GATE 連合特地派遣団 彼の地にて斯く戦えり リマスター版 作:ウルヴァリン
イタリカでの晩餐会があった翌日に出発した私達は資源調査の片道ついでにペルシアさん達に頼まれて寄り道をすることになった。
イタリカ領内にあるロマリア山脈には前フォルマル伯爵が招き入れた亜人達の集落があり、そこで自給自足をしつつフォルマル家から受けた恩を返すべく汗水流して働いているらしい。
用事を済ませてアッピア街道を西に進んで、道中で水を補給するために西方砂漠からの季節風"シロッコ"が吹き荒れる城塞都市クレディに立ち寄った時に問題が起きた。
クレディや周辺の村々では若い女性にだけ発病する流行病が風に乗って蔓延してて、その砂風を浴びたレレイが倒れた。
お父さん達も看病したけど熱は下がらず、魘されてるレレイが何とか効果があるのはロクデ梨が有効であると聞いて、近郊に旧アルンヌ王国の薬種園跡"ファルムの迷宮"に自生してるかもしれないと聞いたから、お父さんは私にレレイを任せてロゥリィとヤオを連れて向かった。
「はぁ……はぁ……」
「レレイ……大丈夫よ。お父さんがすぐロクデ梨を見つけてきてくれるから……」
熱で苦しんでるレレイの額に新しい濡らした布を当てる。けど同時にお父さん達が心配だ。
街の人達によればこれは灼熱風と呼ばれていて、この流行病で死んだ女性はお墓から這い出て彷徨う屍となって人を襲うと言ってた。
それに最悪なことに大慌てで棺を運び出した先が迷宮で、いま迷宮では屍が徘徊しているとのこと。
レレイも手遅れになったら歩く屍になってしまう。
お父さん達が早く帰って来てくれることを願っていると、部屋を貸してくれている宿屋の人が桶に新しい手ぬぐいと水を入れて持って来てくれた。
「嬢ちゃん、新しい手ぬぐいだ」
「それとこれ、簡単なものでしかないけど食べてくれ」
「ありがとう」
お礼を言って桶を交換し、野菜のくずきりらしいスープを受け取った。アルヌスの食堂と比べたら味は薄いけど、気が張り詰めてた私にとって幾分かはマシになった。
「ふぅ……落ち着くわ……」
「すまねぇな嬢ちゃん。砂嵐のせいで商隊もこねぇからこんなもんしか出来ねぇんだよ」
「ううん、こっちこそごめんなさい。こんな大変な時に……」
「いや、俺等こそすまなかった。あんたらは何も知らずに寄っちまったってのに巻き込んじまって……」
「仕方ないわ。それにお父さん達が絶対にロクデ梨を持って来てくれるわ」
亭主は私達に罪悪感があって、罪滅ぼしのつもりで私達に出来る限りの協力をしてくれてる。
「けど……あの旦那は大丈夫か?」
「大丈夫に決まってるわ」
「聖下もいるとしても迷宮にはコカトリスとミノタウロスがいる。それにそこら中に罠も仕掛けられてるし……」
「お父さん達はそんな軟弱じゃないわ。炎龍を倒して生きて帰ったんだから」
「……噂には聞いてるけど………けど万が一ってのもある。それに俺等はもう若い子供が死んじまうのは見たくねぇんだ」
「……レレイは死なないわ」
「…………」
「レレイはこんなことじゃ死なないわ。炎龍を倒すきっかけを作ったのがレレイだし、レレイがいなかったら間違いなく私は死んでた。そんな子がこんな訳のわからない病気で死んだりしないわ」
「………そうかい……」
そういうと亭主は部屋を後にした。この人も最愛の奥さんをいきなり亡くしてしまった。だからこれ以上だれかが死んでいくということに耐えられないんだろう。
そう考えていると亭主がまた戻って来たが、今度は綺麗な彫刻が彫られた弦楽器のライアーを持って来た。
「……これは?」
「ここらの古い伝承だ。誰かの無事を祈ったり、帰りを願ったりする時に音楽を奏でると相手は無事に帰って来るっていう話だ」
「……綺麗な彫刻ね……」
「そいつは死んだ妻がよく使ってたもんだ。使ってくれないか?」
そういいながら私にライナーを手渡す。よく見るとかなり使い込まれていることがわかり、修理した跡やすり減っている箇所もある。
本当に大事にされていたということはすぐに分かった。私は無言で頷いてライナーを構えると弦を弾いた。透き通るように綺麗な音色、まるで神々が音色を本当に大事な人に届けているような感じだ。
だから私はレレイやお父さん、この街の亡くなった人達の為に音楽を奏でた。
それが功を奏したのかお父さん達が無事に帰って来て、見つけたロクデ梨で作った薬でレレイも体調が良くなった。流行病の原因は大昔に不老不死の研究がされてて、埋没されてた実験で使われてた何かの亡骸に大樹の根が偶然達して、それが幹を通じて吸い上げられたってお父さんが話してくれた。
7日ほどでレレイは完治して、街の人達に別れを告げると次の目的地である学問都市ロンデルへ向かった……………。
日本にて捕虜になった帝国兵の第1陣が帰還し、帝都にて帰還と炎龍討伐を祝う祝会が行なわれる。
そこに各国のアドバイザーを加えた使節団も出席し、モルト皇帝も討伐された炎龍の首を前に新しい帝国の歴史を刻もうとするが……。
次回[新たなる影]