GATE 連合特地派遣団 彼の地にて斯く戦えり リマスター版 作:ウルヴァリン
炎龍討伐へ向かった俺達。俺は近い内に伊丹がこういうことに至ると分かっていたので、谷に話して事前に準備を進めていた。
谷は台湾軍司令部にエルベ藩王国の国境付近に地形調査に向かうという単独行動の作戦を提出し、これを認可させた。
この世界の国境線はぶっちゃけて言えばあってないようなもので、"うっかり越境"していたとしてもGPSもないのだから分かりようがない。
問題は装備だ。
谷は表向きは調査だからデカい火力のものは持っていけないし、伊丹も支給品ではあるが1人分しか持っていけない。
だから俺は数日前、自室での謹慎処分中に暗躍することにし、最近になってようやく繋がるようになった国際電話にて連絡をいれた。
<よう、お前から連絡なんて珍しいな>
「久しぶりだ兄貴。そっちは元気か?」
<あぁ。妻も倅達も元気だ。企業も大繁盛だよ>
俺が連絡を入れたのはテキサスで暮らしている4歳年上のメイソン・Y・クレイグ。
クレイグ一家の長男で今は結婚して企業したガンショップ"クレイグ ファイア ガレージ"の社長兼国際的ガンスミスを務める俺以上の実力を持った"武器マニア"だ。
<異世界に配属になったって聞いたが、そっちはどうだ?>
「思いの外は快適だ」
<タイムスとかニュースとかで載ってたがネコ耳女とかウサ耳女とかいるんだってな?>
「あぁ。エルフとかドワーフとかドラゴミュートとかワーウルフとかメデューサとかファンタジー小説に出てくる種族がいるな」
<羨ましいなぁ。一回は会ってみたいもんだ>
「帰国したら仲良くなったワーウルフのミオって子がいるから会わせてやるよ」
<そいつはいいな。ポスターとかのモデルをお願いしたいな>
「どさくさ紛れに宣伝利用しようとすんな」
<いいじゃないか。で……あまり連絡してこないかわいい弟は今日は何の用なんだ?>
簡単に前置きを済ませたら兄貴は口調をビジネスモードにすぐさま切り替えた。
兄貴の言う通り、俺は普段は電話で連絡はしない。兄貴はドイツで3年間武器法について修行してガンスミスとしての基盤を形成し、帰国後にアメリカのガンスミスClassⅠからⅥまで網羅した生粋の職人だ。
だから多忙なので普段はメールで済ませているが、今回のような急を要する場合なら通話をすることにしている。
「あぁ。兄貴、異世界で武器屋を出店してみる気はないか?」
<出店?確か国防省が発表してた異世界人向けの武器を販売する企業の募集って奴か?>
「俺が推薦状を書いてやる。認めたくはないが俺は国内じゃちょっとは名が知れてる。だから普通の推薦状よりかは審査が通り易いはずだ」
<成程なぁ……確かにうちの刀剣類部門の鍛治士達が興味を持ちそうな話だ。それで、推薦状の見返りにお前は俺に何をして欲しいんだ?>
「銃火器を提供してほしい。それも大至急だ」
通話にて兄貴に頼んだのは銃火器の提供だ。俺もガンスミスではあるがClassⅢまでで海外製のものは取り扱えない。
しかも俺の専門は第2次大戦時の銃や民生品のみで兄貴のように様々な銃火器を調達できたりはしない。
<そりゃまた……軍での支給品があるだろ?>
「それとは全く別だ。近日中に必要になる筈だから10日以内には手元には欲しい」
<………どんなのが欲しいんだ?>
「AKMシリーズがいい。ショートバレル仕様が理想的だ。他にはLMGにハンドガンとグレネードランチャー。できたら対戦車火器も…」
<待て待て待て。戦争でも始めるのか?>
「とにかく火力が欲しい。確か店にRPGがあったと記憶してるが、まだあるか?」
<一応はまだある。というか不良在庫になってて困ってはいるな>
「そいつを送ってくれ」
<エース、いくら弟だからって今回のオーダーはそう簡単には許可できない>
「常識的に考えたらそうだな」
<だからせめて教えろ。何に使うんだ?>
電話越しでも分かる口調をされる。確かに俺が求める火器はテロ攻撃をするのではないかと疑われても仕方がない位に強力だ。
だが兄貴には理由を話しておいた方がいいだろう。
「……伊丹 陽司って奴を覚えてるか?」
<あぁ、日本の英雄だろ?それがどうかしたか?>
「俺と奴の知人にエルフがいるんだが、そのエルフがパーソナル症候群に罹っちまったんだ」
<話が見えてこない。それが今回のことと何が関係してんだ?>
「奴は間違いなく動く。だから事前に用意しておくんだ」
<……ますます分からんな>
それから俺は兄貴に事の真相を話す。
テュカの心が壊れたこと。
復讐の相手が炎龍だということ。
伊丹が命令を放棄してまで討伐に向かうこと。
それらを話し終えたら兄貴はため息混じりだが話し出した。
<つまりだ……命令違反をするかも知れない伊丹に手を貸したく、任務を偽って同じく逆手に取った台湾人と愉快な仲間達と共に麗しきお姫様の為にドラゴン退治に向かうってか……なんなんだそのB級映画みたいな設定は……>
「無茶なことなんざ百も承知だ。だが……」
<………エース>
「なんだ?」
<俺は経営者だ。だから不透明な報酬に命令違反の片棒を担ぐ行為は賛同できない。だから経営者としては協力はできない。だが……>
「だが?」
<兄として……男としてなら……賛成だ>
「じゃあ………」
<任せておけ。今からやれば3人分だけなら2日で終わらせられる。だからそっちもさっさと書類を提出して移送許可と持ち込み許可を貰え>
「すまない」
<だがな……絶対に譲れない条件がある>
「なんだ?」
<………必ず生きて帰って来い。死んだらあの世にいても必ずぶっ殺してやるからな。だから死ぬんじゃねぇぞ>
「………ありがとう」
それから兄貴と細かいことを話し合った。
弾丸を123.5グレインにしてAKMSUをそれぞれモダンカスタマイズし、LMGも緊急時には同じマガジンが共有できるようバルメM78を改修する。
グレネードランチャーは入手が難しいということで代案として俺が持っているM12ショットガンでFRAG12を使えるように調整したバレルと機関部パーツ、それにFRAG12を送ると提案してくれた。
本当に頼りになる兄貴を持って恵まれていると痛感する。
ガンスミスの師匠でもある兄貴との通話を終わらせて、俺は予め用意していた私物武器の持ち込み申請書と車両持ち込み許可申請書を書き上げ、ミオに頼んで提出した……………。
アルヌスにて暮らすヴォーリアバニーのデリラ。かつて一族を裏切ったテューレに復讐するべく苦渋の決断を下すべくアルヌス病院に夜間で潜入する。
一方で家族も家も全てを失った紀子も自暴自棄となり、死を望もうと考えに至ろうとした時、悲劇が始まろうとしていた。
次回[流れるのは涙と謝罪]