魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
王城のとある一室で慰労会と祝杯だと言われ、かなり規模の小さいパーティに参加。小さいパーティだという割には警備は厳重。取りあえず主催者である陛下へ挨拶を済ませ、壁際で控えているとお偉いさん方が私の下へとやってくる。
やたらと私を褒めてくれるけれど、出来れば以前の生活に戻して頂きたいとか言い放ちたいのを我慢しながら笑顔で対応。便宜を図るから頼りなさいと告げられたが、後が怖いよなあと訝しんでいた。だってみんなお貴族さまだし。
まあ、美味しい物にありつけたから問題ないけれど。
甘いものが沢山用意されていたので、機会を伺いながらパクパク食べてた。本当ならよろしくはないそうだが、今日は構わないと言われ。腹は壊すなよとソフィーアさまとセレスティアさまに忠告を受けつつ、ひょいパクひょいパクしてたら終わってた。
そうして数日後、貸与された屋敷に移り住んだ。
邸で働く方たちの選出は全て他人任せだったので、良いのかなあと遠い目になりつつ、新しいお家の窓から外を見る。
綺麗に手入れされた庭園の中で庭師さんが精を出している中、護衛の人がウロウロしている。騎士団や軍の人がメインで、公爵家と辺境伯家からも人員が派遣され、経費は王国持ち。何かあったら大変だから、とのこと。
自分のお金で雇っておきながら、詳しい事はイマイチ分からないとは一体……と思ってしまうが深く考えては駄目。
お貴族さまは椅子にふんぞり返って、余裕しゃくしゃくな顔を浮かべて指示を出していれば良い、らしい。なんだかそれって腐敗しているお貴族さまなのではと、疑問に感じつつ、こういうことに関しては全くの素人なので詳しい方に任せるのが吉。
あと子爵邸の東隣の屋敷には亜人連合国の方たちが、領事館的な位置づけで滞在している。
エルフのお姉さんズの手によって転移魔術陣―エルフ的には魔法陣かも―も設置され、彼らが外に出るには王国からの許可が必要だけれど、敷地内ならば自由に過ごせるそうだ。
アクロアイトさまのこともあるし、アルバトロス王国と亜人連合国との取引も始まっているので、こちらの国で拠点がある方が便利だそう。窓の外を見ていると、庭先から顔を覗かせた手を振るお姉さんズと代表さまには驚いたけれど、良いご近所付き合いが出来そう。
あと、副団長さまとエルフのお姉さんズの共同開発品だといってお屋敷には『防御魔術陣』が設置され、登録した人か通行証代りの魔術具を身に付けないと屋敷に入れない。例外が正門からの入場で、お客さん関連がちゃんと正門から入れば通れるようになっている。
そうしてまた数日、朝食を済ませ自分の部屋で学院の制服に着替える。学院なので制服の着替えだけは自分でさせて欲しいと願い出て。どうにか侍女さんから承諾を得た。
肩にアクロアイトさまを乗せて、部屋を出る。この一ケ月間で大分慣れたのか、言葉を理解して行動してくれる。無駄吠えならぬ無駄鳴きもないので、学院でも心配は必要なさそう。教室で迷惑を掛けるようなら、別室を用意してお留守番して頂く予定。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
「おはよう、ナイ」
ジークとリンも子爵邸で生活することになった。主室である私の部屋の直ぐ近くの部屋が彼らの場所である。
時間は示し合わせていないのに、部屋からひょっこりと出てきた二人に挨拶をして、階下へ降りる階段をゆっくりと降り。侍女さんや屋敷で雇っている人がお見送りの為に集まってくれていた。自分の仕事を優先させて欲しいと伝えていたのに、ほぼ全員が集まっていた。
ソフィーアさまとセレスティアさまが『専門ではないしきちんとした人を雇え』とのことだったので、私の財産管理人兼家宰さんが雇われている。
ケチで有名――血税なのだから無駄には出来ん――が口癖の財務卿さまからの推薦人だった。まだ若く将来有望株と言われていたのに、王城の仕事を辞めて我が子爵家に雇われることとなった。
「いってきます」
みんなに見送られつつ玄関先で馬車に乗り込む。一学期から変わった所はジークとリンが同席せず、帯剣して外で護衛に就いていること。
その上に数名の護衛の人も居るので、結構大袈裟というかなんというか。ここまで護衛を侍らしているのは、高位貴族、それもかなり限定された方。馬車の中には私とアクロアイトさまだけである。この道から学院を通るのは初めてなので、馬車の窓から外の景色を眺めてた。
膝上で大人しくしているのが飽きたのか、アクロアイトさまがぐしぐしと腕に頭を擦り付ける。
「もう少し我慢してね」
窓から視線を外し、頭を撫でると一鳴き。目を細めて撫でられるのを受け入れているアクロアイトさまには、のびのびと育って欲しい。離宮生活では殆ど外に出ることはなく、外に出る時も護衛付きだし庭園止まりだったもの。代表さまにお願いして里帰りして貰うのも手かもしれない。
「どうしたの?」
何故か制服の裾を噛むアクロアイトさまに、言葉を投げるけれど一鳴きするだけ。言葉が通じないのも困ったものだねえと、また頭を撫でる。目を細め、再び眠くなってきたのか膝の上に伏せて顎を乗せると、すぴすぴ鼻を鳴らし始めた。本当に自由だねえと苦笑いしながら、まだ頭を撫でていた。
暫く馬車に揺られていると、どうやら学院の馬車停へと辿り着いたようで、景色がゆっくりと窓から流れる。がたん、と揺れることなく止まる馬車。御者の人の腕が良いのだろう。ミナーヴァ子爵家で働きたいと申し出た人は多かったそうな。
新興貴族だし、当主が十五歳でしかも女だというのに、本当に物好きな人たちだ。一応、聖女の職に就いているからそれなりの評判はあったとは思う。あとは今回の件だろうけれど、雇った彼らが利益にありつくことは出来るのか……。
「ナイ、着いたぞ。降りよう」
「お願いします、ジーク」
ジークが馬車の扉から顔を覗かせて、手を出してエスコートしてくれる。リンが小声で『次は私』と言っていたので、今日の帰りか明日かはリンの番となるのだろう。膝上に乗っていたアクロアイトさまは、馬車が止まると直ぐに目を覚まして、何故か私の肩へ乗っていた。何度か顔を擦り付け、満足したのか大人しくしている。
「ありがとう。――うわあ……」
ジークにお礼を伝えて視線を学院内に向ける。
「ああ。――……凄いな」
「ね。凄い」
そこには人、人、人。人だかりである。ネクタイの色でどの学年の生徒か分かるようになっているけれど、色んな学年の人が交ざってる。この中を突き抜けなきゃいけないのかと、ちょっとゲンナリしているとアクロアイトさまが頬ずりしきた。頑張れとでも、言いたいのだろう。
「い、行きたくないけど、行こう。ジーク、リン」
「気持ちは分かる。行くか……」
「行こう。堂々としてればいい」
こういう時のリンは妙に自信満々だ。理由は良く分からないが、私の後ろにぴったりついている。
「子爵、おはようございます」
「おはようございます、子爵」
私を待っていたのかソフィーアさまとセレスティアさまがやって来た。そして何故か外行き用の言葉である。
「おはようございます。ソフィーアさま、セレスティアさま。――あの……学院なので普通にお願いします。違和感しかないというか、なんというか……」
彼女たちは公爵家と辺境伯家のご令嬢、私は子爵家当主――形ばかりだが……――だからという事だろうけれど、滅茶苦茶落ち着かない。
「わかった。だが、必要な時は変えるぞ」
「あまり性に合いませんわね。わたくしも必要な時だけ変えさせて頂きます」
離宮や子爵邸でもお願いしていたので、案外あっさりと受け入れられた。多分、野次馬している人たちへの牽制のような気がするけれど。
暫くして一歩を踏み出すと、もう進むしかない。私の少し後ろにソフィーアさまとセレスティアさま、ジークとリンが彼女らの少し後ろに控えて歩いてる。私の前にも護衛の人が歩いているので、本当に厳重。長期休暇前は辺境伯領への討伐遠征を無事に終えることだけを考えていたというのに。
それでもまあ、二学期が始まる。
いろいろと行事が控えているし、学生生活を楽しまなければ損。卒業すれば聖女業に専念することになるから、羽目を外すには今の内。楽しんだもの勝ちだよなあと気持ちを切り替えて、まだ暑さの残る風を切りながら学院の校舎へと続く道をみんなで歩くのだった。
◇
――親父、無理だろ。
長期休暇は領地へと戻って避暑地気分で休みを満喫していた。そろそろ学院も始まるので戻ろうと、荷物を纏めていた時だった。
「失礼します。――執務室へお越しくださいと、ご当主さまが」
部屋にノックの音が響くと、我が家で雇っている家宰が顔を出したのだ。父親とあまり関わることはなく、珍しいこともあるものだと首を傾げつつ家宰の言葉に頷いた。一体何だと疑問を浮かべながら屋敷の廊下を歩き、執務室前で立ち止まり深呼吸。
「父上、俺です」
強めにノックを二回鳴らし、来訪を告げる声を上げて暫く中から『入れ』と親父の声が聞こえた。
「失礼します」
執務室に呼ばれたというころは仕事関連か貴族として何かを告げられる時だ。まさか俺に婚約者でも宛がうつもりだろうか。あと二年すれば婚姻可能となるので、既に婚約者が居る友人も居る。どんな釣書を見せられるのかと、少し心が浮足立つのを感じつつ部屋の中へと入った。
「もうすぐ学院が始まるな」
アルバトロス王国内の伯爵家でもウチの家格は下から数えた方が早い。だというのに当主を務める親父が纏う雰囲気は随分と重い。当主としての力量もあるし、眼光は鋭どく威厳もある。
鳴かず飛ばすのウチの親父ですらコレなのだ。家格や爵位が上の連中は、どれほどのものだろうと怖くなる時もある。だから貴族として生きてはいくが、ほどほどが一番良いのだろう。深く関わるべき世界ではないと、心に決めている。
「はい。父上のお陰で王国最高の学院で学べる――」
「――口上は必要ない。率直に言う、黒髪の聖女とお前は同じクラスと聞いている」
「ええ。同じ学び舎で共にしておりますが……」
黒髪の聖女は王国内で今現在一人しかいない。俺が通う学院で特進科クラスに通う平民の少女。それが、今何故親父の口から話題が出てくるのだ。
「彼女の噂は知っているか?」
「はい。学院の合同訓練の際に死傷者を出さずに――」
「――情報が遅い」
しかめっ面をして俺の言葉を遮った親父は、黒髪聖女が長期休暇の間でやらかしたことを告げるのだった。
曰く、大規模討伐遠征に武闘派と名高いヴァイセンベルク辺境伯家から指名依頼を受けて参加。騎士に祝福を掛け、高慢ちきな侯爵家出身の聖女が失敗した際に奮起するようにと諭した。魔術的なダウジングで魔物の出現と狂化されている原因の場所を突き止め、浄化儀式を一人で務め上げたとか。
浄化された魔物の正体は竜であり、魔石ではなく卵を残した等々、聞いていると頭を抱えたくなる事実が親父の口から告げられた。
そして極めつけには亜人連合国へと卵を送り届けたあげく、国交も開いてしまったとか、どうなっているんだよ。
仕舞にゃあ、卵の竜は亜人連合国を築いた始祖で、生まれ変わり孵った竜を王国へと一緒に帰り育ててるってなんだよ!
あの国、人間嫌いの閉鎖的な国だろうに。ゲームでも王国の歴史書にもそう記してあったというのに。何故、黒髪の聖女はこんな突拍子もない展開を引き起こしていやがるんだ。だって、そうだろう? ゲームに出ているモブですらないキャラだ。名前もなく、黒髪のキャラなんて学院に通っていなかったんだぞ。
「黒髪の聖女と接触を図れ。お前と恋仲にでもなれば良いが、そこまでは望んでおらん」
今や黒髪の聖女にはハイゼンベルグ公爵家にヴァイセンベルク辺境伯家、アルバトロス王国に亜人連合国がバックについているそうだ。
え、一学期の終わりには公爵家のみだったよな。噂レベルでしか知らないが、孤児だった黒髪聖女が無茶をやらかして、頭を抱えた教会が頼った先が公爵家だったはずだ。
教会貴族を頼らないのは、教会の神父やシスターたちが渋ったのだろう。真面目に教会へ尽くしている貴族と美味しい汁だけを吸っている貴族との差が大きいから、黒髪聖女を良いように使われない為おそらく公爵家という最大の守護者に頼ったのだ。
「せめて顔見知りくらいにはなっておけ」
伝手が何かしらあるほうが有益だろう。同学年で同じ学科だったのは幸運だと、親父が口にし俺に退室を告げた。部屋の主にそう言われれば出ていく他ない。返事もままならず、親父の下を去り自室に戻る俺は椅子へと座る。
続編のゲームはどんな内容だったか。
記憶は随分と薄れているが何となくは思い出せる。
一期のヒロインは二学期が始まる少し前にヒーローたちと大陸を旅すると言って王国には居ない。ただ、長期休暇中に討伐遠征の最中に、聖女として竜を浄化したことは確かだ。その時に聖女の卵として参加していた二期の主人公は一期のヒロインアリスと出会っている。才能があるし、王国でもトップレベルの聖女になれるから、私も安心して旅に出られると言い残したそうだ。
いや、アンタ第二王子殿下の婚約者だろう。国を出てどうするんだよと突っ込みを入れまくった記憶がある。
しかも、高位貴族のお坊ちゃんたちも引き連れているのだから、迷惑極まりない。王さまや第二王子にアリスは『見分を広めるため』と理由を付けていたが、国内に留まって真っ当に教育を受けた方が絶対に良いと思う。
良い大学に通っていたのに、やりたいことが見つからないから自分探しに世界を旅すると言って日本を出て行った知り合いの姿を思い浮かべる。
治安の悪い国で狙われ凶弾に倒れ、二度と目を覚ますこともなく帰国の途についた馬鹿な奴だ。狙われた理由は良いスマホを持っていたから。そんな理由でと思うが、そんな理由で殺される国もある。文化レベルが発展していないこの大陸ならば、もっと単純な理由で狙われてもおかしくはない。
まあアリスや第二王子殿下は幽閉されているのだから、何も問題はない。
「馬鹿な連中……」
竜の浄化で残ったものは魔石だった。それを亜人連合国へ知らせて、魔石を返却して終わり。卵の『た』の字すら出てきていないのである。そして亜人連合国の連中も外へと出てきていない。
ゲームが舞台の世界でも、ゲームと同じように動くことなんてないのだ。しかし、実際に婚約破棄事件は起こっているし、討伐遠征も執り行われて竜を浄化しているのならば、ある程度のストーリーラインは同じなのではないだろうか。
二期のヒーローは確か三人。アルバトロス王国で教会貴族の子息、隣国であるヴァンディリア王国の第四王子と近隣国の王族が竜を浄化した聖女アリスを目的に留学してくる。
ただアリスは王子たちと一緒に旅に出ていた。ならば魔力量を多く有している我が国の女を狙うべきと切り替えたらしい。それが新米聖女のアリアだ。たしか彼女も二学期からの編入生で普通科へと通う予定だ。金髪に青い瞳のヒロインらしいヒロインだったが。
黒髪の聖女の存在で随分とシナリオは変わってしまっている為、聖女アリアが入学することはあるのだろうか?
荷物を全部まとめて、王都へと戻る俺。
二学期初日の校門前。いつもならば校舎の中へそそくさと道行く生徒が大半の中、何故かみんな立ち止まっている。停車場に止まった一台の馬車。家紋は見たことがないモノだった。一応、貴族のはしくれだから大方の紋章は覚えてあるのだが、記憶にない。
そこから降りて来たのは、件の黒髪の聖女だった。
専属護衛のジークフリードとジークリンデが護衛をしているのは理解できるが、その周囲にも騎士が多数いる。騎士の視線は一般人のモノではない。あれは修羅場を経験したヤツの目だ。随分と洗練されている騎士と、弱冠十五歳で『黒髪聖女の双璧』として二つ名を持っている双子。
「なんだよ、アレ……」
黒髪の聖女の肩には小さな竜が乗っていた。何故、あんな生き物がちっぽけな人間に懐いているのだろう。竜から溢れ出る魔力は随分と大きなもので。周囲の人間が驚いている最中、彼女へと近づく人影がふたつ。
公爵家令嬢ソフィーアと辺境伯家令嬢セレスティアだった。本来二人は悪役令嬢として幽閉だか修道院送りだったはずだが、こうして普通に学院に通っている。にこやかに黒髪聖女と挨拶を交わして、歩き始めた。
――黒髪聖女を先頭にして。
もちろん先行する護衛がいるが、それはカウントしていない。黒髪聖女を先頭に公爵家と辺境伯家の令嬢が後ろに控え、専属護衛も並んで歩く。異様な光景だ。あり得ない。だって、公爵家と辺境伯家の令嬢がなんで黒髪聖女の後ろを歩く?
あ、まさか。あの家紋は黒髪聖女のものだろうか。だったら理解は出来る。黒髪聖女が爵位を賜ったというならば、彼女らが後ろへ侍るのも仕方ない。貴族ではあるが令嬢にすぎなく、一家の当主となればやはりそちらが上となる。
「はは、無理だろ」
乾いた笑いが自然に漏れた。そして接点を持とうと野次馬をしていた連中も俺と同じ気分だろう。親父、諦めてくれ。無理だわ、コレ。
ゲーム開始の初っ端にヒーロー全員が登校する一枚絵があった。どうやら他国の王族が来ることよりも、アルバトロス王国内で価値を上げた聖女の方に皆夢中らしい。