アクオ!ーただの冒険者と言われるが実は領主。   作:鎖藻有男

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「ただいま」と言って長らくの騎士団での遠征から帰宅した兵の男が、リビングに入る。

 するとソファでだらしなく座る妻の隣にカップをもってくつろぐ男がいた。

「おまえ……その男だれだ」夫は見知らぬ男に驚き、問いただす。

 こんな時間に、自分の知り合いではない人間がいれば狼狽するのは当然だろう。

 

「違うのエドガー!おっ弟なのよ!」

 男は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けて意識が遠くなりそうでまともに自我が保てなくなる。

 兄弟はいないと聞いていたのに浮気をごまかそうとしているのはあきらかだった。

 男は持っていた剣で妻を切り捨てると浮気相手も切り捨てた。

 

 

 

「アクオ、おはよ」

 

 

 本を読んでいたところに幼馴染のマリーが朝食のパンをもってやってきてきてくれた。

 

 

「おう」

 

 

読んでいた本を閉じて、テーブルに置く。太陽の光に照るマリーの薄い茶色の髪は柔らかそうなくせっ毛だ。

 瞳はどこにでもいる普通の青で、そこいらの三つ編みソバカスな印象の村娘よりかわいい。

 

 

「くんくん!イイ匂いだ」パンを受け取りながらにおいを嗅いだ。

 

「相変わらずの変態さんだね」

 

 

おいおいなんだよそのジト目。俺は違うぞ!

 

 

「誤解だ変態なんて言わないでくれよ!さっき嗅いだのは焼きたてのパンなんだからな!HAHAHA。」

「安定した冒険者なんだから そういうとこないければモテそうなのに」

「こんなオッツァンがモテてもしょうがないだろ」

 

 それに俺は色恋沙汰はとんで苦手なんだ。

 

「あの本なに?」マリーが珍しそうに指差してテーブルに近づいている。

 

 

「あれは!間違えて買っただけだぞ きっ気にすんな!」

 

 

 本自体は見られて困るようなものではないが、平民の男の読むものではないので少しためらう。

 

 

「アクオ、起きてるか?」ノックとともに、冒険者仲間が家の外から声をかけてきた。

 

「起きてるぞ冒険の約束は昼からだってのに早いなヨハン」

 

「復帰後初のギルド行きだからね、病院まで運んでくれた君には感謝してもしきれない」

 

 

 昔馴染みのヨハンが騎士団の天下り先のギルドに正式に入る前のことだ。大けがをしてずっとリハビリしていた。

 あれじゃ歩くのも無茶すぎるくらいだったが、2か月足らずでほぼ完治するとはな。

 

 

「生きてりゃなんとかなるもんだな」俺がそういうとヨハンは苦笑した。

「そうだ近頃はこのアーデリオ領地で盗難が相次いでいるらしい」

 

 険しい表情のヨハンがマリーに聞こえないように小声で話す。

 

「ならギルド一体に呼びかけでもして、逐一怪しい人物を調べて領主様に報告しておかないとな」

「ああそうだね」

「じゃあ速攻で飯すませるからそこに座って少し待ってくれな」

「それじゃあたし帰るね」

 

 パンを早く食べきり、そろそろギルドへ出発しようとイスから立ち上がる。

 どこからか笛の音が聞こえて俺たちは窓から外の様子をうかがう。

 

 

「アクオ、ヨハン、旅の笛吹きがきてるわ!せっかくだからいかない?」

 

 

 マリーが外で手を振っている。こんな時期に旅芸人が来るとは奇妙だ。

 

 

「妙だな……噂をすれば例の盗人か?」

「ギルドの前にそいつを見に行く。ヨハンは先に依頼見に行ってくれ」

 

 

 やむを得ないとヨハンはこくとうなずいて、ギルドへ駆けた。

 

 

 

 笛の男のもとへたどり着き、鑑賞して投げ銭を入れてやる。

 

 

「立派な笛だったよ」

 

 

 腕は悪くなかったが、盗人の疑いからまともな評価もできず嫌味な拍手を送ることになった。

 こんな客はどこにでもいるし、奴の本業がこれでないならこの程度で怒りはしないだろう。

 この程度でキレていては無差別接待の旅芸人など勤まらないはずだしな。

 

 ちらりと表情を伺ってみるが不愛想な男だと遠目からもわかる。気にしたそぶりはなく、頭を下げて片付けを始めた。

 

 今日の仕事はおしまいらしい。客も減って、今が近づくチャンスだ。

 

 

「もう終わりか?」

「そうだよ。気に入ってくれたんならまた明日、で……!?」

 

 

 

 俺はなにかまずいことでも言ったか? アンコールをねだる客のように近づいただけで、なんらおかしなことはないだろうに。

 

 

 

「あんたこの街以外で見たことがあるな」

「他人の空似か冒険中にすれ違ったかなんかじゃないか?」

 

 

 まったく見覚えがないが、万が一にも俺の知られたくない秘密を知っているなら口を封じないとだな。

 

 

「アクオあたし先帰るからね」

「おう……俺と旅の話でもしねえか笛吹きさん」

 

 

 この男が盗人かどうか、よりも更に危険な存在である可能性がある。

 俺だけならまだしも、俺と関わったあいつらに害をなすようなら容赦はしない。

 

 

「ここは人が多い」

 

 

 ここで万が一あのことをバラされてはまずい。要求通り移動して話をつけることにした。

 

 

「シンプルに聞こう。あんたは高貴な身分なんだろう?」

「仮にそうだとして、根拠はあるのか」

 

 言われずとも予測はつく。暗殺者か、貴族の外交でいた音楽家なのだろう。

 

 

「俺は城で騎士をやっていた。そのとき見かけた領主がアンタと顔と同じ声だ」

「はあ、そんなの記憶の補正かなにかでそう感じただけじゃないか? 人間の記憶は都合よく書き換えられるもんだしな

俺は高貴そうなとこなんてないしどう見ても平民だろ」

 

「人は図星をつかれると早口になるというのは本当なんだな」

「は?」

「あんたは高貴なところはないと言うが拍手のしかたと知識と立ち回りが平民らしくない」

「そりゃ誉め言葉か?」

「赤ワインは飲めるようになりましたか? アレクシオ・フォン・アーデリオ公爵」

 

 

 赤ワインというキーワードで思い出した。隣国の有力貴族とのパーティーで盛大に酔ったことを。

 

 

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