至らない点も多いでしょうが、それでも楽しんでいただければと思っております
少し期間をあけましたが、よろしくお願いします
「ん・・・」
目を覚ますと、視界にはいっぱいの白。と視界の端にはいかにも病院のお見舞いらしきものの数々が並んでいる。と言っても果物と花が添えられているだけだ。傷が完全には癒えておらず体が少し痛む。聖十の魔道士と一対一でやりあって五体満足、軌跡と言えるのかもしれない。自分の幸運に感謝しながら上体を起こした
空いている窓からそよ風が吹き込む
久々に落ち着いた気分だ。ホッと息を吐き出すと窓から一通の手紙が入り込んでくる
魔法陣と共に手紙の封が開けられると文字が浮かび上がる。この細工は良く知っていた
「リタだな」
自然に笑いがこぼれる
〝一週間も寝ていたみたいね。なんで知ってるのかって?それは秘密よ!女の子への詮索はしないように。まったく、コテンパンにやられるなんてらしくないじゃない。まぁ、それもアンタらしいのかしら?あたしらは今、東の国に来てるわ!やっぱり世界は広いわね。じゃ、最後に。アンタはアンタで楽しくやりなさいよ、また会いに行くわ〟
「リタにまで心配をかけてしまったな・・・さて、俺はこれからどうするかな、旅にでも出てみるか。それとも新たなギルドを探すか・・・」
これからを考える。もう右の手の甲にはギルドの紋章はなかった
評議員の問題も片付けないとならない。これだけの騒ぎを起こしたなら彼らも黙ってはいないハズだ。先ほどとは異なり今度は重いため息がこぼれる
「あ、起きたみたい!」
若い女の声。声の方に目を向けると青い髪の少女・・・小柄だ
「キミは?」
「私はレビィ!レビィ・マグガーデン、ギルドのために戦ってくれたって聞いてお見舞いに来たの。大丈夫?」
彼女のことは知らない。そもそも妖精の尻尾の魔道士のことを多くは知らない。一部の者とは良く会う機会もあったのだが・・・
「大丈夫だ。もう動ける・・・評議員が来ただろう?問題を早く済ませて次の目的を探したくてな。良かったら俺が眠っていた間の話を聞かせてくれないか?」
レビィ。が言うことを簡潔にまとめるとこういうことだ
評議員はギルドのメンバーひとりひとりに事情聴取を行ったものの、起きることのなかったグレンに関しては省かれたとか。そもそも直接的にはそこまで関わっていないためあまり重要視されなかったのだろうか。現在は幽鬼の支配者は解散、妖精の尻尾は無罪判決になりギルドの仲間はギルドを再建中とのことだ
ちなみにグレンにもお咎めはないらしい。紋章が消えていたことにも納得できたし、リタ達のことも確認できた。それにギルドが無罪ということもあってグレンにとっては理想の結末を迎えることができたのだ
「良かった・・・これで何も心配をすることなく。俺は新たな道を歩いて行けそうだ」
「それにしても、どうして妖精の尻尾を助けようとしてくれたの?あなたは幽鬼の支配者の魔道士だよね?」
一旦間を置いてからレビィに自分のこれまでの経緯について聞かせる。自分が前々から妖精の尻尾の魔道士と関係があったこと。自分が幼い頃にジョゼに拾われたこと。グレンが滅竜魔道士であることも
「気まぐれだ。些細なことさ、俺はリタ達の手助けをしたかったしあのギルドが好きじゃなかった。それだけだ」
話を黙って聞いていたレビィは急に立ち上がるとグレンの手を引っ張る
「行く場所がないなら私たちのギルドに来たらいいじゃない。みんな噂してたんだよ、仲間になったら頼もしいなって!」
「いや・・・だが・・」
少女の笑顔を見ていると照れくさくなる。だが、無理に手を振りほどくわけにもいかずぎこちなく微笑みを返すことしかできない
その後、半ば無理矢理引っ張られるように退院するとギルドの場所まで駆け足で向かっていった
「グレン!気がついたのね」
「あぁ。あの時は守ってやれなくて済まなかった・・・」
「わたしは大丈夫よ、ちょっと気を失ってたみたいだけど・・・私こそごめんなさい」
「いや。ミラジェーンは悪くない。俺の力不足だったんだ」
お互いが交互に謝る姿がおかしくて自然と笑いがこみ上げる
最初に出迎えてくれたのはミラジェーン。今更だが前にあったときとは随分と違う印象を受ける。前はもっと荒々しいイメージがあったのだが、何かあったのだろうか
「おぬしがグレンか・・・ウチのガキ共が世話になったみたいじゃのう」
「俺は俺のやりたいことをしたまでだ、マスター・マカロフ」
巨人になっているマカロフに驚くこともなく挨拶をかわす。実際、初対面の時は驚いたこともあったが、今では慣れたものだ。お互いが正規ギルドの立場であった以上顔を合わす機会は何回かあった。もっとも、ギルド間のぎくしゃくとした雰囲気もありこうしてちゃんと会話をしたことはなかったが
「ウチのギルドが迷惑をかけて済まなかった・・・・謝って済まされることでもないが・・」
「なんでお前が謝ってんだ?つか、俺と勝負しろ!」
「いや・・・ていうか、俺もお前も怪我人だろ」
マカロフに頭を下げようとしたところ後ろから強引に肩を組まれて、何とかその場に踏みとどまる。半ば呆れ気味に少年に目を向けた。桜色の髪に、竜のウロコにも似たマフラー。滅竜魔道士のナツだ
「滅竜魔道士・・・・だそうじゃな」
マカロフの言葉にグレンは頷き、太陽の光を掌にすくい取りそれを口に含んで体に取り込むと拳に光を灯す。激しい閃光を放つ両手の拳は力を抜くと何事もなかったかのように霧散して消えた
「七年前に聖竜セインガルドに魔法を教えてもらったんだ。太陽と月の光を体内に入れることで俺は力を増幅させる・・・ナツでいう炎みたいにな」
「これから、どうするんじゃ」
「何も考えてない・・・これから先どうするか・・・」
溜息まじりに答える。自身のギルドを攻撃したものの後のことを考えるのを忘れていた。リタ達を開放するのにも必死だったため自分のことを少々ないがしろにしていたようだ。マカロフはそう答えるのを知っていた、あるいは待っていたようにグレンに手を差し出す
「どうじゃ。ウチに来んか、行くところもないんじゃろ」
「・・・願ってもない誘いだ。だが、いいのだろうか・・俺はまがりなりにも幽鬼の支配者の人間だったのに」
自身のギルドの犯した罪の大きさを考えると後ろめたい気持ちも湧いてくるだろう。思案するグレンを今度は今朝と同じ感触の手が引く
「入ってくれると心強いな。だって、グレンって強いんでしょ?」
「レビィ・・・」
レビィのひと押しもあり、グレンはギルドへの勧誘を承諾した。右手の甲には今までと異なり新たに妖精の尻尾の紋章が刻まれる
「新しい仲間の歓迎だぁ!」
「漢だ!漢なら酒を飲め!」
「いや、わけわかんないから・・」
妖精の尻尾はつい最近大きな規模の戦闘があったとは思えないほどに陽気に騒ぐ
その中でグレンも笑っていた。これが自分の夢見たギルドの形なのだと