魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0087:離宮の日常。

 

 予定をすべて消化して冒険者ギルド本部がある国から帰国した。転移魔術陣を使用しての移動だったので、直ぐに戻ってこれたのだから本当に便利である。お疲れ様でしたと同行していた皆さんに頭を下げ、離宮の主室へ戻ってきた所だ。

 

 「ジークとリンもお疲れさま」

 

 「ああ。お前もな」

 

 「うん。お疲れさま」

 

 既に夜遅くアクロアイトさまはすぴすぴ寝息を立てながらベッドの上だ。ジークとリンも疲れただろうし、私も今日はもう寝たい。

 

 「どうぞ」

 

 ノックの音が鳴り響いたので入室を促すと、ソフィーアさまとセレスティアさまだった。二人の姿を見て、ジークとリンが頭を下げる。

 

 「お二人共、もう帰られたのかと」

 

 もう遅いので王都の公爵邸と辺境伯邸に帰っているとばかりに。

 

 「待っていたんだよ。一応はお前付きの侍女だからな」

 

 「ええ。今日中には戻ると聞いていましたし」

 

 労働基準法とかどうなっているのか気になる所だけれど、それを言い始めるとジークとリンはブラック勤めとなるし、私も長時間労働でブラックである。

 考えないでおこう。お給金はかなり良いはずだし、教会に預けているお金はそれなりにある。国からの討伐同行依頼の報酬に、治癒依頼の報酬。学院に通い始めたので、実入りは減っているけれど、三年くらいは余裕で生活できる額があるはず。

 

「どうだったんだ?」

 

 「私は冒険者ギルドの運用改定の場に同席させて頂いただけなので、座っていただけですね」

 

 突っかかってくる国の人も居たけれど、陛下や代表さまにヴァンディリア王が軽くあしらっていた。

 

 「ああ、あの国か」

 

 「確か、亜人嫌いとアルバトロス周辺国を目の敵にしている国ですわね」

 

 どうやら元々、アルバトロス王国にとって問題のある国らしい。立地的に攻めてくる事はないけれど、外交の場ではいつもマウントを取ってくる国だそう。

 お貴族さまの腐敗が進んでおり、そろそろ国民が切れて蜂起しそうなんだとか。対岸の火事ではあるが我々も気を付けないとな、とソフィーアさまが言い、横で聞いているセレスティアさまも同意していた。

 

 「で、あの下品な方は?」

 

 扇子をばっと広げて口元を隠すセレスティアさま。小物だけれど彼女に弓引いた本人だし、処分が気になるのだろう。

 

 「あー……」

 

 うーん。心を折る為に同業者の方々による説教大会が開かれた訳だけど、折れた理由がソレかいって突っ込みを入れたくなる感じだったしなあ。聞いても気分がいい話じゃないだろうし、どう伝えたものか。アルバトロス王国の近衛騎士もあの場に居たから、申請すれば状況を知ることは出来るけど……。

 

 「どうした?」

 

 言い淀んだのでソフィーアさまが軽く首を傾げる。

 

 「今言わなくても、報告書で知ることになりますよね?」

 

 「遅かれ早かれ、そうなるな」

 

 「あまり良い話ではありませんよ……」

 

 お貴族さま、しかも高位のご令嬢の耳に入れて良い話なのだろうか。肝心な所は、暈して話せば良いか。

 

 「構いませんわ。報告書よりも現場を目にしてきたナイの言葉で知りたいのです」

 

 セレスティアさまの言葉にそれじゃあ遠慮なくと口を開く。案の定、亜人連合国で過ごした間も反省なんてする気配はなく、ギルド本部の広場でも凝りていないようで常に喧嘩腰。

 まだ若そうな冒険者くんにより、銀髪くんが知りたくなかったであろう事実が発覚して、ようやく心が折れた。どうやらその手のことには自信があったようで。独りよがりな思い込みだったけれども。

 

 「……あー……」

 

 「反省の気配はないでしょうし、折れただけでも良しとしましょう」

 

 ソフィーアさまが何とも言えない表情と声をだし、セレスティアさまは扇子を広げ口元を隠したまま目を細める。銀髪くんはあと数日ギルド本部の広場で放置され、その後も晒し刑の為に大陸各国を転々とする予定。

 アルバトロス王国にも来る予定だったが、陛下が結構だと断っていた。まあ警備とか大変だし、もう関わりたくはないよねえ。最後は亜人連合国に引き渡されて、向こうで正式に処分が決定されるそうな。

 

 「一度くらいぶん殴れると良かったのですが」

 

 彼女が相手にする価値もないと思うけれど、気が収まらないようだ。

 

 「セレスティア、言葉が乱れているぞ」

 

 「あら、失礼」

 

 「明日も明日で予定がある。――就寝前に邪魔をしてすまないな」

 

 明日は報告会が開かれて、冒険者ギルドがどうなるのか皆で話し合うそうだ。私も同席命令が下ってる。アルバトロス王国冒険者ギルド支部支部長も召喚されると聞いているので、王都にあるギルド支部がどうなるのやら。

 

 「戻りましょうか。皆さま、おやすみなさいませ」

 

 セレスティアさまがソフィーアさまへ声を掛けて礼を執ると、ジークとリンに私も彼女たちへ礼を返した。

 

 「はい、お疲れさまでした。おやすみなさい」

 

 部屋から出ていく彼女たちの背を見送って、ジークとリンにも視線を向ける。

 

 「今日はもう寝よう」

 

 冒険者の人たちと話すのは面白かったけれど、どうにも大会議室のようなお偉いさん方が集まる場は苦手。

 陰謀渦巻いているああいう場の空気に慣れることはないだろう。そもそも私はこの国の聖女だから、今回の銀髪くんが起こした所業に巻き込まれただけである。本当なら、大規模討伐遠征なんて組まれなかっただろうし、亜人連合国と関わることもなかった。

 

 あ、やっぱり諸悪の根源は……全て悪いのは銀髪くんじゃないか。なんてことをしてくれたんだろう。私も一発くらい殴っておいても、誰も文句は言わなかったのではと頭の片隅で考える。

 

 「どうした?」

 

 「ん? んー……あの銀髪の人の所為で盛大に巻き込まれたなあって」

 

 本当に怒涛の展開だったから。一生に一度使うか使わないかの儀式魔術を行う羽目になったし、亜人連合国に特使として派遣され。竜の背中に乗って大陸横断。果てはギルド本部まで殴り込みに一緒に連れていかれるし。

 

 「確かにアレが欲をかいてなければ、こんなことにはならんな」

 

 ジーク、銀髪くんのことをアレ呼ばわりだ。

 

 「一発くらいビンタかぐーで殴っても誰にも咎められないよね」

 

 「まあな。だがお前がアレを殴ったところでなあ」

 

 私がソレを実行した所で威力は知れてる。普通の女性と変わりないから。魔力の放出は得意だけれど、身体強化系はからっきしなので、威力の上乗せは期待できないし。身体がちっこいので、そこからして弱々だからなあ。

 

 「じゃあ、兄さんか私がナイの代わりに殴ってあげる。その時は教えてね。全力で殴るから」

 

 「……リン、お前は手加減しろよ。殺しかねん」

 

 「む。兄さんは、手加減するの?」

 

 ジークに釘を刺されリンが妙な表情に変わる。

 

 「いや、遠慮なく殴らせてもらう。お前は時折過剰に威力を込めるから、見ていてハラハラするんだよ」

 

 確かに。リンは周囲にあまり興味を見せないけれど、身内の事で揉め事となると、見境なく手をだそうとする。以前より突っかかってくる人が減ったのでマシにはなっているけれど。

 

 「だって、みんなナイの事を馬鹿にするんだよ。チビとか餓鬼とか……」

 

 「リン、私は言われても平気。それよりもくだらない人に手を出して怒られるリンを見たくないから、十分気を付けてね」

 

 うー……と唸っているリンの頬に右手を添えると目を細める。言われて傷つくこともあるけれど、リンが怒って手を出す方が問題だ。隣にジークが居れば物理的に止められるけれど、私の力じゃ止められないから。

 

 「うん。――……ナイ、沢山我慢しているから心配だ」

 

 「っと。――大丈夫。リンとジークとみんなが居れば平気だから」

 

 リンの両腕が腰に回って抱きしめられる。どんなことでも耐えてみせますとも。時折、折れて毒を吐くけれど。ジークとリンだって我慢していることはあるはずだ。生活環境がこの数週間で随分と変わっているのだし。

 

 「それじゃあ今度こそ、おやすみなさい」

 

 「ああ、おやすみ。ゆっくり休め」

 

 「おやすみなさい。また明日ね、ナイ」

 

 暫くして、それぞれの部屋に戻ってベッドの中へと潜り込むのだった。

 

 ◇

 

 報告会議やら報告書作成に追われること数日。ようやく日常が戻ってきたけれど、離宮に滞在しているから落ち着かないのは相変わらず。護衛の近衛騎士さんに私付きの侍女さんたちと少しは打ち解けてきたとは思うけれど、結局は主従関係なので一線は引かれているし。

 

 「はい」

 

 亜人連合国から届いた果物をアクロアイトさまの口へと放り込む。投げたのは切った林檎。くわっと口を開けて上手にキャッチし、何度か咀嚼して呑み込んだ。自ら食べるという選択肢はないようで、私が渡さないと食べないという我儘っぷり。

 

 「ほい」

 

 また切った林檎を投げてパク。まだ欲しいのか口を開けてアピールしているので、投げる。

 

 「太らないのかな……」

 

 要らないなら食べなくなるので、あげなければいいという随分とアバウトなアドバイスを代表さまから頂いている。

 あと人間の食事には興味を示さないので不思議だ。犬や猫ならクレクレと目を輝かせて訴えてくるけれど、竜であるアクロアイトさまはそういう主張はなかった。魔力が主食と聞いているし、果物は嗜好品的な位置づけなのだろうか。

 

 「どうなのだろうな?」

 

 「太っても、それはそれでお可愛らしいのでは?」

 

 卵から孵った時よりは大きくなっているけれど、太って飛べなくなるとか悲しいので気を付けないと。セレスティアさまが言うように、太っても可愛いとは思う。ただ、太らすことは簡単だけれど、ダイエットさせるのは大変だろうしなあ。外に中々出せないし、大空を自由に飛べることも出来ないし。

 

 「大きくなるのはいいけれど、太っちゃ駄目だよ」

 

 私の声に一鳴きするアクロアイトさま。羽を広げ飛ぶと私の肩に乗って、顔を擦り付けてくる。

 

 「触れさせてはくれますが、そうして顔を擦り付けるのはナイだけですわね」

 

 「だな。懐いている証拠だろう」

 

 微妙な顔をしているセレスティアさまに、そんな彼女を呆れた顔で見ているソフィーアさま。学院の入学当初では全く考えられない状況だ。高位貴族のご令嬢さまが私のお付きの侍女役だなんて。どうしてこうなったと頭を抱えたくなるけれど、順を追って考えると私がやらかしているからで。

 

 そして明日はとうとう爵位の授与式がある。

 

 「爵位なんて要らないのですが……」

 

 本当に。聖女の称号だけで十分なのだけれども。今日の午前中に慣例として使者の人が離宮の主室に訪れて、つらつらと書状を読み上げてくれてた。で、なんでか公爵さまも一緒に使者の方と訪れていたのだ。にやにやと面白そうな顔をしていたので、この状況を楽しんでいるようだった。

 教会の人も居たけれど、公爵さまとは逆で渋面だった。私が国側へ食い込んでいっていることを、良く思っていないのだろう。それならば助けて欲しいけれど、国から何か言われているか助けられないのか。

 

「そういう訳にもいかんだろう」

 

 確かに国には貢献している。王国の障壁を張る為の魔術陣への魔力補填に、討伐依頼が出れば教会を経由して同行して治癒にバフ掛けに障壁展開したり。銀髪くんがやらかした所為で亜人連合国へ赴いて、話の方向が妙になったからアルバトロス王国に丸投げしたし。

 

 「ええ。それにこのままだと離宮住まいから解放されませんわよ」

 

 貴女の性格ならばここに住むよりもお屋敷の方がまだ落ち着くのではと、セレスティアさまが。確かに王城の離宮よりもまだ貴族街のお屋敷に住んだ方がマシだけど。

 それでも警備は厳重だろうし、屋敷を維持管理する人たちや侍女も雇って世話をしなければならない。面倒ごとが増えるだけだろう。面倒ごと回避の為に、代理人を立てることも出来るけれど。

 

 侍女さんやお屋敷維持の為の人材は、法衣貴族なのでそのお給料から捻出すればいいけれど、お貴族さまとして国に貢献しなきゃならないんだけれど……。

 その辺りはどうなるんだろうか。今回、亜人連合国との繋がりが出来たことでチャラになっていれば、気が楽だけれども。うーん、うーんと考える。

 

 「何を考えている?」

 

 「いえ、貴族になるなら国に貢献しないと駄目ですよね?」

 

 聖女を引退して頂く男爵位とかなら喜んで貰うけれど、私は現役の聖女である。ということは聖女として働きつつ、貴族として振舞わなきゃいけないような。

 

 「それは勿論だな」

 

 「私が国に貢献出来ることってなんだろうって考えていました」

 

 ソフィーアさまに問いかけられたので、正直に話す。ソフィーアさまとセレスティアさまならば多少は妙な事を言ってしまっても問題ないはず。

 

 「は?」

 

 「何故、そうなるのですか……」

 

 短く声を上げたソフィーアさまに、呆れた顔を私に向けるセレスティアさま。

 

 「え?」

 

 首を傾げるとソフィーアさまに両肩を掴まれて『いいか、よく聞いておけ』と真剣な顔を向けて、言葉を続けた。

 

 「お前が賜るのは法衣だぞ。王城に勤めていれば役職手当が付くが、年金とはまた別の話だ」

 

 領地貴族の話まで持ち出すと面倒になるから割愛する、とソフィーアさま。

 

 「気楽に受け取っておけば良いのです。貴女はそれを受けるに十分な働きをしたのですから」

 

 貴族になれば面倒ごとも増えるかもしれないが、後ろ盾として公爵家と辺境伯家が付いている。妙な輩に絡まれればチクれば良いのですと、セレスティアさまが。でもなあ、それなりの爵位を貰う筈だし、良いのかなあと考えてしまう訳で。

 

 「それとも何か、まだ国に貢献するつもりなのか!?」

 

 「流石にもう無理かと……」

 

 ジト目でソフィーアさまが私を見るけれど、これ以上何かを成してみろと言われても無理である。何も思いつかないし。

 

 「何故そんな考えになったんだ、お前は……」

 

 「障壁の魔力補填は国からお金が支給されていますし、なんだか二重取りのような気がして。あと貴族として振舞えるのかなあとか、いろいろと考えていたら……」

 

 これからも魔力補填を行うだろうし。教会からも治癒依頼とか治療院を開設すれば呼ばれるだろうから。

 

 「阿呆。それとこれとは別の話だ。切り分けろ」

 

 「ソフィーアさん。時間を掛けて教え込むしかありませんわ」

 

 「だな。気が重いが……」

 

 「ええ。……キチンと理解してくださる日が来るのかしら」

 

 何気に酷い言われようだよねと目を細めて、切り分けた林檎をアクロアイトさまの口の中へ放り込むのだった。




 【お知らせ】もう少ししたら、作品タイトルを改めるかもしれません。
       ・魔力量歴代最強な転生聖女さま くらいに。

       ↑突っ込みが入ったので補足。『最強』は故意に選んでおります。
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