魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ヴァンディリア王国第四王子殿下とリーム王国第三王子殿下からの話を聞いたサロンにまだ私たちは居た。
「……なんでこうなるの」
ジークの頭の上に乗っていたアクロアイトさまは、座っているテーブルの目の前に鎮座し、首を傾げて私を見上げてる。
置かれているお菓子の山に目もくれないあたり、興味は全くないらしい。代表さまによると食べても平気だけれど、与え過ぎには注意しろとのこと。だから置かれているお菓子に手を伸ばして、ぱくぱく食べられないなあと遠い目になる。
「お前が価値のある人間だから、だろう」
「ですわね。目的のある人物が接触を試みるのは予想済みでしたが、こうも早く行動してくるとは。もう少しスマートなやり様もあったでしょうに」
ゲームでよく見る、パンを咥えて廊下を走っていたら曲がり角でごっつんこ、なんてあり得ないし。そこから『おもしれー女』展開も出来ない。お貴族さまとしての正攻法なら、夜会で偶然を装って挨拶をするくらいだろう。
でも私は夜会になんて出る気はないし、出たこともないから無理。だから学院で接点を持つのが、一番簡単でやり易い。
「確かにな。だが、ナイと接触する為に遠回りをしても無駄だ。無理矢理でも早期に接点を持ちたかったのだろう」
お互いに一人で学院内でウロウロ出来ないから、教室で接触を図ったのか。彼らなら『命令』という形も取れただろうけど、一応は『お願い』だったものなあ。
「それでお二方が手を組んだ、という訳ですね。第三王子殿下はまあ、陛下や教会の許可さえあれば良いとして……ナイ、第四王子殿下に対してどう対処します?」
面倒ですわよ、アレは。と、第四王子殿下に対して酷い言い方のセレスティアさま。
「どうしましょうか……興味はありませんが、ある程度は相手をしないと失礼にあたるような気が……」
どうすればいいのだろうか。無下にして良いのならはっきりと『NO』を突き付けたい。彼の本心がどうであれ、自立できない男性は無理。
「私たちでは判断できんな。これも陛下と教会に相談案件だ」
ヴァンディリア王国って教会と密接な関係だったかなあ。習っていないから彼の国の状況が良く分からない。
この大陸における宗教というか、崇めている神様は一人。で、大陸中央部付近に位置する聖王国首都にある大教会が本山で一番偉いとでも言うべきか。
聖地化されて宗教で喰っているというよりは、ある意味で観光地としてお金を信者から巻き上げ……ゴホン、寄付を頂いて運営している。一度も足を踏み入れたことはないし興味もないのだが、教会信徒からすれば一生に一度は行っておきたい場所だとか。
で、各国の王都にも大教会支部を設置して教義を広めている訳だが、この広い大陸だと場所によって文化も風習も違う。
基本的な教えは一緒だけれど、受け入れやすいように国々である程度の改変されていた。此処、アルバトロス王国では聖女を大切に扱えと信者の皆さまに教えるし、リーム王国なら聖樹を称えよとなるらしい。
ヴァンディリア王国オリジナル教義は知らないが、政に教会が喰い込んでいると不味い気がする。アルバトロス王国が断ったとしても、ヴァンディリア王国の教会から大教会を経て、アルバトロス王国の教会へ打診されると面倒なことになりそうだ。
まあ、そうなったらアルバトロス王国の教会の上層部の人間全員ぶん殴った上に陛下へ擦り付けて、新興宗教でも起こして貰えばいいや。適当な人間を選んで教祖さまとして祭り上げれば良いだろうし。
「――……何か考えていますか、ナイ?」
鉄扇を開いて口元へ当てて、目線を私へ向けるセレスティアさま。私が頭の中で考えていたことが、漏れたのだろうか。彼女ならば面白そうですわねとか言って同意してくれそうだけれど、まだ言わない方が良いだろう。
「いえ、何も考えていませんよ。ただ、第四王子殿下の扱いが面倒になりそうだなって」
「友好国の王族ですからねえ」
「無下には出来んな」
はあ、と三人揃って溜め息を吐くと、こてんと首を傾げるアクロアイトさま。その姿が微笑ましくて、右手を顔に差し伸べて撫でり撫でりすると、気持ちよさそうに目を細めて私になされるがままになっている。
「ナイは第四王子殿下に興味はない、ということで良いんだな?」
ふ、と短い息を吐いて何かを入れ替えるようにソフィーアさまが私に問いかけた。
「全く、欠片も」
うん、興味は欠片もないし恋愛感情が湧くこともなさそう。
「それは良かった。あのような男性、わたくしは苦手ですし」
「私も駄目だな。――とりあえず戻ろう。屋敷に戻って昼食と支度を終えたら孤児院の視察だ」
ソフィーアさまに言われて席を立つ。アクロアイトさまを机の上に放置したら、慌てて飛んできた。もちろん、来なければ部屋を去る前に連れ戻すつもりで。
私の頭の上に乗って、足踏みしているから多分怒っているご様子。嗚呼、癒されるなあと両手を回してアクロアイトさまの胴体を掴み、頭の上から胸元へ移動させ。
「ごめん、ごめん」
苦笑しながら抱きかかえると、長めに一鳴きしたので拗ねてしまったようだ。私の腕の中から逃げない辺り、信頼は得ているようだけれど。
「……お前は」
私がアクロアイトさまを置き去りにしようとしたので、護衛の人たちの顔が真っ青になっていた。ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったんです。彼らも不用意に触れることが出来ないし、護衛という立場だから私に声を掛けづらいだろうしなあ。
「ナイ、お願いですからそのような扱いは……」
今度から止めよう。ごめんなさい。
第四王子殿下の扱いは適当で構わなくとも、アクロアイトさまの扱いはきちんとしろとお二人は言いたいらしい。大丈夫だよねえとアクロアイトさまを見ると、目を細めて微妙な声を出したので、置いてけぼりは駄目な様子。
そんなアクロアイトさまにくつくつ笑いながら廊下を歩き、一度ジークとリンと別れて特進科の教室へ戻り荷物を纏める。昇降口へ辿り着くと、騎士科の教室から早々に帰り支度を済ませたジークとリンが待っていた。
そうしてまた護衛の人たちや、ソフィーアさまとセレスティアさま、ジークとリンが私とアクロアイトさまを囲って、正門へと続く道を歩く。
学院生が私の大名行列を物珍しそうに見ている。第一王子殿下であるゲルハルトさまの警備よりも厳重だものね。仕方ないと頭を振って、余計なことは考えず正門を目指そうと前を確りと向く。
「おいっ! 止まれっ!!」
「何を考えている!!」
護衛の人たちの叫び声が斜め前から聞こえ、そちらを向くと男子学生が私を必死の形相で見つめて、ずかずかと歩いてくる。流石に抜刀はしないようで手で制する直前、両膝を突いて頭を地面へ擦り付ける。所謂、DOGEZAであった。
「お願いします、聖女さま!!! 私の言葉に少しだけで良いのです、耳を傾けて頂きたい! どうぞ、どうぞお願いいたします!!」
衆目の中、騒動がみんなへ知れるように大声を出す、無茶振りくん。
あー……これ私が聖女として断れないように、この場所を選んだのか。馬車で移動している最中に、街中で引き留めるよりは安全だけれど。男子生徒の言葉に護衛の代表者だろう、私に顔を向け『如何なさいます?』と無言で問うてきた。
「顔を上げ、お立ち下さい」
こう言うしか選択肢がないんだよねえ。護衛の人とソフィーアさまとセレスティアさまの怒気が凄いけれど、多分無茶振りくんは命がけ。
申し訳ないが、彼の顔や経歴は全く分からない。平民ならば首をその場で切り落とされても文句は言えない。お貴族さまと平民の垣根を少しでも無くそうという方針の学院の中なので、ある程度は担保されるかもしれないが、それでも無茶である。
「で、ではっ!」
「あまり時間が取れません。――この場でよろしいでしょうか」
「も、勿論です! ありがとうございます!」
顔だけ上げて私を見つめていた無茶振りくんは、また頭を地面に突ける勢いで下げた。
もう、今日はなんて日だ!
◇
護衛の列を遮って、吶喊してきた男子生徒くん。教会の教えを説いている教典を手元に持っているから、熱心な教会信者なのだろう。随分と無茶を仕出かしたなあと、無茶振りくんと心の中で名付けた。
で、彼はまだ膝を地面へ突いたまま、その上に手を乗せて神妙な顔をしている。
時間は大丈夫かなあとソフィーアさまの顔を見ると『仕方ない、聞いてやれ』というような顔を浮かべ、短く息を吐く。セレスティアさまは何処からともなく取り出した鉄扇を取り出して、口元に当てて無茶振りくんを凄い視線を向けて見下ろしている。
ジークとリンは無茶振りくんの登場から、警戒態勢を取り私の真横にリン、半歩だけ前にジークが立っている。
リンが凄く殺気を出しているけれど、この状況を平然と受け止めている無茶振りくんの胆力は凄いと思う。教育をきっちり仕込まれている高位貴族のご令嬢二人と、王国が用意した護衛陣に、二つ名持ちの教会騎士に睨まれていても、怯んでいないのだから。
「話をお聞かせ下さい」
膝を地面に突けたままなので、仕方なくしゃがみ込む私。窮屈だったのかアクロアイトさまは、セレスティアさまの腕の中へ逃げて行った。
「はい、ありがとうございます! ――聖女さまのお時間を取らせる訳にはなりません。端的に申し上げます」
「分かりました」
「教会上層部に蔓延り腐敗している貴族を、私と共に糾弾して頂きたいのです!!」
ざわ、と周囲が色めき立つ。ネタとすれば鉄板だろうし娯楽が少ないこの世界、野次馬をしている生徒たちが反応するのは理解できるけれど。
とは言え、この話を聞き耳を立て捲っている人たちの前で、堂々と繰り広げる訳にはいかない。
「内容は分かりました。――しかし、この場で話す内容ではありません」
教会系の金満貴族には辟易としている所だけれど、糾弾すると言っても方法や手段次第でこちらが悪者にされる可能性もある。出来れば無茶振りくん一人で頑張って、あの人たちを打ち取ってもらいたい所だけれど。
「で、では……どうすれば……!」
そんな捨てられた子犬みたいな顔をしないで下さい。ネクタイの色を見ると二年生じゃないか。いや、彼が熱心な教会信者の平民というならば、その顔は理解できなくもないけれど。平民がお貴族さまに噛みつくなんてあり得ない。
だからこそ私を頼ったのだろうけれど、これ陛下に頼れば直ぐに解決するんじゃないかなあ。不正の証拠さえ集めれば、司法機関に預けて裁いて貰えば良いだけだ。――司法機関があればの話だけれど。
あとは教会に自浄作用があるなら、教会も査問会みたいな機関がありそうだけれど、どうなのだろう。
その辺りは全く興味がないし、気にするべき所ではないから、触れていなかった。信頼できる神父さまかシスター辺りに話を聞かないと。二学期初日だというのに、どうしてこうも問題が私の下へ舞い込んでくるのだろう。
――仕方ない。
ああ、もう本当になんて日なのだろうと頭を抱えつつ、その抱えた頭を必死に動かす。
私の家に招くのはあからさま過ぎるような気がしてならない。陛下を頼って城のどこかを間借りするのも問題があるような。教会もどこに耳があるか分からないから、怖い気がする。あ……ひとつ場所があるなあ。ただ、私情で頼るのは悪い気もするが、内緒話をするにはかなり適切な場所で。
「少しだけお時間を頂けませんか、必ず連絡を差し上げますので」
連絡は使いの者を送れば良いだけ。彼の身元さえ分かればどうにでもなるし、そもそも学院生なのだから学院内には居るだろう。
「は、はい! ありがとうございます、ありがとうございます!!」
「顔を上げてください」
しゃがみ込んだままの彼の肩に手を置いて、立ち上がることを促す。
「いえ、いえ。――本当にありがとうございます!」
顔を左右に振る無茶振りくん。何だろうねこの状況。ようやく顔を上げて立ち上がって、無茶振りくんは私の下から去っていく。
「ソフィーアさま、お願いがあります」
まあ、あんなぶっちゃけた話をした後だ。彼の身の安全は確保しておかないと。これで行方不明になったとか土座衛門になって戻ってきたとか寝覚めが悪い。
「彼の素性を調べることと、護衛を付けることは可能ですか?」
「分かった。身元は簡単に割れるだろうし、護衛は影を付けた方が良いだろう。直接の護衛は目立つからな」
目立っても良い気もするが、この顛末を知らない人も居るから、噂を広がり難くするなら影の方が良いのか。
「お手間を取らせて申し訳ありません」
「お前が謝ることじゃないだろう。――話から察するに腐った貴族共が悪いだけだ。だがあの生徒に裏がある可能性もある、慎重に事を運べ」
人の心が読めれば簡単なのだけれどね。超能力者でもないから、表情や目線で推し量るしかないけれど。
多分、無茶振りくんには裏はなさそう。裏があるならもっと賢く動くだろうし、そもそもの願いが教会に悪影響を与えている金満貴族をどうにかしたいというもの。ただ、ソフィーアさまの言う通り気を抜くのは不味いだろう。用心するに越したことはない。
「勿論です。そもそも私に出来ることは限られていますし」
うん。教会貴族を糾弾するよりも、内情を話して陛下に投げる方が早いんだよね。教会ではどうにもできない案件だから王国側に介入して頂くしかない。教会に自浄作用さえあれば良かったけれど、金満貴族が蔓延っている時点でソレはないも同然で。
「しかし、どこで話をつけるんだ?」
ソフィーアさまが小さく首を傾げて、私に問う。まあ、ある意味でジョーカーとでも言うべきなのだろうか。
「お隣さんに場を提供してもらおうかと」
うん、亜人連合国の領事館ぽいお隣さんである。私の立ち入りは自由だし、事情を話せば許可は下りるはず。あとは無茶振りくんの許可が下りるかどうかで、そっちは陛下に許可を得れば良いだろうし。
「はあ!?」
「なっ!」
目を見開いてギョッとするソフィーアさまとセレスティアさま。護衛の人たちまで釣られているけれど、だって良い場所がソコしか思いつかないし。
「待て待て待て、何故そうなる!」
「完全な部外者ですからねえ。お隣さんだと」
アルバトロス王国でもなく教会でもなく、興味もないだろう。盗み聞きされる心配もないしなあ。
「ところでナイ、何故先程の方に肩入れを?」
いつもなら誰かに擦り付けるか、流れに身を任せるだけでしょうと言いたいセレスティアさま。
確かに、いつもの私なら『どうしましょうか?』と誰かにお伺いを立てていた。
「飛び出してきたことは評価したいじゃないですか。――自分の首が飛んでしまう可能性を振り切ったことは、勇気が必要でしょうし」
馬鹿の勇み足とか蛮勇とか周りから言われるかもしれないが、自分の願いを叶える為に命を差し出したのだから。そのことを笑ったり馬鹿にするのは違うだろう。
それにあのまま首を切り落とされる羽目になるなら、あの時の……馬車を遮った仲間を斬ったお貴族さまと同じになってしまう。まあ、そうなるなら、そうなる前に止めるけれど。
あとは無茶振りくんの素性と裏取り次第かな。違う目的で私を利用するならば、身を引けば良いだけだ。そこの部分は私が動く訳じゃないので、申し訳ない所だけれど、こういうものは適材適所だろう。諜報部の方にお願いした方が効率的で確実だ。
別口で学院か王国から無茶振りくんに処分が下るだろうけれど、腐敗している教会を立て直したいという理由なら、国は無茶を言えないと思う。腐敗しているのを放置している責任があるから、むしろ協力しておくれと言いたい。
――今日は昼ごはん抜きかな。
他の人たちには休憩を取ってもらって、私はごはん抜きか簡単なものを用意してもらおう。作って頂いたものを無駄にするのは性分じゃないので、残飯は出さないでとお願いしているけれど。
あ、残飯が多く出るなら豚を飼うのもいいかもしれない。お貴族さまの屋敷で飼うなんて非難されそうだが、勿体ないをなくすなら豚が効率的だ。
それは後で提案するとして、取りあえず王国に報告して動いていいかの確認を真っ先に。で、次にお隣さんに場所提供のお願い。許可さえ下りたら無茶振りくんに、使いの人を出して出頭命令ださないとなあ。
「戻りましょう」
まだ二学期初日だというのに、忙しいなあと遠い目になる。
「ああ」
「ええ」
「ジークとリンも」
こくりと頷く二人に笑い返して、また歩き始めるのだった。