月の瞳は何を覗くか 作:泣沢女神
そんな時だ。手遅れの時だ。彼が私の所へ来たのは。
E1 紅月の少年と若狼の少女
何故こんなことになったのか、私には分からない。興味がなかったと言えばウソになる。それでも、こんな状況は望んでいない。
何度白濁を飲まされただろうか。何度錠剤を飲まされただろうか。ただ1つ薄い理性で確かなのは、救われても私は元には戻れない。私はすでに、口元を野イチゴで汚してしまったのだから。
「あー、やっぱもう無理じゃね?」
男の声。私を弄んだ男の声。何を言っているのか、もうわからない。自身の声はすでに、数回前の
「こいつどうする?もう売り物にすらならないぜ」
「放置だ放置。ここ以外にも場所はあるからな」
力なく、私は上を見る。風の感覚は辛うじて感じられるが、その方向はただただ暗い。重力はこの方向を空と示すが、月も星も見えない。
そんな時だった。一陣の風と共に赤き月が昇った。
悪い時に悪いものは続く。私はうんざりしていた。
いたのは2人ほどのチンピラ。近くには
別の場所でも探すか、と考えたところで違和感を感じる。
「──血龍眼」
左目にチャクラが巡る。酷使される目に対応しようと涙が分泌されるが、血が代償として分泌される。開いた左目は血とチャクラを用い、幻術を解く。
「何度繰り返したんだ」
私は近寄ってそう言う。相手は赤髪の少女、その幽霊。稀にいるのだ、地縛霊という類が。そういった手合いは強い無念か大きなチャクラ、もしくはその両方を持っている。感じられるチャクラの質は彼女が
そこで気付く。足元のブローチ、若い狼を彫ったであろうそれを核にしている。正確には、そこにはまっている白い宝石だが。
「……あなたは?」
彼女の声は静かに響く。自身がすでに亡くなっていると理解していない、自身がすでに体の束縛を解かれていることを理解していない声。
私は憐れみと期待を込めてこう言った。
「彗星。周りからは、『血泪』の彗星と呼ばれているよ」
手を差し出す。最低でも1年は遅かったであろう、伸ばされる手。
「依頼を聞こう、お嬢さん」
次の日、海鳴市に都市伝説が1つ増えた。
伝説の名は『紅月の矢』。薬の売人とチンピラが証拠と共に不審死する、ただの伝説。
紅色の矢は罪人の心臓を正確に穿ち、矢の質量と同等の血をその場に残す。
ただの都市伝説だ。
若狼の白い宝石
彗星が探している宝石、その1つ。『月涙』の名で知られる。その輝きと曲線は瞳を思わせ、現在は若い狼の紋章と共にある。
彼は地縛霊の少女の依り代たるブローチのこれと引き換えに罪人を裁いた。彼曰く、これでも返し切れないほどこの宝石は重要だという。
未だ少女はこの宝石に眠り、儀式まで眠り続ける。儀式の後、彼女の意志はどうなるかは分からない。どちらにせよ関係ない。彼女はすでに救われているのだから。