月の瞳は何を覗くか 作:泣沢女神
「──バスター!」
少年が着いた時、決着はすでについていた。半透明黒色かつ不定形のそれに対し桃色の砲撃を行ったのは白いワンピースの少女であった。
桃色の砲撃はチャクラによるものだった。チャクラを変換して水増しをしているのならわかる。しかし、この砲撃に載せられているのは封印術式だろうとあたりをつけていた。近距離ではあるが、少年も似た威力の術を使える。問題なのは、減衰の激しいはずの遠距離攻撃かつ封印という繊細な術を交えた複合術式であることだ。
少年は両眼を開くべきかもしれないと冷や汗をかいていた。何より、少年にはその顔に見覚えがあった。
あの少女は、高町──不破の者だ。未だ鍛えられていない、原石というべき彼女の身体は不破家の高速機動に耐えられる素質と才能がある。その上、あの文の後に高町の者が解決に乗り出している。私は信用されていないのだろうと少年はそう判断した。
「あ、あの」
少女が少年の方を向いて話しかけてくる。
「高町の者よ。何故関わる」
失望したぞ、高町士郎。少年はその言葉を喉元で殺す。判断にはまだ早い。情報はまだ揃っていないと自身に言い聞かせる。
「暴走させないのなら、私は何も言わない」
少年はそう言って闇に消える。残された少女は、振るう力の元持ち主の声で現実に戻った。
少年は頭を抱えていた。少年は今の雇い主であるバニングス氏を好ましく思っている。金払いが良く、定期報告の時間を設け、それでいていざというときの足切りさえ少年にばれないよう準備しているところも、少年にとって好印象であった。
差別はしないが、区別はする。それでいて準備は忘れない。
表の世界の住人で出来る者は意外と少なく、彼が傑物である証拠であった。
故にこそ、少年は頭を抱えていた。ここまで頭を抱えたのは最初の仕事、保護対象であるアリサ嬢の友人の1人が人間でないことを説明した時以来である。むしろ一緒に説明したほうが良かったなどと浅慮ながら思ってしまう。それほどまでに、「不破」の名は重かった。
かつて裏の世界で知らぬ者はいないと言わしめるほどの一族である不破。その血族がまだ残っている、などと適当なマフィアに伝えればそれだけで混乱が生じる。死人が両の手で済めばいいが、あの「龍」が必ず出てくる。奴らなら情報源すら始末するだろうことは想像に難くない。
それほどまでに、不破の実績は重いのだ。その影響力たるは、封印術で対処可能な限りあの宝石のほうが有情ともいえる。よくここまで厄介事が集まって何もなかったなと思ってしまう。流石は海鳴市、災厄の特異点である。
溜息を一つ吐き、小さな巻物を開く。印が刻まれた陣は、すでに3つとなっていた。
不破
かつて裏世界にて名を馳せた一族。
体術に長けたこの一族は、刀と小道具を組み合わせた暗殺術を得意とする。その神髄は技巧ではなく、才と鍛錬による奥義である。
奥義の名を『神速』。最大速度を思考より早くすることで対象の認識外へと移動する体術である。そこに一切のチャクラを使用せず、道具を必要としない。
かつてあったとされる寿命を使用する禁術『八門遁甲』でなければ体術において上位に立てず、一騎当千と謳われるのも確かなのだろう。
龍
中国に存在する世界最大級の裏組織。その発生は中華人民共和国建立後と新しい。
人の多さを武器とするこの組織は、多くの裏社会の組織・一族を滅ぼし、地位を上げていった。『不破』や『日向』等の日本の裏稼業も滅ぼしたとされるが、その対価は大きく、暫くは回復に時間を費やすこととなるだろう。