五条悟は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐じゃちぼうぎゃくの企みを除かなければならぬと決意した。
五条悟には群れる者の心がわからぬ。
五条悟は、呪術師である。
呪霊を祓い、傑と戦って暮して来た。
けれども仲間はずれに対しては、人一倍に敏感であった。
今日未明、五条悟は学校を出発し、野を越え山越え、十里はなれた村で呪霊を祓ってきた。
五条悟には、恋人はいない。友達は、親友が1人だけ。十九の、最強の親友だ。
この親友は、あるアイドルを、テレビで視聴することになっていた。紅白も間近なのである。
五条悟は、それゆえ、健気にもお菓子やらジュースやらを買いに、疲れた体を引きずってはるばる街にやって来たのだ。
先ず、その品々を買い集め、それから学校への道をぶらぶらと歩いた。五条悟には竹馬の友があった。重ね重ねいうが、夏油傑である。今は学校で、テレビの前でアイドルの登場を待機しているはずである。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
任務が忙しく、久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちに五条悟は、学校の様子を怪しく思った。ひっそりしている。
もう既に日も落ちて、廊下の暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、学校全体が、やけに寂しい。
のんきな五条悟も、だんだん不安になって来た。路で逢った後輩をつかまえて、何かあったのかと質問した。後輩は辺りを憚るように言った。
「夏油先輩が非術師で除霊系歌手で親友のタケさんの護衛に特級呪霊をつけてたのが問題になったんです。しかも、その人、誘拐されてしまって」
「傑の親友は俺だろ!! 誰だよタケさん!!!」
後輩はそっと目を逸らした。
とにかく、俺は詳しい事情を聞く事とした。
傑の友達で灰原と七海は知ってたってどういうこと!?? あと親友は俺! 俺だから!!
「とーにーかーく! 呪霊で非術師を傷つけたわけじゃなし! 誘拐された時も、傑は非術師への手出しを控えたんだろ!? それより、特級呪霊が祓われた事の方が問題じゃねーの? 友人助けに行くのぐらい、問題ねーだろ。ちゃんと傷つけずに通報するし!」
全力で傑を擁護し、なんとか出す。
傑と急いで救出に行って、最悪な事に見つけたのはズタボロの死体だった。
俺は急いで通報をする。
その間にも、傑は涙をこぼし、怨嗟をこぼす。
親友の俺が、そう親友の俺がフォローをしないと。そうフォローをしようとした時、呪霊が現れた。
生まれたての呪霊。そう、それはアイドルの呪霊だった。
そいつはお坊さんの格好をしていて、マイクを持っていた。
「俺の最後の歌……聞いてくれ」
「タケ……」
「歌うぜ! JOH! 仏」
成仏説得の歌を成仏させられる側が歌うってどうなんだよとツッコミを入れようとしたが、それどころではなかった。
傑から、どんどん呪霊が祓われているのだ。なんだこれ。
止めたいが、傑が傾聴しているのに、歌うほどに体が透けていく呪霊に、文字通り身を削っての最期の歌を止めるなんてできない。
「夏油、お前、呪術師辞めちゃえよ。特級のお前なら逃げられないけど、4級なら目溢しされるだろ」
慈愛の笑みに、優しい言葉に、全力で反論させていただきたい。
傑は、俺の最強の親友は、呪霊なんて一体も持たなくても4級どころか1級はイケるし、そもそも呪霊を集めればすぐ特級になるのだから目こぼしなんてされないし、俺と一緒に呪術師やる傑が呪術師辞めるなんてとんでもないのである。最期だから見送ってやるが、傑のフォローをせねばと心に誓う。
傑に優しくしてくれた事については礼を言わねばなるまいが。
「じゃあな」
呪霊は、光へと還元されていき……
「やだ」
クルンと呪霊玉にして、パクリと食べてしまうのを、俺はそりゃーな、と思いながら、非常に残念な面持ちで見届けた。
「傑」
「悟」
「これだけは言っとく」
「うん」
「お前の親友はそいつじゃなくて俺だから!!」
「それ、今言うことかい?」
「大事な事だろ!!! 1番大事な事だろ!!」
ポカンとしていた傑は、必死な形相の俺をまじまじと見つめて、それから笑った。
「悟」
「何」
「私、ずっと嫌がらせ受けてててさ。君の敵対勢力に、過労死仕向けられてたらしいんだよ」
「は!? 敵対勢力ってなんだよ、ってか、困ってたんなら言えよ!!!」
「君もおんなじ目にあってたのに、私だけきついなんて言えないよ」
「えっ 俺も?」
「君、結構鈍いよね」
「は? 鈍くねーし! ってか、それより、お前の親友俺だよな!?」
何せ、悟の友達は傑だけなのだ。傑が親友でないというのなら、悟はぼっちになってしまう。
俺は必死である。
「はいはい、私の親友は君だよ。っていうかさ、君、必死すぎ。私しか友達がいないわけじゃないんだろ?」
「傑しかいねーし!」
「ええ……君、最低だね? 硝子や灰原や七海はどうなのさ」
「あいつらよえーし」
「私も? 呪霊なくなっちゃったから、もう4級だよ」
「そんなわけねーだろ、それに傑は別なの! 弱くねーし、弱くねーけど! そもそも強さカンケーねーし、あり方っての? 冥冥さんもだけど、そのありかたがいいっていうか!」
「くっはは。悟、……私、今、大切な友人を失ってるんだけど、今だけはもう少し浸らせてくれないかな? 憎いのとか、悲しいのとか、全部吹っ飛んじゃいそうだから」
そっとアイドルを抱き上げる。
そうして、俺達は警察に引き渡した。
「なあ、傑。お前、さ。呪術師やめねーよな? やめんなよ」
「五条さん。強制できることでは」
葬儀の帰り、傑に俺は話しかける。七海が止めてくるが、俺は不安で仕方なかった。
「私は、もう非術師のためには戦えないよ」
「傑……」
「でも、タケのた「じゃあ、俺の為! 俺の為は!?」……いいよ」
「「五条さん……」」
呆れた声で、灰原と七海が名前を呼ぶ。
はあ、とため息をついて、傑は言った。
「でも、その代わり、君もわたしのために戦ってくれる?」
「いいぜ」
「わたし、タケのかたきがほしいんだ。それさえくれたら、ずっと悟と一緒に呪術師をするよ」
憎しみの籠ったその声に、俺は任せろ、と胸を叩く。
ぼっちに戻るのはごめんである。仲間はずれにならないためなら、なんだってする。
そんな俺に、傑は笑った。
最強コンビ、無事再結成である。
なお、アイドルの歌は特級呪霊にも効くようになったので、傑が特級に戻るのはとても早かった。
アイドルの情報から、メロンパンが全て悪いこともわかっている。
俺と傑のために、メロンパンは早めに始末する事にしよう。
アイドルの話を聞き、詰み具合に頭を抱える傑に「最悪、俺と傑以外の呪術師を殺せば日本は守られるんだろ? 問題ない」と言ったら俺と傑、2人揃って夜蛾センに再教育された。解せぬ。
これにて完結です!
一晩で完結チャレンジできたー!
ご褒美に感想をいただけたら嬉しいです!
あと、悟がヤンデレてすみません。あくまで友情です。多分。