GATE 連合特地派遣団 彼の地にて斯く戦えり リマスター版   作:ウルヴァリン

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29:協定違反の対価

盗賊団との攻防戦が行なわれたその日の晩、イタリカにピニャの薔薇騎士団が到着した。

薔薇騎士団は戦闘が既に終結していたことに戸惑ったが、伊丹やエース達の活躍があったことを知らずに勝手にピニャの手柄であったという間違った考えを有していた。

 

玉座にてピニャは自身の腹心であるボーゼス・コ・パレスティーとパナシュ・フレ・カルギーを出迎えて、戦は終わってしまっていたにしろ援軍に駆けつけたことに対して苦労を労っていた。

 

そこでボーゼスは敵の指揮官2名を虜囚にしたという報告をし、部下に虜囚にした指揮官2名………伊丹とエースを連れて来させた。

そのぐったりした2名を見てピニャは驚愕し、やがて怒りを見せて褒めの言葉を待っていたボーゼスとパナシュに怒鳴りつけた。

 

 

 

「なんてことをしてくれたのだ⁉︎」

 

 

 

そう怒鳴りつけるとピニャはボーゼスに盃を投げつけた。中に注がれていたワインはボーゼスに浴びせられ、更には額を切ったようで傷口から血が流れていた。

 

 

 

「……えっ?」

 

「はぁ……はぁ……貴様等ぁ……」

 

「ひ……姫様‼︎我々が何をしたというのです⁉︎戦に間に合わなかったにしても指揮官を捕虜にしたのですよ⁉︎」

 

「黙れ‼︎馬鹿者共が………」

 

 

 

ショックに座り込むボーゼスに額に手巾を当てながら理由を尋ねるパナシュ。

だがピニャを含めて副官のグレイは2名に軽いながらも怒りを見せ、ハミルトンは連れて来られた2人に慌てて駆け寄った。

そして意識がない2名を壁にもたれかからせながら必死に肩を揺さぶりながら呼び掛けていた。

 

 

 

「伊丹殿⁉︎クレイグ殿⁉︎」

 

 

 

ハミルトンの呼びかけに返事がない2名。

 

2名とも全身泥だらけであちこちに打撲の後や擦り傷に切り傷。まともに返事もできない状態だったが、酷かったのはエースの方だった。

 

ボーゼスがスティレットによる刺突で貫かれた傷口から未だに出血していて、痛々しい姿だ。

 

ここに来るまでにどれだけの酷い仕打ちをされたのか容易に想像できる状態だった。

 

 

 

「ハミルトン………2名の容体は?」

 

「そ……相当に消耗されている様子です‼︎しっかりしてください伊丹殿⁉︎クレイグ殿⁉︎」

 

「うっ……」

 

「クレイグ殿⁉︎」

 

「うっ……ハ…ハミル……トン?」

 

「よかった……クレイグ殿‼︎しっかり……がっ⁉︎」

 

 

僅かに意識を取り戻したエース。ピニャとハミルトンは少し安堵の表情を浮かべて引き続きハミルトンは呼び掛けるが、いきなりエースは左腕を伸ばしてハミルトンの首を掴んだ。

 

あまりにもいきなりだったのでハミルトンは硬直してしまう。

 

だが激しく消耗しているので逃げようと思えば逃げれるだろうが、エースの‘‘怒りと殺意’’に満ちた瞳に恐怖から動けなかった。

 

 

 

「この………クソ帝国共がぁ……」

 

「あっ………あぁあっ………」

 

「ぐっ……」

 

 

最後の力を振り絞ってハミルトンの首を掴んだエース。だが力尽きて再び意識を失ってしまう。

解放されたハミルトンも恐怖のあまり思考回路が回復せず、彼女の首にはエースが掴んだ際に食い込んだ爪により若干血が流れていた。

 

 

 

「ハミルトン⁉︎大丈夫か⁉︎」

 

「えっ……あ………だ…大丈夫………です……」

 

「メイド長……2名を客室に連れて行って傷の手当を……」

 

「かしこまりました」

 

 

 

同じ部屋にいたメイド長に伊丹とエースを託し、客室へと連れて行かせる。それを見送ったピニャはボーゼスとパナシュに振り返るが、2人に対して般若を彷彿とさせる表情で2人を睨みつけた。

 

 

 

「貴様等………伊丹殿とエース殿になにをした⁉︎」

 

「えっ……た…ただ普通に捕虜の扱いをしただけ……です」

 

 

 

その言葉にピニャは絶望に似た表情をする。

 

この世界に捕虜に対しての人道的配慮は存在せず、捕虜の扱いとは虐待することだ。

 

連行中にひたすら馬で追いかけ回し、疲れ果てて座り込んだ捕虜がいれば槍先で傷付け、剣の峯や鞭、時には棒で痛めつけて無理やり走らせる。

他には殴るや蹴りなんかは当たり前で、伊丹とエースに対しても同じことがされたということをボーゼスはピニャに話した。

 

しかしピニャが最も恐れたのは協定違反とエースの存在だ。

 

特にエースの帝国に対する凄まじい憎悪と無双を誇る強さを目の当たりにしている。

もし彼の力が自分達に向けられたら実戦経験のないピニャ達と、心技体に加えて経験も遥かに大きく上回るエースでは勝敗は火を見るよりも明らかだ。

 

そして伊丹とエースが所属している連合特地派遣団には盗賊を一瞬で滅却する近代兵器がこれでもかという位にある。

協定違反を口実に戦端を開かれたら間違いなくピニャ達は全滅し、最悪の場合は帝国が滅んでしまう。

 

 

 

「伊丹殿達の部下はどうした⁉︎」

 

「あ……あの者達は逃げおおせました」

 

「姫様……なぜ蛮族の指揮官を庇われるのか理解できません‼︎どうか納得出来るご説明を下さい‼︎」

 

 

 

パナシュはピニャに説明を求め、ピニャも呆れながらも説明を始める。

 

イタリカ攻防戦において劣勢状態であったピニャ達に加勢し、更にはリンドン派正魔導師に精霊使いのハイエルフ、エムロイ神殿の死神ロゥリィ。

極め付けは第4戦闘団の圧倒的な火力で盗賊は完全に壊滅し、ピニャ達本人は何もできていない。

協定に関することとエースの戦闘力と帝国に対する凄まじい憎悪を説明した頃には2名は自分達が何をしでかしたのかようやく理解した。

 

加えて健軍1佐が提示した人道的扱いの確約を違反し、今のピニャ達の立場は腹を空かせた龍の巣に片足どころか全身で踏み込んでしまっている状態だ。

 

説明した後に2名の処分と今後の方針を決めたいのでボーゼスとパナシュを退出させるとピニャは頭を抱えた。

 

 

 

「厄介なことになりましたな……」

 

「結んだその日に協定破りとは……」

 

「これを口実に戦争を吹っかける……帝国の常套手段ではありますが、彼等が同じことをしないとも限りませんな」

 

「そうなったら滅ぶのは我等だ」

 

「ですが幸いなことに此度は死人が出ておりませぬ。ここは素直に謝罪されてみては如何か?」

 

「妾に頭を下げろというのか⁉︎」

 

「では戦いますかな?あの天馬に魔導、そして死神ロゥリィにエース殿を相手に……小官は御免被りたいですな」

 

「ぐっ……」

 

「姫、お気持ちは理解しています。しかし頭を下げるだけで戦いを回避できるのでしたら安いものだと思われませぬか?」

 

 

 

歴戦の猛者であるグレイも相手が相手なので一戦交えることに難色を示していた。

 

それ程までの相手だ。

 

重過ぎる空気が流れる中、グレイは雰囲気を解すように戯けた口調で語った。

 

 

 

「まぁ、エース殿は難しいでしょうが伊丹殿のご機嫌次第ならどうにかなるかも知れませぬな」

 

 

 

グレイはそういうと万一の事態に備えてエースが運ばれた客室へと向かう。

今回の事態でエースの帝国に対する怒りは最高潮を迎えるのは目に見えており、まだグレイの方が新米のピニャ達より取り押える事が出来る可能性はある。

 

だがはっきりいえば勝算は薄い。

 

そして去り際にグレイが口にした言葉の意味で伊丹の機嫌をどうにかすれば何とかなるかも知れない。そう考えて協定違反の代価を考えるのだった……………。

 




伊丹とエースを救い出す為に第3偵察隊へ緊急出動して合流したリーパー隊。
卑怯な帝国に怒りを見せながら作戦を考えるコーエンス達。
そしてサーチ&レスキューが開始される。


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