「逃げてもいいんだよ、理子ちゃん」
その言葉に、理子ちゃんは首を振って笑った。
「妾は、逃げぬ」
「理子ちゃん……」
「妾は、妾の意思で、役目を果たす。大義のためではない。黒井のいる世界を、守りたい故に」
そして、理子ちゃんは歌を口ずさむ。
「『星照らす先』妾の好きな曲じゃ。マイナーバンドじゃがの!」
「私も、その曲好きだよ」
「俺も好き」
侵入者の言葉と共に、弾丸が理子ちゃんの足を貫いた。
「理子ちゃん!!」
「なんだよ、やっぱりお前らもBozのファンかよ、やりにくいな」
侵入者が現れて、グッとウォークマン(音楽媒体)の音量を上げる。
これは……!
「『JOH!仏』!!」
「そー。今となっては嫁の生命線」
呪霊の動きが鈍くなる。くっ……!!
それでも、Bozを責める気にはなれなかった。彼らは一生懸命歌っているだけなのだから。
呪霊を動けなくして困ることになる方が異常なのだ。
私単体でも戦えるよう鍛えているし、それに対策だってしてある。
私は、同じくウォークマンを作動させた。
「『ちみちみ・MORYO』! 私だけに贈ってくれた曲だよ」
曲が流れた途端、呪霊の動きが元に戻る。
「ずっる。サイン持ってたら寄越せよ」
「やだね」
「ま、殺さない程度に揉んでやるよ」
呪霊に援護させつつ、突っ込む。
しかし、強いなこいつ!!
精一杯戦って、それでも敗れ、理子ちゃんは連れ攫われてしまった。
ウォークマンは当然のように持ち去られていた。クソッ
なんとか理子ちゃんは取り返したが、タイムオーバーだった。
伏黒甚爾は片腕を失いつつも、なんとか逃げ果せたらしい。私のウォークマンを返せ。
任務の事は話せないが、愚痴混じりに久々にタケと話した。
いつか悟に紹介したいが、タケが紹介とか嫌がってるんだよな……。
無理やり押しかけたようなものだし、たまに話してもらってるだけありがた意図思わないとね。
相手は芸能人なのだ。
それから、一年が過ぎた。
最近、タケは凄く心配してくれている。
無理にでも休め、サボれ、仮病使え、仕事をさくさく片付けずにわざと時間を掛けろ、そんな風にいうけれど、みんなが忙しいんだ。私だけがそんなズルはできないよ。
最近、何かわかってきた。
タケは私と会うのが嫌なんじゃない。何かを恐れている。この前、ついにポロッと話してくれた。
「お前の親友の五条悟。俺でも知ってるほど、やべーぞ。粘着質に狙われてる。お前も毒とか陰謀とか罠依頼とか気をつけとけ」
私はギョッとした。
内容もそうだけど、一般人でも察せられるほど酷いの?
疑った目で見ると、確かに悟の任された仕事は以上で、私の任された仕事は異常だった。
とはいえ、精神的に衰弱しきってなんとか対抗しようとも思えない。ただ流されるだけ。
やばいかな、と思っていると、九十九さんに会った。
タケは九十九さんは苦手だという。タケがそういう人は珍しい。
話を聞いていて、この人、がけに突き落とすように話す人だな、と思った。
タケとは真逆の話し方だ。
非術師、か。非術師にも、いい人はいる。タケがそうだ。
実を言うと、タケにも、非術師に対する反意を言ったことがある。
九十九さんは、そうだねといった。タケは、誰が認めなくても、俺が感謝して認めると言ってくれた。
それでも辛いなら、受け止めるから1番先に殺しに来いとも言ってくれた。
九十九さんとタケは真逆で、どちらを信じるべきかなんて、分かりきっていた。
どちらを信じてしまうか、はまた別なのだけど……。
タケのいう通り、仕事をサボろう。
そう決めて、灰原に好きなバンドとしてBozを紹介して、戦闘時にノリノリになるからと、「JOH! 仏」を勧める。
もっと早くに教えてあげなくてごめんよ……。
結果、もっと早く教えてほしかったと詰め寄られてしまった。
上層部には内緒なのだと適当に誤魔化す。
自分で言っててあれだが、あれって上層部にバレると相当やばいのではないだろうか。
しっかり口止めしておこう。
美々子と菜々子を保護した。
衝動的にぶん殴ろうと思わなかったと言えば嘘になる。
でも、タケの顔が浮かんで、その声が脳内で流れて、私は踏みとどまれた。
美々子と菜々子は私の両親に頼んで、預かる事となった。
2人が早く笑顔になれば良いと思う。
九十九さんが言っていた、自分の本音を決める日がついに訪れた。
私にとっての運命の日。
メジャーデビューしたタケが炎上した挙句、暴徒に誘拐されてしまったのだ。
テレビ番組放映中。しかも非術師相手で、私は呪霊を暴れさせるわけにはいかなかった。
というか、特級呪霊を護衛として派遣してたのがバレて上層部に詰問を受けてしまっていた。
私の焦燥は募っていく。無事であればいいが。