られる足掛かりを代表さまはずっと探していたのだろう。こんなことで機会を得るだなんて考えていなかっただろうけれど。
ある意味で、ご意見番さまの導きだったのかもなあと、アクロアイトさまを見る。ちなみに今は私の膝上でも腕の中でもなく、噴水の中へと飛び込んで水浴びをしていた。
「――畜生。いつまで続ける気なんだ……」
いちいち叫んでいる所為か声が枯れている銀髪くん。面白半分で参加している人も居れば、何度も列に並んでいる人も居て説教大会は終わりを見せる気配がない。
「まだまだ続けるぞ。代表殿も認めてくれているから、手前ぇが罪を認識するまでな」
銀髪くんの前に仁王立ちしている年若い冒険者が鼻を鳴らして告げる。若干怯むも、気丈にも舌打ちを鳴らしたので、まだ折れては居ない様子。
「しぶといわね」
「鈍くないとあんなこと出来ないよ~」
然り。もしくは只の考えなしだけど。仁王立ちしていた冒険者くんが、銀髪くんの前にしゃがみ込んで説教を始めた。不服そうな顔をありありと浮かべているので、ありありとため息を吐く冒険者くん。そして剣の柄を握って鞘を佩いたまま、ぺちぺちと銀髪くんの肩を叩く。
「痛ぇな! 何しやがんだっ! クソがっ!」
「ほら、手前ぇがそうやって喰い付くから。学ばねえなあ。まあ、だからこそこうなってるんだろうが……馬鹿だよなあ、本当に」
訥々と冒険者の心得を説いていた人とは違うタイプのようで、駄目な所を挙げてる冒険者くん。
「俺もさ、手前ぇみてえな時期があった訳よ。なんかさあ、世間は俺を理解しねえ馬鹿ばかりで、どうしようもなくイラついて。周りに当たってよ」
目を細めて自嘲交じりの声で冒険者くんが語り始める。
「なんつーの上手く言えねけど、若い時ってそういうこともあるよなあ」
「だったら俺を解放しろよっ! 分かるだろうっ!? 俺は俺自身の為に生きてんだよっ! 他なんざ知ったこっちゃねえっ!!」
はあと深いため息を吐いて、べちんと剣の鞘で銀髪くん左頬を叩く冒険者くん。痛かったのか銀髪くんが、よろけて地面に倒れる前にどうにか堪えた。他なんて知らないと言い放つと、周囲の空気が見事に凍った。その考えの所為で、迷惑を被っているのにと。
「それとこれとは別だっつーの。お前さあ、この状況で解放されると本気で思ってんの? 許されると思う? 逃げられると思う? 良く周りを見て状況を把握してみろよ」
仮にもAランクチームのリーダー張ってたなら、この広場は強者揃いだって分かんだろ、と冒険者くん。
「速攻で捕まえられるのがオチだろうよ。――馬鹿は馬鹿でもさあ、救える馬鹿と救えねえ馬鹿が居る。お前、本当に救えねえよ。笑えねえ」
「笑えねえ、だと!」
おや、冒険者くんの言葉に一番喰い付いたかも。
「ああ、笑えないな」
「俺をこんな所に連れてきて晒して笑いものにしてんじゃねーか! 玩具にしてんだろうがよっ! 俺を!!」
自身が置かれている状況を一応は理解している銀髪くん。晒しているし玩具にして笑いものにしているのも事実。
「あ、それは分かってんのな。良かったよ、多少は考えられる頭を持ってて」
「ああっ!? 俺を馬鹿にすんなよっ!」
「お前も他人を馬鹿にしてるだろうが。調子こいてどうしようもねえ失態犯して、首が回らねえ状態なのにコレだからなあ」
肩を竦めて両手を広げて、顔を左右に振る冒険者くん。周りの人たちも冒険者くんの言葉に頷いている。
「手前っ!!」
「一丁前に怒ってるなあ。まあ、口だけだがな。本当の強え奴は、鎖を引きちぎって俺の喉元を嚙み切るくらいの気概は持ってるぞ。それが出来んってこたあ、やっぱお前は弱いんだよ」
「クソぉお!!」
鎖で縛られているのに、無理矢理に体を伸ばして冒険者くんの喉元に嚙みつこうとして、空振りに終わる。
「っと! おお、怖い怖い。やりゃあ出来んじゃねーの。まあ俺的にゃあ女子供に手え出した時点で許せんがなあ。つーか、それ以前に下品過ぎ。まともに口説き文句一つ言えねえんじゃあモテねえぞ」
どうやらアルバトロス王国が冒険者くんが国内でやらかしたことを書面にして、冒険者の方々に懇切丁寧に教えたようだ。お貴族さまのご令嬢に、あり得ない言葉を投げていたことが知れ渡っていた。
「顔は良いのに中身が残念過ぎるよなあ、お前。あぁ、そうそう――」
公共の場ではちょいと憚られることを語り始める冒険者くん。声量を落としているけれど風に乗って内容が聞こえてきた。
どうやら銀髪くんがご贔屓にしていた娼館の女性陣からは不評だったらしい。下手、乱暴、小さい、早い、早い、とかいろいろと文句の数々が。あと銀髪くんにすり寄っていた女性からも不評だった模様。冒険者くん、情報網が広いな。
ここ一番で銀髪くんの表情が暗くなっている。どうやら自信があったらしい。
向こうもプロなので感付かせなかったのだろう。お仕事でお給金が発生しているなら、頂いた対価はきちんと払わねばならないから。サービスが不足すると、いちゃもんつけられそうだし。
「あー……若者らしいというか、なんというか……」
「……伽事情はな」
ベテラン冒険者さんと代表さまの間に何とも言えない空気が流れるのだった。
◇
夜も遅いので解散しようとなった。
銀髪くんは、あと数日ギルド本部の広場に放置されたままだそうだ。ご飯は一応与えてくれるみたい。鎖に繋がれているので、犬食いするしかなさそうだけれど。
で、銀髪くんは大陸各国を回って晒し者か市中引き廻しの刑に。ついでに彼の罪状もご丁寧に広めるそうで。自分を省みることが出来ないので、それくらいの事をしなければ事態を分からないだろうと代表さま。各国の転移魔術陣を使うとのことなのでⅤⅠP扱いだ。
「反省できるかな……?」
結末は変わらないとはいえ、反省しているのと反省していないのじゃあ違うしなあと、私の後ろを歩くジークとリンに声を掛ける。
「無理だろう。根本的な異常者だ、アレは」
手厳しく言い放つジーク。
「無理。あり得ない」
リンさん、言い切っちゃったよ。
ギルド本部の人の案内で廊下を歩くこと暫く。本部でアルバトロス王国勢が借りている部屋へと戻る。亜人連合国の人たちは、自分の国へ帰ると言ってそそくさと戻って行った。
銀髪くんを放置しておいて大丈夫なのだろうかと疑問が湧くけれど、逃げられないだろう。冒険者の人たちが自主的に監視に就いてくれるそうだし、亜人連合国の護衛の方も何名か残って監視業務に当たる。
「すみません、お待たせいたしました」
立ち番をしている近衛騎士の人に声を掛け、入室許可を得てから部屋へと入ると、何故だか皆さん疲れて顔を浮かべてた。
「ああ、戻ってきたな」
机の上には結構な数の書状が置かれており、それと格闘していたようだ。政治に関してなら私は関係ないと、とりあえず頭を下げて顔を上げる。そうすると陛下が手招きをして、下座にあった一人掛けの椅子へ座れと指示された。国へ帰らないのかなと疑問を浮かべていると、陛下が私の方を見る。
「これは君に届いた婚約打診の書状だ。各国からな……以前にも届いていたが、まだ諦めていないらしい。下位の貴族から王族まで様々だぞ」
「え?」
なんでそんなものが私の下へ舞い込むのだろう。――ああ、でも少し前に公爵さまが釣書が国内外から届いてるって豪快に笑っていた。まだ届いていることに驚きだけれども。
「我々の都合で悪いが、国外からの婚約関係は全て蹴るぞ。時折、治癒依頼の書状もあるから一応は目を通さんとな」
ぐにぐにと眉間を手で握って解す陛下。宰相補佐さまと外務卿さまも疲れた様子を見せている。公式な場ではない所為か、普段よりも砕けた口調だし雰囲気も軽い。
「私が見ても問題はないのでしょうか……?」
機密とかないよねと心配になってくる。
「聖女である君宛てだ。問題あるまい」
「ええ。貴女さま宛てなので問題はありませんなあ。ただ数が多くて大変です。持ち帰って精査しなければなりませんし」
おそらく得た情報から国外のお貴族さま情報を集めるつもりなのだろう。情報って大事だから、こういう小さい所からでも抽出して国外事情を把握するのは当然だ。陛下の言葉の後に続いた宰相補佐さまは苦笑いを浮かべつつ、仕事は増えたと言っている。
「外回りで聖女さまにと書状を沢山頂きました。その代わりと言っては何ですが、アルバトロス王国が益を得られたのですから、文句は言えんでしょう」
疲れてはいるけれど、何故だか嬉しそうな外務卿さま。外交がお仕事なので、自国が有利になるのならば嬉しいようだ。そのかわり書状の中身を確認しなきゃならないようで、大変そうだが。
「ああ、そうだな外務卿」
「有難いことですな」
陛下と宰相補佐さまも苦笑を浮かべ、書状に視線を落としている。見ても良いという事だったので、私に一番近い書状に手を伸ばして文字を目で追う。その方の経歴がつらつらと書かれており、もう一枚は姿絵だった。
年齢:五十二歳
爵位:伯爵位
趣味:狩猟・乗馬・読書
年齢以外は普通だし、年齢相応の姿絵。美中年と言ったところ。とある国の伯爵さまで領地貴族。領地運営も順調のようで、そこらに居るお貴族さまである。
一言:私の十六番目の奥さんになって頂きませんか?
「……十六番目」
十六番目って。五十二歳で十六人の奥さんを抱えてるのか。元気だなあと遠い目になる。まあ、国毎の風習で普通なのかもしれないし、偏見はよくないか。
「捨て置け。本気ではなかろう。そもそも我が国の聖女に手を出そうとしていることが愚かだぞ」
「聖女さま、そのお馬鹿な書状を頂けますか?」
「はい」
陛下が深いため息を吐き、宰相補佐さまがにこやかに笑って書状を渡すように促す。必要ない物なので素直に補佐さまへ渡すと『小物に分類しておきましょうね』と、楽しそうに笑っている。注目すべき所も特段なく、気にしなくても良い存在と判断されたようだ。
「こちらは治癒依頼ですね。――薄毛を治して欲しい……気持ちは理解できますがねえ。子爵さまですか、ふむ」
外務卿さまがポイと書状を投げ込んだ先は『小物以下』と書かれた箱に。この部屋での出来事は、部屋を出た後で見なかったことにしようと決意する。小物に分類されている箱があるということは大物があるのではと、他の箱を見てみる。一応、あったけれど今の所中身は空で、ほっと一息。
怖くて次が見れないなあと目を細めると、宰相補佐さまが一枚の書状を私の目の前へ置いた。
「えと……」
「目を通して頂きたい相手ですな。受ける受けないは全く別の話となりますが」
ようするに話があったということだけは、知っておいて欲しいということだろう。仕方ないので書状に手を伸ばし、文字を読む。この印はヴァンディリア王国の刻印だ。アルバトロス王国の隣国であり友好国。大会議室でやり取りも、裏で手を回していたみたいだし、無視はできないということだろうか。
年齢:十五歳
爵位:ヴァンディリア王国第四王子
趣味:読書・舞台、音楽鑑賞
「王族の方……」
「まだ居るぞ。我が国より格下だが、嫁でも婿でも好きな方で構わんとな。遠慮なく蹴るが……王女の嫁ぎ先は国内だな、碌な事になりそうもない」
はあと深いため息を吐く陛下。アルバトロス王国には第一王子殿下、王族籍から外れた元第二王子殿下に第三王子殿下。
第一王子殿下は学院の三年生なので、十七歳。卒業と同時に十八歳となり立太子と婚姻が同時に成される。第二王子殿下は以下略。第三王子殿下が確か今は正室腹の十歳だったはずだ。そして王族最年少の王女殿下が七歳だったか。一度もご尊顔を拝見したことはないが、王妃さま似と噂である。
「王女殿下を使って聖女殿へ話を通そうとするでしょうから。――しかし陛下、お決めになられるので?」
「可愛い盛りで意味も分かっておらぬだろうが、そろそろ腹を括らねばな。父としても王としても」
また深いため息を吐く陛下。男親は女の子供は可愛くて仕方ないと良く聞くので、陛下も親として嫁になんて出したくはないのだろう。だが一国を背負う国王さまだ。そういう訳にもいかない。政治の道具だし、国益となるなら決断しなければ。
しかし、こんなことを私が耳にしても良いのだろうか……。
「!」
嫌な予感。これは内情を耳に入れさせてお前は国の中枢部に居るのだぞという、陛下たちからの無言の教育なのだろうか。広場から戻って来るんじゃなかった……と頭を抱え、ヴァンディリア王国第四王子さまの釣書に視線を落とす。
一言:貴女さまに一目お会いしたい。
そう書かれた文字が目に入るのだった。