海神さんが第四次聖杯戦争に参戦するようですよ?   作:ぴんころ

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ディルムッドくんと戦わせたかった


第二話:初戦

 遠坂邸にてアサシンが金色のサーヴァントに蹂躙されるという、聖杯戦争の偽りの戦端が開かれてから数日。

 

 バゼットの姿があったのは冬木市を二分する未遠川の西側、その袂。海浜公園に隣接する倉庫街だった。

 

 よほどの愚鈍でなければ必ずや感じ取れる程にサーヴァントとしての気配を全開にしながら、ただそこに立つ。

 そしてサーヴァント……世界に名を刻んだ英雄であれば、一側面を切り取った紛い物であろうと気づかぬはずがない。

 

 つまりこれは、バゼットによる挑発だ。

 我ここにあり。怖れぬ者はかかってこい。

 これ見よがしに気配を振りまき、見えざる敵を誘い出す行為。

 それに反応したのは、二本の槍を持つ男。日本では許されぬ武器の携行をする男は当然、サーヴァント以外の何物でもあるはずがなかった。

 

「おや、ようやく一人目の登場ですか。ランサーのサーヴァントとお見受けしますが」

 

 聖杯戦争の七つのクラス。その中でも三騎士と呼ばれる内の一つ、最速の称号を冠するのが槍兵(ランサー)

 呪符によって二つ槍の実態を隠そうと持っているのが槍であることだけは隠せない。

 自らの名を隠す呼び名は仕方のないことではあるとはいえ、尋常な決闘を前にして名乗りを上げられぬ事実に今更ながらランサーの顔に浮かぶわずかな苦笑。

 

「如何にも。そういうそちらは……ふん、見た目にはわからぬか。武器の用意がいるというのであればその程度は待つが?」

 

「いりません。何より鍛えた五体以上に信頼の置ける武器などあるはずもない。それとも女の細腕と侮るか、色男」

 

「ふむ、なるほど。侮蔑のつもりはなかった。謝罪しよう」

 

 ランサーの視界に映るバゼットは、まさに異様な存在だった。

 

 まず、クラスの想像がつかない。

 己がランサーである以上それは除外。アサシンも消滅している以上はありえない。

 ではセイバー、アーチャーの残りの騎士の名を冠するクラスかと思えば弓も剣もない。

 バーサーカーというには応答がはっきりとしすぎていて、理性が残っている以上は可能性が低いだろう。

 その手を覆う手袋にはルーンが刻まれているのが見えるから、あるいはキャスターの可能性は捨てきれないだろうが、そのクラスに正面切っての戦闘のイメージはない。

 一番ありえるのはライダーなのかもしれないが、乗り物の宝具を見ることがなければ言い切れない。

 

 では、どこの英霊なのかわかればある程度予想はできるだろうかと思えば、それすらもさせてくれないのがバゼットだった。

 

 いざ待ち受けているのだから、サーヴァントとしての戦闘装束に身を包んでいるのかと思えば、衣装は現代のスーツ。

 同一の神話体系の存在であれば衣装にも似るところがあるのだから、そういう意味では徹底して正体を隠す用意をしていると言えなくもない。

 そう考えると、彼女が身につけているルーンの刻まれた手袋も己の槍に巻いた呪符と同じように、北欧・ケルト方面と誤認させて真名を隠す容易なのではないかと思えてくる。

 

 そこまで思考を巡らせたところで、無駄な考えだとランサーは頭を振って気を取りなおす。

 

 今重要なのは、敵と相見えたこと。そしてその敵が主人に捧げるにふさわしい首級なのかどうか。

 敵が何者であろうとランサー、ディルムッドのやるべきことは変わらないのだから。

 

「俺もサーヴァントを誘い出す気ではあったが、まさか先を越されるとは。これでは最速の名が廃れる」

 

「では、その汚名をどう雪ぐつもりで?」

 

「無論、勝利を以って。……ああ、だが少し安心はしたぞ。最初の首級が尋常な勝負を求める者であったことは」

 

「勝利を驕るにはまだ早いでしょう、ランサー。私の首の代わりに、その汚名に敗北の屈辱も加えてあげます」

 

 バゼットの拳が固く握り締められ、刻み込まれたルーンが効果を発揮し始める。

 ランサーが披露するのは手にした長短二本の槍を、まるで翼を広げるかのように掲げる構え。

 

 打てば響くようなやり取りからシームレスに戦場へと移行できるその精神性に、わずかながらケルトの戦士を思い出すディルムッド。

 けれどことここに至って戦闘装束へと姿を変えないというのであれば、それはケルトの戦士にあるまじき侮辱。

 あるいは、スーツ自体が戦闘装束であるのかもしれないが、もしもそうなら自らの知るケルトの戦士の誰にも当てはまらない者なのだろう。

 

「それでは、いざ」

 

「始めましょうか」

 

 二人が示し合わせたように踏み込んだのは、人類の目にはどうあがいても同時にしか見えないタイミングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正確に言うのであれば、ディルムッドとバゼット……マナナン・マク・リールの相性はそこまで良くはない。

 

 それはランサーとしてのディルムッドの宝具が『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』と『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』と言う常時発動型の宝具であるという点。

 そしてサーヴァントとして現界しているマナナンが持ち込んだ宝具、『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』が分類としては迎撃宝具であるという点に由来する。

 

 敵の宝具の真名解放に応じて発動させることで最上の効果を発揮する、宝具の打ち合いにおいては基本的には無敵と言っていいマナナンの宝具は、どうしても真名を解放するまでもなく、通常攻撃として扱われるタイプの宝具には本領を発揮しきれない。

 

 では、戦況はディルムッド有利に進んでいるのかといえば、そうではなかった。

 

「……貴様、俺のことを知っているな?」

 

「ええ。輝く貌のディルムッド。長短二つの槍と二つの剣を操る男。それがあなたの真名でしょう、ランサー」

 

 その原因が何かといえば、一番大きいのは情報の差。

 他のサーヴァントであればランサーの操る二つ槍をどちらかは宝具を隠すための囮であると考え、真の宝具がどちらであるのかを見極めようとする動きが入るだろう。

 けれどバゼットはどちらも宝具である、二つ槍にて名を残した男であると知っているのだからそれを前提に動くことができる。

 もちろん、その動きは知られているという情報を相手に与えることにはなるのだが、マナナン・マク・リールという”男神”を知っているディルムッドが、その正体に気がつくには遠かった。

 

 そして何より、今の彼女は擬似とはいえ神霊サーヴァント。

 生前ですら色々と条件は必要なれどサーヴァントと真っ向勝負ができた女に、サーヴァント化と海神のルーンによる強化が加われば、その実力が上位に入るのはそうおかしなことではないだろう。

 

「何故知っている、などとは問うつもりはない。知られていようと、そう易々と凌げるほど軽い槍術ではないと自負しているのでな」

 

 当然、最初から全力を見せつけるわけもなく小手調べの範囲ではあるが、それでも生半な武技ではないのは事実。

 真名を知っていようと軽々と乗り越えられる程度の代物ではなく、それを傷一つなく疲弊の色もなく突破しているのは、相手の技量の証明でもあった。

 

「故に賞賛を受け取れ、見事なやつだ」

 

「あなたほどの英霊にそう言われるのは素直に嬉しい。感謝をしておきましょう」

 

 わずかな小休止。そして、それは武技に対してだけではない。

 手袋のルーンの効果は、神秘の衰えた現代のものではなく彼も見知った神代のものに近しい。

 そんな代物を用意できるということは魔術にも造詣が深いということで、だというのに待ち受ける場には一切のルーンを刻まずに正面戦闘を行なっている。

 真実、真正面からの真っ当なぶつかりあい。

 これこそランサーの求めていたものであることには間違いなく、彼の闘志には間違いなく出会った当初よりも精錬に研ぎ澄まされている。

 

『戯れ合いはそこまでにしておけ、ランサー。そのサーヴァントは強敵だ。宝具の開帳を許す。速やかに撃破せよ』

 

「了解した、我が主よ」

 

 主人の言葉を受けて、ディルムッドが呪符から解き放ったのは真紅の槍。魔力の効果を打ち消す刃を持つ槍だった。

 

「なるほど、狙いは私のルーンですか」

 

 当然といえば当然だろう。その槍であれば、バゼットの拳に力を与えるルーンは触れている間限定ではあれど効果を発揮しなくなる。

 ルーンによる硬化を施されている手袋を切り裂くことができたならば、ルーン文字の形は崩れ、この戦闘に限り永続的な効果が見込めるだろう。

 バゼットもそれに気がつかないはずがない。果たしてその槍を前にして彼女が取る選択はといえば。

 

「知られているのに通用するとでも?」

 

「そこを通すのが我々の磨いた技であろうよ」

 

 何も変わるはずがなく、グローブに刻んだルーンを相乗的に起動させる。

 新しく起動させたルーンの総数は四。常に刻まれている加護に加えて強化、硬化、加速、相乗。

 かつて、彼女が人間だった頃に別の世界でとある英霊の影の心臓を穿った組み合わせを、海神のルーンによって行えば当然サーヴァントに対しても必殺の一撃となるだろう。

 さらにそこに、グローブだけではなく肉体そのものに対しても疾走のルーンを二重に発動。

 

 最速のサーヴァントを前にして、斬られる前に穿つと言わんばかりに攻撃速度で競うかのような愚行。

 けれど、真っ向から迎え撃つと言わんばかりのその態度はディルムッドにとっては心地よい返答であった。

 

「では、その首級()らせてもらおうか」

 

「やってみなさい、ランサー」

 

 そうして、お互いに一歩を踏み込んで──




 ディルムッドくんと戦わせたかったから書いた作品なんよこれ。やりたいことが大体終わってしまった。

 ちなみにもしもディルムッドくんがこのタイミングでマナナンだって気づいても、主人からは「は? 神霊が出てくるわけないだろ阿呆か貴様。主人を謀ろうなどと、それでよくもまあ忠誠なんぞ言えたものだな」って言われるだけです
 どっちかっていえば突然取り寄せることになった触媒から真名がバレた、って考える方が普通だからねしょうがないね
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