月の瞳は何を覗くか   作:泣沢女神

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03 正義

「──では、お向かいの時間には参りますので」

 

 海鳴市の一角、森に隣接している月村家の屋敷にて、初老の運転手は少女を車から降ろしながらそう言った。

 彼の名は鮫島。バニングス家お抱えの運転手であり、絵に描いたような執事のようでもある。燕尾服を着こなした彼であったが、その服に似合わないネクタイが彼の職種を表していた。

 

「ありがとう、鮫島」

 

 少女──アリサ・バニングスはそう言って屋敷へと入る。彼女が屋敷に入るのを見送ると、鮫島は車の死角に向かう。

 

「では、お願いしますね」

 

 いつの間にかそこにいた少年は鮫島に見えるよう会釈をし、森に入る。引継ぎを終えた鮫島は、主人から任されていた別の仕事をこなすために車に乗り込んだ。

 

 

~*~

 

 

 少年──彗星は困惑していた。森の中で待機していた時、近くで巨大なチャクラを感じたのが始まりであった。急行した彼に待っていた光景は、あまりにも信じられないものであった。

 

 でかい子猫である。

 

 これが化け猫といわれる存在や、忍獣に近しいものであれば、彗星は嫌という程見てきた。しかし、この子猫は違う。ただただ大きいのだ。

 

 一般的な子猫と相似関係にある。彗星の導き出した推察はこれだけであった。現実逃避ともいう。

 

 心の中で頭を抱えた彼は一つ溜息をついた。さっさと終わらせよう、と右眼のチャクラを回そうとした瞬間、後ろからくる存在に気が付いた。

 

「……高町の者か」

 

 一瞥もせず、彗星は後ろに立つ白の少女にそういう。彼女は明らかに困惑しているようだった。

 

「えっと、あの猫は──」

「知らん。私が来た時には既にああだった」

 

 少女が言い切る前に、彗星は投げ遣りに答えた。後ろの少女を無視し、一瞬だけ右眼を開いたことで彗星は確信した。やはり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうであれば、やりようはある。

 

 彗星は静かに千本をいくつか取り出すと、さらに困惑した少女を気にせず高く飛ぶ。

 

「少し痛いぞ」

 

 投擲された千本は彗星の狙い通りに着弾する。大きな子猫は驚いたような鳴き声を出し、すぐに地に伏した。子猫が倒れた時も、彗星が着地した時も、音はそこまで出なかった。

 

「死ん、だ?」

 

 彗星のものより、さらに高い少年の声。その声は少女の方の上の小動物フェレットから発せられていた。

 

「殺してはいない」

 

 彗星はそう言い、光を放ちながら本来の姿に戻っている子猫に近づく。彗星は子猫から千本を引き抜き、傍らに落ちている菱形の水晶に手を伸ばした。

 

 ──刹那、桃色の球体が彼の手があった場所を通り過ぎる。

 

「……何をしている」

「それはこっちのセリフなの」

 

 怒り心頭。少女の状況を表すのに、これ以上の言葉は必要なかった。

 

「もう一度聞こう。何をしている」

「あなたにジュエルシードを渡すわけにはいかない!」

 

 落ち着いて、なのはとフェレットは少女にそういうが、彼女は聞き入れない。

 

「ジュエルシード……。そうか、この危険物はジュエルシードというのか」

 

 彗星は呟き、なのはと呼ばれた少女と対峙する。

 

「ジュエルシードはユーノ君の物。それをあなたみたいな人に渡すわけにはいかないの!」

 

 どうやら、彼女の中で私は極悪人判定のようだ。彗星はそう考えた。

 

「高町の少女よ。お前はそんな理由で世界を滅ぼしかけたのか」

 

 落胆したように──実際そうではあるのだが──彗星はそういう。

 

 少女がどういうことか尋ねようとしたとき、すでに彗星の行動は終わっていた。一瞬の隙、そこを突いてジュエルシードを回収する。

 

「!返してっ、それは!」

「封印術──封四法印」

 

 青い輝きは陽炎のように少女の視界から消え、彗星の持つ巻物に封の字が1つ増える。

 

「あなた、何をしたんですか」

 

 空から響く、高町の少女とは異なる少女の声。

 

 そちらを向けば、声の主は浮遊していた。高町の少女なのはと対を成すように黒い、痴女のような服装。黒に金色の宝玉が着いたような斧槍バルディッシュを彗星に向け、金髪のツインテールをなびかせていた。




千本
 日本の裏稼業の一種、忍の者たちが使う忍具の一種。
 長い針であるこれは、本来「鍼」に用いる医療器具である。が、経絡──即ち、神経に精通しているものにとっては強力な暗殺兵器にもなりうる。力ではなく技量を求めるこれは、くノ一の房中術と併用され、研ぎ澄まされていった。
 「血泪ケツルイ」彗星にとっては使い慣れない道具であり、使い続けている道具でもある。それは、千本の本質が生物を殺すことではないからだろうか。
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