魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0088:叙爵。

 ――ナイ・ミナーヴァ子爵

 

 ついに爵位を賜ってしまった。一代限りのものだが、お貴族さまとして品位とか格とかいろいろと求められそうで面倒臭そう。お茶会とか夜会とか行かなきゃならないのかと頭を抱えていたけれど、デビュタントを済ませていないから、このまま誰も気付かずに居て欲しい。

 

 アルバトロス王国のお偉いさん方に教会関係者や公爵さまと辺境伯さま、ジークとリン、ソフィーアさまとセレスティアさまたちが見守る中、王城の謁見場で陛下が剣を私の肩へ置き宣誓。案外あっさり終わるのだなというのが、正直な所だった。

 

 家名は陛下が一生懸命考えてくれたそうな。亜人連合国との関係を私が結んだ為なのか、下手な名前を付けられないから随分悩んでいたと、公爵さまが教えてくれたのだ。

 お貴族さまになったとはいえ、聖女以外の役職を頂いた訳ではないので現状通り。学院の二学期が始まれば、また学校通いが始まる。離宮生活は今しばらく続くけれど、貴族街の一角にある邸を頂く予定なのでそちらから通学するはずだ。

 

 「終わった」

 

 ふいーと息を吐く。離宮の主室へ戻ってベッドにダイブすると、ソフィーアさまにすんごい目で見られた。

 仕方なく起き上がり侍女さんたちの介添えで聖女の衣装を脱ぐ。着替えを終えるとアクロアイトさまが、私の下へ飛んできたのでキャッチする。顔を私の肩に撫で付けて目を細め、納得したのかキョロキョロと首を動かし、今度はリンの下へと飛んでいく。

 

 「……自由だなあ」

 

 羨ましいような、羨ましくないような。リンの腕の中に居るのが飽きたのか、今度はジークの肩の上に乗って足踏みをしている。

 何をやっているんだかと視線を外して丸テーブルへ移すと、ギルド本部で集まっていた釣書の一部が置いてある。話が来ていたことだけは覚えておいて欲しいと渡されたもの。ヴァンディリア王国第四王子殿下を始めとした、私と同じ年齢の王族のみなさま。

  

 アルバトロス王国から出られないというのに、何で一介の聖女をそんなに欲しがるのか。

 

 「顔立ち綺麗」

 

 釣書の一枚を取って中を見る。王族の方らしく、見目は凄く整っている。写真でなく絵なので実際の所は分からないが、写実が上手ければ相違はないはず。

 

 「そういう奴がいいのか?」

 

 ジークがアクロアイトさまを肩に乗せたまま、問いかけてくる。爵位を賜ったとはいえ、プライベートな時間や場所で、ジークとリンに敬語で話されたら私は泣くぞと二人に伝えてある。片眉を上げながら笑って『わかっているさ』『いつも通り』と言ってくれたのだ。

 

 「え、どうだろう。顔は綺麗だけれど、性格とか全然わからないしね」

 

 うん。顔は良いし、お金はあるだろうけれど、釣書で分かることは書かれた文字の情報だけだから。婚約や婚姻を結べと言われても、困るだけだ。

 

 「ジークは、もし女の子に生まれてたらこういう人はどう思うの?」

 

 「は」

 

 こんな話を振られると思っていなかったのか、短く声を漏らして怪訝な顔をするジーク。特に理由もなく聞いてみたけれど、ジークが返答に困ってる。

 

 「仮の話だよ。どんな人に興味が湧くのかなって」

 

 「俺に聞くな。――リンはどうなんだ?」

 

 「? 興味ないよ」

 

 ジークは矛先を逸らして妹であるリンに問うけれど、彼女は一刀両断。年頃の女の子なのだから、ちょっとくらい興味を持ってもいいんじゃないかしらと、釣書の姿絵を並べる。

 

 「この中でリンの好みは?」

 

 他国の王族の姿絵でこんなことをするなと言いたげに、ソフィーアさまとセレスティアさまが見ているけれど、見ているだけで何も言わない。

 

 「…………わかんない」

 

 並べた姿絵をじっと見て、暫く考えた末に出た言葉だった。十五歳にもなっていれば興味が少しくらいあっても良さそうだけれども。まだ何かしらを考えているようなリンに、これ以上突っ込むのも可哀そうか。 

 

 「リンに恋心が目覚めるのはまだ先かな」

 

 「みたいだな」

 

 ジークと私が、リンを見ながら苦笑いをすると首を傾げる彼女。どうやら三人とも色恋はまだまだ先みたい。アクロアイトさまがジークの肩の上で、何故か部屋の扉を見つめる。

 

 「――何だろう?」

 

 「外の雰囲気が変わったみたいだな……」

 

 リンとジークが扉を見つめる。私は何のことだろうと首を傾げていると、確かに主室の外が騒がしくなってきた。近衛騎士の声だろうか、随分と慌てているような雰囲気だ。離宮だし来客も減っていたから、ここ最近は平和そのものだったのだが。

 

 ばん、とノックも何もないまま開いた扉の前に立っていたのは、小さな女の子の姿があった。

 

 ◇

 

 勢いよく開いた扉。逆光でシルエットになっていた姿が徐々に見えるようになる。そこには仁王立ちした小さな女の子の姿が。王城に理由なく子供が居る訳がないし、身に纏っている服も上質なもので、おそらく王女殿下だろう。

 しかし何故この部屋にやって来たのかが分からない。取りあえず下手に行動できないから、様子見。問題があるのならばソフィーアさまかセレスティアさまが止めるだろう。ソフィーアさまは元第二王子殿下の婚約者さまだったので、知り合いだろうし。とはいえ着席したままは失礼にあたるので、ゆっくりと立ち上がる。

 

 「ライナルトお兄さま、いましたわ!!」

 

 「エルネスティーネ! ここに来てはいけないと父上が……!」

 

 王女殿下より少し遅れて、もう一人子供がやってくる。お兄さまということは第三王子殿下なのだろう。

 どことなく陛下に似ているし、王女殿下も王妃さまに似ている。妹を窘めるお兄ちゃんの図だけれど、妹が勢い良すぎて止められそうにない。微笑ましいなあと、自然に笑みが零れる。

 

 「失礼致しますわ! ここに竜が居ると聞いてきた――……ソフィーアお姉さま! セレスティアも!」

 

 部屋へと一歩踏み込んで、高らかに宣言をする途中で視線が動き顔がほころぶ。

 

 やはり王女殿下とソフィーアさまは知り合いのようだった。セレスティアさまも顔見知りの様子。元第二王子殿下の婚約者だから『お姉さま』と呼ばれていても不思議はない。

 遅れて殿下方の護衛役であろう、近衛騎士の人たちがバタバタとこちらへやって来ている。どうやら護衛の人を撒いてきたようだ。血相を変えてこちらへ来ると、立ち番の人となにやら話している。

 

 「ごきげんよう、エルネスティーネさま。お久しぶりです」

 

 「エルネスティーネさま、ごきげんよう」

 

 それぞれカーテシーで迎えて、第三王子殿下にも挨拶を交わしていた。第三王子殿下はこの状況が理解できているようで、お二人に『妹がすまない』と謝っている。歳は十歳と聞いているから、随分と確りしている少年だった。

 

 「ソフィーアお姉さま、こちらに竜がいると噂で耳にして確認の為に来たのですが、あの騎士の肩に乗っている仔が竜なのですか!?」

 

 背の高いジークを見上げ、テンション高めにソフィーアさまに問いかける王女殿下。ソフィーアさまはどうしたものかと、少々困り気味。

 アクロアイトさまは人を選ぶので、王女殿下を受け入れてくれるのか心配なのだろう。殿下が手を伸ばして噛んでしまい怪我を負っても問題となる。とはいえ、心のどこかでアクロアイトさまが誰かを噛む訳がないと、確信めいたものを抱いているけれど。

 

 「エルネスティーネ、父上からここに来ては駄目だと言われているだろう。今ならまだ見逃して貰える、部屋へ戻ろう」

 

 「嫌ですわ、お兄さま! 今日の予定を全て終わらせて、ようやくここまで辿り着いたのです! 戻ってしまえばまたいつ来られるか分かりませんもの!」

 

 この絶好の機会は逃せませんと拳を握って胸のあたりに掲げる王女殿下。

 

 「ナイ、すまないが暫くこのままでも構わないか?」

 

 殿下方で兄妹と話している間にソフィーアさまがこちらへ静かにやって来て耳打ちされた。どうやら無下に追い払う訳にもいかず、このまま暫くこの部屋で過ごすようだ。護衛の騎士の人たちも対応に困っているようだけれど、遅れて追いついて来たのならば、陛下たちには連絡が入っているのだろう。

 

 「それは勿論ですが、殿下方は大丈夫でしょうか?」

 

 「立ち入り制限されている場所だから、お叱りは受けるだろうな」

 

 陛下か王妃殿下かどちらか分からんが、とソフィーアさま。叱られるくらいならば良いだろう。まだ成人前の子供だし、そう問題にはならないはずと判断して『分かりました』とソフィーアさまに返す。

 というかこの離宮立ち入り制限されていたのか。厳重だなあとアクロアイトさまを見ると、いまだジークの肩の上に乗ったまま軽く首を傾げていた。

 

 「わあ! 可愛いっ!!」

 

 とびきりの笑みを浮かべてジークの下へ早足で歩いて行く王女殿下。

 

 「あ、エルネスティーネ!」

 

 走ったりしないのは、教育の賜物か。第三王子殿下が王女殿下を止めようと、手を伸ばしたけれど間に合わず空を切る。どうするんだという視線を私へ向けるジークに、大丈夫だから取りあえず視線を合わせてあげて欲しいと頷いて返すと、ジークが片膝を突いてしゃがみ込む。

 

 「……」

 

 ジークとの距離はあと少し。早足からゆっくりと歩を進めてアクロアイトさまへ近づこうとする王女殿下。あと約二歩でアクロアイトさまに触れられるという所で、ジークの肩から飛び立って私の腕の中へとやって来る。

 

 あちゃあと頭を抱えそうになるのを抑え、とりあえずはアクロアイトさまを抱きとめる。逃げられてしまったことに、泣いてしまうかなあと王女殿下を見ると何故かほけーと突っ立ったまま。

 何だろうこの状況と周囲のみんなが見守っていると、どんどん王女殿下の様子が変わってくる。何故かジークの前で立ち止まりもじもじしているので、彼も王女殿下の前で下手な態度は取れずしゃがみ込んだまま。そうして意を決したように、顔を上げた王女殿下。

 

 「貴方……わたくしのモノになりなさいっ!!」

 

 ジークに向かって問題発言をぶっ放した。

 

 「!?」

 

 反応は人それぞれ。言われた本人は想像の域をはるかに超えていたようで、目が点になっている。リンは頭の上に疑問符を浮かべて状況をいまいち出来ていない様子。ソフィーアさまは顔が引きつっているし、セレスティアさまも同様。

 王女殿下と第三王子殿下付きの護衛の方々は『あちゃー』みたいな顔を浮かべ、離宮の私付きの侍女の人は微笑ましげに笑っているし。なんだか状況がカオスだし一体どうなってしまうのかと部屋を見渡すと、開いたままの扉に人の気配が。

 

 「エルネスティーネ、ライナルト。この場所は陛下から入ってはいけないと教えられていたはずですよ」

 

 この部屋へとやって来たのは王妃さまだった。濃紺色の髪を緩く纏め、真昼間だというのに薄いドレス。両腕を組んで大きな胸を主張させている。というか小さい子供の前でこんな姿と見せても良いものかと、考えてしまうくらいに色香がありすぎる人だった。

 

 「母上!」

 

 「お母さま!」

 

 ふうとため息を吐いて、緩く纏めた髪を手で軽く流す王妃さま。近衛騎士の若い人たちの顔が赤くなっている。

 王女殿下と第三王子殿下は慣れてしまっているのか、それとも子供故に気が付いていないのか、気にしてはいない様子。王妃さまへと顔を向け、少々バツの悪そうな顔を浮かべていた。

 

 「殿下」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが臣下の礼を執る。私も聖女としての礼を執ると、顔を上げなさいと告げられ。

 

 「さあ、戻りなさい。今ならば後でお説教だけに留めておきましょう」

 

 あ、結局お叱りはあるのだなあと、部屋から出ていく第三王子殿下と王女殿下の小さな背を見送る。彼ら付きの近衛騎士の方々も部屋から出ていく。ぱたりと主室の扉が閉まると王妃さまがくるりと身体の向きを変えて、私をじー……っと見つめること暫く。

 

 「――嗚呼、鼻血が出てしまいそう!」

 

 いや、出さないで。我慢して。そしてなんで何もしていないのに鼻血が出るのか。王族だからチョコレートでも沢山食べた後だろうか。いや、ピーナッツかもしれない。

 

 ふざけた台詞だというのに耳に心地いい声で言い放つし、顔も物凄く整った美人さんで三人の子供を産んだとは思えないスタイルで。いろいろと突っ込みを入れたいけれど立場上出来ない上に、なんで王妃殿下という立場の人がそんな台詞を吐くのか理解不能に陥る私だった。

 

 ぬっと伸びてきた手に反応が遅れ、視界が真っ暗になるまで時間は掛からなかった。

 

 

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