GATE 連合特地派遣団 彼の地にて斯く戦えり リマスター版 作:ウルヴァリン
50:雨
連合特地派遣団がゲートを通り、異世界にやって来て3ヶ月が経過した。
連合の規模はようやく戦力として整い出してきて、自衛隊は5個戦闘団の編成完結。アメリカ軍も飛行場が完成したことで空軍が新しく追加。台湾軍も歩兵師団が到着した。
加えてイギリス軍とオーストラリア軍からも後方支援を目的として輸送部隊と工兵部隊がそれぞれ派遣され、帝国との交渉に備えて参加国から使者が次々と辿り着いた。
伊丹とエースが連れてきたコダ村の避難民の自活を契機にして他の集落からも避難民や商人、更には傭兵などが仕事場を求めてアルヌスに集うようになっていた。
最初はプレハブ小屋だけの難民キャンプだったが急速に目覚ましい発展を見せていき、キャンプではなく1つの町として大きくなっていったが問題が無いわけじゃない。
急速な発展で慢性的な人手不足へと発展していた。
出稼ぎの異世界の綺麗な亜人達に能力に応じてレレイが会長を務めるアルヌス自治会にて商業部門、飲食部門、治安部門に割り振られて連合の隊員や外交官がこぞって一目みたくてアルヌス街へ通い出す。
鰻登りとなる景気の良さに反比例するかのように更に人手不足に拍車が掛かり、そこに更に出稼ぎが来るという無限ループになっていた。
そんなアルヌスに1人の来客が来た。
銀髪のロングヘアに褐色の肌、スタイル抜群の長身にボンテージのような服装をしたダークエルフの美女。
名前をヤオ・ハー・デュッシ。
旅をしながらアルヌスにいる連合特地派遣団の噂を聞いて遠路はるばるやって来た彼女は‘‘ある依頼’’を頼むためにアルヌスへやって来て、言葉に悩まされつつもようやく指揮官の狭間陸将、アメリカ軍異世界派遣群司令官シュガート大佐、台湾軍異世界派遣隊司令官趙大佐との対談を果たした。
今はソファーに腰掛け、陸将との話をはじめようとしていた。
「お待たせしました」
「こちらは自衛隊の狭間将軍、アメリカ軍のシュガート将軍、台湾軍の趙将軍」
「此の身はヤオ・ハー・デュッシ。シュワルツの森より遣わされたダークエルフです」
「お話は伺っております。我々になにやら依頼したいことがあるとか?」
「は……はい」
狭間陸将に問われ、ヤオは腰につけていた袋を取り出して中身を見せた。そこには人の頭くらいの大きさはあるであろう光り輝くダイヤモンドがあり、転売したら一体いくらになるか計り知れない輝きを放っていた。
巨大なダイヤモンドを目撃して狭間陸将達は驚いてしまうが、すぐに姿勢を整えてヤオの話を聞いてみた。
「今より数ヶ月前……此の身の故郷であるシュワルツの森に片手を失った手負いの炎龍が現れております」
「片腕を失った炎龍………」
「奴は我が集落を焼き払い、幾多もの同胞を殺めた………炎龍を討つべく武器を手に立ち向かった者も……だれ1人帰ってくることなく………」
「片腕を失った炎龍とは………間違いなく伊丹2尉とクレイグ中尉が撃退した炎龍でしょうな」
「そうでしょうなシュガート大佐。それで……我々にしたい依頼とは?」
「お願いです………どうか将軍達の軍勢を此の身の故郷に……炎龍を倒す助力を願います」
「助力………我々に炎龍退治をして欲しいということでしょうか?」
シュガート大佐がそう尋ねるとヤオは頷いた。
ヤオの故郷が炎龍に襲われたのは今から2ヶ月前、本来は50年も冬眠から目覚めることのない炎龍が彼女の森一帯を狩場とし始め、既に幾多もの犠牲者が発生している。
このまま行けばヤオの一族は滅びの道を歩むのみであったが、無くなった炎龍の左腕に抉れた腹部を見たことに加えて、その手傷を負わせたのが緑の人………連合特地派遣団ということを掴んだ。
だからヤオは長老達の命に従い、こうして旅をしながらアルヌスを目指していたということだ。
その悲痛な表情を目にした狭間陸将は設置されている地図を手に取り、彼女がいうシュワルツの森の場所を探し始める。
レレイの説明もあり、シュワルツの森の位置は判明。距離的には助力そのものは可能であり、遠征部隊を編成すれば彼女の依頼は遂行可能だ。
………ある一箇所の懸念事項を除けばだが。
依頼を引き受けてくれると信じているヤオは期待の表情を浮かべるが、それはすぐに終焉を迎えることとなる。
「ヤオ・ハー・デュッシさん…………力になれず申し訳ない」
「な……なんと言っている?」
「協力できない……と」
「……………えっ?」
レレイの通訳を受けてヤオは硬直してしまう。
「あなたの故郷であるシュワルツの森……地図によれば帝国との国境を超えた隣国エルベ藩王国の領内にある。軍が相手国の断りなく国境を越えるということはあなたならお分かりになるでしょう。それは宣戦布告を意味するのです」
「諦めた方がいい。彼らの理屈は合っている」
「た…大軍でなくても良いのです‼︎緑の人は10人弱で炎龍を撃退したと聞いています‼︎ですから将軍の軍勢からほんの少しだけご助勢を………」
「滅相もない………それでは部下に死んでこいと命じているも同然。部下の命を預かる者として、そのような命令を下すことなど出来ません」
「あなたの国では領主が独自に軍を動かすことは出来ても、私達はそれが出来ないのです」
「趙大佐の言う通りです。それに我々は現在、帝国との講和を進めている最中。迂闊に軍を動かして刺激を与えてしまえば、あなたの故郷のように何人もの人々が死ぬかもしれないのです」
趙大佐、シュガート大佐の追加の言葉にヤオは言葉を失った。
狭間陸将か懸念していたのはシュワルツの森が隣国のエルベ藩王国領内であることで、残念ながらエルベ藩王国と連合特地派遣団の間に交流は全くない。
しかもタスクフォース サーヴァントのハイデッガー率いるCIAパラミリタリーチーム‘‘ムーンキャスター’’が掴んだ情報によれば、先代の王が行方不明になってから王太子が国の実権を握り、帝国や周辺諸侯に反旗を翻そうとしている。
そのような状態の国と交流を持つということは帝国を刺激しかねないということだ。
「お願いです‼︎このままでは我々は炎龍に滅ぼされてしまうのを待つのみなのです‼︎将軍の仰られたことは理解できますが、どうか曲げて‼︎数人でも構いませぬのでどうか⁉︎どうか……」
「…………帰りの車を用意させます。アルヌス街に自治会が運営する宿舎がありますので、今日はそこで宿泊していって下さい」
「………遠路はるばるおいでくださったのに……申し訳ない」
「そ………そんな……」
ヤオは絶望に満ちた表情で唖然としてしまう。だが最も辛いのは狭間陸将達本人だ。
確かに自分達には炎龍を一切の損害なく一方的に撃破出来る兵器を幾つも所有している。その力を持ってすればヤオの一族を救い出すことは出来るだろうが彼等はれっきとした軍人だ。
特に義心を持つ狭間陸将はすぐにでも部隊を編成して1人でも多くの人たちを炎龍から救い出したいと考えているが、同時に自分が1人の自衛官であるということに板挾みされ、何も出来ない自分を悔やんでいた。
それから暫くしてから対談は終了したがあまりにも後味が悪すぎで、雨が降る中、73式小型トラックでアルヌス市街地に向かうヤオと付き添いのレレイ。
何かを悟ったドライバーを任されている陸将補佐官の柳田2尉は独り言のように口にし始める。
「………俺たちの世界の軍隊ってのは為政者が動かす暴力装置だ。個人が独断で動かしちゃいかんものだ……だが………伊丹、クレイグ、谷ならやるかもな。あいつらが大切な物を救う為なら………」
「伊丹、エース、谷ならやるかもしれないと………」
「伊丹……エース……谷……」
柳田の言葉を通訳するレレイ。ヤオは意気消沈しつつも3人の名前を口にした。この時はまだ他愛も無かったが、この言葉が後に騒動を巻き起こすきっかけとなる……………。
和平工作にて帝都ウラ・ビアンカにやって来た伊丹、エース、谷達。ピニャの園遊会にて傍に設けた射撃場にて銃の威力を議員達に見せつける中、招かれざる客がやって来たという連絡が入る。
次回[2つの平和]