「予想よりも早かったな・・」
その知らせは街に着くや、すぐにグレンの耳に入った。なんでも妖精の尻尾マスター、マカロフ・ドレアーが倒れたというのだ。それも何故かマスターマカロフの魔力が感じられないほど弱くなっているという。幽鬼の支配者であるグレンには心当たりがあった
「アリアか・・・・どうやってマスターマカロフに魔法をかけることができたのかは知らないが予想していたよりも事態は深刻・・」
依頼に出る前に襲撃の話を聞いたばかりなのに帰ってきてみたら既に戦争状態だという。流石にここまで早いとは思っていなかったが取るべき行動は変わらない
「リタ、アリス。これは危険な依頼だ・・・・だが、お前たちになら任せることができる」
リタとアリスは真剣な表情になり、グレンの次の言葉を待つ
グレンの振り返り一つ息を吐くとその金の瞳を二人に向ける
「お前達には幽鬼の支配者の支部を潰して回って欲しい・・・可能であればマスターマカロフの魔力を回復できる方法を探してほしい。大変なことだが、すまない。お前たちにしか頼めないんだ」
「任せて。あたしはグレンの頼みなら断らないよ・・・それにあたしらのタメでもあるしね!」
リタの言葉にアリスもコウコクと頷く。グレンは微笑むとリタとアリスと握手をかわす
リタはニッと笑って返すとすぐに与えられた役目を果たすために走り出す。グレンが拳に力を込めると魔法陣が展開される
「聖拳。我が拳は全てを砕く矛となる・・・・!」
両手の拳に十字にも似た聖痕が現れ魔力が大幅に上昇する
「行くか」
妖精の尻尾。ギルド前
妖精の尻尾は今窮地に立たされていた。マスタージョゼの魔法によって生まれた幽兵(シェイド)に囲まれじりじりと追い詰められていく。妖精の尻尾の魔道士、カナが幽兵に襲われる瞬間に金色の光が幽兵を貫く
「なに?!」
「無事か」
「アンタ、幽鬼の支配者の魔道士でしょ。なんでこんなことを・・」
「俺は・・・自身の正しいと思うことをするだけだ」
次々に撃破していくものの一向にその数は減る気配が無い。これではジリ貧だ
魔導巨人の姿となった幽鬼の支配者のギルドは大きな魔法陣を描き始める。それはグレンも見たことのある魔法だった
「アビスブレイク・・・!!マズイな。俺は中に入りジョゼを止める。その間耐えてくれ」
「素直に頼めると思ってるの!それにアンタじゃジョゼには・・」
「信じてくれとは言わない。だが、何とかしてみせる・・・お前にシェイドを払う力を譲渡する。聖龍の息吹よ聖なる守りを与えたまえ」
カナの右胸に聖痕が現れる。一時的な魔力の増強と聖なる光がカナの中に宿る
「これは・・・」
「これは一人にしか与えることができない。現状お前に託すのが一番だと判断した・・・頼んだ。カナ」
「じゃあ・・・ミラをグレイを。私の仲間を頼んだよ・・!その、前に仕事した時アンタは他の幽鬼の支配者の魔導士とは違う気がしてたんだ」
「・・・ありがとう」
それだけ言うとグレンは自身の体を光で覆いギルドに向けて凄まじい速度で移動する。足に魔力を溜めて水面で爆発させる。その勢いを利用して高く飛び上がると拳に力を込める
「ウォオラァ!」
金色の光と共にギルドの壁を打ち砕き中へと突入する。目指すはジョゼのところだ。奴を倒さない限りこの戦争は終わらないだろう。あるいはエレメンタル4を一人残らず片付けなければ・・・もう一つの障害。それは鉄の滅竜魔道士、黒鉄のガジルだ
上の階からよく知る魔力を感じる。アリアだ
「少しキツイか・・・だが、この気を逃せばチャンスは無い・・・!!!」
両腕の拳を合わせ魔力を増幅させていく。巨大な聖痕が魔法陣となって浮かび上がる
その両手に集まった力をさらに片手に収束させていく
「聖竜の崩拳!!」
天井を打ち付けた瞬間に遥か上まで衝撃波が突き抜けていく。床を駆け上り壊れた先へと行く。そこでは今にも桜色の頭をした魔道士がアリアの手によってやられそうになっている瞬間だった
「聖拳〝白虎〟!!」
衝撃波と共に部屋中に爪の傷跡ができるほどの魔力を収束した一撃で辺り一体全てを巻き込んだ拳がアリアに叩き込まれる
「グッ・・!!」
桜色のツンツン頭をした青年を抱えるとアリアから間合いをとる。静かに床に下ろすと、今まで仲間としてギルドにいた魔道士に敵意を込めた眼差しをぶつける
「ナツ・ドラグニル。離れてろ、コイツは俺が片付ける」
「お、おまえ・・・」
聖拳の魔導士の力。今だギルド内で彼の本気を見た者はいない、ただ二人を除いて
その事実がアリアを震えさせる。あのガジルが一目置く魔道士、グレン・ローランド
「裏切るつもりですか」
「何を今更。悪いが全力でやらせてもらう」
グレンの拳が一際強い力を纏う。その光はやがて全身を覆うように膨らんでいく
アリアも見たことのない状態へとシフトした。グレンは本気だ
「ならば、私も本気で相手を・・」
「遅ぇよ」
アリアの言葉が終わるよりも早くグレンは行動していた。一体アリアの目にはどう写っていたのか。一瞬の光のような速度で間合いを詰めたグレンの拳が正確に人体の急所を捉えていく
「聖拳〝滅〟!!」
拳が休む間もなく連続で叩き込まれていく。体に打ち込まれるたびに衝撃波はそれを貫通して後ろの壁にひびをつくりだす
「吹っ飛べ!聖槍ロンギヌス!」
拳に光が宿り、槍のごとき一撃になった拳を叩き込む。連打によって浮き上がった体が渾身の一撃によってアリアの巨体が飛ばされ数回バウンドしてようやく止まる。アリアは既に気絶していた
「ふぅ・・・不意打ちみたいなもんだが。倒せれば良しとしよう」
「やりやがった・・」
ナツの手を引き立たせる。少ししてエルザが部屋に入ってきた
「アリアが倒れている・・・ナツが倒したのか?」
「いや、こっちの黒髪のやつだ」
エルザとは顔見知りということもあってか、すぐに事情を察知したらしい。そこで安心したのか既に満身創痍だったエルザはその場に崩れ落ちた
ナツはエルザの体を抱きとめる。グレンは最終的な目標へと向けて歩き出す
「グレン・・・何をする気だ」
「ジョゼを倒す・・・俺はそのためにここへ来たんだ」
「待て・・!ジョゼは聖十大魔道の一人だ、一人で行くのは危険すぎる!」
「何回か依頼を共にした時のことを覚えているか?俺はお前たちと関わっていくなかで妖精の尻尾が気に入ってな・・・こんなところで消えて欲しくはないんだ。可能性が少しでもあるのなら俺はそれに賭ける」
「グレン・・・やめろ・・・死ぬぞ!」
グレンはひらひらと手を振ると歩き出した。最恐の敵を倒すために