GATE 連合特地派遣団 彼の地にて斯く戦えり リマスター版 作:ウルヴァリン
テュカの心が壊れて10日、俺は自衛官の伊丹 耀司とテュカの父親であるホドリューという役をテュカの為にこなしていた。
毎日をテュカの家から出勤して帰ると可能な限りテュカと共に過ごす。
彼女の父親を演じることにより何とか心を引き留めてはいるが、何かを思い出すかのように日を増す毎にテュカは頭痛が酷くなっている。
俺もテュカの父親を演じることで本物の父親と違和感がないようにするのに神経が磨り減っていき、昨日は全く眠っていない。
更にあれから1回だけヤオを見つけて‘‘無駄なこと’’と言われてますます危機感が強くなっていく。
だからあまりにも過度な為、病棟の心理カウンセラーに相談して今はすぐそばのベンチにて考えていた。
「………復讐する相手を求める……か……」
パーソナル障害に関しては明確な治療法は見つかっていない。
時が来るのを待つか、もしくは目的を達成させて吹っ切れさせるしかないというのがカウンセラーの見解だが、復讐の相手は炎龍。
事の発端となった柳田本人はあれから怒り心頭のエースにぶん殴られ、しかもエースが暴れ回ったから事務所はぐちゃぐちゃ。
エースはMPに逮捕されて本来は強制送還の上に軍法会議に掛けられても仕方が無いが、事情を知ったシュガート大佐が頭を下げて、エースに3日間の謹慎を命じたことで話が纏まったらしい。
柳田の言いたいこともわかる。
炎龍と戦って強さを知っているのは俺たち第3偵察隊とエースのリーパー隊しかなく、いくら資源が豊富だからってアメリカと台湾よりも多く資源を確保したいが故に扇動した。
あいつなりの愛国心で示したんだが、それなら自分が行けばいいとはっきり言ってやった。
俺は仲間を絶対に死なせたくはない。
おやっさんは娘さんが近い内に結婚するらしいし、定年になって孫を抱くことを楽しみにしている。
仁科は尻に敷かれながらも帰宅を待ち遠しにしてくれているキャリアウーマンの奥さんがいる。
アルヌス警邏隊徒手格闘顧問をしている栗林はウクライナ軍から参加しているアーロン中尉とデート。ジムでも自分より強いことをアーロン中尉が示して交際中。
黒川もテュカの一件で慎重になり、今は改めて心理学を勉強していて悪所でも娼婦の健康管理や相談役をしていて、薔薇騎士団短剣術顧問の富田も秘密だけどボーゼスと恋仲に発展していて、既に熱い夜を何度も過ごしているらしい。
あれはいずれ結婚するだろう。
亜人交流関係のアドバイザーをしている倉田はペルシアと相思相愛で、勝本は町の子供達に大人気で正式に育児教育顧問に抜擢されている。
中世ヨーロッパの戦術に詳しい歴史家の東は陸曹過程が大詰めで夜中まで勉強中。
戸塚も趣味で財テク運用があって組合の経済顧問に任命され、笹川も趣味の写真で特地の写真を使って報道担当も務めてる。
古田も最近は特地の食材を使って料理の研究に入り、タスクフォース サーヴァントの劉大尉と共に駐屯地内食堂全体の料理長を務めている。
本当に個性的なメンツでアルヌスにおいて全員が重要なポジションにある。そんな奴等を死なせたくはないし、俺自身もあいつ等の隊長をしていて誇りに思う。
そんなことを考えていると杖を突く音が聞こえてきて、振り向くとそこには左目に眼帯をしていて白髪で髭。松葉杖をついた老人がいた。
「若いの、そこを退くがよい」
「……………」
「どうした?そこは儂が毎晩座っておる場所じゃぞ」
「…………どうぞ」
「うむ、殊勝な心掛けじゃ。以後気をつけよ」
そういって爺さんは譲った席に座る。
身体は傷だらけで義手義足をつけているから、第4偵察隊が見つけたっていう修道院にいた敗血症で危険だった重傷者だろう。
本人は唯の徴兵された農民兵だと言っているけど実際はどこかの王国貴族か将校かもしれないらしい。
実際に農民兵には無い威風堂々の雰囲気に歴戦の猛者にしか許されない力強い瞳を有している。
「さて若いの………ここは確かに月が綺麗に見える。ここに座って静かに月を眺めているのも一興じゃが、何を黄昏ているのだ?」
「………爺さんには関係ないよ」
「話したくないならそれもよかろう。それにしてもこの義手と義足、よく動くし皮とは思えぬ部品もある。お主等の世界では手足をなくすと皆こんな高価なものをつけておるのか?」
「大抵はそうですね」
「走れるようになれるとも言っていたが本当か?」
「専用のものを付けると生身より速いですし、そういう人達の競技会もあるほどです」
「がっはっはっはっはっ‼︎」
「?」
「なんじゃお主、話せるではないか。その調子で黄昏ておった理由をこの老いぼれに洗いざらい喋ってしまえ」
完全に爺さんのペースに持って行かれた。
だがなんだか気が楽になったし、なによりも爺さんになら相談できると感じた。
だから俺は爺さんにテュカのこととカウンセラーに言われたことを爺さんに話すことにした。
「なる程なぁ………確かに敵を討てば気も晴れるだろう。敵が大手を振ってうろつくなど、儂なら腸が煮えくり返るわぃ」
「でもその敵が強いんです」
「まぁ……相手は厄災とも呼ばれておる炎龍じゃからなぁ」
「しかも大部隊が送れないエルベ藩王国にいて、仮に送り込んだとしても全滅は必至。本当は行くべきじゃないし、どっちを取っても何かを失う」
「………若いの……何か大きなものを忘れておらぬか?」
「えっ?」
「……お主の心じゃよ」
「それで何とかなるなら苦労はしませんよ」
「若いの……よく聞くのだ。人生には危険だと分かっていても退くことが許されぬ時もあろう。負けると承知していても進まねばならぬ時もある」
爺さんは立ち上がり、俺の右肩に手を置いた。
「心では既に決まっている筈じゃろ?それに男には馬鹿をやらなければやっていけぬ。時には周りに囚われず自らの心に素直に従うということも大事じゃ」
「…………」
「そうは思わぬか?」
それだけ言うと爺さんはその場を後にした。
時に心に従うという言葉に俺は感銘を受け、ようやく纏まった……………。
テュカの心を救うため、決意を固めた伊丹。その行動にロゥリィ達やエースと谷も合流。仲間を助ける為に戦いにいくデュランは静かに見送った。
次回[取り戻すための旅]