GATE 連合特地派遣団 彼の地にて斯く戦えり リマスター版   作:ウルヴァリン

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70:流れるは血となみだ

「神よ………天地を支えし使徒よ。この身を供儀として祭祀の炎をくべる」

 

 

アルヌス街にあるフォルマル伯爵家の連中が住む団地、その角にある部屋にて1人の女性が儀式をしていた。

茶色の髪と毛並み、その綺麗な肌に模様を描いたヴォーリアバニーの女性で名前はデリラ。

 

彼女はフォルマル伯爵家から連合の要請を受けて同じメイドのドーラ、メルティエ、シーヴァそして親友であるグリーネと一緒にアルヌスに派遣されたが、彼女のみ裏の顔があった。

 

連合の動向を探る為の密偵だ。

 

彼女としては凄く恩がある連合を騙すようなことで心苦しいが、自身も日本語や英語を学ぶ必要性があったので任務を受諾している。

 

好奇心が旺盛な彼女はすぐに日常会話レベルまで不慣れながらも学習し、年頃の女の子と同じく化粧や甘いものにも興味を示している。

 

連合、アルヌス住民にとって明るい彼女の笑顔に癒される太陽のような存在で誰もが彼女を慕う。

 

だが今の彼女は密偵として伯爵家より送られた指令を遂行しようとしていた。

 

 

「戦いの神エムロイ…冥府の王ハーディ…盟約の神デルドート…復讐の神パラパン…守護の女神ドリアーナ。あらゆる恐れ、慈愛、迷いから我を守り給え。この身はこの時より敵たる者の命を奪う剣とならん。赤き血を受けてただ錆びゆく鋼となりしも、忠誠を誓いし我が魂は不滅不変なり」

 

 

 

デリラは自身の愛刀であるグルカナイフのような山刀"カニーチェ"を掲げ、神々に誓いを立てていた。

 

彼女達ヴォーリアバニーは代々激しやすく淫乱な種族だと年代史に記されてきていたが半分は当たっている。

かつて彼女達の国があった大陸北部の平原では毎日のように部族同士で戦っていた。

旅で立ち寄った男の冒険者と交わり、子孫を増やして行く。

 

更に彼女達には何故か男が滅多に生まれない。

 

いるにはいるのだが1,000人に1人いればかなり高い確率になってしまう程までに少ない。

 

その中で運のいいヴォーリアバニーは男と番となり、純血種の子を産む女王となる存在で、その時に王国を率いていたのはテューレだ。

 

 

 

「………テューレ……貴様の命をハーディに引き渡し、貴様の血を大地に吸い込ませるまで……あたいは死なない。それが喩え、連合や伯爵家から裏切り者とされても……あたいは絶対に死なない」

 

 

 

彼女がそこまでして復讐を果たそうとするのは今から3年前にある。

 

彼女の国に帝国の大軍が宣戦布告もなしに侵攻………高値で売れるヴォーリアバニーを奴隷狩りに来た。

 

勇猛果敢で一族の3大戦士とされるデリラ、グリーネ、パルナを筆頭に次々と攻め込んできた帝国兵を殺害していくが、数に押されて最終的に本拠までに雪崩れ込まれた。

 

そして籠城を選択した彼女達に衝撃的な者を帝国は見せ付けた。

 

それこそが女王テューレの戦衣だ。

 

戦意を消失したヴォーリアバニーは奴隷にされ、抵抗を続けたヴォーリアバニーも皆殺しにされてデリラの母親も首を刎ねられた。

 

帝国兵の追撃を逃れ、テューレに復讐を誓った彼女達はパルナが途中で挫けるも、時には盗みや身体を売ったりして生き抜く。

フォルマル伯爵家当時当主のコルトに助けられ、他のヴォーリアバニー達と共に貧しいながらも安住の地で暮らせた。

 

そんな彼女が絶対に果たそうとするテューレへの復讐。

 

親友であるグリーネと救い出されたパルナが寝静まった夜に音を立てずに連合派遣団のアルヌス病院に忍び込み、そこでタバコを吸いながら虚無の目をしている紀子を見つけた。

 

彼女のやろうとしていたこととは不可解な命令であったが、望月 紀子とマミーナ・シェスチェンコを暗殺することだった。

 

だがマミーナは既にウクライナに送られていて、目標となるのは紀子のみとなる。

そして帰ってこられたが帰る場所も待っている人も無くなった紀子は自暴自棄となっており、一種の精神障害に陥っていた。

 

 

 

「………………いっそ死んじゃおっか……」

 

「そっかぁ……あんた死にたかったんだ」

 

「誰?」

 

 

 

死のうという言葉を聞いて、デリラは彼女の前に姿を現わす。

 

 

 

「あんたが紀子だよね?死にたくない奴を殺すってのは気が引けてたんだけど、死にたかったんならいいよね?手伝ってあげるよ」

 

「………そっか」

 

 

 

死を受け入れようとする紀子にデリラは剣先を突きつけるが、デリラの本心はこんなことはしたくなかった。

 

面倒見がよくていつでも明るい。

 

無抵抗な奴を手に掛けることに痛みを知っているデリラにとっては嫌なことだ。

 

 

 

「ごめん……ホントにごめん……ちょっと痛いかもしれないけどなるべく痛くないようにするからね……」

 

「どっち?……痛いのはやだなぁ」

 

「ええ…………困ったなぁ……痛くない殺し方なんて知らないし……死にたいって奴が狩る相手だなんて思ってもなかったし………」

 

「………ぷっ」

 

「わ……笑わないでよ」

 

「今のあなたってなんだかテューレさんみたい」

 

「…………いま……なんて……「何をしている‼︎‼︎」⁉︎」

 

 

 

紀子からテューレという名前を聞き、彼女に問いただそうとした矢先、いきなり誰かに叫ばれてデリラが武器を構えながら振り向いた。

 

そこには9mm拳銃を構えている柳田がいた。

 

彼は狭間陸将の指示で入院していたデュランとの交渉を終えたばかりで、帰り際に今回のことに鉢合わせしたということになる。

 

だがデリラにとって見られたからには排除するしかない。

 

柳田からの銃撃をかわしながら、デリラは剣を振り下ろして仕掛けるが回避され、柳田の前蹴りも回避して距離を稼いだ。

その瞬間に銃声を聞いて辺りが騒がしくなり、建物で誰かが鳴らしたであろう警報装置が鳴り響く。

 

この状況で紀子を暗殺することは不可能。

 

ならばデリラに残された道は柳田を排除して逃げるしかない。

 

 

 

「………ごめん」

 

 

 

一気に勝負を決めるべく柳田に仕掛け、照準を合わせる一瞬の隙を突いて柳田の懐に飛び込み、そのまま剣を彼の左腿に突き刺した。

 

 

 

「がっ⁉︎くそっ⁉︎くそっ⁉︎くそっ⁉︎」

 

 

 

痛みに苦しみながらもデリラに至近距離から発砲する柳田。そして全てを撃ち尽くして意識が無くなろうとした瞬間、柳田が見たのは悲しみに満ちたデリラの顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急げ‼︎応急処置したら直ぐに搬送しろ‼︎」

 

「出血が酷い⁉︎止血だ止血‼︎」

 

「輸血の用意だ‼︎デリラさんの血液型とカルテを調べろ‼︎」

 

「2尉‼︎柳田2尉‼︎しっかりしてください‼︎」

 

「デリラさん‼︎デリラさん‼︎」

 

 

 

銃声を聞きつけた警務隊の通報を受けて医療隊は直ぐに意識不明の柳田と辛うじて意識があったデリラを集中治療室に運び込む。

 

 

 

「ごめん……柳田の旦那ぁ……ごめん……なさい……」

 

「しっかり‼︎気をしっかりしてデリラさん‼︎」

 

「ごめん………ごめん……」

 

 

 

デリラは意識が無くなろうとしている中でも、自分が柳田にあんなことをしてしまったことを悔やみ、涙を流しながら謝罪している。

 

それから集中治療室に運ばれた柳田とデリラは何とか助かった。だが連合派遣団の一員と紀子が襲われたことはアルヌス中に広がり、連合派遣団も躍起になって調査を開始するのだった……………。

 

 




望月 紀子暗殺未遂事件。それはエースの意志を持つハイデッガーの怒りを買うに十分だった。
調査隊の方向で仲間を傷つけ、更にデリラを騙した奴を許さないことを調査に加わっていたグリーネとパルナと共にイタリカに急行する。


次回[裏切りの報い]
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