魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0097:虎の尾を踏み抜いた。

 枢機卿さまが神妙な顔をして懐から取り出した、黒革の手帳。枢機卿さまの机の前に置かれ、みんなの視線が集まる。使い込まれている感じはしないその手帳に、一体何が書かれているというのだろうか。

 

 「カルヴァイン男爵は今回の件に関して、自分や家族はどうなっても良いとまで口にしております」

 

 まさか、家族ぐるみでの計画だったとは。しかも処分も覚悟の上で死んでも良いという決意まで済ませてる。そりゃ、無茶振りくんが私の下に飛び込んで、衆目の最中ああやって土下座をして教会の腐敗を正して欲しいと願うはずだ。

 

 枢機卿さまによるとカルヴァイン男爵の子息、ようするに無茶振りくんが教会居住区域へ足を踏み入れたとき、寄付金を着服している貴族と噂されている人物が落としたものを偶然拾ったそうな。

 声を掛けようにも、部屋の中へと消えたお貴族さま。その場は瞑想部屋と呼ばれており、立ち入りは限られた者しか許可されておらず、部屋の性質上声掛けも許されていなかった。

 

 誰かに預けようと踵を返そうとした時、ふと誘惑にかられたそうだ。もしこれが教会を自浄させる為の切っ掛けになるモノだったら?

 

 一度芽生えた感情に抗うことができず、手帳の中を覗いてしまった無茶振りくん。中はお金を着服している証拠が記されていた。それもかなりの額を横領していると。

 

 「覚悟を持っての行動です。――陛下、聖女殿、この場にいらっしゃる皆さま、神に代わり裁きの鉄槌を腐敗した教会貴族へ下して頂きたい」  

 

 枢機卿さまが机の上に置いた手帳を、騎士の方が手に取って陛下へと差し出し、陛下が手帳を開く。視線を動かし文字をなぞっているのが分かる。手帳を眺めること暫く、どんどんと陛下の顔が青ざめていき、眉間に手を当てて解している。

 

 「宰相……念の為、確認してくれ」

 

 「はい、では失礼して」

 

 手帳が陛下から宰相さまの手に渡る。手帳を開き、陛下と同じように文字を目で追う宰相さまも、どんどん顔色が悪くなる。

 

 「何故、このような事を……嘆かわしい」

 

 手帳は宰相さまから宰相補佐さまへ渡り。

 

 「神よ、哀れな子羊に慈悲を……」

 

 宰相補佐さまから、公爵さまへ。

 

 「馬鹿め」

 

 公爵さまから辺境伯さまに。

 

 「…………はあ、どうしてこのようなことを」

 

 一体何がと首を傾げる。この場に居る人たち全員がお通夜状態なのだけれど。

 

 噂で広がっている程度には教会貴族は腐敗している。もちろん無茶振りくんの家のように真面目に教徒としてお勤めしているお貴族さまも居るが、そういう人たちは教会貴族としての地位は低い。

 真面目に務めている分、実入りなんてないようなもの。信者からの寄付を掠め取っている人たちの方が、肥え太っているのだ。そして聖王国の教会上層部の人間と親密だったりする。

 

 そうして私の前に手帳が差し出される。アクロアイトさまは、膝の上だと邪魔になると判断したのか、リンの腕の中へ飛んで行った。

 

 見ても問題ないようだが、枢機卿さま以外の顔色が悪いままだけれど。取りあえず見ないと始まらないと、手帳を手に取って一ページ目を開く。日付は四年前から始まり、数字が羅列されていた。一枚一枚ページを捲っていく。これ聖女の治癒報酬額や討伐報酬の額を記入しているのかな?

 

 日付がどんどん進んで一年が経った頃、数字の桁が一桁上がった金額が書き込まれるように。この金額は……城の魔術陣へ魔力補填した時の報酬金額だ。ペースは週に一回。時折途切れることもあるが、日付が空いて纏まった額が入っているので討伐遠征に同行したのだろう。

 

 ………………週に、一回?

 

 週に一回。週に一回魔力補填できる聖女が私以外にも居たのか。そうか、私以外にも魔力量に優れた聖女さまが居る――。

 

 「――な訳ねえじゃん」

 

 神父さまが『週に一度、魔力補填できる聖女は君しか居ない』って言ってたなあ。魔力補填を始めた三年前位に。ぼそりと漏れた私の低い声に、びくりとこの部屋に居る枢機卿さま以外の肩が揺れた。

 

 手帳をもう一度、確り目を通す。

 

 月に一度、纏まった額を引き出している。これは私が教会宿舎に毎月入れていた生活費の額。偶にそれ以外に少額が引き落とされているが、それは買い物やら街へ遊びに行った時のご飯代と孤児院に寄付する為。

 

 半年に一度ほど、かなりの大金が引き出されているが、こんな額を引き落とした記憶はない。ふと、最近落とした子爵家運営用のお金。ページを何枚も捲り、最近の日付までたどりついた。きっちりと二週間前に引き出された額が書き込まれている。ちなみに日付はそれが最後。

 

 ――あれ。

 

 計算が合わない。子爵家運営用のお金を引き出しても、残金はあった。ただこれに記載されている最後の日付の金額欄。

 

 「お金、ない……」

 

 私が貯めたお金がない。少しは残ってはいるが、雀の涙程度。ページを逆戻りすると、記憶にない引き出しが何度もある。それにはご丁寧に丸印が書き込まれており、横領した人物は几帳面な人だったのだろうか。

 しかし何故……いや、お金の出入りが定期的で予想が付きやすい。足りなくなれば補填すればいいとでも考えていたのか。

 

 何にせよ――。

 

 人のお金を黙って掠め取って行くような輩に、遠慮など必要ないだろう。

 

 ◇

 

 無茶振りくんによって、私が教会に預けていたお金の使い込みが発覚した。手を出したのは不正をしていると噂されている教会貴族。

 

 「せ、聖女よ……?」

 

 「ナイ?」

 

 「……聖女さま?」

 

 部屋に居るみんなが私に声を掛けるが、返事をする余裕はなく。

 

 言葉にならない。この気持ちを吐露して良いのだろうか。良いか。もう、どうでも。誰かが私に声を掛けたような気がするが、返事をする気が起きない。

 

 …………ジークとリンとあの二人に何かあった時の為にと、貯めておいたのに。病気や怪我をすれば結構なお金が掛かる。夢を掲げて何かを遂げるにもお金が掛かる。前世の学生時代はグレていたけれど、高校に通う為にアルバイトしながら働いていた。

 周りは親に携帯料金を払って貰って、遊びに行く話や将来の夢を語ってる。何故、私だけ……と思ったこともある。ただ施設で暮らしていると、同じ境遇の子は自分以外にも居た。

 

 世の中は不公平だ。生まれで教育格差を受けるのは当たり前。親が居ないと後ろ指を指されることもある。 

 

 だから、孤児仲間になにかあった時に、どんなことでも乗り越えられるようにと貯めておいたのに。

 

 「ふふ……ははは……」

 

 開いた黒革の手帳――もとい、裏帳簿――を持って、下を向いたまま笑いが込みあげ、一緒に魔力も込みあげてくる。護衛の騎士が警戒しているが、知ったこっちゃない。アクロアイトさまがリンの下から飛び立って私の肩の上に乗るが、相手をしている余裕はなく。

 

 「お、おい、ナイ?」

 

 公爵さまが心配そうに私に声を掛けるが、答える気に慣れない。パタンと持っていた黒革の手帳を閉じて立ち上がる。

 

 「枢機卿さま」

 

 「あ、ああ。どうした聖女殿?」

 

 「腐敗している貴族は、どなたかお分かりでしょうか?」

 

 「も、勿論だとも。――」

 

 枢機卿さまの口からは、金満な教会貴族として有名な家の名前がでた。というか、離宮暮らしの時に慌てて顔を出した連中だった。

 

 「では、この手帳に記されている被害者が誰なのかも?」

 

 私の横でびくりと肩を揺らした枢機卿さま。彼も中を確認位はしただろう。金額の入り方で、聖女の特定は簡単だ。

 

 「…………騙したような形になってすまない」

 

 苦虫を噛みしめるような顔になり、頭を下げる枢機卿さま。その頭に価値はない。

 

 「それは捨て置きましょう、些末な事ですから。――陛下、発言のご許可を」

 

 「あ、ああ、何だね?」

 

 びくりと肩を揺らした後、返事をくれた。

 

 「枢機卿さまが口にした貴族家が潰れると仮定して、国にご迷惑をお掛けしますか?」

 

 「……問題はないな。宰相はどう判断する?」

 

 少し考える素振りを見せたが、どうやら潰れても構わないようだ。なら、遠慮はいらない。あと名前は知れたのだ、直ぐに監視下に置かれる。王国から、いや王都から逃げられまい。

 領地貴族ならば、そちらも直ぐに監視下へと置かれるだろう。必要ならば私が絡んでいると言って、亜人連合国へ協力要請も出来るし。

 

 「陛下と同意見です。彼の家は国への貢献どころか、教会にどっぷりと浸かり私腹を肥やしております故」

 

 「分かりました。公爵閣下」

 

 「ああ」

 

 「非番の軍の方を協力者として借り受けたいのですが?」

 

 騎士の人たちも借りたいが、伝手がない。まあ、そこは上手くやり様がある気もするけど。ああ、子爵家の警備を担っている人たちに声を掛ければいいか。酒場に出向いて貰い、酔った勢いと見せかけて盛大に漏らして頂こう。

 

 「それは構わんが……何をするつもりだ?」

 

 「王都に噂を撒いて頂こうかと」

 

 「噂?」

 

 「竜使いの聖女が貯めていた金を横領した不届き者の教会貴族が居る、と」

 

 なんだか新しい二つ名を王都のみなさんから頂いているので、使わせて貰う。

 

 「将来、民の為にと貯めていた金を全て取られ、失意に臥せってしまったと」

 

 まだ公になっていないので、屋敷に戻ったら全額引き出すように申請書を書かなければ。よよよと泣きながら侍女さん達の前で倒れてみよう。大根役者だから、直ぐに見破られそうだが。

 

 「いや、お前さんそんな殊勝な心掛けなぞ持っておらんだろう」

 

 嘘を吐け嘘を、と言いたいらしい公爵さま。ただ間違ってはいないのだ。孤児仲間という王都民の為に貯めておいたのだから。

 

 「臥せったことを知った竜たちが、王都を灰燼に帰してしまうかもしれない」

 

 「いや、無茶……無茶ではないな……お前さんなら」

 

 亜人連合国の竜のみなさまにお願いすれば可能だろう。対価を払う必要があるが、それは交渉次第だろうし。

 

 「それを回避するには、王都の民が腐敗した教会貴族に自ら罰を下すしかないのだ、と」

 

 ああ、そうだ。喋れる竜の方を誰か選んで、王都の人たちを脅して貰おう。

 

 「おいおいおい! それで王都の民が動くのか?」

 

 陛下が横で『せ、聖女よ、あまり無茶は……』と片手を上げて何か言っているけれど、知らん。

 

 「動かないなら、先導する人物を仕立て上げれば良いだけです」

 

 「お前さんは動かんのだろう」

 

 「臥せっていますからね」

 

 「では誰が?」

 

 「アウグスト・カルヴァインさまに動いて頂きましょう」

 

 いずれはお金の使い込みは露見しただろう。遅いか早いかだけの違いである。陛下は潰してしまっても問題ないと言った。

 ならばこの際潰してしまおうじゃないか。どうせ邪魔なだけだ。聖王国教会との繋がりが薄くなるかも知れないが、知ったこっちゃない。衆目の中で私に土下座をして教会の腐敗を訴えたのだ。倒れた聖女の為にと御旗を掲げ、教会の腐敗した連中へ突入でもすればいい。

 

 さて、これから忙しく……いや今までも忙しかったけれど。今回は自分の為に動くのだ、とやかく言っていられまい。

 

 私の稼いだお金は私のものである。勝手に使い込んだこと、後悔させてやる。

 

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