月の瞳は何を覗くか 作:泣沢女神
──挟まれた。少年はそう考える。
上空には斧槍を構えた金髪の少女、平地には杖を構えた高町の少女。彼女らはそれぞれ犬とフェレットの
8つの瞳は少年──否、少年の持つ巻物。ポケットに入れらるほどの小さな巻物が、この舞台の主役だった。
「……ジュエルシード、といったか」
少年がそう言うと、向けられる
「見ればわかる。膨大なチャクラ──エネルギの塊だ。過去の大戦に使われたという原子力爆弾とやらも、これには及ばないだろう」
高町の少女が一瞬固まる。対して、何のことかよくわかっていない金髪の少女をみて、少年は一瞬浮かんだ疑惑を頭の片隅に置いた。
「それで──何をしたか、だったか。
単純な事だ。外からの干渉を受けないよう隔離──有体に言えば、封印した」
「それで、何をするつもりなんですか」
新たな質問の主は高町の少女。怒りが含まれたその語彙に、少年は嫌な懐かしさを覚えていた。
「血は争えないな」
「え……?」
「いや、何でもない。
質問に答えよう。
信じられない。表情は、揺れる瞳はそう語っていた。
高町の少女にとって、目の前の少年は子猫を容赦なく殺す異常者であり、街に被害が出ないよう飛び回る同士でもあった。聡明でも未だ幼い少女は、その二面性を受け止めきれなかった。
「……では、管理ができるのであれば渡してくれるのですね」
金髪の少女の声に、高町の少女はハッとする。
「この街──いや、規模を考えるなら
──暴走しないように管理する。大事なことだ。その恐ろしさは、ジュエルシードを集める過程で嫌というほど感じている。
「ええ、安心してください。この
──持ち主の元に戻す。これも大事なことだ。
ならば、だからこそ。管理ができる持ち主に返すべきだと、少女は行動していたのだから。
「っ!だめ!」
高町の少女の声は、少年と金髪の少女の取引を中断させるのに十分であった。
「ジュエルシードは、ユーノ君の物。管理なら、私たちのほうが適任なの」
「そ、そうだ!管理局でもないのに、魔導士が──」
「うるさいねえ、この小動物は。食っちまうよ?」
フェレットと赤い犬が続く。少年はポーカーフェイスを続けながらも、急に増えた単語から内心宇宙猫状態であった。
「──情報が足りない」
少年はそうこぼした。
「双方、情報が足らないな。どちらの言葉も、私にとってはウソかどうか判別が着かない。間違った方に渡して次元世界とやらが被害を受けるのも嫌だしな」
少年は巻物をコートの中に収める。その行動と共に、金髪の少女は己が得物を少年に向けた。
「この手段は取りたくありませんでした」
「暴力で解決する、か。やはり、後ろ暗い何かがあると見える」
一触即発。この言葉が相応しい環境となり、火蓋が落とされる──
──ことは無く、空気を読まない可愛らしい子猫の鳴き声でその場は固まった。
全員の視点は、少年の足元。安心しきった表情で毛づくろいをする、先ほどまでジュエルシードが入っていた子猫だった。
「生きて、る?」
「殺してないと言っただろうに」
小動物か、高町の少女か。どちらかがそうつぶやいた言葉に、少年は冷静に返した。
「……ええと、どうしようか、アルフ」
「いや、気にしなくていいと思うけど……」
金髪の少女と赤い犬も毒気を抜かれたようで、互いに顔を見合わせる。
高町の少女──なのははようやく二人を正確に見る。どちらも距離があるため正確には分からないが、同い年ぐらいの背格好だと気づく。
少年は一つ溜息をつくと、もう十分だと懐から出したコインを上に弾く。8つの瞳が弧を描く金属音の主を追っている間、煙幕がその場を包んだ。
二人の少女とそのお付は急な煙幕に対応できず、ただただ困惑していた。晴れた頃、二人の間にいた少年はいなくなっており、未だ毛づくろいをしている子猫が彼のいた場所を示していた。
「レイジングハート、何処に行ったか分かる?」
「No. Lost him.」
「バルディッシュ」
「 Similary, sir.」
「「But ……」」
二基のデバイスが同時に主人へと伝える。
「Discover a Jewelseed, sir.」
「Under cat.」
毛づくろいを終え周りを見渡している子猫の下、少女たちは緑色の小さく細いそれを見つける。ジュエルシードが消えた時に少年の手元にあった、1つの巻物。
撤退したときに落としたであろうそれは、新たな火種でもあった。
煙幕玉
裏の世界の住人、特に忍者と呼ばれた者たちの基本装備。ただ煙幕を張るだけの殺傷力が無いこれは、忍者の隠密行動を確実にする道具として開発・改良が進められた。
効果を上げる工夫として、マジックの基本である視線誘導と組み合わせる、多くのパターンが考えられてきた。
彗星の場合、それはコインであった。高い金属音を出せる薄型円板のそれは、大抵の人が振り向く魔力と、持っていても落ちていても違和感のない日常の象徴でもある。