モブキャラのはずの俺が破壊神のナホビノってマジか? 作:兵庫人
また、この話からFGO要素が加わります。
「とりあえず……あそこに向かってみるか」
シヴァのナホビノとなった不動はしばらく考えた後、遥か向こうに見える巨大な電波塔、東京タワーを見ながら呟いた。
ゲームの主人公と合体した神造魔人のアオガミは、とある事情から主人公が魔界にやって来るまで活動を停止していて、それが原因で記憶の一部が失われていた。その失なわれた記憶を取り戻す手がかりを求めて東京タワーへ向かうというのが序盤のシナリオだったはずだ。
なので自分も東京タワーへと向かえば主人公達と合流できて、今まで暮らしてきた東京に戻れると考えた不動は東京タワーへと向かって走り出した。……しかしその数時間後に彼は、自分の考えが甘かったことを痛感することになる。
「少年。今、強大な悪魔の反応が東京タワーへ向かって高速で移動しているにを感知した。もしこの悪魔と敵対した場合、現段階の我々の力では万に一つの勝機はない。東京タワーにはこの悪魔が離れてから行くことを強く推奨する」
「……!? う、うわわっ! 何だかスッゴイ強そうな悪魔の気配を感じるんだよ。今、東京タワーに行ったら強い悪魔に出会いそうだから行かないほうがいいよね? ねえ?」
「……ん? どうしたんだ、皆? 何、東京タワーに強力な悪魔が向かっている? そうか、それじゃあ東京タワーの方は避けていこう」
ゲームの主人公は自分と合体した神造魔人と道中で仲魔になった小さな悪魔の少女に、カオスルートの重要人物は自らが使役する悪魔達に忠告されて東京タワーを避けてしまい、それによって強大な力を持つ悪魔、破壊神シヴァのナホビノは誰とも出会うことなく東京タワーに到着するのであった。そして……。
「……どうしてだよ? どうして俺が『コイツ』と戦うことになっているんだよ?」
東京タワーに到着した不動は、目の前にいる「巨大な無数の頭を持つ蛇の悪魔」を見上げながら呆然と呟いた。
ヒュドラ。
ギリシャ神話に登場する魔獣であり、二十年前の戦いで悪魔の軍隊が天使の軍隊と戦わせるために連れてきたのだが、あまりの凶暴さに悪魔も天使も関係なく目についた者に襲いかかってくるという、序盤でゲームの主人公が最初に戦うボスである。
それに何故か主人公の代わりに戦うことになってしまった不動は三つ目の仮面の下で静かに涙を流す。
「何で俺がこんな目に……。マジで俺、何か悪いことしたかな……って、危な!?」
涙声で一人呟く不動にヒュドラは首の一つを伸ばして彼に食らいつこうとして、それを不動は大きく跳んで避ける。
「クソッ! やっぱりお構い無しかよ!? だったらコッチもヤケだ! この身体の試運転に付き合ってもらうぞ!」
ほとんど自棄になった不動は大声で叫ぶと右手に意識を集中させる。すると右手の甲と一体化している三叉の槍の穂先、その先端から三本の光の爪が伸びて、それを確認した彼は序盤のボスに向かって高速で駆け出した。
「■■■■■ーーー!」
ヒュドラは自分に向かってくる青い悪魔に向けて無数にある首を、あるいは尻尾を縦横無尽に高速で振り回して攻撃を仕掛ける。その攻撃は普通の人間はもちろん、並みの悪魔では避けることも出来ず一方的に蹂躙するだろう。
しかし今の不動は普通の人間でも並みの悪魔でもなくナホビノだ。それも各神話でトップクラスの戦闘力を持つ破壊神シヴァの力の一部を取り込んだナホビノなのである。
ナホビノに変身した際に不動の頭にはシヴァの戦闘経験、身体の動かし方も流れ込んできており、それに従って彼は踊るような動きでヒュドラの攻撃を次々に避けていく。
「遅いな。それに……シッ!」
「■■っ!? ■■■ーーー!」
ヒュドラの攻撃を避けた不動がすれ違いざまに光の爪をヒュドラの首に突き刺すと、光の爪は大した抵抗もなく深々とヒュドラの首に突き刺さり、ヒュドラが痛みと驚きで咆哮を上げる。
「脆い。同じ悪竜でもヴリトラとは比べるまでもないな……って、アレ?」
そこまで言ったところで不動は自分の言葉に違和感を覚えて首を傾げる。
「今、俺は何を言っていたんだ? ……まあいいか。この身体のスペックは大体分かった。次はスキル試させてもらう」
気を取り直した不動は大きく跳躍してヒュドラから距離を取ると、右手の三叉の槍から伸びている光の爪をヒュドラに向けた。
「これで終わりだ。……『至高の魔弾』!」
次の瞬間、三叉の槍から三本の光の爪が高速で発射され、光の爪はすぐさま巨大な光の槍になるとヒュドラの巨体に命中し、その大部分を消滅させた。
「■………!? ■、■■……」
胴体のほとんどが消滅し数本の首だけとなったヒュドラは、短い悲鳴を上げた後に何が起こったのか分からないといった風に鳴きながら死んでいった。そして不動はヒュドラが完全に死んだのを確認すると、ようやく構えを解いて大きく息を吐いた。
「はぁ……! 疲れた……。勝てたからいいけど、本当に何で俺が序盤のボスと戦わないといけないんだよ。結局主人公と合流できなかったし……いや、待てよ? よく考えたら主人公と合流されたら『ベテル』に目をつけられて余計ヤバいんじゃないか?」
ベテル。
それはこの世界を創造した創造主と、それに従う天使の軍団を中心とした世界の秩序を守る組織。創造主に協力することにした各神話の神々もこの組織に参加しており、不動の半身であるシヴァはベテルのインド支部のトップであったりする。
不動がベテルと接触を取ることを危険だと考える理由は、ベテルがナホビノの存在を禁忌としているからである。
ナホビノは新たな世界を創造する新たな創造主となる資格を持つ者。だから創造主は自分の創ったこの世界を維持するために他のナホビノから知恵を奪い、「自分が生きている間、悪魔は己の知恵を持つ人間と合体してナホビノに戻ることができない」という
創造主は二十年前の戦いから姿を消していて、多くの悪魔は「創造主は死んだ」と言っているがベテル、正確には天使達はそれを認めず「創造主はいつか帰ってくる」と言いベテルを運営させている。
つまりナホビノであるゲームの主人公、そして不動の存在は創造主が死んだことのこれ以上無い証明で、ベテルに目をつけられたらいつ暗殺されてもおかしくない。そのことに気づいた不動は、再びこれからどうしたらいいか頭を悩ませる。
「しまったな……。これからどうしよう?」
「何かお困りかしら? 素敵な悪魔さん?」
「え?」
不動が額に手を当てて悩んでいると背後から男の声が聞こえてきた。その声に彼が振り返ると、そこには長身痩躯で肌の色が薄い銀髪の男が立っていた。
「ふふ…… ♩ さっきの戦い見させてもらったわ。あのヒュドラを倒すだなんて凄いじゃない? それに貴方から感じる逞しい魔力……とっても私好みよ」
「は、はぁ……? それはどうも」
何故か女言葉で話す銀髪の男に不動は戸惑いながらも返事をする。
「それで貴方は一体何者なんですか?」
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はスカンジナビア・ペペロンチーノ。ベテルのインド支部に所属している者よ。よろしくね?」
「べ、ベテル!?」
ウィンクをしながら自己紹介をする銀髪の男、ペペロンチーノの口から聞きたくはなかったベテルの名前を聞いて、不動は思わず身体を硬直させるのであった。
……つづく?