GATE 連合特地派遣団 彼の地にて斯く戦えり リマスター版   作:ウルヴァリン

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26:畏怖と恐怖

帝国第3皇女であるピニャにとってイタリカ攻防戦が初陣だった。

 

連合諸王国軍の敗残兵からなる盗賊団による襲撃を連合特地派遣団による進撃だと勘違いしたが、民を守らなければならないということには変わらなかったので残って指揮を執っていた。

 

早朝からの攻撃を何度か撃退し、城門の応急処置を済ませたまではいいが劣勢から脱せずにいた。

 

その最中で現れたのが伊丹率いる第3偵察隊とエース率いるリーパー隊だ。

 

しかも同行者にはリンドン派聖魔道師レレイに精霊使いでハイエルフのテュカ、極め付けはエムロイの使徒である死神ロゥリィ。

 

敵意はないということで味方に引きずり込んだピニャは彼等を南門に配した。

 

…………捨て駒としてだ。

 

だが伊丹達が異世界の軍勢だということを知らず、南門に彼等しか配備しないで奥の第2防衛線に戦力を集中させたことにより東西の城壁が手薄となり、しかも守っているのは軍歴のない市民。

 

伊丹達の戦い方を知っていた盗賊はその事を見抜いて、突破しかけていた南門を放置して敢えて東門に仕掛けた。

今回が初陣故に教科書通りの戦い方しか知らないピニャ達に対して元は正規軍だった盗賊達の方が戦い方を熟知していた。

 

人間が一番睡魔に襲われやすい時間帯に夜襲で火矢による先制攻撃を仕掛け、仲間の精霊使いによる風の加護を受けた第1陣が城壁に梯子を用いて取り付き、内部に侵入して城門を開放して本隊が突入。

 

敵情を把握した賊の前に次々と倒れていく志願兵。

 

ノーマも討ち死にしてしまい、士気は完全に落ちていた。

 

城門も突破され、更には挑発に乗ってしまったことで次々と討たれる民兵。陥落も時間の問題となった矢先にロゥリィと栗林、そしてエースが増援に駆け付けて敵を足止めし、たった3人に賊が狼狽える中でピニャ達に信じられない光景が広まった。

 

第4戦闘団による対地攻撃である。

 

空から圧倒的な力を持って賊を次々と撃ち倒し、逆に敵からの攻撃を全く受け付けないヘリ部隊。

そしてピニャとハミルトンの目の前にて、門内にいた賊達を飛来してきたコブラが20mmガトリングで薙ぎ払い、掃射が終わると2人は唖然としていた。

 

 

 

「………化け物」

 

 

 

盗賊を殲滅して悠々と移動していくコブラを見上げながら、ハミルトンの言葉でピニャは軽く震えが止まらなくなっていた。

門内に展開していた賊は実に50人弱で、攻めれば勝てる数だが一瞬で薙ぎ払うというなら別だ。

 

ピニャはそんな信じられないような光景に無意識に涙を流していた。

 

 

 

「………鋼鉄の天馬……なんなのだあれは…………人が抗うことの出来ない絶対的な暴力………全てを叩き潰す力……誇りも………名誉も…………全てを否定する……」

 

「ひ……姫様?」

 

「これは女神の蔑みなのか?………人は何て傲慢で…無価値で……無意味なのか………」

 

 

 

やがて彼女たちの近くに飛来してきてロープを下ろしたUH-1Jより自衛隊員が一気に降下を開始し、地上に降下したらすぐに展開。負傷した民間人の手当や武器を捨てて降伏してきた盗賊を次々と拘束していく。

 

 

 

「あれだけの盗賊が……全滅………連合特地派遣団とは……」

 

 

 

そう言うとピニャは城門を見る。そこには感謝を述べられる伊丹達とは逆に、全身返り値を浴びて今も殺気を醸し出している盗賊の首領の首を踏みつけているエースがいて、手にはマチェットがある。

そしてエースとピニャの視線が重なり合うが、その視線からは殺気が込められていた。

 

その殺気に満ちた視線にピニャは思わず震えてしまった。

 

 

 

「……………」

 

「終わりましたな……」

 

 

 

暫く沈黙しているとピニャにグレイが歩み寄って来て話しかけた。

 

 

 

「はい……我々の勝利です」

 

「いや……勝利したのはエムロイの使徒ロゥリィに連合特地派遣団であって妾ではない」

 

「姫様………」

 

「そして奴等は……聖なるアルヌスを占拠し続けている……我等が敵……」

 

「⁉︎」

 

「やはり………薄々は勘付いてはいましたが……」

 

「………妾はイタリカを救う為に………更なる脅威を招いてしまったのではないか………あの鋼鉄の天馬と強大な魔導がもし……イタリカに向けられていたら…………妾も……」

 

 

 

ピニャは頭の中で想像してしまった。連合特地派遣団が仮にイタリカを侵攻したら間違いなく街は陥落し、彼女たちも捕虜となっている。

 

 

 

「フォルマル伯爵公女ミュリ殿も妾も…簡単に虜囚となり、帝都を支える穀倉地帯は敵の物となる………それを民は歓喜の声で出迎えるだろう」

 

「そんなことは⁉︎」

 

「ないとは言い切れるか?実際に街を救ったのは彼等だぞ?」

 

「……………」

 

「もし彼等が開城を要求すれば、妾は取りすがって慈悲を請い………足の甲にキスをしてしまうかも知れない………特に妾は………あの男が恐ろしい……」

 

「………クレイグ殿……ですな?」

 

「あぁ………あの狂気に満ちた目に…敵を一切近付かせない戦い………あの姿は……」

 

「鬼………ですな?」

 

「………あの男はなんとしても怒らせてはならない……もし逆鱗に触れて仕舞えば……妾達に待ち構えるのは………死だけだ……」

 

 

 

ピニャは誇りが強い。

 

死をも恐れない勇敢な心を有しているが、それはあくまで本物の実戦を知らなかっただけであり、生まれて初めて誰かに対して恐怖を抱いた。

恐怖を抱かせた相手は自分達と比べ物にならない位に強力な力を身にしていて、敵に一切の情けを掛けない。しかもそんな殺意に満ちた男がピニャ達に殺気を向けていたと考えるとピニャの震えはますます増えていた。

 

なんとしても怒らせてはならない………そう判断したピニャは伯爵邸へと戻った……………。

 

 




盗賊を全滅した伊丹達。だがピニャと話をする為に向かった先でエースが怒りを爆発させていた。間違った判断に無駄な犠牲者を出し、しかも自分達を捨て駒にしたピニャに詰め寄る。


次回[怒りを抱く英雄]
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