海神さんが第四次聖杯戦争に参戦するようですよ?   作:ぴんころ

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バゼットさん二枚抜きとかしたので考えてたお話。
解釈違いは許せ


プロローグ:召喚

 言葉にしてしまえば陳腐なことだが、その召喚は”奇跡”以外の形容が不可能な代物だった。

 

 死に瀕して目覚めた、普通に生きていれば一生目覚めることはなかったはずの魔術回路(さいのう)

 街を騒がす連続殺人犯に目をつけられているという、これ以上なく生存本能(ねがい)を刺激する状況。

 殺人犯が『悪魔を召喚する魔法陣』を作る際に使った、少年と最上の親和性を持つ彼の家族の血液(ざいりょう)

 都合三度目となる儀式殺人の現場として選ばれたのが、下水道という平時は誰も寄らない”水辺”であったこと。

 そして、不可思議としか言いようがない前世の記憶を持つ少年が殺人犯の手によって貼られた”奪われた者”というラベル。

 

 考えうる限りの縁を結んだ上でなお、針穴に糸を通すなんて程度では表せないほどの小さな可能性。

 

「なるほど、そういうことですか」

 

 そんな細い糸を手繰り寄せて現れた存在は、暗い赤毛と鳶色の瞳を持つ男物のスーツに身を包んだ麗人だった。

 

 血の匂いの濃い魔術儀式(サバト)が行われた空間に出現する”悪魔”にしては、あまりにも異様。

 当然殺人犯……雨生龍之介にとっても想定外であることには変わりない。

 彼からすればあまりにも”普通”な、超常の力によって稲妻と共に現れた女に途方に暮れている数瞬。

 

 それだけで女、聖杯戦争におけるサーヴァントが状況を把握するには十分な時間だった。

 

「つまり、あなたはマスターの敵ですね」

 

「へ……?」

 

 悪魔というよりは武人に近い、堂に入った構え。

 そこから繰り出される強烈な一撃は、つい先ほどまで少年にとって恐怖の象徴だった龍之介に反応する間を与えることもなく打ち抜き、彼が陥った危機的状況をあっさりと覆す。

 殴り飛ばした時点でとっくに心臓は止まっていた殺人犯の身体。だが、それが下水に流されていく末路を気に留める余裕は少年にはなかった。

 

(これ、っ……、きっつ……!)

 

 つい先ほどまでの恐怖だけでは説明がつかない、異様なほどの発汗。ぶれる視界に頭の中を揺らされているような不快感。

 それは、目覚めたばかりの貧弱な魔術回路から、サーヴァントを動かすための魔力を捻出したが故の代償。

 前世の記憶、前世の知識。そんなものはフレーバーテキストでしかないのだということを身体に教え込まれる。

 

「では、改めて名乗りましょう」

 

 殺人犯の恐怖に腰が抜け、足りない魔力を生み出すために生命力すらも燃焼し、もはや少年は立っていられない。

 そんな、己に届くほどの助けを求める声をあげた小さなマスターを、サーヴァントは見下ろしている。

 

「私はバゼット・フラガ・マクレミッツ。神霊マナナン・マク・リールの依代として、アルターエゴの霊基を以てあなたに召喚されたサーヴァントです」

 

 果たして、七騎目となるサーヴァントは冬木の街に降り立った。

 

 万能の願望機、聖杯を奪い合う聖杯戦争。その始まりを告げる最後の一騎の召喚。

 

 それはつまり、今この瞬間から冬木市という土地からは安全が失われるのと同義であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忌々しい召喚現場を立ち去った二人がまず向かったのは、殺人犯の侵入を許してしまった少年の自宅だった。

 

 住居としての機能は十分に果たせる。故に必要なのは、実質的な家族の殺害現場となった場所に戻ってくる胆力だけ。

 ところどころに血痕の残る家は少年の精神に損耗を与える場所だったが、まだ来年中学生になる程度の少年の金銭事情を鑑みれば、此処に戻ってくる以外の選択肢はなかった。

 つい先日までは家族の団欒の象徴だったリビングのテーブルを挟んで座った二人。当然、話の種は血生臭い”聖杯戦争”以外の何物でもない。

 

 だが、たとえ前世があろうと家族を失ったばかりの少年にとっては、それを気にする暇もない状況というのはある意味では救いであった。

 

「では、まず話すべきは聖杯戦争についてでしょうね」

 

 聖杯戦争。

 

 魔術を扱う才能を持った七人の人間が、かつての偉人・英雄の一側面を切り取ったサーヴァントと呼ばれる存在を使役して殺しあう魔術儀式。

 そこまでして得られるものは、当然それに見合ったもの。聖杯と呼ばれる万能の願望機。ありとあらゆる願いを叶えるという代物。

 バゼットもまたサーヴァントの一人であり、彼女を行使することによって少年は勝ち残らなければならないということ。

 

 とはいえ、勝てるかどうかでいえばかなり怪しいと彼女は見ている。

 無論、たとえ尊敬する大英雄が相手であろうとサーヴァントとして敵対する以上は負けるつもりはない。

 だが単純に、初めて魔術回路を開いたとはいえ、所詮は殺人犯風情を処理する一瞬の魔力消費にすら疲弊を隠しきれないのであれば、サーヴァントとの戦闘に己のマスターの魔術回路が耐えられるとは思えなかった。

 もちろん、命の危機に際しての召喚という事実。一般人であり、魔術を教わったこともなかったという事実を考慮すれば、まだ目覚めていない魔術回路の存在は無視できない。

 それを考慮すれば、サーヴァント戦闘に耐えられるようになる可能性は十分にあるだろうが、甘く見積もってもそこが限界。

 サーヴァント戦におけるマスターからの支援(バックアップ)に関しては期待できないというのがバゼットの結論だった。

 

「さて、そういうわけですが。あなたはどう動きたいですか」

 

「どう動くって……そういうの、バゼットさんが決めた方がいいんじゃ?」

 

「いいえ。こういうのは大雑把な方針でも構わないのです。たとえサーヴァントにどんな願いがあろうと、これは今を生きる人間に過去の亡霊が力を貸す戦い。であれば、細かい部分を詰めることはしても、最初の一歩だけは人間が踏み出すべきでしょう」

 

 だから、結局は彼がどうしたいのか。その一点に話は帰結する。ひとまず、大前提としては聖杯戦争に参加するかどうか。

 聖杯戦争に望んで参加する魔術師はとうに通り過ぎたであろう場所も、巻き込まれた一般人でしかない彼には今、真正面に立ち塞がっている壁。

 つい数時間前まで直面していた命の危機。それを幾度も繰り返すことになってでも手にしたい奇跡があるのか。

 

「貴方が聖杯戦争に参加したくない、というのであれば私との契約を切ればいい。逆に何があろうと勝利を掴み、聖杯の奇跡を手にしたいというのであれば、これからの行動の指針を考える必要がある」

 

 少年の思考は一瞬だった。

 脳裏にこびりついているのは、文章からでは決して得られない臨場感。

 錆びた鉄のような、と形容される血の匂い。目の前にあった惨殺死体。すぐに自分も同じ結末を辿るという確定していた未来への恐怖。

 思い出せば吐きそうになるのに、忘れようとすることすらできない濃厚な死の気配。であれば、どうしたいのかという問いに対する答えは一つしかあり得ない。

 

「俺、は、死にたくない、かな」

 

「それはつまり、聖杯戦争に参加しない、と」

 

 首を横に振る。

 

「聖杯戦争から逃げても、どこかで魔術師に遭遇したら実験台にされるかもしれないんでしょ? だったら、それに対抗できる力が欲しい」

 

 つまりは魔術師……正確には生命を守るために使うのだから魔術使いになりたいということ。その願いのためにはこれ以上ない人材がここにはいる。

 バゼットを依代とするのは与える神性、マナナン・マク・リール。

 聖杯戦争に参戦する以上、サーヴァントの枠組に自らを落とし込んだ彼女はマスターからの魔力供給を必要とする。

 ならば、自らのマスターを魔術使いへと仕立て上げるのであれば、彼女の戦闘も楽になる可能性はあった。

 

「いいでしょう。私がみっちりと鍛え上げてみせます」

 

 巻き込まれた一般人とサーヴァント。あるいは、魔術の師匠と弟子。

 この聖杯戦争における他の組とは掠りもしない、異端の一組と呼ぶべき組み合わせが、締結した瞬間だった。




続きは未定

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