月の瞳は何を覗くか 作:泣沢女神
殺意。それは生物の放つ気の中でも最上位の威を誇り、原初の気でもある。チャクラという不思議エネルギを使う者たちが忍と呼称されるのは、そこに理由があった。
チャクラの片翼を担う「精神エネルギー」を鍛えることは精神を安定させ続けることと同義であり、諜報や攪乱に最も必要な要素でもある。殺気を抱くことはあっても、表には出してはいけない。そう教えられていた彗星は、彗星と偽った後もそれを守り続けていた。
故に、彗星に殺気を抱かせ、あまつさえ表に出させるものはほとんどない。
「あんのアホはどこだぁ……っ!!」
黄色の軌跡と、桃色の軌跡。ビル街を彩るその光は、小型になった最新戦闘機の軌跡とよく似ていた。違うところを挙げるとするならば、その光が途中で直角になっているところだろうか。
「Flash move.」
後ろを取った──そうフェイトが思った途端、それを読んでいたと言わんばかりに白の杖が魔法を発動させる。瞬間高速移動魔法──対高速接近系魔導士用に用意していたそれは、機動力に頼り切っている彼女にとって天敵と言えるものであった。
「Divine Shooter.」
「 Defenser.」
軽い砲撃系魔法かと見紛う威力と範囲の射撃魔法に対して、最低限の盾で受け流す。魔力の残滓が、周囲に増える。
「フェイトちゃん!」
今一度、なのははフェイトに語り掛ける。それは、経験に基づく行動であった。
「話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ何も変わらないって言うけど、話さなきゃ伝わらないこともきっとあるよ!」
私は──と揺らぐフェイトに、フェレットと戦っていた大型犬が待ったを掛ける。
「フェイト!答えなくていい!
優しくしてくれてる人たちのところでぬくぬく甘ったれてきたガキンチョなんかに教えなくていい!」
それは、フェイトとアルフの現実であった。
「あたしたちの最優先事項は、ジュエルシードの捕獲だよ!」
固まるなのはに対し、フェイトは逃走──否、確保に向かう。
一拍遅れてなのはも追いかけるが、高速機動を得意とする魔導士には一歩及ばない。
魔法を用いたその飛行は、実質落下であった。
ジュエルシードを自身の杖に収納するため、お互いに突き出したそれは
ジュエルシードを挟む形で噛み合い
そして
時間が止まったかと錯覚するほどの静寂の後、2つの杖にひびが入り、広がり、砕けた。
閃光、一拍置いて爆発。地面から垂直に放たれた極光は根元たるジュエルシードを中心としたものであった。
何も言わずに、杖は己が主人を避難させる。核に入ったひびを見れば、十分な働きだと言えるだろう。
「大丈夫……。戻って、バルディッシュ」
「 Yes, sir.」
自身の杖が危険な状態にあることを察したフェイトは、自己修復プログラムを走らせるためstanby formへと移行させる。
宙に浮かぶ、覚醒状態に戻ったジュエルシード。フェイトは、それをいち早く認識していた。
──彼を除いては
「表鬼門顕現」
空から鳥居が落ちる。
「裏鬼門顕現」
艮と坤の方角、対になるように置かれた鳥居は、それを基盤とした陣を形成する。
「四象──封印」
白にも程近い、青い光。鳥居を彩る鮮やかな赤とは対極にあるそれが陣から放たれると、瞬時にジュエルシードは物言わぬ宝石と化した。
「……どういう了見か、聞かせてもらえるな」
その身長に合わせたのだろう、青白い月を背負う黒のロングコート。下に見えるは忍び装束。少年と言えるだろう容姿の彼は、名を『血泪』の彗星といった。
封印術『四象封印』
『血泪』の彗星が用いる術、封印術『封四法印』のオリジナル。正確には名の同じオリジナルを彗星が使えるようアレンジしたものではあるが、封印精度は互角である。
彗星は自身の力不足を補うため、鬼門による八卦封印を補助として用いている。鬼門を設置する仕様上、動く対象を封印することは難しい。それさえ対処できれば、かの封印術で名を馳せたうずまき一族のそれと互角である。
複数の封印術を一度に行う都合上、本来なら数人で行う儀式系の術だが、彗星はそれを1人で行っている。才能もあるだろうが、それ以上の何かがあるのだろう。