魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0098:他の問題は。

 私の貯めていたお金を勝手に使い込まれていた。

 

 お金は戻ってこないだろう。ゴネれば国か教会が立て替えてくれる可能性もあるが、もたもたしていると不正を仕出かした教会貴族が隠蔽工作に走る可能性だってある。なら、自分で動いて自分で捕まえたという事実があった方が、スッキリはするはず。

 

 本来は国や教会に任せるべきことだが、今まで手をこまねいていたのだ。まともに動けるかわかりゃしない。

 念の為に他のページも確認してみる。私以外の聖女さまも、どうやら掠め取られているようだ。金額の入出金額からして、平民出身で聖女としての実力がそこそこある人だろう。生活費を定期的に同じような金額を引き出している聖女さまを、狙っていると推測できる。横取りした引き出しは、こちらもご丁寧に印がつけられて、分かるようになっていた。

 

 おそらく裏帳簿的なものなのだろう。教会には預けた額や引き出した額を管理している赤い帳簿が、聖女一人一人に用意されているのだから。

 

 真面目に聖女として働いている人から……将来の為にと日々の生活を切り詰めて教会に預けたお金を使い込まれた、被害者多数。平民ならば、掠め取っても文句は言えまいという傲慢さが伺える。お貴族さま出身の聖女は、家に預けていれば安全。

 ただ平民出身の聖女さまだと自宅に現金を置いているのは、盗難の心配がある。だから、教会へお金を預けるシステムが出来たと聞いていたのだが。もしかして最初から掠め取る気で用意していたのだろうか。余計に腹が立ってきた。

 

 「陛下、枢機卿さま」

 

 「あ、ああ。どうしたね?」

 

 「聖女殿?」

 

 「他の聖女さまからも問題の方は横領していたようです。出来る限りで構いません、彼女たちの横領されていた分の補填をお願いできますか?」

 

 私は法衣貴族として年金が入るし、週に一度の城の魔術陣への魔力補填でまとまったお金がある程度入る。

 辺境伯領へと大規模討伐遠征に出た指名依頼料もまだ送られていないので、大金がそのうち手元に届くのだ。時折、亜人連合国から王都へ飛来する竜の方が『これをやる』と言われて、竜の鱗や牙をまだ貰っていて保管しているから、それを売り捌いても良い。

 

 「出来る限り対応する」

 

 「教会の方も出来る限り支援する」

 

 「お願いいたします」

 

 陛下と枢機卿さまに軽く頭を下げる。

 

 「お主の分はどうするのだ?」

 

 公爵さまが立ったままの私を見て問うてきた。

 

 「出来れば補填を願いたい所ですが、今回は諦めます。教会に任せっきりにしていた責任もあるでしょう」

 

 その代わり、犯罪者としてとっ捕まえてやる。一応、聖女という身分なので、堂々と突っ込めば後々の活動に支障をきたす。だから他人を利用する。真っ当な方法ではないかもしれないが。

 

 「そうか? まともに運営出来ん教会の方が悪い気もするがなあ……」

 

 そう言って公爵さまは目を細めて枢機卿さまを見る。

 

 「うっ……それに関して私はすまないと頭を下げることしか出来ない。聖女から預かった金を管理している者が違うのだ……」

 

 ようするに管轄外だそうだ。枢機卿という位を授かっているのだから、それなりの行動を起こして欲しいものだが。

 彼はアルバトロス王国の教会内でどのような立ち位置なのだろうか。他の枢機卿たちが手を取って彼を疎外しているならば、発言権や行動に起こせない理由に納得できるけれど。

 

 「枢機卿さま。教会内での貴方の立ち位置をお教えください」

 

 「私の……何故?」

 

 「枢機卿という立場にありながら、何も行動に起こされていないことが不思議なので」

 

 アルバトロス王国教会の枢機卿の座に就いているのは五名。王国教会では最上位の人間である。

 

 本来ならば彼らの上に立つ教皇さまが居るはずなのだが、聖王国で聖王国教会に所属している人間が務めている。

 聖王国の教会が本流の為、王国教会の枢機卿さまたちは聖王国の枢機卿さまたちより格下扱い。それでも権力は十分にあるそうなので、熱心な教徒やお金に目敏い人間なんかは、狙いたい地位らしい。全く興味はないけれども。

 

 「私は皆に煙たがられている」

 

 やはりか。

 

 「教えに忠実であるように清貧を旨とし民を教え導く……それが聖職者としての本道。だが、今の王国教会の枢機卿の座に就く者は欲に支配されている」

 

 五席の内の三席は真っ黒らしい。聖女が預けたお金を横領することを指示したのも彼らで、止めたくとも爵位の関係で強くは言えないそうな。

 

 真っ黒なうちの一席は聖王国から、所謂天下りしてきた人間で。残りの二席のアルバトロス出身の教会貴族が賄賂を渡して枢機卿の席を手に入れた。

 敵対派閥になるが、枢機卿さまの方が力関係が弱く、改革に乗り込みたくても指を咥えてみているしかなかった。神父やシスターはいたって真面目に教えに忠実に活動をしているというのに、なんと嘆かわしい事か。

 

 そんな時、偶然カルヴァイン男爵領の教会へ視察に赴いた際に、偶然カルヴァイン男爵一家と出会ったそうな。

 

 勤勉で真面目、絵に描いたように民へと尽くし、教会の教えを説くカルヴァイン男爵一家。今ではこのような家は珍しいそうで、甚く気に入り懇意になった。カルヴァイン男爵子息が、二年前に王都の学院に入学することになったので、下宿先として枢機卿さまの家に住まわせたそうだ。

 

 アウグスト・カルヴァインが奉仕活動の際、偶然拾った黒革の手帳が枢機卿さまの手に渡った経緯。それが約一週間前。

 

 枢機卿さまは中身を見て愕然としたようだ。横領の証拠が目の前にあるが、この金額を預けられるのは一人しかいない。今、王城や王都民を騒がせている黒髪の聖女であることは簡単に推測できた。他の聖女からも金を奪っているが、似たり寄ったりの金額で推測が出来ない。

 

 取りあえずは裏取りをと下の者に指示を出し、報告を待っていたのだが事態は急に動く。

 

 『家族には許可を得ました。我々の命を失ってでも悪事を露見させる為に必要な行為であろうと父が……そして私も父に賛同しました』

 

 話題の聖女に直訴した理由を問い詰めた際の言葉らしい。覚悟が決まっている上での行動だったのか。その事実を報告する為に急いで登城し謁見願を出したところに、王城からの呼び出しが同時に掛かったらしい。

 

 ならば確実に先導者として無茶振りくんに動いて頂かねば。美談にして王都の噂としてバラまけば、彼らの処分は軽くなるだろう。民衆から王家へ不満が募るのは避けたいだろうし、理由が理由だし。

 ただ、次に続く人が出てきそうなので、そこら辺の対策を練らなければ。が、今は後回し。

 

 「では、今回の騒動が収まれば彼を枢機卿へ推薦することは出来ますか?」 

 

 まともな人間が枢機卿の座に就けないならば、まともな人間を就かせりゃいいのだ。

 

 「なっ、無理だ! 年齢的に若すぎるっ! 目立った功績もないっ!!」

 

 ぎょっとした顔をする枢機卿さま。確かに今は功績はなにもないが、この後出来る。

 

 「命を天秤に掛けて聖女に直訴した上に、民を先導して不正を正した立役者ですよ?」

 

 「う、ぐ……それは……」

 

 「貴方にその力がないというならば他を頼るか、彼を祭り上げて新しい宗教でも起こしましょう。聖女を救った『聖人さま』とあれば改宗する方も多いでしょうねえ」

 

 教会が潰れたとしても、新しく起こした宗教が受け皿になれば問題はないだろう。聖人さまに絶対的なカリスマを与えれば、どうにかなる……筈。絶句しているみなさまが居るなかで、私一人が腐敗した貴族をどう懲らしめるかを考えているのだった。

 

 ◇

 

 屋敷に戻っていろいろと動いていかなければ、と退席許可を取ろうと陛下へ向き直った時だった。

 

 「……聖女よ、リームの第三王子から彼の国の聖樹に魔力補填依頼はどうするのだ?」

 

 「まだ書類申請はされていないかと」

 

 指名依頼になるだろうから、私に依頼が来るだろう。ただ、その時になれば私は臥せっているから、リーム王国へ出向くことは無理である。お忍びで行っても構わないが、時間が掛かるようならこちらの動向が疎かになる。

 

 「確かに書類はまだ教会へ届いておらぬようだが……ただ第三王子が黒髪の聖女からの許可は得たも同然という報告が上がってきた」

 

 「本日学院で話は聞きましたから。ただ、国や教会の許可が得られればと申した……――まあ、仕方ないのでしょうか……」

 

 許可を出したというよりも、国や教会の判断次第だと伝えたつもりだった。どうやら国や教会の命令があれば、断られることはないと勘違いしたようだ。ほぼ強制だけれど、拒否権もあるのだけれども。こちらの教会や聖女のシステムに詳しくないなら、仕方ないが。

 

 「命令さえ出れば、派遣されると勘違いしたか……あの――」

 

 陛下が小声で『馬鹿犬め……』と呟いたのだけれど、大丈夫だろうか。

 リーム王国はアルバトロス王国より格下な事実を確信したうえでの発言だろうし、陛下と王子じゃあ当然陛下の方が上。心配は要らないかと、少しだけ顔を上げて天井を見た。あ、天井に染みが付いてる、なんでだろう。

 

 「そのようです」

 

 ポロっと父王さまの超問題発言を当事国へ漏らすあたり、何も考えてはいなさそう。こちらとしては内情を知れたので有難い事ではあるが、向こうの国からすれば『何言っていやがるんですか、殿下ぁぁあああ!!!』とお付きの護衛の人は叫びたかっただろう。

 

 「仮に派遣命令が下され受け入れたとしても、聖女は臥せっているのだろう?」

 

 通常なら申請受理され、審査で一週間程だろう。今回は他国からの依頼だから、さっくりと審査が通る可能性もある。

 

 「その予定です」

 

 「ではどうするのか?」

 

 「依頼内容は聖樹への魔力補填、私でなくとも他の聖女さまで代用は利きましょう。仮に失敗したとしても失敗を理由に、ある程度の時間を置いて私が出向くことも出来ます」

 

 魔力量が多い人を何人か出向かせれば良い。教会の依頼規約に失敗すれば寄付は請求しないとあるし、違う聖女を派遣してもう一度治癒を試みることも出来る。それで成功すれば寄付をしなければならないが、値引きが少しあると噂されている。

 

 城への魔力補填は、緊急時や警備面を考えて城への直通転移魔術陣が屋敷に設置されたのだから、こっそり行ってこっそり帰ればいい。私が臥せってしまっても、何の問題もない訳だ。

 

 「こちらの問題が片付かない場合は、蹴る可能性が高いとだけ」

 

 第三王子殿下は『聖樹の寿命が尽きる』と言っただけで『寿命が尽きた』とは言っていない。ということは彼の国の聖樹はまだ生きているのだ。寿命なのか病気なのかは知らない。聖樹に関しての知識は皆無だし、向こうの国のことにも詳しくないのだから。

 

 「臥せっていては仕方なかろう。――それに我が国に喧嘩を売るような真似を言ってくれたのだ。リーム王には責任を取ってもらわねばなあ」

 

 「依頼を蹴ることもできますからね」

 

 ただ、蹴らないだろうなあ。

 

 「だが、国を失くせば難民が我が国へ押し寄せる。無視する訳にもいかぬのだよ、聖女よ」

 

 陛下が言った通り、リーム王国が亡国となってしまえば、国境に面している国に難民が押し寄せることになるだろう。

 見捨てることも出来るし、二等国民として登録して、衣食住を最低限だけ保障し炭鉱送りなんてザラだろう。腐敗していようが、貧乏だろうが、なんだろうが、国という存在はそれだけで価値があるということ。

 

 「理解しております。優先度の問題とだけ」

 

 「分かっている。我が国としても教会の腐敗は見過ごせん。良い機会だ、綺麗にして後願の憂いをなくそうではないか。――なあ、枢機卿よ」

 

 「は、はい……」

 

 耳にしてはいけないことを聞いた所為か、枢機卿さまの顔色が悪い。枢機卿の座に就いたままなら、綺麗ごとだけじゃあやっていけない。目の前の枢機卿さまは潔癖すぎるのだ。ルールに則って行動するのが、正義と掲げているのだろう。世の中、それだけじゃあやっていけないけれど。

 

 「聖女を口説いたヴァンディリアの王子はどうする?」

 

 「今は何も。何故私を口説いたのかは理解できませんが、何か別目的がある可能性も捨てきれません」

 

 本当になんでヴァンディリア王から聞いた話だけで、惚れただなんて抜かせるのか理解が出来ない。

 私はただ、何も悪いことをしていないソフィーアさまを誰も助けない状況に耐えかねて、出しゃばっただけだというのに。恐らく裏で話は付いていたのだろう。第二王子殿下の無謀を見過ごすような人たちじゃないのは、今なら分かる。

 

 「ただ、あの手の口説き文句は正直苦手です」

 

 「報告で聞いてはいるが、そんなにひどい物なのか……」

 

 相手によるだろうなあ。私に向けての口説き文句ならば失敗したも同然で。あの演技じみたやり方は好きになれない。

 

 「貴族のご令嬢を口説くならば良い手法でしょう。ですが、私の出身は平民です」

 

 本当、貴族のご令嬢ならばその場で返事していただろう。曲がりなりにも隣国の第四王子殿下である。商売をしていれば隣国でも活路を見いだせる可能性だってあるし、親も喜ぶ案件。ただ私にはそういった親もなく、商いをしている訳ではない。

 

 「なるだけ近寄らぬように警告はするが……」

 

 難しいだろうな、と顔を歪める陛下。

 

 「口説くという目的があるなら、無理かと。ただ、適当にあしらっても構わないというご許可を頂きたい所です」

 

 面倒だけれど、ある程度は相手にしないと不敬になる。相手は友好国の王子さまだし。

 

 「それは構わぬよ。婿入りを希望しているとふざけたことを言いおったと聞くしな。――やり過ぎることだけは気を付けてくれ」

 

 「ありがとうござます、承知しました」

 

 適当にあしらっていれば、そのうち脈がないと気付くだろう。さて、話はこれで終わりのようだから、今度こそ退室許可を陛下から頂く。お偉いさん方が集まっていた部屋から真っ先に出て、お屋敷へと戻るのだった。

 

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