馬鹿野郎お前俺は(異常存在に)勝つぞお前!   作:きりしま

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書きたいところまで書けないってこれマジ?


世界レベルのドMに俺はなりたい

異世界転生。

 

それは、恐らく思春期に突入した少年と青年の間に位置する━━━━所謂、厨二病患者と呼ばれる者達にとっての夢。パライソ。エデン。

 

詰まらない(将来でクソ程に使えるとは思えない数学やら古典やら)授業中に、異世界で可愛い女の子を引き連れ、良い感じに強いスキルとチート能力をぶん回して魔王をしばく妄想をしていたのは決して俺だけではあるまい。

 

だが、夢とはいずれ消えゆく物。大学に入学し、心身が成熟したと言って差し支え無い年齢になると、途端に過去の己の妄想が恥ずかしくなる。その反動で中途半端な冷笑主義に陥り、ファンタジー物などを電車内で読む中学生を見かけると

 

「けっ!餓鬼がよぉ……世の中は厳しいんだ!」

 

と心の中で何にキレているか自分でも分からない愚痴を溢すようになる。何処からどう見てもただの拗らせたアホの爆誕であり、その日の夜にそれに気づいて布団の中で悶える迄がワンセットである。

 

 

そしてそんな何処に出しても恥ずかしい中途半端な高二病患者(大学生であるのにも関わらず!)である俺が今ハマっているコンテンツがある。

 

 

『SCP財団』

海外の掲示板のクリーピーパスタが発祥でありながら、その世界観と沢山の著者達によって作り込まれた設定が世界中の少なくない人々を魅了し続けており、今では一つのコンテンツとして独立している。

かく言う俺もその世界観と、沢山のオブジェクト達、そして魅力的な要注意団体達の設定に惹かれ、どハマりした人間の一人だ。

 

 

救いの無い世界の中で財団は足掻き続け、無数の犠牲を重ねて世界を守る。

『━━━所謂他の人類が光の中で暮らす間、我々は暗闇の中に立ち、それと戦い、封じ込め、人々の目から遠ざけなければならない。』

 

もうね、かっこよすぎ。鼻血出るわこんなん。

あまりにかっこよすぎて、既に己の心から消え去ったと思っていた古の厨二病が騒ぎ立てる音が聞こえるのだ。

財団が多少の異常技術を用いるとはいえ、基本的に科学的な視点なのがまた痺れるのだ。人間讃歌って言うんだっけこういうの。

 

毎日のようにSCP財団の報告書を読み、人間讃歌に痺れまくる俺の脳内は完全に波紋使いの某男爵に完全に占拠されていた。

 

「うおおおお!俺も世界の礎になって人類守護りてぇぇぇぇ!!!!」

 

脳内のツェペリのおっさんもパウパウ言いながら賛成してくれている。人間讃歌は勇気の讃歌、はっきりわかんだね。

SCP財団のtale(小説みたいなもん)をいくつか読み干したテンションのまま、俺は家を走り出る。

一人暮らしで借りた場所が田舎でよかった。さもなければ瞳孔ガン開き疾走マンとして都市伝説に語られる所だ。

 

田舎特有の両脇を田んぼで固めた小道を疾走しつつ、俺は考えていた。

いくら財団みたいに世界の礎になりたいと世界レベルのドM決意をしたとして、俺は普通の大学生だ。

無数の研究者と尽きぬ資産、そして訓練された機動部隊を持つ財団のようにはいかない。そして何より……

 

「なーーんでこの世界には異常存在が無いんだろなぁ……」

 

そう、人類を脅かす異常存在が無いのだ。確かに世界は平和とは言い難く、地球温暖化やら何やらが叫ばれているが、別に明日にでも世界が滅びそうな訳では無い。そもそも世界の礎になる機会が無いのだ。

 

 

「………ボランティアとかで我慢するか!」

 

これは決して敗北では無いのだ。将来定職に着いたら世界の礎になって、人間讃歌を叫んでやるのだ━━━━

等と涙を拭いながら走る俺は、いつの間にか小道を走り抜け、沼が目の前に広がっていることに気づかなかった………

 

 

「ぬんべらへぼちゃべたっ!」

 

 

此処に俺、稲成亞門は世界の礎になることは無く、沼の水位の礎になる事で生涯を終えたのであった。

 

 

 

 

「ほ?」

俺の目の前には木々が広がっていた。ついでに言えば俺は全裸だった。

「はい?」

人間、己の理解のキャパシティを超えると明確な言葉も出なくなる物だ。俺は暫くその森の中で立ちすくみ、一筋の冷たい風がマイサンを縮み上がらせてから漸く我に帰った。

 

「クォクォハ……」

 

 ぐるりと周囲を見渡す。

 視界に映るのは木、木、木、木、木、木――つまりはまあ、森だった。木漏れ日が周りを照らし出す。木は天蓋を覆い尽くし、遠くからは鳥の鳴き声が聞こえる。

分からない。此処は何処だ?と言うか、今は夜だっただろう。誘拐?いや、沼に走って落ちたアホを誘拐する組織なんて居るはずも無い。

というか何故全裸なのだ。俺がイケメン筋肉ムキムキマッチョマンなら見応えもあるだろうが、此処に居るのはフツメン……フツメンだよね?フツメンです(自己暗示)。そして身体はヒョロガリだ。脱がす意味もない。

 

俺は天を仰ぎ、呟いた。

 

「あるやんけ………異常存在……」

 

このオブジェクトを全裸転移沼と名付けよう。

空に茂る木の枝から降り注ぐ日光から察するに、此処は地球の裏側なのだろう。あの沼は入ってきた人間の服を剥ぎ、そして瞬間移動させる異常存在に違いあるまい。

まさかこんな近所に異常存在が有るとは。灯台下暗しである。

 

「しっかし、全裸というのも落ち着かないな……【パンツくらい残してくれりゃ良いのに。】」

 

木々を見ながらぼやく。すると、突然腰の周りに……いや、具体的に言うとマイサンに違和感がある。まるで有るべき場所に収まったかのような…。ふと下を見ると、俺は全裸変態ヒョロガリからパンイチ変態ヒョロガリにジョブチェンジしていた。

 

暫く自分のパンツと睨めっこする。確かに、これは俺が風呂上がりに履いたパンツに間違い無い。問題は、何故それが此処に有るかだ。

確かに、俺は此処に飛ばされてきた時は全裸だった。あの冷たい風がマイサンを揺らした感触を忘れるはずもなく。

 

つまり、なんだ。もしかして━━━━━━

 

 

「パンツ着脱転移沼だったのか……」

 

図らずも新しい異常性を発見してしまった。俺は財団職員に向いているのかもしれない。

だが、これからどうしようか。俺はパンイチで森林の地面に胡座をかく変態となりつつも、己の未来について考える。

この未曾有の事態について、俺を待ち受けている末路は大きく分けて三つ。

 

①俺は予めこの異常存在を知っていた何らかの組織に保護される。欲を言えば、この世界にも財団みたい組織があって欲しい。

②①の組織はこの異常存在に気付いておらず、俺は彼等が気付くのを待たなくてはならない。

③そもそもこの世界にはそんな組織は無く、さっきのパンツ着脱転移沼が世界で最初に見つけられた異常存在である。俺に助けは来ない。

 

③とかもう絶望でしか無いのだ。俺はここで野垂れ死に、俺の失踪は警察によって処理される。と言うか、パンツ着脱転移沼がSCPー001になるのだ。余りにも締まりがない。

 

だが、現状として俺が取れる行動は多くない。ぶっちゃけ、①と②は余りにも希望的観測に満ちている。SCP財団の世界では記憶処理なんて物が都合よくあったが、こんな異常存在を誰かが認識しているのなら少なからず噂になっているはずだ。人の口に戸は立てられず。それが常識を吹っ飛ばすほどに珍妙な物ならば尚更だ。

 

俺は、遭難したのだ。パンイチで。この現状を重く受け止めなくてはならない。

サバイバルなり何なりをしつつ、人を探さなくてはならないのだ。俺を転移させたあの沼が何であれ、今は生き残ることを考えなくてはならない。

 

俺が気合を入れ立ち上がったその瞬間、頭上から降り注いでいた木漏れ日が何かに遮られ、影を作った。

………?影を作った?俺が頭上を見上げると同時に、天蓋を覆い尽くしていた木々が━━━燃え尽きた。

 

「は?!」

 

驚きの連続だ。なんだ、まさか俺はアマゾン当たりの森林伐採の現場に居たのか。いや、それにしてはあまりにも静か過ぎ……

 

俺の意識は、思考は、その瞬間に停止した。【ドラゴンがいた。】

 

繰り返す、【ドラゴンがいた。】これは何かの比喩でも何でも無く、俺がかつてハマっていたラノベで飽きる程見た、鱗に覆われ、翼を持ち、爬虫類じみた目を持つあのドラゴンだ。だが、どうやら本物のドラゴンは無音で飛ぶらしい。

 

そのドラゴンは、翼を動かすこともなく静かに宙に浮いていた。そして、あの縦長の瞳孔で俺をじっと見つめる。

どう見ても『わぁい、にんげんさんだぁ!』では無く、『お、ランチじゃん』という感じの無慈悲な目だ。

俺は動けずにいた。情けなく立ち上がった状態からヘナヘナと座り込み、後ずさろうとする。だが、そんな逃避行は強大すぎる存在には露程も意味をなさない。

 

ドラゴンがゆっくりと口を開く。俺は、死ぬのかもしれない。いやだ。俺は、まだ、やるべき事がある。

あの沼が、あの異常存在が、俺に教えてくれた。この世界にもまだ未知があり、俺が憧れた物の一部といえども、確かに空想では無くしっかりとあるのだと。俺は死ねない。死にたく無い。死んでたまるか!

 

「来るんじゃねぇ!くそっ!来るな!来るなって言ってんだろ!」

 

俺は必死に後退りながら、口の中へと地面の砂を投げつける。煩わしげに僅かに口を動かし、今まさに此方へと飛びかからんとするドラゴンへ、俺はやぶれかぶれになって叫んだ。

 

「この……!【消え失せやがれ!】」

 

俺はせめてもの抵抗として、腕で己の頭を覆い、蹲る。少しでも己の命が長くこの世に残留するようにと。

だが、来るはずの終焉は訪れなかった。

俺は恐る恐る顔をあげる。そこには、燃える木々だけが残されていた。

 

……ドラゴンは、何処へ消えたのか?飛び去ったのかもしれない。ドラゴンは無音で移動できるようだ。今の一瞬で飛び去ったとしても、俺には気付くことすら出来ないだろう。突然の心変わりがあったのかもしれない。ランチは人間では無く、もしかしたらサラダを食べることにしたとか。だが、俺は先程何と言ったか。まるで、小学生の妄想みたいだ。だが、極限状態に居た俺は思考回路がぶっ飛んでいた。

その妄想を試してみたくなるくらいには。

 

「【火が消える】」

 

目の前で燃え盛っていた木々を彩る炎達が、一瞬にして消え去る。俺は夢を見てるのだろうか?

とてつもない全能感。そりゃそうだ。言ったこと全てが現実になるんだから。俺は神にでも……?

そこまでは考えて、突然俺の足から力が抜けた。どさり、と膝を突く俺。頭を酷い倦怠感が襲っている。

ガンガンと頭をぶん殴られるような頭痛。そして、極度の緊張状態からの離脱。俺は当たり前のように意識を失った。

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